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博士の愛しき発明品たち!  作者: 夏夜やもり
博士は次元の壁に挑むようです
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08 謎の試作品①『次元の壁とやらに穴をあけてしまう装置』・トラブル

 ティッシュに空いた穴は、とてもきれいな真円だった。そこだけがすっぱりと持っていかれたように見える。私は真っ青な顔をしていたと思う。


 この効果の悪用なら、すぐに思いつく。

 たとえばではあるが、交通量の多い車道なんぞに穴をあけたらどうだろ? それこそシャレにならない被害(ひがい)が出てしまうだろう。


 しかし、同時に有用な使い方できるとは思う。

 別の世界へ送るといった部分に視点を向けて、穴を大きく広げることで、ごみの問題が解決するんじゃないかな?


 更に発展して、出し入れが自由となるのであれば、収納スペースとしてものすごくありがたい存在となるだろう。


 この発明は危険ではある。だが、使い道もたくさんありそうだった。私は少し驚きの色をみせつつ、聞いてみる。


「博士……これは、自由に開いたり閉じたりできるようになりませんか?」


 博士は首をひねってから答えた。


「んー広げるのは考えとるし、おそらくできそうじゃ。しかし、閉じるのは……現時点では、難しいのぉ」


 ……その言葉を聞いて、私は無意識のうちにポケットへ手が行き、お守りハンマーの存在を確かめている。

 博士はさらに首をかしげて続けた。


「無理とまでは言わん。儂も試してはみたのじゃ」

「ほう?」

「閉じようと働きかけることはできる。しかし、無理に閉じようとすると別の問題ができてしまったのじゃ」

「えっと、問題ですか?」

「うむ。その場合じゃが……規模がどれだけのもんになるかわからんし、制御も出来んじゃろうな……」


 私は首をひねって理解できない姿を見せている。博士は少し考えるしぐさをしたのち頷いた。


「解かりにくいかの? うし、そうじゃ」


 軽く息を吐いた博士は、ティッシュを一枚新たにとって私に見せる。


「これが次元の壁じゃとすると、儂がやったのはこうじゃ」


 博士は、お茶にあまりきれいじゃない指をつけ、お茶を数滴たらしてテッシュの一部を濡らした。


「これが第一段階じゃな」

「はい」


 その様子を見ながら、私は別の部分が気になった。


 博士ってば、なんで発明品を持ったままなんだろ?

 あれ? よく見ると装置の色が変わってないかな? もしかして、一回穴を空けたらしばらく稼働(かどう)しないってこと? と思っていたら、博士はその装置を見せてから言った。


「そして、こうするんじゃ」


 言葉と同時に、濡らしたところを装置の(とが)った部分でつついて穴を空ける。なるほど、そう使うつもりだったのですな。


「これで穴が開いたじゃろ?」

「ふむ……濡らして空けやすくして、触るだけで穴が空く……と」

「そうじゃ。次元壁へ穴を空ける手順はこういうことじゃ! で、これをすぐ(ふさ)ごうとするとな……」

「あっ!?」


 にこにこしながら博士は、穴の近くをつまんで引っ張った。濡れている部分の上の方がそこそこ大きく裂けてしまう。


「周りも(もろ)くなっているから、大きな裂け目になってしまう……という事ですか」

「うむ! 閉じようと働きかけた場合、この裂け目がどれほどになるかわからんのじゃ!」

「つまり……」

「現状では(かわ)くまで待つ、しかないってことじゃな」

「それが一時間ってことですか? ……ドライヤー当てて、早く乾かすみたいなことはできないんですか?」

「うーむ……んーまあ、うーん……その働きかけのが、その、ちがってのぉ……むむむ?」


 腕を組んで目を瞑り、考えながら言葉をこぼす。おそらく深く掘り下げるような思案しながら言葉を紡ぐ。


 私の印象としては、なんかすっごい奇跡的な確率で出来る穴だから、それをちょっとずらせばいいのでは? と思ったが、どうもそういうものでもないらしい。


 言葉の端々から察するに、次元の穴が空いてしまった場合、空けやすくするものを取り除いても意味がない系の状態っぽい?


 まあ、専門家の専門的な独語だからではあるが、ニュアンス的にはどうやってもうまく行かないようだ。だから、私も眉を寄せる。


「むむう……」


 額に手を当て上を向き、私は考えを発展させていく。

 専門的な部分はさっぱりだが、現実的な部分であれば可能である。


 この発明、はっきり言って問題は多い。しかし、そういった部分を()めるため、多くの人や研究機関の力を借りさえすれば、世間に出せるのではないか……と、思えるのだ。


 っと、あの、もしかしたら誤解されるっぽいですが、私、どんなものでも壊すってことはありませんからね!?

 世界を戻したり止めたり、ついでにレンジに入れなきゃいいんです! 変な組織と繋がりが無ければ、もっともよろしいといえるでしょう。


 そういった心配は()()見えていない発明だが、リスクは高い。

 しかし、リターンが大きいように思える。ならば、リスクを一つずつクリアにして、消していけば良いのだ。

 悪用に関しても、そのクリアリングによって取り締まり方も具体的になるだろう。


 それに加えて、私が懸念(けねん)しているのは、もうちょびっと怖い部分である。

 それは発表の仕方が難しい点だ。この部分をかなり上手にやらないと、博士が危うくなってしまう。


「うーん……」

「どうしたんじゃひみっちゃん?」


 人づてに聞いた話ではあるが、ある莫大(ばくだい)な利益を生むシステムを開発された方が居て、それを発表した。

 しかしその開発者さん個人が、とんでもない利権を持つこととなってしまったため、多方面から命を狙われてしまった……という話を、聞いたことがある。


 身近な方からの伝え聞きであり、その様子を詳細に語ってくれたため、背筋がうすら寒くなるような事なども知ってしまった。


 今回のような画期的な発明は本人にとって、もろ刃の剣となりうる。


「なんじゃやはり痛いんかの? 変なところ打っとらんよな? ひみっちゃんよ」


 私の考えこんでいる様子をみて、博士は心配になったのかもしれない。


「え? いや、ちょっと考えていたんですよ」

「ほう? 考えとったんか? そうは見えんかったのぉ」

「たまに言われます」


 私は腕組みのポーズが昔っから苦手なので、考えるときは独特(どくとく)なしぐさが多い。

 またパターンも多く、時にはあごに指を当ててみたり、頭を抱えたりで、誤解されることも多い。


「前にいもっちゃんがいっとったあれかのぉ?」


 軽く息を吐いて、手持無沙汰(てもちぶさた)のようである。まあ……いまは良いでしょう。


 この発明を博士が無事な状態で発表するには……そして、その利益を他者に掠め取られないようにするためには……うーん、うーん。

 斉藤さんの……謎人脈に頼るってのもあるが……むぅ……。


 薄汚れた私の世間知を駆使(くし)して、プランをいくつか考えて……ちらと、博士が目に入った。私の反応が薄いのがさみしいのか、しぶしぶお茶をすすっている。

 あれ? そのお茶って、ちょっとばっちいですよ?


「博士、そのお茶って指つけてませんでしたか?」

「ん、自分のお茶じゃからの、大丈夫じゃ」

「いやいや、手の方があまりきれいじゃないです。おなか壊しますよ」


 なんというか、博士の手はあまり清潔(せいけつ)には見えない。書き物した跡なのか、手の付け根なんかは黒っぽくなっているし、手の甲にはきみどりのマーカー跡らしきものがついている。

 というかそのマウス、いつまで持ってるんですかね? 大切な発明なのに……。


「あの、よければそのお茶、()れ直しますよ」

「いやぁ、もう飲んだぞ! 美味しかったわ」

「おや、そうですか」

「じゃが少し足りんの。もう一杯淹れるか」

「あ、お茶は私が……」


 ああ! 博士じゃポットの反乱が起きてしまう! 私が手を伸ばした時には、もう博士は急須を取り上げ、転がるように駆けていった。

 二番茶を淹れる気かな? それは良いんですがね、止める間もなく不機嫌ポットへ肘を乗っけて(マウス持ってるからだと思います)……遅かった。


「うわっつー!!」


 そう、押し込みに肘で触れただけ……それなのに怒気を放ったポットさん、最大級の反逆を行い、お湯を吹き出し、構えていた急須とその手にかかり、博士は両手を振り上げる。


 そう、博士は反射で投げてしまったのだ。


 急須と、もう片方の手に持ったマウスっぽい……次元壁(じげんへき)穿孔(せんこう)装置(そうち)を!


「なんでじゃー!?」

「あっ……」


 飛んだ先は先ほど穴を空けてしまった場所である。それは抵抗などなく、同じサイズのぶんだけ持って行ってしまう、次元壁の穴がそこにあった。


 それは、暗い色を(たた)えて()らめいて見えるが、『削り取ってしまう存在』である。

 博士ときたら、先ほどのティッシュ玉はすべて外したのに、こんな時だけ素晴らしいコントロールで飛び、大切な発明品は的中してしまった!


 果然……穴が開いてしまった装置は、ジジッと音を立てて転がり、いくつか部品の数々が、色を失っていく。


「の、のおおおおぉぉぉおぉーーーーー!! わ、儂の発明品がああああっ!!」

「あっぶないです! 近づかないでっ!」


 お茶を淹れようとする行動は止められなかったが、次に博士が取る行動は予測できた。いや、反射的に体が動いた。


 駆け寄ろうとする博士を私は後ろから腰の辺りを捕らえ、力だけじゃ危ういので、武道のコツを使って足を払って横へ倒して抑え込む。


 本当は米俵とかを後ろへ投げる感じの技をアレンジし、怪我しないよう、顔を打たないよう私がクッションになって倒してから、私は体を入れ替え、押さえ込む形を取った。


「博士……」


 そして、動けない様に引っ付いて、興奮が治まるように耳元で囁く。


「はかせ、ダメです。走って近づいちゃ……落ち着いて……落ち着いてっ!」


 しかし、博士はもがく。

 だから私はもうちょっと抑え込みを進めた。バタバタ動かす腕を抑えるため、肘関節に腕を差し込み、動きを征する。


「ああああーー! あれを、あれを作るのに、まだ、試作の試作で……儂は、儂は……あああああ!」


 もがくのを諦め、慟哭(どうこく)に近い、おなかの底から出る情念のうめき声が私の胸を打つ。

 私が、何も言えず落ち着くのを待っていると、博士はもがくのをやめたみたいだ。


「うん、その話は座ってから聞きます。だから落ち着いて……ね」

「うう……ひみっちゃん……ううう、ぐう」


 博士が私にしがみ付いてきた。やれやれ、困った人だなぁ。


「博士、大丈夫。あの装置はまだ改良の余地があります。だから、ね、作り直しましょうよ」


 私が伝えると、博士の体から力が抜けていく。


「あ、あのな、ひみっちゃん……」

「はい」

「ちょぉっと苦しくなってきたからのぉ、少し緩めてくれんか?」


 あ、しまった。私も焦っていたのだろう、腕に力が入ってしまったらしい。


「ああっ、はい、申し訳ない!」


 あわてて手を(ゆる)めると、博士はすっと立ち上がり息を吐いて手を差し出した。


「しかし、色っぽさのない抱擁(ほうよう)じゃのお」


 その手を取って立ち上がった私は、不満げな表情を見せてじとりと見つめる。


「どっちかというと救助活動ですからね」


 茶化して言える分、博士にも冷静さが戻ったのだと思う。博士はソファーに腰をどさりと下ろした。私もそれに倣う。


「なあ、ひみっちゃん」

「はい」

「残念じゃが、この発明はだめじゃな。ひみっちゃんの手でしっかり壊してくれんか?」

「えっ!?」


【おまけ】

 どどめさん(仮)がうねうねとこちらに近づくのを、私は直視を避けつつ話を続ける。


「えっと……今どんな話になってるんだっけ?」

「鬼畜眼鏡が銀髪ロリ博士をいぢめて、現れた王子様が、カワイイメイドを作らせるの」


 あのー、『鬼畜眼鏡を操ったうえで』が抜けてませんかね?


「王子、腹黒すぎない?」

「そういうもんよ?」


 たぶん私の知ってる王子と妹王子は、『月とすっぽん』、『ピンクとどどめ』くらい違うはずだ。

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