12 雑談②『とても世知辛いゲームの世界』
『つまりさ、あそこの二択で最適解は見つからないのさ!』
「あの理不尽、ホント、酷いと思う!」
ゲームの話は続いている。
『それに、あのトラップの数々、覚えているかい?』
「もう! 何度やり直したかわかんないわよ!」
私と博士は知らない、ゲームの話をしているのだ。
「ふむ……? なにやら大変そうじゃの?」
うん、でも、ちょっとわかってきた。
いくらか聞き込んで話を纏めると、妹とご友人がやっているゲームは理不尽要素がものすごいらしい。
「まるで人生みたい!」
『はは、悪夢付きのね!』
「ふむ……」
いろいろと思う所はあるが、その理不尽とやらを、私が理解できた範囲で挙げていこうと思う。もしかしたら、私の偏見も入っているかもしれない。
**―――――
・ゲームの目的は魔王とかいう一番悪い人をやっつけることらしい。しかし、その目的を知るまでにいーっぱい障害がある。
・妹とご友人が言うには、魔王さんはめっちゃ強くて、ありえない感じにありえないらしい。
「ありえないってどれくらい?」
「そりゃありえないんだもん、本当、酷い事になるの!」
「いや、その言い方じゃよくわかんないよ?」
『それがね、麗しの妹ちゃんの表現こそが適切なんだよ……。もうあれは、ありえないねぇ、うん』
「ふむ、面白そうじゃな? そういうコンセプトでなにか作るのも……」
それは博士の発明が増える感じだった。
「やめてください! 博士は聞かない方が良い!?」
「そうよ! これはゲームなの! 現実じゃないから、ありえない感じよ!? 博士が手を出したら、やばいんだからね!!」
『んー? 夢の実現こそが……』
「ご友人、それ以上言ったら自爆してもらいますよ! カラスさんに頼んで!!」
白カラスさんがびくっとしている。
『おおうわかった、これ以上は黙るよ』
「むぅ……」
私たちに否定され、博士は少し引き気味に唸った。
**―――――
・強くなるためにはレベル? ステータス? まあ数字をいっぱいにする必要がある。
↓
・そのレベルを上げるためには、モンスター? なんか、けだものとか言ってたけど? まあその相手さんをものすごいいっぱいやっつける必要がある。
↓
・そして、けだものさんをやっつけるためには、政府へ駆除の許可申請を出さなければならない。(出さずにけだものさんをやっつけると変な組織に追われ……まあ、たぶんゲームオーバー? ああ、ゲームが終わっちゃうみたいです)
「あの、なんで許可とかいるんですか?」
「さあ? 理不尽要素だから? なんか設定で、許可とらないと危ないとかだったわよ?」
『麗しの君、武器の使用は届けを出しとかないと駄目なんだぜ』
「ふむ? 猟銃免許的なもんか?」
「あー、えと、それに近い、のかな?」
「えっとさ、ゲームの話でしょ?」
『ああ、ただし、政府が市民を徹底的に管理する、世界だからね!』
あの、ゲームだよね? ご友人はフォーカスがどうとかいってなかった?
「許可や資格……のう?」
「……世界的にねー」
「ふむ、現実に近くしとるんか?」
『いや、もっと厳しい世界さ!』
「そそ! かなり、ヤバイわね!!」
「……てか、それでやめちゃう人、いるんじゃないですか?」
『そこで離れたユーザーは、実は幸せなんだぜ?』
「???」
ゲームやめるのが幸せ? 意味が良く解んない。
**―――――
・駆除申請が通るまでに生活態度を色々頑張る必要がある。(ゲームが変わるとか言ってた。審査官の好感度を上げるってなんなの!?)
↓
・その過程で選挙に出馬することもできる!?
え? 目的変わってない!?
そんで、選挙戦を楽しめて、勝ってしまうとゲームオーバーって、どういうこと!?
なんか、負けても選挙資金が全部借金になちゃってゲームオーバーぽいし!
あと不正が出来るらしいけど、根回しができなかったり、スケープゴートを作ったりをしておかないと選挙おわってから逮捕されてゲームオーバーらしい。てか、参謀が進めてくるの!?
それって罠じゃないの!? もしかして、それしなきゃ勝てないのかな!?
↓
・選挙の誘惑に乗らず、駆除申請が通ってしまうと細々としたお金を徴収される。お金を用意できないと当然ゲームオーバー。
お金を稼ぐ方法は、転売的な仕事と、サギ的な仕事しかないらしい……どうも精神衛生上よろしくない感じである。
えっと、私は妹がそのゲームプレイするの、止めたほうがよくないかな!?
「あのさぁ、そのゲーム、やめない?」
私の問いかけに、妹も少しトーンが落ちる。
「えと、その、ね? あたしは大丈夫よ!? 作った人が頭おかしいってわかっててプレイする感じだから! 混同しないから! ね!」
『ま、まあ、あいつは、その、あれだからな! うん! あれだから!!』
「なんじゃ、知り合いが作っとるんか?」
『ちちちち、違うよ! ヤツは僕にアドバイス求めに来ただけさ! それに、あいつは僕の友達ではないよ!』
これってご友人は製作者さんと知り合いっぽい?
てか、アドバイスってかなり意見出してませんかね? ちょびっと警戒しつつ、私は別の角度から聞いてみる。
「それって海外のゲーム?」
「違うよ? でも、舞台はファンタジーなの!」
「えっと、申請がめんどくて選挙に出れるファンタジー!?」
『そ、その、特殊な土地なんだよ! 麗しの君!!』
「意味が解んない……」
「まあ、プレイヤー全員がそう思ったわ」
『確かに……』
なんで意味わかんないって思いながらプレイしてるのかな? 私は思わず突っ込んだ。
「お二人ともさ、楽しいの?」
「…………」
『…………』
何で黙るんだろう?
「なんでプレイしてるの?」
「ゲーマーのサガってやつ?」
『僕は、魂的な引き寄せがあったのさ!』
なんだろう? 深く突っ込まない方が良いのだろうか?
**―――――
・晴れて許可が降り、けだものを倒しに行く最初の時点で、動くか動かないかの二択トラップがあって、答えは毎回変わる。
間違えるとゲームオーバーでデータが消える。
「最悪じゃないですか!」
『そうだよ、30分が泡と消えるんだから、やってらんないんだぜ!』
「ほんと、3回連続でハズレ引いた時、机とかぶん殴っちゃったよ、あたし」
ああ、ちょっとまえ大声だしてたの、それかぁ……。
でもさ、妹さん? さすがに『のまぁああああ!!』ってのは、慎んだ方が良いかなっておもうよ?
というか私さ、ご近所さんに謝りにいったんだよ!?
朝になってからね! 妹もさ……私ばっかり責めないでほしいものだ。
そういった葛藤を押し込めて、重要な事を聞いてみる。
「えと……たのしいんですか?」
「これはね、やってみないと本当、解んないの!」
『解析したけど、あの二択の乱数がブラックボックス化してるの、シュールな笑いだったぜ!』
「お主たちがのめり込む理由が、儂には良く解らんぞ?」
なんというか、博士が困惑しているのは珍しいと思う。しかし、この二人が、なぜこれだけの熱量で語るのかもよく解んない。
「でね! あまりにもけだものをやっつけてると、ひとの目が変わるの! あたし怖かった!」
『そうだね! ヒロインちゃんの蔑むような瞳、ぞくぞくきたぜ!』
「うわぁ……」
『極めつけのセリフ「変わっちゃったね……」は、僕の中ではどストライクだったぜ!』
「ねー! あれは、いいセリフよ!!」
いや、いいセリフじゃないと思う。
「ふむぅ……愛人からそういわれるんは、儂、嫌じゃな」
いやいや博士、そこは恋人で良いじゃん……。なんで愛人呼びにこだわるんです?
「でも、あそこで下手打つとルート変更からのゲームオーバーになっちゃうからね! 悩ましいわ」
『あれは、製作者の悪意を感じたぜ!』
二人して、首をひねる。ああ、ご友人は白カラスさんですけどね。その姿を見て、私は疑問を言葉にした。
「あの……本当、真面目に聞きますが、おもしろいんですか!?」
しかし、妹は少し首を傾げて答える。
「意見が分かれるのよねー」
『まあ、僕も多くのゲームはやっているが、あんなのは珍しいね』
「……」
本当、なんでプレイしてるんだろ?
「で、魔法を覚えなきゃってなるんだけどさ……」
『仲間を入れるか、自分を入れるかで展開が変わるのさ!』
んー? どういうことだろう?
仲間が覚えるか、自分が覚えるかってことでしょ?
変な言い方をするなぁ?
なんぁ質問待ちっぽい雰囲気の妹たちに、私は率直に聞いてみた。
「展開変わるの?」
「ぜんっぜん! 変わるのよ! 仲間か自分かで、犠牲が!!」
何だろう?
これ、突っ込んだらやばい!?
いや、フィクションでも厄介な方向に足踏み入れてない!?
『僕は仲間派だね! 主人公は自分の分身だろ?』
「えー、でもでも、自分で魔法使いたくない?」
『リスクが大きすぎるぜ?』
「まあ、一定確率で、ねえ……」
……ここは突っ込んで聞いておくべきかな?
もし変な答えが返ってきたら怖いが、まあ聞かないともやもやするしなぁ。
「あの、さ……何が起きるの?」
「またゲームが終るんか?」
「いやぁ、ここは……そうじゃないんだけどねー」
『キャラがね、本当に変わっちゃうのさ!』
「えと、えっと?」
「あ、そこは、プレイしてからのお楽しみよ!!」
『そうだね、ひみつだよ!』
「そそ、ひみつー!」
「あー!?」
それ気になっちゃうじゃん!
てか、妹、私の癖を盗んだでしょ!?
ってことはこれ、答え聞いても返ってこないじゃん!!
私が頭を抱えていると、博士も首をひねった。
**―――――
さらにいくつかの話を聞いて、私たちは結局首をひねるだけとなった。
「ふむ……しかし、聞けば聞くほどわけがわからんのぉ?」
「まあ、映画見てないひとが見てる人の話聞いてる感じでしたね」
「そう? ゲーム自体はオーソドックスなのよ?」
オーソドックスなゲームってのが私解んないんだって!
ふつうのゲームってデータとか消えるんだろうか?
選挙があるんだろうか?
何か取り返しのつかなそうなイベントが満載なのだろうか!?
『そうだね! あとはコスチュームチェンジで、世界が変わるぜ!』
「そそ! 見た目がね! すっごい変わるの!」
『ああ! ネコ耳から始まるアニマルイヤーに天使と悪魔の翼、それからツノ、シッポに、天使の輪とかがつけれるのさ! あれはぐっとくる!』
「え?」
「そそ! あれ種類選べるから悩んじゃうのよねー!」
なんだろう、私それ、ちょびーっと聞き覚えがあるんですけど?
「ね! あれ、いみわかんな……」
話の途中で、博士が言った。
「のう? それって今、儂らが作ってる奴じゃないんか?」
それを受けて、ご友人もさらっと返す。
『そうさ! 僕は博士の問い合わせをトリガーに、こいつらを再現したくなったのさ!』
「おや、そうだったんか?」
んー……?
おっやー?
これは、どういうことだろう?
「あの、博士……ご友人……」
『話を持ち掛けたのは博士のほうだけどね!』
「まあ、仕事に遊び心を加えるのは、悪いことじゃないからの!」
そこで、妹も気が付く。
「えっと……あの、壊したよね? どういうこと?」
急激に、話が現実へ戻されていく。
「残っとるのは、ツノとシッポと天使の輪か?」
……おやー?
『そうだぜ! ネコ耳と翼はだめだったからね! こっちは問題ないだろう?』
「……うぇ」
「うわぁ……」
……どうやら、ゲームの世界も世知辛いようだが、現実のほうはもっと苦くてえぐいってことらしい。
私たちには、いまだ、人体改造の脅威が残っていたことを、理解した。
【おまけ】
「あの、その、えっと」
妹がしろどもどろになっている。
『ニア?』
痙攣から立ち直った白カラスさんは笑顔に、何やら熱を込めて妹へと迫っている。
「出来心なの! 黒幕に脅迫されただけ! おねがい! 見逃して!!」
あっれー?
何で私を指さすんですか!?
企画・実行、全て自分じゃん!
なんで人のせいにするの!?
『ニヤッ!』
うっわ、ちょっと痛いから!
「違う! ごかいです! 妹の単独犯! あったたた!?」
とばっちりが来た!?