表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
博士の愛しき発明品たち!  作者: 夏夜やもり
博士はネコ耳天使に興味(製作的な意味で)があります
39/54

09 フィードバック『ネコ耳・ウサ耳・天使の羽・堕天使の翼』の問題点とは!

 設計図たちがしっかり灰になったことを確認して、一息つこうと私たちはソファーへと戻る。

 白カラスさんは定位置とばかり、私の肩へと止まった。そして、絶妙な力加減で私にダメージっぽい何かを与える。


 あの……カラスさん?

 そろそろ優しさを覚えてもいいんですよ?


 しかし、白カラスさんはダンディな表情のまま、無造作に胸を張るだけであった。ぐぅ……。


『うう……あうう……せっかく頑張ったのになぁ……』

「是非も無しじゃ。これも儂らのさだめじゃよ」

『そういうもんかなぁ?』 


 博士たちのやり取りをよそに、私はすっかり適温になった紅茶を楽しむ。

 うん、やっぱ水も茶葉も良い物である。ふわっと漂う上品な香りが鼻腔を撫ぜて、舌に現れた独特の渋みと甘味が儚くもすっと消えて行く。この一瞬を楽しむときこそ、紅茶を喫しているんでいるんだなぁ……としみじみ思ってしまうものだ。


「ねね、ちょっと疑問なんだけどさ」


 ふと、妹が博士に尋ねる。


「なんじゃ、いもっちゃん」


 博士はニコニコと妹を見た。


「そもそもさ、なんで脳を(いじ)ろうとしたの?」


 そこで博士は首をひねる。


「……なんで、とはどういう事じゃ?」

「だって、翼と関係ないじゃん! 耳はさぁ、聞こえるようにするためってわかるけどさ……」

「そりゃ、随意運動(ずいいうんどう)のためじゃよ」

「ずいい運動?」


 ある程度長く生きてくると雑学もつくもので、私は軽く聞き流している。

 でも妹は習ってないのかなぁ?

 ぼんやりと考えがよぎったが、今は紅茶に集中だな。てか、博士たちが説明するでしょ。

 そして、肩から友人さんが博士をたしなめる。


『博士、専門的な話は年ごろの子にゃわからんぜ』

「おや、そうかいの?」


 そこから、博士は軽く紅茶を傾けてのどを潤すと胸を張り、『随意運動の解説』を始めた。


「ええかの? 今回耳や翼もそうじゃが、からだを自分の意思で動かすことを随意運動というのじゃよ」

「へえ?」

「でな、随意運動をするためには、大脳皮質運動野という……」


 ちょっと、いや、かなり専門的な話が続いたので要約すると、翼を動かすためには脳のある部分に運動の核(神経核!?)が必要となり、それが『大脳皮質運動野』と言うらしい。


 そして今回、私たちの意思はまるっきり無視しているというのに、取り付けた翼を自分の意思で動かせるような工夫をするため、博士は脳に新たなる命令系統として『大脳皮質運動野』を増設しようとしていたのだ!


 えと、このヤバさ、解りますかねえ!?

 ひとの脳を勝手に増量って、しかもインスピレーションのみでやったんですよ!?

 てか、増やしてなんとかなるもんなんですか!?

 私、そういった分野に足踏みいれて大変な事になるって話、映画とか小説とかで見た気がしますよ!?


 文字にして読み返してみると良いんじゃないかな!?

 『博士は人にオシャレを押し付けるため、その人の脳をいじったり増やそうとしたりした!』本当、マッド極まる感じのあれでしょう!!

 あとですね、妹専用の6枚羽堕天使の翼は、複雑な動きになりすぎたということで、脳の全体容量を広げる感じで考えていたっていうし!!

 それでいけるの!?

 いや、行けたとしてもブレーキ踏んで!!

 踏み外したら堕ちていくだけの方向ですよ!!!


「あのさ……それって、失敗したら取り返しつかないじゃん」


 めずらしく妹が真っ青な顔をしている。こっそり録画したたろかな?


「別に問題なかろう?」

「問題ばっかでしょ!!」

『大丈夫だぜ! 理論は完璧さ!!』

「実践されたらミスが出るパターンじゃん!!」

「まあ、それはアフターケアで何とかするぞ!!」

「ヒトの身体ですよ!? 何ともならないでしょうが!!」

「んー……?? そうかのお?」


 うえぇ博士!? ピンと来てない感じ!?

 さっき上げたボルテージを、暴力に向けなきゃダメなのかな!?

 てか、話し合いは平行線にしか見えず、私は別の方向からのアプローチを行うことにする。


「あのですね、問題大ありです!! お洒落(しゃれ)は自分の気分と状況に合わせてで選ぶものでしょうが!」

「およ!? そういうもんかの?」

「あっっったりまえよ!? てか、つけたら取れないじゃん!!」

「ふぅむ……乙女心はわからんのう」

『そういうのがわかったら良いのにな! 僕のワイフもたまにヤバいし』

「お主の場合、年中じゃろが」


 ご友人のプライベート、ちょびっと聞いてみたいが今は駄目だ。とここで、私は博士の格好に注目する。


「あれ? というか博士いつもその格好ですね?」


 そういえば博士はいつも白衣だったなぁ。しわはあるみたいだが、汚れが目立つということはない。おそらくだが、同じものを何着かお持ちなのだと思う。

 ただ、オシャレには縁が薄いんじゃないだろうか?


「もしかして、博士は服にこだわりはないんじゃないですか?」

「んー? いや、そうでもないぞ? この白衣は使い勝手が良いからの! 同じものを何着か用意しとる。有名ブランドじゃぞ!」


 おや、そうなんだ?

 こだわりは着心地なのかな?

 しかし白衣にブランド?

 どんなブランドがあるのだろうか?


「ねえ、博士のこだわりって何なの?」

「なによりも丈夫なことじゃ! こいつは燃えんし、溶けん! 爆発にも耐えるぞ! 実体験ありじゃ!」

「うっわ、それ頻繁(ひんぱん)に燃したり溶かしたりしてるってこと?」

「しかも、日々爆風にさらしてるんですね?」


 私たちの言葉に博士は少し嫌そうな表情を浮かべた。


「日々ではないわ! せいぜい、週に一度くらいじゃ!」


 それは、『頻繁に』の部類に入ると思うんですが?

 というか、そんなもののブランドっていくつも存在するんですかね!?

 有名ってか、唯一無二って感じじゃないですか?


 私たちの驚きにはまるで気付かない様子の博士は、優雅(ゆうが)にティーカップを傾け、軽く息を吐いてから私たちを見た。


「ふぅ……しかし、お洒落にかける情熱と心意気はわかったぞ。今後の参考にさせてもらうわ」

「え、そう、ですか?」

「うむ。それに、いつもは完成したもんを見てもらっとるが、今回のは途中経過で壊れたからの。なかなか新鮮じゃ!」

『たしかにな! 僕も目が覚めたぜ! 開発中でもユーザー意見に目を向けろってが分かったよ!』


 絶対嘘だ。『そもそも作るな!』という意見には目をつぶっているじゃないか!


「よし、今回は不完全燃焼じゃからのぉ……フィードバックをしてみるぞい! ひみっちゃん、いもっちゃん、問題点を教えてくれんか?」


 相変わらず、へこたれないなぁ……私は考える。

 『作らないで!』は通らなかった。しかし、暴走を何とか止める手立て、うーむむ、いや、考えても駄目か……。

 そこでひらめく。とにかくNGをいっぱい言って作る気力を無くすって方向はどうかな?

 たしか、知人がそんな感じで愚痴(ぐち)っていた、頓挫(とんざ)してしまった計画にはいくつか覚えがある。私は顔を上げた。


「まず、脳の改造はNGです」

『オーライ、そこはもう把握したぜ』

「うむ。()()()()そういったことは無いようにするぞ! それ以外で、問題点を教えとくれ」


 いま『なるべく』って言った!?

 どうしよう、それ以上の問題を伝える意味があるのだろうか?

 もう一回怒りを表す必要があるんじゃないかな?

 いや、なんで私の方がいきなし心を折られそうになってるの!?


「……じゃあさぁ」


 私が面食らっていると妹が口を開く。なんか瞳の光が消えているから、聞こえなかったことにしたんじゃないかな?


「うん、背中に翼あったら服とか限られるでしょう? そこ、どうすんのよ!?」

「む? いもっちゃんは古い絵画はしらんか?」

「えー?」

「古典に天使画は結構出てくるじゃろ? あの着こなしを参考にしてはどうかの?」

「どんなのよ? てか、いつの時代の話!?」

「美術の教科書もっとらんのか? 儂はあれにぐっと来るもんが多かったぞ!」


 ああ、美術ですか……印象派とか写実主義とかさまざまな分類がある感じのあれですね?

 というか、ああいうのに出てくる天使ってふわっふわした感じの服とか、露出多めなの知ってます!?

 てか、全裸的なものも見受けますよ!?


「んーとさ、えーっと……」


 妹が思い悩んでいる。伝えたいことが伝わってない感じの戸惑いをみせている。


「じゃあさ、博士はあたしが今持ってる服、全部捨てろっての?」

「む……それもそうか、ふむ……じゃあ穴開けてみるのはどうじゃ?」

「なんでよ!? そんな面倒しなきゃなんダメって大問題でしょ!!」

「おお、なるほど! ……確かに、そうじゃのう……。これは、うむ、盲点じゃったの……」

『そ、そうだったな!? 僕は大抵全裸だから問題ないが、外に出る時のシャツが切れなくなるのは問題だな!』

「……ほかにもですよ」


 いらない情報を記憶から消去しつつ、私たちはこっち方面からの問題点を挙げていった。

 妹も完全にスルーしている様子でたられば話をしている。

 発明を消去しているから、少し安堵しているのだとは思う。


 しかし、そもそも頭にネコ耳いらないし、背中に翼は必要ない。

 そこがまるで伝わらないのは何故だろう?

 てか何度言ったのだ?

 それでも聞かないんだっけ?

 どうすれば良いのだろう!?

 言い方かな?


「服の繊維を抜けるようにするのは……むう、ちょっと厳しいのお……やろうと思えば……。むう、脳と心臓にも負荷がかかって良ければ……」

『おお! そうだ博士! 例の技術を使ったらどうだい?』

「あれか? あれは……たしかテストできんから休止中じゃったぞ……むむむ」

『何言ってんだ、博士が倫理(りんり)なんてもんにしばられてる()()じゃないか!』

「いや、しかし……ふむ……むう、検討の余地が、あるんかのぉ?」


 なんだろう、嫌なことを流そうとしていた態度で、聞き流し続ければ、どんどん危ない方向へと行ってません?


「博士! 検討しないで!!」

「つくったら許しませんよ? ほとんど残ってない倫理感は大切にしてください!」


 勢い込んでい言う私たちに、白カラスさんはびっくりして飛び上がった。


「あと、脳とかへの影響があるのは駄目ですからね! 駄目なんですよ!! 理解してください!!」

「わかっとる。もう作らんから安心せい」


 息を吐いた博士であったが、ご友人は駄目そうである。


『ふむ……それじゃ博士、ICチップ埋め込み方式はなんで駄目なんだい?』


 ……それって一昔前のSF小説にあった、行動とかを支配者が自由にする洗脳ための、なんたらじゃない!?

 舌の根も乾かないうちに!

 この人、発想が飛び抜けて怖い!

 そろそろご友人を黙らせなきゃかな?


「しかしの、お主、言わんかったか? あれは対象への影響が大きすぎるじゃろ?」

『だからといって、大脳増設は面倒だろう!?』

「何とかできそうなもんを、やらない選択は無いぞ? 儂はひみっちゃんやいもっちゃんを傷つけたくはないのじゃ」


 大脳増設とかしている時点で、どの口がそれを言うのだろうか!?


「あの、脳になんかするって話を聞いた時点で、私たちの心は傷ついてます。確認ですが、もう二度と作らないんですよね?」

「うむ! あくまで、たらればの話じゃ! 問題点を把握しておけば、別のもんを作るときに生きるじゃろ?」

『そうだよ。PDVAだぜ、麗しの君!』

「PDCAでしょ!? 計画(Plan)・実行(Do)・評価(Check)・改善(Act)でしたよね? Vって何ですか?」

『Vは勝利のVに決まってるじゃないか!』


 ああ! もうもう!! ご友人!

 いいかげん私、物理的な行動にでますわよ!?


【おまけ】

「ご友人はもういいわ! 他にない?」


 妹は絵に落とし込んでしまうと興味をなくしたらしい。


「じゃあカラスさんはどうかな?」

「えー? カワイイし、あのままで良いんじゃない?」


 渋いって言ってんのにな。


「擬人化は?」

「そうね」


 妹は首をひねる。


「てか、あたしと印象違うし、自分も描いたら?」

「私が描いたら夢に見るよ?」

「そうね」

「だから、両方のイメージで描いてよ」

「わかった」


 自覚はあるが無茶振りである。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
cont_access.php?citi_cont_id=379312160&s
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ