故郷
群れのボスらしき狼に致命傷を与え、その場から動けなくしたルルル。
彼は次の行動に移る、振り返って即座に状況を確認した。
ルルルを取り囲もうとしていた狼達は突然のルルルの行動に意表をつかれ、一時は行動できずにいた。
しかし、今は比較的近くにいた3匹の狼がルルルに向けて駆け出しており、直ぐそばまで迫っている。
先ほどのボスらしき狼よりは身体が小さく、動きも遅い。
ルルルは再び短槍を構え翼に魔力を纏わせる。
そして、次に進んだのは正面ではなく真横だった。
右に振り向き走り出すルルル。
彼を追いかける3匹の狼達。そして、ようやく動き出した残りの狼達……
ルルルは走りながら3匹の狼との距離を確認していた。
3匹の狼が同じ速さで横一列で追いかけるのではなく、各々の持てる速さで追いかけている事に気づいたルルル。
彼らの陣形は縦に伸び、3匹が同時に襲ってくる可能性はなくなった。
それを確認して少し速度を緩める。
彼の誘いにも気づかず、先頭の一匹が飛び掛かってきた。
(今だ!)
ルルルは翼を真横に広げ、素早く後ろに振り返る。同時に翼に纏った魔力で水の刃を形成した。
翼を横に広げたまま回転し、振り返ったルルルの目の前には血しぶきを上げ、絶命し崩れ落ちるように倒れる狼がいた。
ルルルは狼の身体を乗り越え、前方に迫る残りの2匹に向かって走り出す。
次の狼はもう、目の前に迫っている、サイドステップで真横に飛ぶ。
前方の狼の陰から急に現れ、すぐに視界から消えたルルル。2匹目の狼は何もする事ができず、そのまま走り去る。
3匹目の狼は前を走る狼によってルルルの姿は死角となっていた。彼にはルルルが突然自分の真横に飛び出してきたように見えた。
体をねじりルルルの方に向き直ろうとする3匹目の狼。しかし、既に手遅れだった。ルルルは3匹目の狼の横腹に短槍での連撃を繰り出した。
死角を利用して攻撃してきたルルルによって、横腹を3か所も貫かれた3匹目の狼は苦しむ間もなく息絶えていた。
ルルルは追いかけてくる3匹の狼の内、2匹を倒すことに成功した。
残りは過ぎ去っていった1匹と遅れて追いかけてくる3匹。
(なかなか手強いぞ)
そして、再び翼に魔力を込め気を引き締める。
その時、「ウォォォオオン!ウォン!ウォーーーーン」先ほどのボス狼が遠吠えをあげた。
ルルルを追いかけていた4匹の狼は動きを止めてルルルを睨め付ける。
「グゥルルル!……」
恨みを込めた唸り声をあげながら後ずさりしていった。
やがて、距離が離れるとボス狼の元へ行き、4匹で支えながら何処かへ去っていった。
「ふぅー……何とか乗り切ったぁー」
思わず声に出し、一息つくルルル。周囲を見渡すと地面のいたるところに血痕がある。
そして、息絶えている狼が2匹……壮絶な戦いの後だった。
戦いを終えて疲れ切ったルルルは、洞窟への探索を諦めることにした。
倒した2匹の狼から太い牙を4本、前足の鋭い爪を12本を採取し、皮袋に詰めて帰宅した。
狼との闘いから村へ戻ったルルル。村のペンギン達は何羽かが交代でルルルの帰りを待っていた。
彼が負傷していた際に少しでも早く村へ運び込み治療するためだ。
無傷とは行かないが擦り傷程度で帰ってきたルルルをペンギン達はねぎらった。
「ルルル様、お帰りなさい。無事で何よりでした。本当に……」
村長は心から心配してくれていたようだ。その瞳には涙すら浮かんでいる。
「ありがとう、村長。苦戦したけど帰ってこれましたよ。これは戦利品です、狼の牙と爪が入っています」
ルルルはこうして心配してくれることが嬉しかった。なんだか自分の故郷のように感じてしまう。
「ルルルさん!お話を聞かせて下さい!どうやって狼の魔獣を倒したんですか?」
ロドルが興奮しながら走り寄ってくる。彼の目はルルルに対する尊敬の念に溢れていた。
(ロドルもやっと俺を認めてくれたかな……少し調子いい気もするが……まぁ、いっか)
始めはルルルに対して、昔話の英雄と同じ名前なだけの普通のペンギンだと思っていた。
そんなロドルも、今回のルルルの活躍で本当に英雄の生まれ変りだと信じたのだろう。
「ロドル!ルルルは疲れてるんだからー!みんなも今日は解散だよー、話は明日だからー」
急に現れたササラが珍しく怒った顔でみんなを家に帰らせる。
「ルルル、おかえりだよー。心配したよー」
ササラが目をうるうるさせながら見つめてくる……
「ああ、ただいま。悪かったね、遅くなったよ」
何気なく答えたが出発の時といい、ササラの態度が少し違う気がした。
(実際疲れてるから有難いけど……なんか、変だな。調子狂うなぁ)
「ルルル様、食事の用意が出来てますので召し上がって休んでください」
村長が丁寧に勧めてくれる。お腹がペコペコだったルルルは遠慮なく食事をいただいた。
ロドルはずっと戦いの話を聞かせて欲しいと迫ってきたが、ササラが本気で怒って静かにさせていた。
その光景にまるでルルルも家族の一員になったかのようで、戦いの疲れを心から癒してくれた。




