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博士の愛しき発明品たち!  作者: 夏夜やもり
博士は次元の壁に挑むようです
22/54

03 謎の発明(?)『博士が触れたら荒ぶるポット』

「博士、これありがとうございました。もう無くなってしまいました」


 私は博士に空瓶(からびん)を渡しつつ、頭を下げる。


「おや、そうかの?」


 博士はその瓶を受け取ってから、分別ごみ捨てなのだろうか?

 ちょっと特殊なマーク(輪っか三つが重なって(ヒゲ)が出た感じのデザイン)のついたなんとなく存在感を感じる容器へ捨ててから、痛々しげに言う。


「しかし、災難じゃったな」

「ええ、本当びっくりしました。急な訪問で申し訳ないです」

「気にするでないぞ。儂とひみっちゃんの仲じゃよ! 頼ってくれて嬉しいぞ」


 頼る……ですか? 私は妹以外のひとに頼るといった行為に、幾分かの抵抗を感じてしまう。

 これはおそらくだが、お世話になった方の言葉に『親切を受けたら、借りと思い込むようにしているの』ってのがあって、そこそこ共感しているからだ。

 そのため、『頼ってね』という言葉を、私は素直に受け取れないでいる。

 まあ、それを言葉にしたら鬱陶(うっとう)しいからね……だから、私はニコニコとした表情を作った。


「ええ、頼らせていただきますね」

「うむ!」


 博士は裏も表もない感じでにこにことしている。

 機嫌の良い様子をみて、発明への警戒心は薄く張り、軽く雑談してから速やかにお(いとま)しようかね?

 そんなことを思っていると、博士はお茶セットへ駆けていった。


「ひみっちゃん痛いじゃろ? お茶、入れたげるぞい!」

「あ、それ、ちょっ、私が……」

「けが人は休むべきじゃよ」


 私の制止は間に合わず、博士がポットの側面(!?)を触れたとたん!

 何か普通じゃない量の熱湯が放出され、周囲に飛び散った!


「ぬわ!? あっつ、あっづぅー!?」

「ちょっと、お茶は私が入れますから、もう、なんでこのポットもこんな激しく……」


 飛び散った熱湯の被害はそこそこ広い。私もちょっとだけ熱気を受けている。

 うっわ!? これって博士、やけどしてない!?


 急いで博士の様子を見るが、私は目を見張った。

 あれっ? まるで()れていないぞ!? どういうこと!?


 そして、よくよくポットに視線をやる。……と、何か全体的に歪んでみえる。

 変な形だなーなどとぼんやり思い……ふと気が付く。

 あっれー、このポット……もしかして?


「すまんのお。儂が他の人に淹れるといつもこうなるんじゃ」


 しかし、博士の言葉で思考を止めた。


「それじゃやけどが絶えないでしょう?」

「いやぁ、やけどになった事はないんじゃ。それにの、一人の時はうまくいくんじゃよ? 儂、嫌われとるんかの?」


 まあ、私もポットに嫌われる人はたまに見る。

 ……例えば……いや、まあ、その、良いや。


 私は飛び散ったお湯のあとなどふきんを借りて掃除した。その後きゅうすを預かって、改めてお茶を淹れ直す。

 さっきの暴れっぷりを警戒し、慎重にポットを使ってみる。しかし、側面をつついても問題は起きず、通常の使い方で何事も起こらずお湯が注がれた。


「ほらの!? なんでじゃろう?」

「機械に向いてないんじゃないですか?」

「む!? そりゃ儂にとって致命的じゃな、わはははっ」

「は、はは、結構本気で気にしてください」


 こっそり本音で刺したつもりだったが、博士には響かなかったらしい。


「まあ、儂は作ることには興味はあるが、使うことには興味無いからの」


 あっれー!? もしかして、こんなところに問題があるんじゃないかな!?

 ここはぜひとも改善してもらわなきゃ!! えと、えっと……。


「博士……そこ、重要です! 使う人の気持ちと、周りの安全を、少しでも理解してほしいのですよ!?」

「んー? そうかの?」


 そう、需要と供給の話です。人って『すごいもの』はたまにしか必要としないんです!

 『つかえるもの』が引く手あまたとなる意味を、博士も理解してください!

 いまこそ、はっきりきっぱり伝えようと、私は言葉を探す。


「ですから博士……これからは使えるものに目を向け……」

「そんなことよりひみっちゃん、今日はお願いがあるんじゃ」


 私が向けようとした話題を、しかし、博士はまるで興味を示さずに、バッサリ切り捨てた。


「…………はい、何でしょうか?」

「いま、作っている物があっての。調整中じゃが、見てほしいのじゃ!」

「え、ええ!?」


 し、しまった!? これは、巧妙な罠?

 トラブルで訪れたから、発明はないだろうと、タカをくくっていたのだ!

 なぜなら前回、妹を連れての訪問からそれほど経ってないのである!


 予測とはなるが、ああいう「とんでも発明」の開発には、博士でも時間がかかるものだ!


 インスピレーション→ 理論化→ 初期テスト→ 設計→ 開発→ テスト→ フィードバックと、私のような素人でもその工程の想像はできる。


 いくら博士でも、インスピレーション→開発はたどらない……はずだ!

 だってさ、いつも燃してる設計図を、私は目を通しているのだ。綿密に引いてあり、所々書き込みがあって、かなり本格的なんだもん!


 だから、次の弾丸はそう簡単に出てこない……私はそう思っていたのだけど……。


「えっと、その……」

「ま、テスト段階じゃからの。見るだけでもええ。ひみっちゃんの意見を聞かせてほしいんじゃよ」


 ああ、そっかー、初期テストだったかな?

 むむむ、どうやって断ろうか……あ、でも、だめか……。


 今回、私には傷の手当と洗面所をお借りしたという負い目がある。そして、借りは返さなくてはならない。


「…………はい、見せて頂きます」


 結局、私は今日も博士の発明を見せてもらうこととなってしまった。


「おお! ありがとな、ひみっちゃん」

「まあその、できれば……」

「ちょっとまっとってな!」


 私の言葉を最後まで聞かず、博士はだかだかと駆け出す。


「おてやわらかに……って、聞いてないですね」


 うん、どうしよう……? 再び、この時間が訪れてしまった。どのような発明かはわからない。

 しかし、ろくな物ではないはずだと、勝手に思い込んでしまう。前例の数々が憎い……。


「結局さ、人って積み重ねだよね……」


 私は心を鎮めるため、熱いお茶の香りだけを頂いた。



**―――――

「ねえ、ちょっと気になったんだけどさ?」

「んー、どうしたの?」

「ポットってさ、誰が使っても変なことにならないよね?」


 急に言われた私は、何度か目を瞬かせる。


「そうでもないよ? ポットに嫌われる人、結構いる」

「え、そうなの?」

「例えば……あ、いや、うん、イナイヨー、ワタシ、シラナイヨー」


 あとちょっとまで言いかけて、急に約束を思い出してしまった。実はこれ、極秘案件(ごくひあんけん)である。

 たとえ血縁者であっても、いや、妹だからこそ言えない。なぜなら、妹は私と違い、面白い方に全乗っかりするからだ。

 もし口を滑らせてしまえば、嬉々として広め、明日には多くの人が知ることとなるだろう。


「なによ急に? もしかして、口止めされてるの?」


 そう、これは結構本気の約束である。

 私もね、あるお店の割引券や、ちょっと嬉しい食券などを、気前よく提供してくれる方からの願いがある。それならば、聞き届けるために最善(さいぜん)を尽くすこともやぶさかではない。


「あー、ソコモー、シラナーイ」


 そう、口止めされてるってことも含めて、伝えるわけにはいかないのだ。


「どうせ斉藤さんでしょう?」

「あーえー、そのー、誰ですかそれ?」

「それ、答え言ってるわよね?」


 違うんだけどね。

 しかし、ここを勘違(かんちが)いさせておけば、私と斉藤さんとの友情に細かいひびが入ってしまうが、逆を返せばそれだけで済む!

 そう、私は利益を優先するべきときは、友人だって崖から落とす!

 まあ、結局なんやかやあって私も()ちることになるのだろうが……それは愛嬌(あいきょう)ってやつである。


「で、どっちの斉藤さんなのよ?」

「というわけで、私は博士に開発中の発明を見せてもらうことになったのだよ」

「ちょっと、露骨(ろこつ)すぎない?」

「もう聞かないでってこと! これ以上詮索(せんさく)するなら、夕飯のおかずが一品減ることになるよ!」

「えー、なによ横暴ね!」

「それくらいの恩恵がある約束ってこと」

「え、じゃあ斉藤さんじゃないじゃん。どっちもそんな甲斐性(かいしょう)ないでしょ? それだと、誰……?」


 んー!? ……なんで察しが良いんだろね!? 妹よ、ときどき私は恐ろしく思うよ。


「じゃ追及はやめるわね。ねえ、どんな発明だったの?」

「えっ!? あっさりしてるね」

「んー、まあ恩恵を無くすくらいならってのと、斉藤さんだと思い込んでたからね」


 妹の態度に私は疑問が沸き立つ。それをそのまま言葉にしてみた。


「あのさ……一度聞いて見たかったんだけど、斉藤さんにどんなイメージ作ってるの?」

「んー、リレーとかで、スタートダッシュでは(おどろ)かれるけど、二人ともがどこかで転んじゃう感じ?」


 うーむ良くわからないけど、ニュアンス的にはそんな感じだよなぁ……。


「うーん、私も同意。でも気が付いたらすぐ後ろまで追いついてきてる……ってのも加えとこう」

「そうね。で、追い抜く寸前にやっぱりころんじゃうのよね……二人とも」


 なんというか、斉藤さんって……どちらもある意味凄いひとだよなぁ。


「で、その後どうなったのよ?」

「えっと、博士は……にっこにこして戻ってきたよ」


【おまけ】

 私は自主的に正座をしている。妹がすっごい説教体制で胸を張り睨む。


「『立てば颯爽、座れば瀟洒、割れた眼鏡は栗の花』、三回繰り返してね」

「いや、なにそれ?」

「『鬼畜眼鏡とは』って検索したら出る言葉よ」


 なんでそんな嘘つくんだろ? あ、検索しても無駄ですよ。


「良い? 全くもって、遺憾の意を表明してるの! あたし!!」

「なに怒ってるのさ?」

「汚した……」


 よく解らないが、私と鬼畜眼鏡は似合ってないってこと?


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