入学式
どうぞ、お楽しみください。
「――――――えー、ですので、これらを大切に、より良き学校生活を送っていくことが更なる成長へ繋がることとなります」
長々と画面から話す中年男性がそう締めくくった。
自粛での沈黙が終わったかと思えば今度は言葉責めか。
少し意味が違ったかもしれないがこの地獄のような話は終わったのでもうこの入学式も終盤だろう。
「では、入学生代表の森加奈の挨拶です」
これはなんという拷問か。
あぁ、長針が短針を抜かしていく。
時刻は9:45を過ぎたところ。この精神を嬲りつづけるような時間はいつまで続くのだろうか。
そして、古見は考えるのをやめた。
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さて、このような試練を乗り越え、中学校へと入学した訳だが周りを見るに4割は知り合い。
それもそのはず、ここは公立中学校で小学生から自動的に上がるので、知り合いが多い。
だがしかし、前にはまだ知らぬ未知の存在が。
これは未知を既知に変えろという神のお告げであろうか。
これは一肌脱ぐとしようか。
手始めに隣の小学生からの知り合いと話そう。
よし、そうしよう。
なんてくだらないことを考えていると
ガラ ガラッ
「皆さんこんにちはぁ、このクラスを担当することとなりましたぁ、谷光之と言いますぅ。数学を担当していますぅ。皆さんどうぞよろしくお願いしますぅ」
パチパチパチ
自己紹介だけで拍手を貰えるとはなんと大層な身分か。とはいえ、生徒も大半が機械的にこなすような事なのですぐにこの疑問は消え去る。
身長は167cm程か。眼鏡をかけていてパッとしない印象の男性だ。薄毛が悩みとみた。
「それでは今から皆さん一人一人に簡単な自己紹介をしてもらいたいと思いますぅ」
名簿順ははじめが可哀想なのでなどという理由で生徒1人ずつが書かれた磁石付きのカードを取り出し無作為に取り出す。これが同様に確からしい状況か。
おっといけない。数学につられてしまったようだ。
生徒たちは引かれた順に淡々と、いや少し恥じらいながら挨拶と名前、簡単に趣味などの紹介を行っている。
「次はぁ、じゃん!古見くん!」
名前が呼ばれたようなので教卓付近へと移動し、大きく息を吸う。
よし、ここまでは完璧だ。
「古見桶炉と言います。勉強は好きな方です。小学1年からサッカーをしています。好きな食べ物は梨で嫌いな食べ物は刺激の強い食べ物です。よろしくお願いします」
礼と同時に拍手が聞こえてくる。この自己紹介で失敗ではなかったようだ。
「じゃあぁ、次の人はっとぉ、おぉ、大石くん!」
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「なぁ、大石、さすがにあれはだめだろう、」
「くそっ、絶対うけると思ったのに!」
なぜあんな蟻でも考えればできそうな一発ギャグを初っ端かまそうとおもったのか。
俺なら明日からと言わずそのあとすぐ早退する自信がある。
大石が未だ健全に生きていられるのは今までの付き合いがある人が多かったからに過ぎないだろう。
「なぁ、部活ってきめたか?」
「最近の夏よりも考え始めるのが早い。まぁ、やっぱりサッカーかな?」
「やっぱりか!じゃあ俺もサッカーにする!」
「おう、せいぜい頑張れ」
「信じてないなぁ?」
「もちろん」
「そこは否定してくれよぉ」
何故そこで嘘をつかなければならない。
「よしっ、サッカーの練習だ!家に着くまでこの石を蹴って帰るぞ!」
「車に当てたら罰ゲームな」
「法的に罰せられるじゃねーか」
「よーいはじめ」
いつもとは違った下校道だったけれど、案外楽しかった。
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先生の話し方はもちろん少し盛りました!