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博士の愛しき発明品たち!  作者: 夏夜やもり
博士はネコ耳天使に興味(製作的な意味で)があります
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18 悍ましき発明⑤『磁力を利用して頭上で発光して回転しまくる物体』

「生体磁気の、測定装置……ですか?」


 なんだろう、言葉の響きに嫌な予感がする。私が『生体』って着くと身構えるようになってしまったたのは、おそらく博士たちのせいだ。


「まあ、こちらはプログラムが完成しておらんがの!」

「磁気ってのは、あの磁石がくっついたりはじいたりって奴ですよね?」

「その通り! 磁気にはN極とS極があることは知っとるじゃろ?」

「ええ、まあ」

「生体にもその磁石的なものがあるのじゃよ」

「誰かさんの体内磁石はまわりまくってるのよねー」

「だまらっしゃい!」


 本当、あのあだ名つけた斉藤さんは許さないからな!


「しかしの、そこと少し掘り下げてみるとじゃな……」


 そこから、磁気に関しての講義が始まる。

 うっわー!! 数学が、たくさん、そうたくさんだ!

 あー!? なんでベクトルとかでてくるんですか?

 アルなんとかやら、フェライトとか、急にいろいろ専門用語が出始めるの、なんで!? ここは日本語圏でしょう!?


 え、え!? なんで呪文みたいな数学が出てくるんですか!?

 やめてください! 本当、やめて!!

 もう! これ以上は無理です!!

 ってことで、私は先程使ったばかりの、聞き流しスキルを使うとしよう。


 多用しすぎると『実は話聞いてないよねー』といった悪印象を与えてしまうもろ刃の剣だが、ここでは自分の身を守ることが先決である。


 えーっと、なにが良いかな?

 ああ、そうそう、最近妹の親友ちゃんとお話しする機会があって、妹が学校でやらかした話を思い出す。


 昔の私ほどではないが、妹もちょっぴり、いや結構な感じで有名になりつつあり、その暴走は手がつけられない予感がある。

 ()()が合う理系の子が、妹を色々たぶらかして連れまわすらしく、お弁当パーン事件のほかにも、公園で周囲に(とどろ)くようなことをやらかして、大急ぎで逃げてきたとか!?


 どうもね、妹と親友ちゃんの危機管理能力は働いていたらしく、山の上にある小さな公園で引き起こしたその事件は、誰もいなかったから事なきを得たらしい……。


 というかさ、突っ込もうとした私に嬉々として報告するんじゃない!

 仕方なく説教したのだが、うーん、効果がねぇ……あんまり効いてなさそうである。

 あのね、いくら私でもさ、ニュースとかになったら(かば)えないんだぞ!?

 炎上とかだってあるしさ、もう本当に(ひか)えてくれないかな!?


 今の内から『いつかやると思ってました……』とコメントする練習しておこうかな?

 さめざめとした表情は苦手だけど……。


「つまり!」


 おっと、結論らしい。ちゃんと聞かなくては。


「磁気にはN極とS極しか存在しない。しかし、磁力線には固有の波長があることを突き止めたのじゃ!」

「……ほう?」


 波長? えーっと、周波数的なあれですかね?

 ラジオって、FM・AMでポイントを合わせれば聞こえるってやつ?

 え、磁気もそういうのがあるって事?

 そんなん他の人が研究してないのかね?

 いや、独自理論てやつ!?


「……つまり、どういう事ですか?」

「……よく、解んないわ」

『この発見はさ、僕もちょっと懐疑的なのさ。実物をみるまで、ありえないと言い切ってたさ』

「なにをいう! ちゃんと再現できたじゃろうが!!」

『うん……だけどさ、再現できるのは博士だけだろう? ……論文にはできないぜ!』


 ご友人、それってトンデモ理論って奴じゃないですかね?

 てか、実現可能だけど、理解不能ってとても怖いんですが!?

 私の内心の変化に気を留めず、博士は嬉々として続ける。


「ええか? 人からは生体磁気とよばれるものが出とるのは既知じゃ。しかし、これが金属を引き寄せることは稀とされておったじゃろう?」


 まれ……でも起こるものなの!?

 いやいやいや、考えてみても変じゃん!

 人の身体を冷蔵庫にみたてて、マグネットをはっつけることはムリでしょ!?


「そこで、調べたところデマじゃった! しかし、儂はその生体磁気、並びに磁力の研究に関して、大いなる発見があったのじゃ!!」

『データは僕が集めたのさ。てか、ネット上には少ないね』

「そして、磁気がS極とN極の関係をつくる波長を特定したのじゃ! これを計測するのは非常に困難であり、少なくとも通常の計器では不可能じゃ!」


 ……話がよく解らない。

 そもそもの話、なんで磁気が関係あるんだろう?

 というかそれが、天使の輪と何の関係を持っているのだ?


 解らないことは残念さんと思われても聞く! というのが、私の長所であり短所である。特に博士に対しては、聞いてから後悔するのが常であったが、しかし、私は自分の習性を止められない。


「あの、ちょっと気になったんですけど、なんでその複雑怪奇なことしてるんですか? 遠回りすぎません?」

「……複雑、かのぉ?」

「はい。えっと、その、目的は何でしょう?」

「ひみっちゃんはリニア理論はしっとるか?」

「リニアって、リニアモーターカーでしょ? ……電磁力で()()()()走……え!?」

「そう! ひみっちゃんの頭を浮かぶ、天使の輪を完璧に表現するために、生体磁気応用のリニア理論を(もち)いてみたのじゃ!」

「おう……なる、ほど……」


 やりたい事はわかったので、頷きはした。だが、なんでそれを実現しようとしたのか、さっぱりわからない!


 えっとですね、言いたいことはたくさんあるんですが、天使の輪って絵とかに出てくる、何か高貴そうな美人さんの頭の上に浮いてるあれですよね?


 まず、第一に、誰も完璧なものって、だれも見たことないじゃん!!

 博士見たことあるの!?

 どうせ絵画でしょ!? 

 もしかしたら巷にあふれているCGとかですか?

 それでも、どう頑張ったって絵の再現は無理じゃないですか!?


 さらにですよ!?

 どれだけいろいろ頑張っても、ちょこっと周りを見回したら、まれによく見かけるくらいの容姿である私に、博士が言う完璧とやらの輪っかを乗せても、ごくたまに見かける、ちょっとオカシイ感じのひとになるだけじゃないですか!?


 それならば、昔のコントを検索したときに見かけるような、はりがね天使で良いじゃないですかね!

 どっちにしても私は着けないけどさ……。

 

 それにしたって、リニアモーターカーの理論でしょ!?

 伝記とかで浮く感じの!!

 それを頭の上でやるって正気なんですか!?


「えっと、その、ねえ博士……完璧って……天使の輪とか、見たことあるの?」


 あ、妹も同じことを思ったらしい。訪ねてみても博士はにやりと笑うだけであった。


「それについては問題ないぞ! 想像はすべての創造に繋がっておるからの!」

「あ、はい……」


 うわ、やっぱり妄想だった!!


「ゴールがあれば問題ない! 今回クリアするべき大きな課題は二点じゃ!」


 博士は立ち上がり、つかつかとホワイトボードに何かを書いた。たぶんなんかの絵なんだろうが、ゲジゲジがダンスしている感じになっている。

 計算式は綺麗に書けるのになんでだろう……。しかし、博士は楽しそうである。


「まず生体磁気と波長合わせられる、吸引力と反発力を生み出す軽量物質の追及が一つ目」


 指を立たせ、こちらにふんぞり返っている博士に、私は嫌な感情がちらりと渦巻く。


 というか、波長合わせってのを、ちょっと考えても……その人の生体磁気を計測して、分析して、それに引き合う何かを作り出すという、面倒な工程がいっぱいあるんじゃないですかね?

 出そうと思った疑問は、博士の声で出せなかった。


「そしてもう一つ! 超伝導(ちょうでんどう)効果(こうか)による恒常的(こうじょうてき)な外部電磁線の遮断(しゃだん)じゃ!」


 へ……ちょう、でんどう!?

 え、えっと、なに? 何を言い出しているんですかね?


「えっと、うん、言ってる意味わかんない」

「博士……いま、何かとっっっっても嫌な言葉が聞こえましたが、そのすべての意味が解りません!!」

『おや? 麗しの君は超伝導理論を知らないのかい?』


 聞いたことがある気がするが、うーん、詳しく覚えてるわけじゃない。けど、電気的な抵抗がなくなってしまう夢の現象ですよね?


 でも、あれってすっごい冷やさないとダメなんじゃなかったっけ?

 たしか……何かの物質を冷やしまくるとかそんな感じにすると、電気の抵抗がなくなるから、『すっごいことができるよ!』とか、多分、電気代がすっごいお安くなるとか、こう、ふわっとした感じでは覚えてますよ。

 ただ、口に出すのが(はばか)られたのは、いっそう強くなっていく、嫌な予感のせいである。


「おや、ひみっちゃんもいもっちゃんも知らぬのか? 氷の上で浮く磁石の映像を?」

「……わかんないわ」

「……えーっと、どうなんでしょうか? 見たとしても覚えてない、ですね」

「そうか……ふむ」

『色々と有用だけど今回の件に関して、とても簡単にいうと、他の電磁力の影響をうけなくなる点に、使うのさ!』

「そう! つまり、今回の発明は二つで一つなのじゃ!」


「ひみっちゃんの生体磁気の波長を得て、天使の輪を(かたど)った媒体(ばいたい)へ同じ波長の磁気を帯びさせる装置」


 博士は指を立て、ホチキスみたいなものを指差す。


「そして、他の電磁波の影響を排除するため、()()()()()()()()()()()()、ひみっちゃんに取りつくお洒落ポイントがこれ!」


 信じられないことを言いつつも、博士は金の輪を指差してにこりと笑った。

 あれ!? いま、常温で、超伝導を引き起こすって、言ったんですかね?

 それ、世界が渇望(かつぼう)しているっぽい、ものすご技術じゃないですか!!


「二つの発明により、輪は一定のポイントで浮遊し、頭でとどまるためにSとNを切り替えを常時行い、激しい回転によって発光するのじゃ!」

「……かいてん? はっこう?」


 なんか、ちょびーっと、嫌なワードが聞こえてしまった。

 輝く? 発光!? それに激しい回転……!?

 それ、このサイズで私の頭に乗っけておいて大丈夫なんですかね?


「つまり、この発明品は天使なひみっちゃんを輝かせる、聖なる象徴(しょうちょう)となるのじゃ!!」


 博士は、白衣を大きくはためかせ、力強く宣言した。


「ー……」

「えーっと? うん、いまいち理解できないけど……磁石頭にのせる感じ?」


 うーむ、なんていうか、うーん!?


「博士、いろいろと聞きたいのですが……」

「うむ! どんどんきいとくれ! 何が聞きたいんじゃ?」

「えと……回転……するんですよね?」

「うむ! この回転こそがこの機構の要訣(ようけつ)での。発光と浮遊ポイントの維持に使われておる!」

『しかし、ちょっと回転数がものすごいよね』


 何というか嫌な予感がする……。


「ねえ、あたしちょっと気になったんだけど、それってどれくらいの威力があるの?」


 威力って何だろう? でも、私の聞きたかった率直を、妹が聞いてくれた。


「たいしたことは無いぞ!」

『回転数としては……そうだな! 20mmの分厚い鉄板に穴を開ける、ドリルと同じくらいさ! 博士にしては控えめかな?』

「ほう?」


 ご友人の言葉を受けて、私は表情が固まった。

 どうやら博士は私の頭へ、なんかもう鉄板へ物理的に穴を空ける程度の発光物体を()せる気らしい。


【おまけ】

『昔、近くには綺麗な川があっての……』


 その話は結構面白かった。

 博士の生家は田舎だったようで、お家の近くには川があったらしい。


 どうやら大きな橋の下に大岩があり、そこまで泳いで行ってよじ登り、われ先に飛び込んで競争していたらしい。

 なんか、うん……とてもノスタルジックだ。


『での、ある日何故か猫を抱えた奴が岩までやってきて、投げ入れようとして反撃されて落ちたんじゃ……』

「まあ、猫ちゃんは水嫌いだもんねー」

「うんうん。そんな子はお仕置きしなきゃですね」

『儂らは長らく泳いでおったがのぉ、上の学生になってやめた』

「水が綺麗って良いわねぇ」

「学生時代はどうだったんです?」

『……日常が爆発だったわ』


 マジですか?


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