移転
狼達の住処であったと思われる洞窟でルルル達は眠った。
狼達との戦いの翌朝。
ルルルは重い体を起こし、ゆっくりと瞼を開く。
まだ、肩の傷は痛みが残っていて少し血がにじんでいる。
時折、周囲から風を切り裂く心地よい音が聞こえている。
辺りを見回し音の正体の方を見る。
そこでは、ロドルが利き翼でない方の翼で短槍を持ち、突きの訓練をしていた。
驚くことに、その短槍は水の魔力で覆われている。
ロドルが槍を突き出すと、その穂先から魔力が伸び、槍の延長線上に氷のトゲのようなものが生み出される。
短槍からほとばしった氷のトゲにより、短槍の弱点ともいえる射程の短さを補うその技。
氷のトゲの効果は分からないが、ロドルの戦闘能力を大きく向上させている事だけは明白だった。
「ロドル、凄いな!今の技、あの戦いで身に着けたのか?」
ルルルは自分の戦いで精いっぱいで、ロドルの戦闘を見ている余裕はなかった。
「はい!あの時はもう必死で……気が付けば俺も魔力を使えるようになってました」
あの戦いでロドルは大きく成長したようだ。ルルルはとても満足した表情をロドルに向けた。
「頑張ったな。でも怪我をしてるんだ、無理はするなよ……ところでササラが見当たらないけど、どこへ行った?」
普段なら、いつまでも寝ているササラがいなくなっている。
「はい、ササラはこの湖の魚が気になるようで捕まえにいきました……でも、そういえば潜ったままですね」
ロドルも訓練に夢中でササラの事を気にしてはいなかったようだ。少し心配になり、湖を見つめている。
ブクブク……
ルルル達が見つめる中、湖面に泡が浮かんできた。
「ぷはぁ~~、おっ、ルルル~。見てイワシいたよ~~」
ササラが水面に顔をだし手に持ったイワシを自慢げに見せびらかす。
「イワシ追いかけてたら海にでたの~、アジも見つけちゃったー。次の獲物はあいつらだ~」
どうやら湖の魚を追いかけて海まで出て行ったらしい。
「…………海!?ササラこの湖は海に通じてるのか?」
驚いたルルルはササラに大きな声で尋ねる。
「そだよ~、気持ちいいよー。魚いっぱいいたよー」
魚の多さに嬉しくてたまらないといった表情のササラを見て、ルルルは閃いた。
(これは良い場所を見つけたかもしれない)
その後、ルルル達はササラが捕まえてきたイワシとアジを食べ、腹ごしらえをする。
そのまま少し休憩をすると、ルルルはササラに告げた。
「ササラ、村のペンギン達をここに案内してくれるか?村をここに移転してはどうかと思うんだ」
ルルルの突然の発言にササラとロドルは驚いた。
「え?陸地に住むの!?」
驚きのあまりにササラが早口で聞き直す。
「そう、ここは周りが崖に囲まれていて盆地への入口も一か所だけ。しかも洞窟の中には湖があって海へと通じている」
ルルルがここまで話すと賢いロドルは気づいたようだ。
「食事も不自由なく、魔獣の侵入も防ぎやすい……しかも、今の俺たちなら魔獣を倒して縄張りを広げることもできるかも……」
ロドルの考えは正解だった。魔獣に怯え続ける生活を脱するには、守りやすい拠点を構え、自分たちで脅威を排除することが必要だ。
「その通りだ、ロドル。いつまでも狩られっぱなしじゃダメだと思うんだ」
「わかった~、とりあえず。村長とおじちゃん達つれてくるね~」
ササラは相変わらずのテンションで答えると湖の中へ飛び込んでいった。
「ロドル、俺たちは村長たちが来る前に昨日倒した魔獣を回収しよう。これからの防衛には武器や防具が必要になるからな」
そう、これからはルルル達3羽だけの戦いではなくなる。
もちろん、他のペンギン達が納得すればの話ではあるが……どちらにせよ、素材の確保は必須だ。
ルルルとロドルは倒した魔獣を引きずって洞窟の入口まで運んでいく。
12頭の羊の魔獣と5頭の狼の魔獣。この17頭を引きずって運ぶのは至難のわざだった。
ルルルは自分の発言をかなり後悔をする。
「……思ったより、重いな」
小さなペンギンが大きな魔獣の死骸を引きずって歩く姿は、少し恐ろしい光景だった。
「はい……でも、せっかくの素材ですし……ここは、頑張るしか――」
2羽は無心で作業を続ける。
全ての魔獣を運び終わった頃には太陽は真上から傾き始め、ササラが村へ向かってから数時間が経っていることを告げていた。
「はぁ~、ロドル。洞窟へもどろう。そろそろササラが戻ってきているかもしれない」
ヘトヘトになりながらもルルルが提案すると流石にロドルも頷いた。2羽はゆっくりとした足取りで洞窟の奥へ帰っていった。
先ほどまでは静かで、水の滴り落ちる音だけが響いていた洞窟内。
今ではなんだかガヤガヤと色々な声が響いてくる。
ルルルとロドルは互いに顔を見合わせ首を傾げた。
(賑やかすぎる気がするんだけど……)
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