氷
ボス狼と一対一で戦うササラ、得意のお手てカッターも躱され、危機が迫っている。
そんな中、ロドルはボス狼の隙を狙い渾身の一撃を繰り出す。
彼のこの一撃には、ルルルとササラの命が掛かっているといっても過言ではない。
(この一撃はルルルさんの命もササラの命もかかってるんだ!どんな事があっても仕留める!)
そんな思いが無意識の内に彼に宿る魔力を呼び起こしたのだろうか。
彼の翼は美しい水色の魔力を纏い、その魔力は彼の思いと共に短槍へと移っていった。
ロドルの短槍が水色の光に包まれる。
水の魔力を纏った短槍は、ボス狼の後ろ足に突き刺さった。
「グギャーー!」
意識の外から攻撃されたボス狼は驚きと痛みが混じった叫び声をあげた。
しかし、この程度では致命傷にはなり得ない。一瞬動きを止めたが、再びササラを始末しようと前足を振り上げる。
……しかし、ボス狼の身体は動かなかった。
後ろ足に刺さった短槍から凍てつく冷気が発生し、彼の後ろ足は完全に凍り付いている。
それは徐々に体中に広がり始める。ボス狼は生まれて初めての死の恐怖を味わった。
「ギャン、ギャン……」
助けを求めるような、ただ泣き叫ぶような声。
やがて、ボス狼は静かになり、動かぬ氷の塊となった。
ルルルに背後から襲い掛かってきた狼はその腕を振り上げ、鋭い爪でルルルの背中を切り裂こうとしていた。
その時、ボス狼の聞いたこともないような鳴き声が響き渡った。
「グギャーー!」
3頭の狼達は思わず動きを止めて、そちらに視線を向ける。
ボスが苦戦を強いられている。
彼ら3頭にとってボス狼の存在は絶対的なものだった。直ぐにボスの元に向かおうとする配下の狼達。
ルルルはそんな彼らの隙を見逃さない。
(今しかない!)
すぐに翼に魔力を纏わせ、背後にいた狼の首筋を水の刃で切り付けた。
更に自分に傷を負わせた狼の足元に水の刃を作り出し両方の前足を切断した。
残るは一頭のみ。狙いを定めるが、その狼はルルルから離れていく。
最後の一頭は必死にボス狼の元へ向かう。しかし――
「ギャン、ギャン……」
ボス狼が最後の鳴き声をあげた後――彼の瞳に映ったのは凍りついたボスの姿であった。
配下の狼は足を止め、氷の塊に鼻を近づけた。
「ウォォォオオン、ウォォォオオン……」
そしてボス狼の前で悲しみを込めた遠吠えをした。
ルルル達三羽のペンギンはその姿を不思議な気持ちで見つめていた。
(魔獣にも仲間の死を悲しむ心があるのだろうか……)
ルルルはそう感じながらも残る狼の首を冷徹に水の刃で切り落とした。
戦いを終えた3羽のペンギン達。
ルルルもロドルも体に傷を負い、ササラは魔力をかなり消費している。
血にまみれた体、疲労した心……。
しかし、互いを見つめ、微笑みあう。
「みんな疲れているだろうが……移動しよう……。ここに居ては他の魔獣がいつ来てもおかしくないしな」
ルルルがそう告げると、ロドルとササラは頷き歩き始めた。
3羽は峡谷の入口にたどり着き、狭い通路を進んで行った。
そこにはルルルが話していた盆地があり、その奥に洞窟が待ち構えていた。
洞窟の入口は決して大きくなく、中は緩やかな下り坂になっている。
奥の方から、水の滴り落ちるような音が聞こえてくる。
その音を聞いたササラが口をひらく。
「ルルル~、のどかわいたぁ~」
危険はあるかもしれないが、ここまで来たからには安全かどうかくらいの偵察は必要だろう。
「入ろうか、安全そうならここで朝まで休もう」
ルルルの提案に他の2羽も頷いた。
入口は狭かったが、奥へ行くほど洞窟内は広い空間になっていた。
天井は少しだけ隙間が空いているのか、わずかな光が差し込んでいる。
進むにつれて水の音が大きくなってくる。
しばらく進んだ洞窟の奥、そこには大きな湖のようなものが広がっていた。
その光景に3羽は驚いた。
湖の水は澄み渡り、あちこちに魚影が見える。
また、水辺には先ほど戦った羊の魔獣の角のようなものも散乱していた。
「ここが狼達の住処だったのかもしれないな」
ルルルは思わず呟いた。
「泳ぐ~、血だらけ~」
ササラは勢いよく湖に飛び込み、幸せそうに泳いでいた。
ルルルもロドルも肩の痛みに耐えながら体を水につける。
乾いた羽毛に程よく水が染み込み、とても心地が良い。
「交代で見張りをして今日はここで休もう。狼達の住処だったなら、簡単に他の魔獣は入ってこないだろう」
ルルルは2羽を先に休ませてあげるつもりだった。
「ルルル~、先に休んで~私がおきてる。ロドルもついでに休んでいいよ~」
「ついでってなんだよ!」
ササラは揶揄うように言うが、内心では怪我をしているルルル達を心配していた。
(なにげに優しいな)
ルルルは素直にササラの提案に甘えることにした。
ササラが見張りをした後はルルルが交代し、最後にロドルが見張りをした。
3羽が疲れた体と心を休ませ、眠りについた。
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