村
「ルルル!!!危ない!!足元!!」
エレンシアの声には、明確な恐怖と警告が込められていた。
その声が響いた瞬間、油断していたルルルに警戒心が蘇る。
すぐに足元に何かがいる。背筋が凍るほどの恐怖を感じ、反射的に足に力を込めて前方へと大きく跳んだ。
更にそのまま前方へと走り抜けるルルル。安全な距離を確保すると振り返って先ほどの場所を観察する。
初めは何もないかのように見えたその地面には、よく見ると氷の塊に見事に擬態した体長約1メートルの蛇が無数にうごめいていた。
これらは氷結蛇と呼ばれる魔獣である。
彼らは自ら積極的に動くことは少ないが魔力を用いて氷に擬態し、獲物が近づくのを待ち構える。
獲物には容赦なく魔力の牙で瞬時に凍らせ、凍るとすぐに噛み砕き糧とする恐ろしい生き物である。
これは後に長老からの話で明らかになった。
(危なかった。エレンシアの警告がなければ今頃は……)
もう一度周りを警戒し、エレンシアに感謝を伝えるために手を振った。
エレンシアは彼が無事であることを確認し一息ついた。
(本当に危なかったですわ…でも、彼が無事で何よりですの。)
彼女は油断もしていたが決して警戒を怠っているわけではなかった。
空という位置の利点を活かし、周囲の観察もしっかり行っていた。
すると、ルルルの足元の辺りにゆっくりと動き集まっていく何かを見つけたのだ。
これが危険でないはずがない!とっさに危機を感じ取り、彼に訪れる危険に心から恐怖し悲鳴をあげてしまったのだ。
彼女の警告がルルルを救い、彼は危機一髪で氷結蛇の攻撃から逃れることができた。
この出来事は二人の信頼と絆をさらに深める結果となった。
(戦いにおいても何かの力になれるのですわ。彼だって完璧ではないのですから……)
この出来事からエレンシアの考えも変化する。彼女にもできる事はあったのだ。
氷結蛇の攻撃を辛うじて回避した後、ルルルは警戒心と観察眼をより一層に研ぎ澄まし先に進んだ。
また、空からのエレンシアの声や彼女との位置関係にも注意をはらう様にした。
ルルルは自身すら気が付かない内に危機を察知する能力を大きく向上させていた。
その先にもいくつかの危険はあった。
氷の岩に擬態した魔獣が落石に紛れて襲ってくることもあった。
落ちてくる岩を観察すると不自然にルルルに向かってくる岩がある事に気づく。
ルルルはそれをすぐに看破してトライデントを突き刺す。
岩でできているように感じた魔獣の体は魔力で岩に見せかけた外皮だった。
大きな岩場の陰に隠れた氷猫が突然現れ、魔力に満ちた爪で襲ってきた事もあった。
岩に氷猫が小さな身体を隠している姿はエレンシアがルルルに伝える。
上空からその姿は丸見えだったのだ。
それでも魔獣はルルルが近くに通りかかると尋常ではない瞬発力で襲い掛かってきた。
それでもルルルは事前に魔獣の位置はエレンシアの合図で認知している。
そして、難なく対処する。
そうやって、2羽はお互いの能力を十分に発揮し連携を取りながら先へ進んだ。
信頼関係を築き上げた2羽の連携はとても見事だった。
順調に進み、日も落ちかけ空の色が赤く住まった頃、峡谷の中には光は届かず暗くなっていた。
それでも危機察知の才能に開花したルルルと空から目を光らせる2羽の連携には問題がなかった。
やがて、正面は行き止まりになり目の前に大きな絶壁が立ちはだかる。
「ん?行き止まり?村はどこだろう……」
ルルルは少し戸惑うが案内役のエレンシアからの何かがあると信じて待つ。
「ルルル、下を見て。そこを進んでくださいですの」
エレンシアは空から彼にに大きな声で伝える。
ルルルはわかった。というように手を上げ、エレンシアの指示に従う。
壁の下には少しだけ大きな隙間があった。
彼は穴の前にしゃがみ込み、這いつくばるようにしてその狭い通路へと体を進めた。
四つん這いになって進むのは容易ではないと考えたがルルルの小さな身体は簡単に通路を通り抜ける事ができた。
峡谷の狭い通路を抜けた先に広がっていたのは、予想を遥かに超えた光景だった。
峡谷の断崖絶壁に囲まれた隠れた村は、岩を切り出して作られた家々が並び、その中央には大きな池が存在していた。
池の水はクリスタルのように透き通り、周囲の自然と調和して美しい風景を作り出していた。
この場所は、鳥人族が外界の脅威から守られるための自然要塞のようなもの。
断崖絶壁が天然の防壁となり、鳥人族以外の者が容易に立ち入ることができない秘境である。
長い年月をかけて彼らの手によって築かれた、自然と共生する美しく堅牢な村だった。
あくまでイメージです。
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