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破 (時として男はあらゆる理不尽をものともしない。

「レベル1、ねぇ」



ミイラのようにぐるぐる巻きに簀巻きされた夜宮は乱雑に車に乗せられた。見た目はキャンピングカーの形状を取ってはいるが、後部は長い椅子の台座が対面に設置されているだけの簡素の作りである。簀巻きにされた夜宮は目が見えず、ただ転がっている他なかった。そんな中。炭酸ジュースを開ける音を夜宮は聞いた。



「夜宮勇樹、えーっとよみやゆうきさん。で宜しいですか?」



夜宮はスーツの女性の声を聞いた。夜宮は返事をしようとしたが、喉から声が出なかった。



「私たちは特殊作戦群を担ってる組織。超自然災害を対処するのが仕事です。任意とはなりますが、ご協力をお願いします」



任意じゃないだろ。なんて突っ込みを入れたかったが、あいにく夜宮は言葉をちょっとでも発する事ができなかった。



「今回私たち、特殊作戦部隊が到着した理由を先に話しておきます。あなたが入院していた病室に異常な魔力濃度が検出されました。規格外の。わずかな時間でしたが、英国から問い合わせがくるほどの異常現象。そして、あなたの病室はもぬけの空。夜宮さん。あなたは急いで逃げるように病院から離れるよう去ろうとしていた」



「…」



「病室で何があったのか。詳しくお聞かせください。セキュリティーの都合上、多少ご不便かとは思いますが我慢してください」



「…」



「これは、私たちを。そしてあなたご自身の安全を保障するためのものでもあります。ご協力を」



わけがわからない状況の中で、混乱に次ぐ混沌の後の静寂。とりあえず夜宮は、病室であった殺されるような状況よりは遥かにマシだという事がわかって多少の安心した。少なくとも、少人数で密室で殺されるような事態にはないらしい。そう考えた。



「ま。私たちもあなたのこと全然わかんないしね。悪いようにはしないから。如月、どこまで喋るの?」



「この人がどういう人物なのか、確証が無い以上、私たちの事はこれ以上喋れない。一応、特務機関。ブラックサイトは超機密扱い。さっき見てたけど、アイとの白兵戦でまともにやりあえる一般人なんていない。そもそも目で追えちゃう速度でもない。身体検査には少し時間がかかるかもしれない」



「感触では普通の人間。今拘束されてる時分にゃ、ただのパンピー。肉付きだって顔つきだって普通以下。まがうことなき、一般人で、たまたま、まほうつかいになったんじゃない?」



勝手な憶測が飛び交う中、当の夜宮はまだ混乱していた。ただ、問答無用で殺される心配だけは無さそうだとは思えていた。そう感じると、視覚が閉ざされた中で言葉だけが飛び交う現状、早いところ自分の身体の潔白を証明すべきだと考える事ができた。夜宮は嘘偽り無く、簡潔に真実を答える事が出来れば、きっと早く元の日常が待っているのだろうと思えてきたのだった。



「そうね。記録でも逮捕歴も無いし。まほうつかいの線がアリかもね。だとしても、あの尋常じゃない魔力反応は説明できない。そもそもまほうつかいは、ルール無用の神秘の一種。魔力とか魔術だとか、一切の規格外の超能力。…操作されてる可能性は?」



「ナシ。だからふつーのぱんぴーだって。だから口の封印だけでも取っていいんじゃない?私がコイツなら最悪の印象で、絶対全員ボコボコにしてやるって影で誓うレベルだし」



「アイちゃんは?」



「たぶんこの人。逃げてただけ。動物みたいにおびえてた」



「それじゃ。口のシールだけ剝がします」



口から何かが剥がれるような感覚が夜宮には感じ取れた。



「オレはただ!彼女の言うように逃げてただけだ!病室でオレは襲われたんだ!なにか、妙な連中に。あなた達も仲間だと思ってた。だから逃げようとした。それだけだ!」



なんとか相手が知りたい情報と喋りたい内容を夜宮は叫ぶように言った。



「その妙な連中は病院には居ませんでしたよ」



「多分。殺してしまった。オレが殴ると殴った相手が消えるみたいなんだ」



「…」



ひと時の静寂、沈黙の後に夜宮は弁解するように口を開けた。



「やむを得なかった。拳銃で撃たれたし。痛くなかった。多分病室には弾痕が残っているだろう。オレのこんな状況はオレですら困惑している。こんな状態でその、超能力とやらが自分にあるなんて。今日自覚した。消滅させてしまった相手には気の毒に思うが、銃を向けられたし、暴力にさらされた。正当防衛だと思う。相手が死ぬというか、消えるというのも、今日先ほど知ったことだった」



少しの沈黙の後。



「…どう?」



女が生唾を飲みながら言った。



「多分本当。心音や脈拍、発汗も無し。信じていいと思う」



「そう。…人って消したり消えたりするものなの?」



「ありえない。魔法は魔力と対価で釣り合ってる。でも、魔術師でも魔法使いでも無い、まほうつかいなら。ありえるかもね。でも………危険ね」



「これからオレはどうなる!?」



「身体検査の上、判断します。一週間程度の間は」



夜宮はそれを聞いて黙っていると。



「別にいいと思うよ?三食昼寝付き。しかもメニュー表から選べる。望めばベッドメイクもしてくれるし、ちょっとしたスイートなホテル暮らしだと思えば」



夜宮は、少しお喋りな方の魔法少女のコスプレをした魔法少女とおぼしき女の子が喋っているのであろうことがなんとなくわかった。視界が閉ざされてる中、妙に声だけは頭に響いていた。



「悪くない提案だが、一時的な生活は良く見えて実際は一つの仕事、一つの人生でつながってるんだ。家賃だって支払わなければならない。不安定な生活は送れないんだよ!」



「へぇ。お仕事は?」



「…電子機器の工場の仕事を面接してもらってた。第一面接はパスして第二面接で役員との面談。それが最終選考だったはずだ。事故のせいでぶっちぎってしまったが。そうだ。思えば交通事故を起こして病院に搬送されてたという真実を伝えるつもりが、病院を無断で抜け出してしまった挙句、正当防衛とはいえ、人をおそらくもって多分に、殺してしまった!血や肉片は見なかったが、正直後々で落ち着いた後で今日の出来事を振り返ったりするのが非常に怖い。今は混乱や激昂なんかの感情でやり過ごせてるが、冗談じゃないマトモじゃない今日一日でオレの人生は滅茶苦茶だ!」



夜宮は、とりあえず殺されることはないらしいという事を額面通りに受け取って落ち着きを多少若干なりとも取り戻し、今後の事を考えた結果爆発した感情を夜宮なりの言葉でぶちまけた。



「無職のせいで最悪だと思うなら、今日一日だけの責任じゃないよ」



夜宮は、この声が最初に槍を使う戦いをした魔法少女とおぼしき女の子なのだろうと思った。



「それを言っちゃぁオシマイだよ!」



夜宮は勢いのまま反応した。



「一日に三万円お支払い致します」



「…えっ」



如月と呼ばれた女は言った。



「一週間程度の拘束で、身体検査が済み次第契約は打ち切りという事で。もちろん誓約書等の手続きの書類にサインして頂きますが、表向きは治験の検査という事で。五日間分は保証します。加えて病院へ入院された分もこちらで処理しておきます。更に、今回の拘束といった危険手当に守秘義務保持のための契約。合わせて三十五万円をお支払い致します」



「現金で?」



「望めば。ただし現金だと財布に入らないと思いますので振込をおすすめします」



「解放された直後?」



「ええ」



夜宮は考えた。一分ぐらい真面目に考えた。



「分かりました。ご協力致します。ちなみに、その日数って今日からですか?」



「ええ。本日付け」



そして小さく、それならいっか。そう短く夜宮は本心から呟いた。三十五万円である。遅れた家賃の先月分が無事にまかなえ、余裕ある生活が送れる金額である。手取り二十万弱の夜宮にとって、実に二か月分近い金額である。ついでに言うと、この時から夜宮は知らず知らずに口調も変わった。



「おっさん、そんなに金に飢えてんのかよ。態度がガラッと変わっちゃって」



「人には人の都合があるんだ。それだけあれば、また仕事を見つける時間もある」



「なんならうちで働く手もあるぜ」



ドライバーが初めて口を開いた。夜宮は視覚ゼロの状態だが、車特有の反響音で、大体運転席のドライバーが言ったのだろうと把握できた。藪から棒であった。



「運転免許は持ってるか?」



「ありますよ」



「じゃあこの仕事やればいい。運転手。うちの実行部隊を現場まで届けるんだ。危ない仕事だが危険手当もついてるし、死んだあとの事だって心配せずに済む。しかも年四回の賞与で月二か月。まぁ基本給が二か月分だから30万か。結構いいぜ。福利厚生も充実してるし。にーちゃん仕事探してるならどーよ?これも何かの縁だろ?まぁ身体検査終わってからでいいからさ」



棚からぼた餅である。夜宮は30秒ぐらい真剣になって考えた。



「お願いします。でも、それっていろいろ雇ってもらうために面接やらなんやらで大変だと思うのですが…」



「あー。でぇじょーぶでぇじょーぶ。おにーちゃんもうじゅーーーっぶんうちの過酷さ見て貰っての希望だからさ。おにーちゃんがやりたいってんなら、明日からやってもらおーってぐらいよ。あ。交代代わる?」



「田村さん!」



「まー。にーちゃんわりーヤツじゃなさそーだしさ。それにさっきの話って三十五万だっけ?大の男が三十五万じゃあ食ってけねぇっしょ~。だろにーちゃん?」



「いえ。今は大変な時期なので、とてもありがたいお話です」



「まぁちょっとの辛抱だから!な!」



「はい」



顔が変わって汚いものでも見るような顔で花梨は見下ろしていた。顔を上げると如月が目で花梨に、嘘偽りはどうかという真贋の真意の確認を送っていた。花梨は肩をすくめて返事をした。



「っていうか。いーの?これが万一モノホンなら」



あえて花梨は最後まで言わなかった。これが本物の場合。これがもし、作戦部隊一同の考えるまほうつかいなのだとしたら。



「難しい判断ね」



如月はいくらか顔色がほぐれている夜宮を見ながら言った。



「童貞なの」



呟くようにアイが言った。静寂が音を立てて崩れ落ちた。



「あのな。そういうデリケートかつプライベートな事は差し控えるべきだ。そういえば、オレを襲った連中もそういう事を聞いてきたな。ああ。そうだよ。キスだってない!!こういう人生だっているんだよ」



「知ってた」



「じゃあほっといてくれ」



「なるほどね。…あ。ごめんなさい。そういう意味じゃないの」



如月と呼ばれた女性の台詞に、夜宮の心にアイスピックが突き刺さった。童貞の心はとても傷つきやすいものなのである。



「どういう意味だよ!すいませんドライバーさん!あとどれくらいで到着します?」



「もう到着してるんだけど、拘束者に到着時間がわからないように時間潰さなくっちゃいけなくってね~。これも規則なんだよ~。わるいね~。規則守らないとボーナスに響くんだなぁ。これが」



「それはしょうがないですね…」



夜宮は理不尽な環境も現在の拘束も仕事の一環と考えて納得した。



「俺三人でしょ?新築を去年買っちゃってさぁ。これ以上言っちゃうとなんだか俺の死亡フラグみたいになっちゃうから言わないけどさぁー。大変なんだよねー」



「羨ましい限りですよ」



「そういえば、ちょっとした質問ですがいいですか?」



夜宮はこの不思議と中だるみした空気の中、ふとした疑問を口にした。



「可能な範囲であれば答えます」



如月はドライバーの田村を見ながら言った。



「そこに居る二人の女の子ですけど、明らかに未成年に見えますが。労働以上に危険な仕事に派遣していいんですか?」



「それはお答えできません」



「そうですか…」



「一応言っておくけど、私たちは志願して現場に来てる。そしてちゃんと機能してる。人類史には裏の世界があるってこと。そしておっさんは今日、その世界に足を踏み入れた。打算的な勘定で踏み込んだ今日という日を、決して忘れない事ね」



「公務員だろう。日常からの災害を未然に防ぐ正義の味方っていうことだろ?オレもなりたかったんだ。ヒーローってやつに」



「ま。やりがいがあるっていうのは間違いねーわな。ただ、今の俺としては規則通りに時間が終わって就業時間がぴっちり決まって土日休みの工場勤務の方が勤め先としては魅力的だわな、ぶっちゃけここまでやってみてもよぉ。子供の面倒みてやりてーんだよ。ま。結婚するまでは悪くねーわな」



豪快な笑い声を夜宮は聞いた。それから少しの沈黙の後、それを破るように間の抜けた着信メロディーらしき笑点でおなじみの音が聞こえた。



「如月です。はい。ええ。確認してもらった?はい。は?ええ。ええ?病室の痕跡も?本当に間違いないの?…わかりました。引き続き、確認作業お願いします。それじゃ」



如月の通話の応答が聞こえた。



「花梨、病院の監視カメラに映ってた人物がこれ」



「は?これって。この人って。まさか。それに…。どうして」



「痕跡が消去されてないこの状況が異常なのよ。花梨、目の封外して」



目隠しが外されたらしく、夜宮の視界が戻りつつあったが、眩しく感じる間もなく、夜宮はスマホを突き付けられた。見ると、病室に訪れた暗殺者の連中だった。



「彼らを見た?」



「ああ、来ましたね」



「全員?」



「えっとそう、全員だ。無我夢中だったが、相手の顔はよく覚えてますね」



「全員を、斃した?」



「多分。もしかしたらどこかへ強制的に転移させたりする能力なのかもしれないけど。おそらく、多分斃してると思う」



夜宮は喉元を鳴らしながら、敵を屠った自らの拳を思い出しながら言った。



「間違いない?」



「間違いないです」



「…目的地変更。九段下のセーフハウスへ向かってください」



「あいよ」



如月は運転手に変更を伝えると、スマホを取り出した。



「如月です。彼らの病院から半径10キロメートルの痕跡を全て消去して頂戴。乗り入れた車はその場で外部から完全封印。本庁からのお招きしてもらって。安全重視でくれぐれも。敵性勢力との会敵の際は交戦を避けて。四十五分で仕上げて頂戴。…任せましたよ」



通話を切って、如月は再び通話を繋げた。



「如月です。緊急応援を要請します。ええ。第一種警戒態勢を想定。調査部隊の派兵が予想されます。…もちろん。構いません。クラス5の装備使用を許可します。…それは三番目。可能な限りの消費を推奨します。はい。任せましたよ」



通話を切るやいなや、アイが口を開いた。



「私も、行く?」



「一度セーフハウスへ戻りましょう。彼を狙って来たのだとしたら、預言の類か情報漏れか察知検出かは分からない。…これはもう―――ただごとじゃないわ」



「やっちまった相手にバケモンでもいたのか?」



ドライバーは軽口を叩くような調子で言う。



「そんなところ。現場判断に任せてください」



そんな答えを聞いて、ドライバーはにんまりと微笑んだ。



「そのほうが良さそうだねぇ」



そして社内は沈黙へと。少し経ってぽつりと。



「マナが乾いてる。草木が枯れて死んでゆくから冬は嫌い」



カリンと呼ばれた女の子が、まるで詩人のように囁くのを聞いた。夜宮も、車内の誰も口を開かず、ただ車はひたすらに目的地に向かうばかりだった。それから少し経過したところで車のエンジン音が停止した。



「これから担架に乗せて運びます。これらの処置は我々の安全と夜宮さんへの安全。そして今後の展望のため。これから少し私は手が離せませんので、必要なものは警備兵に伝えて下さい。好きな料理、本、動画サイトだけのモニター等も用意できます」



「…ありがとうございます」



人の良い夜宮は当然のように礼を言ってただ従うまま運ばれていった。そして部屋に到着してから拘束が解かれた。夜宮の拘束を解いたのはカリンと呼ばれていた女の子だった。



「この部屋監視されてるから」



夜宮は何て言葉を返そうかと思っていると、花梨はそれだけ言うと部屋を出ていったところだった。



「…ま。死んでないだけラッキーか」



当然夜宮も思うところなど多くある。しかしそれでも楽観的になれたのは、高収入と好待遇、三食付きの寮費無料のホワイト企業への就職のためである。先ほどの死ぬかもしれない死闘と呼んでも差し支えない程の鏖殺に次ぐ戦闘応酬、命懸けの戦い。終わってしまったことへの気持ちの整理は、物事を深く考える事を止めたおかげで決着していた。



「ワンルームか」



夜宮の住みたいと思っているような典型的なワンルームマンションといった部屋だった。玄関から真っすぐ伸びた廊下の先にリビングルームが有り、廊下の横には簡易キッチンとユニットバス。リビングには既に簡素なベッドが置かれており、最近使用されたような形跡が見受けられた。とりあえず物事を軽く考えようと努めて、シャワーを浴びてベッドに倒れこんだ。慣れてない甘い芳香剤の香りを感じながら夜宮は眠った。



「…」



「ぉっすー」



ふと。夜宮は目が覚めた。この部屋は外への出入りはできない作りになっており、もちろん窓ガラスも光遮断シートが張られていた。よって現在何時なのかは分からないが、夜宮にとって大分良く眠れたようなのだろう。不思議に頭の芯から眠ったという感覚が夜宮にはあった。今、何時かは分からない。とりあえず、東証一部上場レベルの超優良ホワイト企業への就職口が見つかったという安堵感から良く寝入っていたのだ。それでも。



「きゃははおっさんシャワー浴びて来いよ」



パズルゲームをやってる女の子がそこにいたのだ。何がおもしろいのか、夜宮の顔を指さして笑っている女の子である。もっといえばプレステ5である。未だにプレステ4の夜宮にとって実に生意気に見えたのだった。



「ルーキーだろ?」



「あ。ああ。まだ採用してないけどね。夜宮勇樹だ」



「キョウちゃんでいいから。鏡じゃなくって杏子のあんに、香りのかおるな。きょうか。いいからシャワー浴びてこいよ。一緒にゲームしようぜ」



言われた通りにバスルームへ行きシャワーを浴び、備え付けのジャージを着るとキョウちゃんと呼ぶように強制する女の子とリズムパズルゲームを一緒にプレイしているところ。



「おっさんさぁ。軽くレポート読んだんだけど。どしてうち来るんよ?」



「仕事を探してたからな」



「うっわ、マジ?おっさんもしかして大卒とか専門職とかじゃないホワイト系でもない感じ?」



「ああ。まぁ。言われてみればそうじゃない感じで大体合ってるな」



「うわやべー。それヤバイ系」



「人生、絵に描いた通りに進むなんてそうある事じゃないさ」



うつむき加減で夜宮はこともなしに言うと。



「それは言えてる系」



中学生やら高校生やら、その程度の年頃の女の子のくせに、ませたような顔を返してくる。それが少しばり夜宮にとって寂しく感じた。



「話が分かる子供でおっさんは助かるよ」



ゲーム中、おっさんはやめろと暗に訂正を求めたが、夜宮はもう全てを諦めた。自嘲気味に自分の事もおっさんと呼んでいた。



「でもさ。ここって人命軽視で残業ありあり。プライベートも無いし勝手に辞められないし休日だって選べないってか無いし。おっさん能力で言えばそこそこ有能なら、もうちょっと上手に立ち回るべきだったかもね」



さらにませた事を言われる。まるで職場の先輩が自社に対してダメ出ししてるようで、夜宮は最近の若人に嘆きを覚えつつも。



「いいじゃないか。人の役に立つ。オレにしかできない仕事だ。なにより。なんでもいいから仕事を見つけたいんだ」



「前職は?」



この質問に対しても、もう間もなく答えられるようになっていた。過去の長い履歴書の空欄部分も、夜宮はそらんじて即答できるようになっていた。



「調理師だけど、人員整理されてね。工場で仕事をするつもりだったんだ。そっちより、自分にしかできないって特別な感じのする仕事だと思った」



「ふーん。うちがおっさんなら、人の下じゃなくって上に立ってやりたい放題やって死ぬのがいいかなぁ」



「やりたい放題やって死ぬのは、そういう性格じゃない。オレは静かなほうが好きなんだ」



「海より山?」



「そう」



「で童貞と」



「あまり人となりの深いところに突然突っ込んでほじくりだすんじゃない。特に子供はな」



「だから?」



「クソガキ認定される」



「呼び方それで固定?」



「まぁな」



「それ最悪だな。マジで」



「人をからかうもんじゃないのさ。分からせられてからじゃ遅いんだからな」



「童貞がやってみろっつーんだ」



そこまで言うと、室内に備え付けられていた固定電話が激しい音で鳴り出した。



「もしもし」



「夜宮君ね。これから遠出のミッションに向かってもらうことになったの。事務手続きは後日でいいから、至急整えて頂戴。杏香もそちらにいるわね。彼女にも同じ事を伝えて頂戴。装備はこちらで全て用意しますからと。お願いね。後十七分後に到着します。指紋と虹彩認証は既に完了してるからそのまま下の玄関のドア外で待機しててください」



「わかりました」



夜宮は突然始まった不思議な仕事に思いを馳せ、通話内容をそのまま杏香に伝えた。



「はぁ?マジで?しょうがねぇーなあ。おめーの力を見せてもらうかぁ」


にっかり笑った京香はいたずらな顔で言った。

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