イノシシ
原初の精霊との対話を終えた後、ルルルは湖に浮かぶ島を後にした。
湖に飛び込み水面に浮きながら夜空を見上げる。輝く二つの月を眺めながら、今後の進む道について考えていた。
「これから先、色々ありそうだ。この世界をもっと見てまわりたいな。でも、まずは安心して暮らせる居場所を探さなきゃ……」
赤と黄色の月光が彼を優しく包む。
(知りたい事がいっぱいある。しかし、思い通りには行かないだろう。悲しいことや辛いことの方が多いかもしれない。でも、自分で生きたいように生きていこう。)
「どんなに苦しい時も、自分で選んだ道なら後悔はしない。」
決意を声にした彼は湖底の洞窟に帰り深い眠りについた。
朝目覚めると、幻のように現れた精霊の島は跡形もなく消え去っていた。
原初の湖は再びその静寂を取り戻していた。
まずは、エレンシアの村へ向かう旅の準備を始める。
以前倒した魔獣の皮から簡易的な袋を作り、必要な物資と使えそうな素材を詰め込んだ。
トライデントの穂先も岩で研ぎ澄ませ、戦いの準備も入念に済ませた。
原初の湖を守っていた結界が消失し、かつては静かだった湖の周辺も外の世界と同じように荒れ狂う風が吹き抜けている。
これまで精霊が護っていたこの場所も守り手を失い大きく変化していくだろう。
そんな過酷な環境の中、異世界に転生した理由を知ったルルルの新しい旅が始まったのだった。
原初の湖を出て暫く歩いていると、遠くに魔獣の気配が感じられる。
ルルルは咄嗟に岩陰に隠れた。
(一匹ではないな。3匹だろうか……)
目を凝らすと白い毛皮のイノシシのような魔獣が3匹、遠くでゆっくりと鼻をひくひくと動かしながら列を成し進んでいる。
その牙は曲線を描いて前方に大きく飛び出し、勢いよく刺されば簡単に獲物の命を奪う事ができるだろう。
身体も大きく横幅は1メートル程、高さも1.5メートルはあるだろうか。力強い筋肉を纏っていて、まるで小さな装甲車のように頑丈そうだった。
ルルルはこんなに恐怖を感じるのはこの世界に来て初めての経験だった。
どう考えても勝てる見込みは薄い。
(せめて水場があれば水中に逃げるか水の中から攻撃できるのに……)
辺りを見回すが湖のような深い水場は見当たらなかった。
エレンシアとの旅の記憶をたどる…‥…。
(イノシシが進んでいる先には崖があったはずだ。確かその下には確か川が流れていた気がする。)
問題は崖が非常に高く川の水もそれほど深くはない事だった。
一歩間違えば落ちるだけで命を失ってしまう事になる。
(とりあえず、ここはイノシシが立ち去るのを待つしかないな)
ルルルは息を潜め静かに岩陰からイノシシの様子を伺う事にした。
長い時間が経過した。少なくとも彼にはそう感じていた。
しかし、イノシシ達は変わらず鼻をひくひくと動かしながら地面を突いたり少し歩いたりと繰り返している。
(忍耐勝負だなぁ……)
気を抜けば命はない。そんな緊張感に襲われ続ける。
疲労感が心身にのしかかる、ルルルはじっと耐え続けた。
周りの風の音が一瞬止んだように思えた。その時、イノシシの一匹が身体をビクっと振るわせルルルの隠れる岩の方を向く。
ルルルの全身に今までに経験した事がないほどの冷や汗が一気に湧き出る……。
(気づかれたのか!?)
しかし、イノシシは彼に気づいている様子はなかった。
そう考えているうちに3匹ともこちらの方角に向き直り、後ろ脚で何度も地面を踏みつけて足場を固めている。
(凄く、嫌な予感がする……ここにいては危険だ!)
ルルルは安全と思っていた岩場の影から急いで移動する事にした。
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続きもマイペースにですが書いていきます。
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