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あれ、ここはどこ?
うちの目の前に、1つのお城・・・だろうか。
どこからか生えている蔦が巻き付いていて、全貌がよくわからないが、おそらくそうだろう。
童話にでてきそうなそのお城は、ここが日本なのか曖昧にさせる。
周りは霧で真っ白。
お城だけが光を帯びて、ポゥと光っている。
なにここ、えっえっ、うちここに来た覚え無いんだけど・・・。
記憶を失っている・・・ことはないよね?
うちの名前は七草つばき。中学2年生。
この夏休みから、田舎に引っ越して、新しくできる学校に入学予定。
よしっ。ちゃんと覚えてる。
_ギィィィィ。
「扉が独りでに開いた・・・?」
うちが記憶の確認をしていると、お城の豪華な装飾のついた扉が、音を立てて独りでに開いていた。
・・・見間違いじゃ無いよね?
というかご丁寧に、扉周りの絡みついていた蔦が切断されている。
何度も目をこするが、どうやら現実のようだ。
こ、この場合どうすればいいんだ?
と、とりあえず・・・
「おじゃまします・・・。」
何をすればいいのか分からないので、うちはお城におずおずと足を踏み入れる。
お城の中は、家具1つすらなくひっそりしている。
まあ蔦に覆われていたんだし、廃墟みたいな感じだよな。
お城や豪邸といったら赤いビロードの絨毯だが、そんなものすら置いてない。
ただ、上につられた豪華なシャンデリアがキラキラと光っている。
「助けて・・・。」
っ!
その時、どこからか声がした。
辺りを見渡しても、誰もいない。
「助けて・・・。」
男の子の声が聞こえる。
その声は確かに、うちに話しかけている。
「あなたは誰、どこから喋ってんの!!」
とりあえずうちは声を出す。
「助けて・・・。」
「ねえ!!」
「助けて・・・!!」
会話にならん!
「_き。」
ん?今男の子の声に混じって、女性の声がしなかった?
なんか聞き覚えのあるような・・・。
「_き。つばき。」
この声・・・。
「つばき、起きて。着いたわよ。」
「ん・・・。」
目を開けると、母さんが目に入った。
そしてここは、真っ白い霧がかかってもない、よく見慣れた車の中だった。
そういえば、新しい家に引っ越す途中だった。
じゃあさっきのは夢か・・・。
「はははっ、つばきよく寝てたな。ほら、新しい家に着いたぞ。車から降りてこい。」
父さんに言われて、車から降りると、広い田んぼが広がっていた。
空気が心なしか、おいしい気がする。
「ス〜ハ〜。」
うちは大きく伸びをする。
「気持ち〜。」
そんなうちを見て、母さんと父さんの顔が少し曇る。
「ごめんな。父さんたちの都合で、こんな田舎で生活することになって。」
「学校でも友達ができていたのに。」
そう、ここに引っ越す理由は、父さんと母さんの、仕事の理由だ。
父さんは、小学校の先生を、母さんは中古屋の店員をしている。
そして、ここに新しく学校ができる、ということで父さんが先生をすることになったらしい。
(詳しくは、よくわからない)
「ううん、気にしないで。確かに友達と離れるのは悲しいことだけど、うちがこうして生活できるのは、母さんと父さんのおかげでしょ。それにうち、田舎暮らしや少人数の学校に、興味があったんだよね。なんか楽しそうじゃん!!」
これはうちの本音。
本で読んでから、ちょっと興味があったんだ。
これを聞いた父さんと母さんの顔が晴れる。
「うふふ。つばきは楽しいのが好きだから、今の友達と離れるのが嫌かと思っていたけど、聞いて安心したわ。」
「あっ、あれが新しい家?」
車の後ろには、この景色にそぐわない緑の屋根の洋風な家があった。
後ろには大きな山。
いや、この景色だったら古民家とかでしょ。
こういう家は、向こうでも見たことがある。
一度も見学に行かなかったうちは、そう感じた。
とはいえ結構大きい。
「この柵に囲まれている部分が家の敷地だ。」
そう言って父さんは、少し小洒落た柵を指差す。
そう言われて、柵を目で追ってみるが・・・。
「いや、ひろっ。」
思わず声に出しちゃうくらい、敷地が広かった。
「山は土地に入っていないけど、自由に使って良いらしいわよ。」
山、とは家の後にある山のことだろう。
田舎恐るべし(?)