長老
峡谷を抜け、目の前に広がる村の息をのむような美しさにルルルは動けずに立ち尽くした。
そんな彼のもとにエレンシアが静かに近づき、言葉を交わすことなく優しくルルルを抱きしめた。
「良かったですの、ルルル…あなたが無事で、本当に…」
その行為は旅で抱えていた緊張や恐怖が解放された安堵の現れでもあった。
そんな気持ちを感じてかルルルも優しく彼女を抱きしめ返す。
エレンシアのこの行動から彼女がどれほど自分の安全を心配していたのかを深く実感した。
(エレンシア…こんなにも心配してくれていたのか…)
「エレンシア、ありがとう。君の警告がなければ、あの時どうなっていたかわからなかった…」
ルルルはその場で、心からの感謝を伝えた。
「いいえ、私がもっと警戒していれば…とにかく、無事で良かったですの」
エレンシアは謙虚に答える。
二羽は壮大な断崖と雪に囲まれた村の一角で互いの無事を確認し合うようにしばらく抱き合っていた。
この抱擁は愛や恋といった感情をではなく、互いに深い信頼を寄せ合い危機を乗り切った二羽の無意識の行動だった。
「おや…エレンシア、英雄様と随分と仲良くなったのだな。ふぉっ、ふぉっ、ふぉ。素晴らしいことじゃの…うらやましいわぃ。」
そう言って、現れたのは村の長老である年老いた鳥人族の男性だった。
突如として静かな村の一角に温かい笑い声が響き渡った。
ルルルとエレンシアが抱擁を交わしている光景に微笑みを浮かべながら近づいて声をかけてきたのだ。
彼の声にはいたずら的な思惑に満ちており、2羽はその突然の声に一瞬驚き反射的に距離を取ってしまった。
「長老!いきなり話しかけるのはやめて欲しいですの…ルルル、こちらが長老ですわ。」
エレンシアが彼を紹介する。
「長老様、お初にお目にかかります。私はルルルと申します。見た通りのペンギンでございます。」
「英雄様…私ごときにそんなに丁寧な言葉は不要ですじゃ。気楽にじじぃとでも呼んでくだされ。」
長老はルルルの丁寧な挨拶に驚きつつも優しく応えた。
「では、お言葉に甘えて少し言葉を楽にさせていただきます。私はエレンシアに呼ばれこの地にきました。しかし、なぜ呼ばれたのか村の皆様が私を何と勘違いしているのか、全く理解してません。どうか教えて下さい。」
ルルルは素直な気持ちを長老にぶつける事にした。
「なるほどのぉ・・・ルルル殿の言葉には誠意を感じるのぉ。では、わしの家でゆっくりと話そうぞ。付いてきて頂けるかのぉ。」
長老はルルルの言葉を受け、彼を自宅に招待した。
その言葉には、ルルルへの理解と受け入れの意志が感じられた。
「はい、お願いします。」
ルルルは、長老とエレンシアに続いて、期待に胸を膨らませながら村の中を歩いていった。
(長老の話で俺の異世界に来た真相がわかるかもしれない)
彼らが向かった長老の家は村の中でも特に高い位置に建っており、その造りも一際目立つものだった。
村の他の住居が岩を彫って作られた小さな洞窟のような印象を与えるのに対し、長老の家は明らかに「家」として設計されており、ルルルにとっても馴染みやすい構造だった。
家の中に入ると、ルルルは応接間に案内された。
部屋には岩を切り出して作られたテーブルと椅子が備えられており、3羽はそこに腰掛けた。
この状況はルルルにとって異世界での初めての経験だった。
一人で探索を続けてきた彼の心に温かな温もり感じさせる出来事だった。
こうしてルルルは長老からの話を聞く準備が整い、自分の運命についての真実を知る時が来たことを感じていた。
長老の家でのこの時間はルルルにとって異世界での人生の方向性を決める重要な瞬間となるのだった。
読んでくださって有難うございます。
少しでも評価していただけると有難いです。
続きもマイペースにですが書いていきます。
懲りずに読んでいただけると幸いです。




