戦い
湖周辺から素材を集め、見事にトライデントという武器を完成させたルルル。
気が付くと日も沈み始め、この日の探索を諦める事にした。
湖で魚を獲り、食事も済ませた彼は安全な湖底の洞窟でゆっくりと夜を過ごし眠りについた。
(明日は倒せそうな獣とは戦うぞ。覚悟をきめなきゃ……)
翌朝、ルルルは目を覚ましストレッチを開始する。
十分に身体をほぐし、起こるかもしれない戦闘に備える。
彼の目的は湖周辺のの安全を確保する事。
即ち、この新しい世界での生活を守ることだった。
(よし!作戦も十分に練った。戦うしかない!いくぞ!)
トライデントを手に持ち気合を入れる。そして、探索を開始した。
岸辺を歩くルルルは慎重に獣の気配を探りながら進んでいた。
岩の陰に身を隠しながら、周囲に気を配る。安全を確認し先へ進む。
同じ事を何度も繰り返し、少しずつ探索範囲を広げていった。そして、ついに危険な獣を発見した。
(うわ・・・前の獣よりも強そう。しかも獣というより魔獣っぽいし)
その獣は身体が大きく、高さは2メートル位、獰猛そうな表情で身体に生えた黒い毛皮が陽光を反射し恐ろしさを際立たせている。
丸太のように太い腕の先には鋭い爪。
牙は太く頑丈で明らかに一撃必殺の威力を秘めている事がわかる。
ちなみにルルルの身長は130センチ。ペンギンとしてはかなり大きい。
それでも、この大きな体格差。普通なら真っ先に逃げ出しているだろう。
しかし、ルルルは違う。恐れずに立ち向かう覚悟を決め、トライデントを構える。
(まるで熊と狼を足したようだ・・・・でも、逃げてたらいつかは襲われる。水中での自分の能力を信じるしかないんだ!)
まずは機敏な動きで湖の水際まで走る。
そして、獣に向き直り、トライデントを高く掲げ叫んだ。
「おい!熊狼!こっちだ!」
獣を挑発したルルルの心臓は激しく鼓動していた。
熊狼は興味津々にルルルにを見つめ、水辺へ向かっていく。
その歩みはゆったりとしていて、ルルルを格下と見くびっているようだった。
熊狼が自分の腕の届く位置まで近寄り、ゆっくりと動きを止めてから腕を振り上げた。
(油断してるな!それなら今だ!)
その瞬間、ルルルは勢いをつけて湖に飛び込んだ。
彼の得意な水中から攻撃を仕掛けるために獣を挑発して水際までおびき寄せたのだった。
水中でのルルルは、どの生物よりも華麗に移動する事が出来る。それだけは絶対の自信があったのだ。
熊狼は一瞬、ルルルの行動に戸惑ったが水中を移動するルルルを目で追っている。
身体の小さなルルルを敵として認識はしていない。格好の餌と認識した様子だった。
(チャンス!まだ油断している。初激にかけるぞ!)
ルルルは水中で水びれのついた足を巧みに使い、立ち泳ぎをしながらバランスを保つ。
そして、渾身の力をもって熊狼にトライデントを突き刺した。
「うりゃ!」
トライデントの穂先は魔獣の身体に見事命中した。
しかし、その攻撃は威力が足りず致命傷を負わせるには至らなかった。
熊狼は傷の痛みによって自分が襲われた事を自覚し、怒りをあらわにした。
ルルルを敵として認めた瞬間だった。
「グゥオオオオオォォォォーーーー!」
大きな唸り声をあげ、ルルルを威嚇する。
そして、強烈な敵意を向けながら反撃をしかけてきた。その巨大な腕がルルルを襲う。
その瞬間、ルルルの直感が働いた。
(腕が上がった、攻撃がくる!とにかく避けなきゃ!)
同時に熊狼の丸太のような腕が振り下ろされる。
鋭い爪が風を引き裂く音と共に、ルルルの小さな頭に向かって迫ってくる。
……その爪と腕が水面を叩き、大きな音が響き渡った。
(あっぶなぁ……当たってたら死んでたよ)
ルルルは間一髪のところで熊狼の攻撃を躱していた。
そして、次の攻撃をさせないため即座に水中へと潜る。
更に的を絞らせないように水の中を華麗に泳ぎ、熊狼を翻弄する。
熊狼は悔しそうに水面を睨みつけていた。
……水の中は静かだった。
(ドク・ドク・ドク……)
心臓の激しく鼓動する音がうるさく感じるほどに興奮していた。
意識を集中させて気配を探る。
熊狼の攻撃音が消え去った。
ルルルの姿を狙い、定めているようだった。
(攻撃にもっと勢いをつけなければ!)
先ほどの一撃の威力が足りない事に気づいた彼は、もっと強い攻撃をするための準備を始めた。
水の抵抗を感じながらも水中深くへ潜り、力を溜め始めた。
水の中から熊狼の位置を確認する。
(あそこか!今度こそ!いくぞ!!)
湖底から水面まで全力で一気に浮上し、勢いをつける。
水面を破る大きな音と共にトライデントが熊狼の体に突き刺さった。
ルルルは刺さったトライデントを強く握り直し、力を籠め抉るように回転させた。
熊狼はルルルの姿を確認して腕を振り下ろすが間に合わない。
そして自分の身体に深く刺さる何かを感じた。
自分を攻撃してきた小さな生物を睨みつけ、痛みをこらえて反撃しようとした。
しかし、身体に刺さった何かは自分の体を抉るように回転してくる。
強烈な痛み耐えられずに意識がなくなっていった。
「グガガガァァ……」
大きな悲鳴と共に血しぶきが舞い散る。
熊狼は力を失いぐったりと倒れ動かなくなった。
水辺での激しい闘いが終わりを告げた瞬間だった。
ルルルは暫く放心状態だった。しかし、徐々に勝利の実感が沸き喜びが広がっていく。
(やったぁ・・・・倒せた・・・正直信じられない。)
小さなペンギンの青年ルルルは巨大な魔獣を撃破した。
今回の戦いで彼は自らの勇気と決断力で勝利を得る事ができた。
彼にとって大きな経験となった。
読んでくださって有難うございます。
少しでも評価していただけると有難いです。
続きもマイペースにですが書いていきます。
懲りずに読んでいただけると幸いです。
3/17読みにくい所を修正しました。