鮮魚
強い吹雪の中、巨大な氷柱の下で休息を取った後、2羽は再び村へ向かった。
エレンシアだけならば魔力を込めた翼で飛行し、吹雪の中でも半日で村に到着できるとのことだった。
しかし、ルルルには飛ぶ能力がないため、徒歩で向かわなければならない。
「エレンシア、徒歩での道のりはどれくらいかかりそうかな?」
エレンシアは微笑みながら答える。
「大きな湖を避けて通るなら、3日ほどかかりますですわ。」
湖という言葉を聞きルルルは少し嬉しそうにした。
「それなら、湖を通り抜けて少し早く着くことができるかもしれない。泳ぐのは得意だし、魚を獲って食料も調達できるからね。」
何故かエレンシアも嬉しそうに頷いた。そして、少し恥ずかしそうにして言った。
「実は……ちょうどお腹が空いてきていたところなのですわ……」
その可愛らしい仕草に、ルルルは微笑まずにはいられなかった。
2羽は周囲の警戒をしながらも会話を楽しんだ。その中で、ルルルは魔力について少しだけ尋ねる事にした。
「エレンシア、魔力ってどんなものなの?」
ルルルは本当にこの世界の事を何も知らないようだ。エレンシアは丁寧に答える。
「世界には大きくわけると3つの種族が住んでいるですわ。人間、魔獣、獣人という3つの種族がそれぞれが魔力を持っているのですけど、その使い方や特徴は違うですの」
「人間は魔力を使う際にイメージで色々な変化をさせる事ができると言われているのですわ。魔獣は自然の力を本能のままに利用して攻撃的な魔力を操りますの、獣人は身体の特性に応じた魔力を扱いますですわ。私たち鳥人は翼に魔力を纏わせて飛ぶことができるのですわ」
ルルルは少しだけ疑問に思った。自分は元の世界では人間だったが、今は獣人としての存在なのだろうか?そして、この世界で魔法を覚えることができるのだろうか?
「俺も魔力を扱えるのかな?」
エレンシアは少し不思議そうに答える。
「ペンギン族は水中で泳ぐときに主に魔力を纏わせると聞いた事はありますの。ルルルは泳ぐときに魔力を感じないですの?」
泳ぐ事は得意になっているが魔力を意識した事はなかった。
「そうだね、無意識なのでわからなかったよ」
暫く歩いていると、雪原を進む2羽の足取りがわずかな軽くなる。
遠くに大きな湖がぼんやりと姿を現し始めたのだ。
「ルルル、湖が見えて来ましたですわ。」
彼女の声には旅の疲れを忘れさせるような明るさが漂っていた。
「少しだけ時間をくださいですの。空から周囲を偵察してきますの。」
エレンシアは翼を広げ魔力を込めると優雅に空へと昇っていった。
空からの偵察を終えたエレンシアが静かに地に降り立ち、ルルルのもとに戻ってきた。
「問題はありませんでしたの。先に進むことができますの」
そして、2羽は湖へと進んで行く。
湖の岸辺に立ち2羽は穏やかな湖面を眺める。
ルルルは心沸き立つ何かを感じ気が付けば湖に足をつけていた。
しかし、エレンシア泳ぐことができない。彼女は大きく翼を広げルルルに向けて言葉を投げかける。
「私は飛んで湖を越ますの。ルルルは泳いでくださいですの」
「わかった、エレンシア。向こう岸で会おう、楽しみにしていてね。」
ルルルは、何の躊躇いもなく水中に身を投じた。
彼の言葉に少し疑問が芽生えつつもエレンシアは湖の対岸へ向けて飛んで行った。
水中に飛び込んだルルルは華麗に泳いでいく。
少しだけ魔力を意識してみるが全く何も感じない。
(やっぱり、魔力ってわからないや。とりあえず、向こう岸に着く前に魚をいっぱい採ってエレンシアを驚かせよう)
一方、上空ではエレンシアが彼の泳ぎを見つめながら、軽やかに風を切って飛んでいた。
(凄く華麗に泳いでいますの。素敵ですわ。でも、魔力を込めていない?不思議な方ですわ)
彼らはそれぞれの特技を生かし目的地へと進んでいく。その中で互いが互いの事を考えていた。
湖に潜るルルル。
この穏やかな湖の中は彼にとってはまさに絶好の舞台であった。
彼は対岸へと進む途中、泳ぎながらも巧みに魚を捕獲していった。
原初の湖に比べると魚の数は少なかったものの、それでも多くの魚たちが水中を自由に泳いでいる。
たくさんの魚が織りなす銀の曲線は、湖の生命力を物語っているかのようだった。
手際よくいっぱいの魚を捕まえたルルルは対岸に着くと、そこで待っていたエレンシアに向かって満足げな笑顔を向けた。少年のような無邪気な笑顔だった。
湖の対岸に降り陸に立ったエレンシアは、ルルルの捕らえた魚の数にひとまず驚きを隠せなかった。
しかし、その驚きもすぐに温かな微笑みへと変わる。
ルルルの満足そうな笑顔はエレンシアの心を和ませた。
「エレンシア、少し休んで食事をしよう。俺もそろそろお腹が空いてきたよ。」
湖畔の穏やかな場所を見つけ、彼らはそこで少しの休息をとることを提案する。
「ええ、良い提案ですわ。ありがとう、ルルル。こんなにたくさんの魚を簡単に捕まえられるなんて本当にすごいですわ」
前世から料理が大好きだったルルル、特に魚の扱いには自信がある。
彼は巧みにトライデントを使い、魚の血抜きと内臓の処理を手際よく行った。
上手に切り分けられた魚をエレンシアに差し出す。
エレンシアは手際の良さと調理という概念に驚きながらそれを口にした。
「とても美味しいですの・・・・ありがとう。」
血抜きされた新鮮な魚の美味しさは彼女がこれまでに味わったどの食事とも異なる格別なものだった。
二羽は旅の合間の安らかなひとときを楽しみながら魚を味わった。
食事を終えた後、元気を取り戻した彼らは再び村へと歩いて行った。
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