13 悍ましい発明③④⑤『人体へ取り付けるシッポ・ツノ・天使の輪』
あれー? おっかしいなぁ……?
ゲームについて、楽しい雑談してた筈なのに……急激な危機感を覚え、私と妹は顔を見合わせた。妹も顔が引きつっている。
『なあ博士、今回のカワイイセットで、二種4作品もNGってのはさすがに残念だったぜ!』
カワイイセット?
悍ましセットの間違いじゃない?
『しかし、あのゲームの同士が着けるならやる気倍増だよ! これは僕らも頑張らなきゃ!』
「しかし、ひみっちゃんたち嫌がっとるし、もう中止にせんか?」
おお!? 博士がめずらしく中止とかいいだした!?
おー! ガンバレ! 博士!! 負けないで!!
『博士、麗しの君は脳へのアプローチにNGをだしただけだろ?』
「違います」
「あたしの体を改造しないでって言ってんの!」
たちをつけてよ、妹さん。
『博士、僕たちの本気を二人に見せなくてもいいのかい!?』
「良いです!」
「見たくない!!」
「その結果がどうなるか、だいたい予測はつきますって!」
てか、私たちに着ける前提部分を無くしてください!
もう、話を聞いて!!
「そうか!!」
私たちの抵抗むなしく、博士はとてもすっきりしたいい笑顔で立ち上がり、白衣をは靡かせ胸を張り、堂々と宣言した。
「ひみっちゃんたちの意見も鑑みた結果、つまりは脳改造じゃなきゃ良いのじゃ!」
「はっ?」
「えっ!?」
『そうだ! 残りは三種4つだけどさ、ちょっと仕様変更すれば良い!』
「うむ!! しっぽは体内環境の反射のみとするのじゃ! 脳にアクセスしないぶん、心理表現特化のとがった仕様になるが、着脱可能となる!」
『なるほど! ツノは……オートで抜け落ちるようになればクリアじゃないか!?』
え、二人ともなに言ってるの!?
いやいや、ちょっとちょっと……開発前提で話進めないでください!
てか、どうすればいいんだ!? もう! もうもう!
「それは、おぬしが生え代わり好きだからでは……?」
『ははっ! フェチズムの追及こそが、神の理を刺す剣なんだぜ!』
なんだその名言ぽいの? 絶対いま作っただろ?
『一番のネコ耳・うさ耳があるから後回しにしてたが、僕はツノっ子も大好きなのさ!』
「ううむ……儂は天使のひみっちゃんが見たいぞ!」
『だから天使の輪か? 博士の愛も大概だな! あれはどうするんだい? 浮いてなきゃ天使じゃないぜ』
……浮・い・て・る?
なんか、また新しくもアヤシイ言葉が聞こえましたね。
「天使の輪は、秘策があるのじゃ!! しかも、皮膚へのセンサーパッチでなんとかなる!!」
「……あぅ」
「これ……」
「翼はもう無い。だが、妥協するぞい!」
私たちはどうやら……もう少しこのハンマーを振るう必要があるようだな。
盛り上がっている二人を冷めた瞳で見つつ、私はポケットからハンマーを取り出した。
「悪いけど、ハンカチ貸してもらってもいい?」
「うん……はい」
そして、私は妹から良い香りのするハンカチを借りてちょっと申し訳ないと思いつつ、ハンマーに磨きをかける。
白カラスさんがびくっとしたのがちょっとかわいいと思ったが、それどころではない。
どうやら博士は、ゲームの話で沈静化していた情熱に、ご友人が燃料を投下し、再び『制作楽しいモード』に移行してしまった。
「……ねえ?」
「うん……」
私と妹は、楽しんでいた紅茶を置いた。ついつい動揺のためか、少し音を鳴らせてしまったのだが、まあいいよね?
**―――――
『博士、しっぽの具体的なアイデアはどうなるんだい?』
「ネコしっぽもウサしっぽも、気持ちに連動した動きとするのじゃ! 随意運動を諦めた分、取り付けも取り外しも簡単となる! ならば問題なかろう!」
それ、『体に埋めたりはしますよ』って言ってるよなぁ?
……まずはひとの体に何かを埋め込むって選択肢を捨ててほしい。
「ただ、前に渡したホルモン濃度のデータを最適化がいるぞ!」
『おう、ありゃ面倒だな……しかし、急げば明日には何とかなるぜ! で、このデータはなんだい?』
「感情とホルモン濃度は密接な関係があるのじゃ! ストレスレベルに応じたしっぽの動きパターンを構築するぞ!」
『そいつぁもしかして、僕たちには理解できない乙女心の視覚化ができるかも? ってことか!?』
「その通りじゃ!」
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博士とご友人は楽しそうに……。
『ツノは、ナノマシンだろ? プログラムはまかされたぜ!』
「あれはまだ完成とは言えぬ! しかし、カルシウムを集め、新たな骨格として作り上げるなら何とかなるぞ!」
んー!? ナノマシン!?
細菌レベルの大きさで、単純なことを体にいろいろ命令する感じのモノだっけ!?
現存するの!?
え、これ、え!? 処分失敗したらアヤシイ病気とか広まらない!?
私は内心の動揺を、ハンマー撫でることで押さえようとする。
白カラスさんがまたまたびくっとした。しかし、博士とご友人は気が付かず、構想のやり取りをしている。
「うむ……あれが使えるかもしれん! DNA書き換えもちょっとですむし! プログラム便りになるがの!」
……いま、すっごーーーーく、不穏な言葉が聞こえたぞ?
『オーライ、あとで仕様を送ってくれ!』
「儂は生えて残る型が良かったのぉ……体への負担も少ないしの」
『博士、ロマンがないなぁ……生え変わりを愛でるのが、粋ってものさ!』
「お主は本当にどうしようもないのう」
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とても、楽しそうに……。
『しかし、天使の輪はどうするんだい?』
「昔失敗した、生体の磁気の研究がここで生きるのじゃ! ちびっとの応用じゃがな!!」
なにそれ、私、知らない……。
うっわー、聞きたくない感じがふつふつとこみ上げる。しかし、一応、聞いてから、しっかり止めなきゃ……。
『だけど博士、天使の輪ってのは浮いてなきゃなんないだろう?』
いらないから!
そんなん全然いらないから!
どうせならパーティーグッズで良いじゃないか!!
「問題ないぞ! 昔やった生体磁力の研究時に見つけた理論がある! うまく使えば可能となる!」
可能としちゃったかー!?
しかも磁気とかいってるし!!
『しかし、それって大発見じゃないのかい?』
「しらん! 儂はできるもんを作ってるだけじゃ。今は天使の輪を作るのじゃ! ひみっちゃん天使じゃぞ」
『流石だ博士! わかった、僕も全力中の全力を尽くせそうだぜ!』
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人体改造(私と妹が被害者)の、詳細を詰めていった!
この内に湧き出る感情の、『悍ましい』以外の呼びかたを私は知らない。今日はもうずっと感じ続けているこの感覚、麻痺しないように気を付けなきゃと、自戒しつつ私は言った。
「あの……」
「ちょっと良い?」
私と妹の目が座っているのだが、博士は気が付かないらしい。傍らで聞いて、ドン引きする内容で盛り上がる二人に、私と妹は割って入った。
「博士、ご友人、何度か言いませんでしたかね?」
「人体に影響のあるものはNGだって!」
この言葉に、博士は怪訝な表情をしている。
「えと、どういうことじゃ? 脳を触るんが駄目なんじゃろ?」
そこじゃない! 博士!
そこじゃないんです!!
『しっぽは反射で動く感じにまとまるし、ツノは骨をちょびっと伸ばす感じの遊び心さ!』
ちょびっとって何ですか!
ご友人、私たちは遊びで骨を伸ばしたくないんです!!
「天使の輪なんぞは生体磁気の利用じゃから、頭皮にセンサーを埋めるだけで済むんじゃぞ!」
何でしょうかね?
こう、やる気になっている所を中断させなきゃと思うと、本当にちょびっとだが申し訳なさを感じてしまうし、なんて言うんだろうか、人類の発展? それにものすごく貢献しそうな気配もみえる。
この意識のすれ違いって、例えば、お薬なんかを作っている方が、もう日常的に被験対象からのデータ取りに慣れてしまって、何でもないことのように言っている感じなのかもしれない。
もし、焦点が変われば、一応の理解を示すことはできるだろう。
……他人事であればね!!
ここを見逃してはいけないんですよ!!
この発明のピンポイントな対象者って私たちなんです!!
この一点さえなければ、ちゃんと完成するまでを歓談したのちに、ニコニコしながら叩き壊してます!
私は気合を入れ直す。伝えるべきは一貫して『作らないで!!』だ。
「…………ふう」
軽く息を吐き出す。
先ほどは怒りを表して、引かれるような態度で接したのになぁ……。私たちの想いは伝わらないのかな?
少し悲しくなってしまうのだが、落ち着いて分析してみよう。
博士もご友人も、一応は聞く耳は持っていた。しかし、それ以上に情熱をもって走り出したら止まらない人たちである。作るという衝動に、異常なまでの執着があるんだろうなぁ……。
つまり、私たちの怒りや悲しみを用いた上からの静止はまるでブレーキにならず、燃料にさえなってしまうんじゃないかなぁ……。
「何から、言うべきですかね……」
本音を言えば、話とか聞かずに止めたいところだが、そのやり方を私は好みとしていない。
ただし、最後的に仕留める物理手段を確かめ、白カラスさんを小さく脅かしてから、私は言った。
「博士、今言っていた発明品って、設計図の段階ですか?」
私の言葉に博士はとても良い笑顔を見せる。
「いやいや。大まかな部分はできとるぞ! 仕様変更に対応できる作りでの、外枠は問題ない!」
なんでそんな仕事が早いんですか!?
『麗しの君に妹ちゃん、こいつは絶対似合うぜ!』
「あのさ、言わなかった!? お洒落は自分で選ぶものって!?」
「だから、作っておいて選んでもらうのを待つのじゃ!」
まず、やめてほしいを聞き届け、作らないという選択肢が出てこないってところがもう!
もうもう! である。
『僕たちは作る段階を楽しむ。出来上がったものは使ったひとが楽しむ! が、ポリシーなのさ!』
……『ポリシーで苦しむ人がいるんです!』と言おうとして飲み込み、私は別の方から切り込んでみ。
「だったら、私たちへの追尾機能は入れないでください!」
「そうよ! いつそれらが襲ってくるか、気が気じゃないんだからね!」
「なに、人体へは直ちに影響がないぞ!」
シッポとかツノとか生えて、影響ないわけないだろう!?
声を震わせつつも、私は声を低くして言った。
「それは、いずれ悪い影響が出るって意味です」
「しかし、のう……」
『まあ、そういった機能は後回しで良いだろ?』
「もう付けたじゃろうが!」
「あう……」
「おう……」
やっぱりか、本当、何でそんな所は用意が良いんだ!?
「それに、似合わん人が間違って着けたら、大きな損失じゃと思わんか?」
いやいや、博士なんでそこにこだわるの!?
「あのさあ、強制的につけられて、似合わなかったら大損失でしょっ!?」
「大丈夫じゃ! ぜぇったいに似合うからの!」
「あー……」
ここで、私は問答無用で破壊して、設計図を燃してしまいたい衝動を抑えた。
なぜなら、博士たちは反骨精神が強いのである。
つまり、安易にその手を取るとやる気は増し、第二第三の魔の手が襲いかかってくのだ!
また、その場合は、私たちの知らない場所でやるってのが見え見えである。
「えっと……」
……情熱をもって行動する人が相手だと、行くところまで行かなければ鎮静しないんだろうなぁ……。
どうするべきだろうか?
私は軽くめまいがして頭を押さえた。
「どうしよう……」
めずらしく、妹が不安そうに聞いてくる。
「なんとかする」
私は、すぐには纏まらない頭を押さえつつ、カラ元気で胸を張ってを見せた。
【おまけ】
妹は正座してるし、私は痛みを受ける。
なに? 私も悪いの!?
『ニヤ!』
「悪かった! ごめんなさい!」
「妹が申し訳っ! いたたた」
『ニヤー』
私たちが真摯に謝ると、白カラスさんの雰囲気はすぐに和らぐ。
「あたし、描く時はもう勝手にかいてるかんじなの!」
『ニヤヤ』
「あー? なんか、もういいって感じだよ? さすが、だんでぃさんだね!」
『ニヤ!』
「あう、うん。そだ、どうせなら博士とお話しちゃう?」
「あー、良いのかな?」