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破 準備

如月は警備兵としてひりあを招き入れていた。


「仕事の内容は、警備と治安維持。例えばですが、各国の戦力同士が喧嘩したりしますよね。私達が味方すべき優先順位などはありますか?」


如月は明日行われる最高戦力会議の警備として、非リアルなる者の同盟を雇い入れた。如月の目の前にいるオーソドックスなスーツ姿の女は、そんな同盟の中でも交渉可能な顔役として立てる幹部である。如月は過去三度、この幹部に仕事を任せ、いずれも満足のゆく結果に繋がっていた。


「いえ。その際は周囲の避難誘導、危険性があれば裁定者に連絡してください。敵性勢力は発見次第拘束、不可ならば抹殺任務に移行して頂いてもかまいません」


「分かりました。ついでに言いますと、既にカッコーの窓による警備兵襲撃計画が立てられ、その下準備としてネクロマンサーの活動が確認されました。我々は既に彼らを全滅させてますが、これらも経費で落ちますか?」


女は無表情で言った。如月はわずかにうろたえた。女はスマホを如月に見せて、画像をスクロールしていった。その画像に如月は思わず眉をひそめた。身に着けていた洋服、装飾品と切り分けられ区分された遺体とで分かれていたである。


「彼らの遺留品等はありますか?指揮系統を指し示す、組織的な関連付けの証拠品などは」


「現在我々の鑑識が押収した品物を精査しています。結果と詳しい報告書は午後の二時には提出予定です」


女は即答した。


「私も彼らの検死に立ち合いたいのですが?」


「既に食用に加工されてます。我々は命を一かけらも無駄には致しません」


続いての即答。


「噂には聞いてますが、吸血種や食屍鬼といった類のものも…」


如月の言葉を遮って女は言う。


「ひりあには、それぞれの区分けされた同盟でそれぞれのグループがまとまっています。今回の特別作戦から一人、食べる能力に特化されたメンバーが選出されました。グルメ。この名前は能力と趣味とのダブルネーミングですね。今回編成されたメンバーは全員人間です。攻撃特化部隊は既に太平洋沖合にて作戦行動中です。内容は、米国の海上における二個師団の警備。内訳は異界攻略における遭難部隊の救出任務も兼ねてますが。よって、今回のケータリングで特別な計らいは結構です」


「…」


如月は思わず発するべき言葉を見失った。過去一度だけ。如月はひりあのアジトへ出向いたことがあった。その時の事が如月の脳裏によぎった。吸血種による晩餐。重罪であればあるほどに美味であると信じるヒトならざる者達の食事。二階での打ち合わせ時の目撃、階下の中庭にはグロテスク極まりない盛り付けとは裏腹に、非常に美味しそうな匂いがしたことを、如月は生涯忘れる事はないだろう。


「今回のガードは私のチームが担当します」


そして打ち合わせが始まった。


一方其の頃。ニューヨークのステートメントビルが臨めるペントハウスで一人の男が優雅にベンチで横になっていた。男は側にある大型プールから上がったばかりなのだろう。濡れていた。男の持つ、異常な筋肉。筋量。190センチにして、実に160キロ。体脂肪率4%以下。


「明日カ…」


男は満点のネオンサイトを一瞥し、朧に映る月を見上げた。濡れていたところから、彼の持つ異常な熱量で即時に乾いた。真冬にも関わらず、ニューヨークのマンハッタンで下のパンツ一枚の男は立ち上がって部屋に戻り、エレベーターに乗った。


「…」


エレベーターを出て廊下に出るとつきあたりの扉を開く。


「来ていたのカ…」


一面を畳で敷き詰められた道場であった。歩みを進めると、目線を上げた。身長190センチの男が、大きく見上げた。そこには、大と小の刀を二本持った男が、今にも襲い掛からんとばかりの態勢に入っていた。その刀は小でけん制し、大振りでもって、筋肉で充満している男の左わき腹を斬った。


「…」


獲物を持った男は、妄想の産物と化していた。道場には、ただ独り。彼しか初めから居なかった。


「これでもまだ斬られるのカ」


マイケル・タイソンの左わき腹から切り傷が出来ており、出血していた。


「今度は落胆させなイぜ」


マイケルはファイティングポーズを取り、ジャブを二回、そしてストレートを一度のシャドーボクシングを行った。畳は破れ、神棚は揺れていた。そして、壁一面が大きく凹んでいた。


「…」


マイケルは道場を後にしてプライベートジェットのエンジンを温めておくように指示した。


同時刻。



オーストラリア深海600メートル。グレートバリアリーフで彩られる大きな一枚岩が強い力で動いていた。


「…」


男だった。彼はそこから泳いで海面に出た。深海600メートルからの、無呼吸運動である。


「お待ちしておりました。既に出発の準備は整っております」


駐車スペースも完備されている大型のクルーザーに乗り込むと、初老の紳士が彼に言った。


「ニッポンか。一度行ってみたいと思っていたところだよ」


タオルを受け取りながら、続けて言う。


「神業とやらを、味あわせてもらおうか」


男は満面の笑みを浮かべながら言った。



同時刻。イギリス、オクスフォード。裏世界。血だまりの湖で肉塊が少しずつ自発的に集積していき、一人の人間の雛形になった。そしてソレは目を開いた。


「…」


そして肉塊はゆっくりと人本来の色彩を取り戻して言った。


「ふう」


女がただ一人、血だまりの池に浮かんでいた。


「…」


女は浮かびながらヘリコプターの音を聞いた。ヘリが彼女の真上に来ると、ロープが投げられた。彼女はそれを掴んで裏世界から移動した。ヘリの機内まで登ると、操縦士から端末を渡された。


「へぇ。随分やられたわね」


「はい。既に分派は遺品整理で揉めています。ゴーレムクラブだけ、満場一致でアーノルド博士に譲渡されました」


端末の情報を一瞥すると、女は備え付けられているキューバ産の葉巻を手に付け、カットし火をつけた。


「大幅な計画の見直しが必要みたいね。このまま向って頂戴」


「かしこまりました」



同時刻。再び、東京。



「場所は東京大森林地帯の一角、守護陣を張られた結界内部で行います」


如月の提携協議も終わりに近づいた。


「高杉幸子、並びに部隊がこれらの任を全う致します」


高杉が如月に見せるために持ち込んだ装備一式。対魔術師、対魔法使い、対まほうつかい、対超能力者。頭部を守るためのヘルメット、胴体を守るための断熱素材及び絶縁素材を駆使したチョッキ、同ズボン、リアルタイムで情報が把握できるオープン無線付属の時計。対魔力粒子、マナを想定したシャツ。一つの装備を完成させるために使用された資金、実に4000万円超。


「まぁ我々ジュミナスは対象の殺傷を目的した殲滅部隊なのですがね」


実に、闘る気満々であった。



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