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博士の愛しき発明品たち!  作者: 夏夜やもり
博士は次元の壁に挑むようです
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02 謎の発明(?)『ちょっとしか残っていない赤チン』


「ねね、思い出した。斉藤さんにはさ、今度お礼いっといてね」


 話の途中で妹がつぶやく。朝食は先に食べてしまったのだろうが、いちごミルクだけを自分用に作ったらしく、幸せそうな表情で私の話を聞いている。


「えーっと、いちごの件かな?」

「そうね。すっぱいけどさ……これ、何か妙においしいのよ」


 言いながら妹はいちごミルクをかき混ぜ、赤くなった牛乳を一掬(ひとすく)い口へと運ぶ。美味しそうだ。


「うん、まあ会った時には言っとくよ」


 ふと、妹は首を傾げた。


「あれ、そういえばどっちに(もら)ったんだっけ?」

「んー? 言わなかったっけ?」

「たしか……聞いてないわね」


 私は少し考える、そういえば妹はどれくらい斉藤さんを理解しているんだっけかな? そういった意味も含めた答えを返してみた。


「えっと……うん、そうだね、黒っぽい方だね?」

「どっちよ? 何が黒いの?」

「……ああー、そういう見方であれば、どっちも黒っぽいかな?」

「どういう見方? 意味が解んない」

「じゃあ、赤い方かな」

「だから、どっち!?」

「むう、発想が残念だなぁ」


 軽く言いつつも、私自身がよくわかってない特徴(とくちょう)を振りまきつつ、正解を教える。


「えっとさ、あのー、この前さ、ほら貝買ってきて颯爽(さっそう)と吹いてた方の斉藤さんだよ」

「ああ、有名じゃない方の斉藤さんね」

「そだよ。しかし……なんであんなもん買ったのかね?」

「知らない」


 本当に、どうでもよさそうに言った妹に、私はにやりと笑う。


「でもさぁ、あのほら貝て、ん~万円するらしいよ」

「えっ、マジでっ!?」


 妹は急いでスマホを取出し、検索を掛けだした。


「あっれー? ご飯スマホは禁止じゃなかったっけ?」

「あたしは終わってるわよ!」

「今食べてるのは?」

「朝のおやつでしょ?」

「さいですか……」


 まあ、うん、良いか……ここは大目に見よう。そう思って眺めていると、妹はスマホ画面を凝視(ぎょうし)している。


「うっわー、ええ!? うっわー!? こんなにすんの!? ええ!? こんなもん、誰が買うんだろう?」

「斉藤さんが買ってるじゃん」

「…………んー、何で買ったんだろ?」

「吹いて楽しいからでしょ?」


 妹は暫し考える仕草をした後、強く言った。


「納得いかない!」

「たぶん、斉藤さんからしたら、なんでゲーム機買うの? 納得いかない! って言われてるのと同じだよ?」

「楽しいんだし、ほっといてよ」

「つまり、それ」

「ああ……」


 妹が少しだけ(くや)しそうに唇を尖らせた。


「まあ、お礼言っておくけどさ、もし先に会うことがあったら伝言頼める?」

「え……そんなん自分で言えばいいのに……なんて言えば良い?」

「人生楽しそうですね」

「お互い様じゃない?」

「さよけ? どっちかといえば、悩みと苦しみのが勝ってるよ」

「まるで見えないわ」


 むう、見せないように、忘れているだけなんだけどなぁ……。

 妹は気づかないのだろうかね? まあ、私は一度忘れたことは思い出さないから、仕方あるまいか。

 少しだけ不満顔をしていると、妹が先を促してくる。


「そんでさぁ、すっころんであちこち怪我(けが)して、いたたたた、それからどうなったのよ?」

「ああ、えっと茶色の猫さんが寄ってきてさ、足にもすりすりしてくれたんだよ!」

「……やっぱ、人生のーてんきでしょ?」

「ばれたか」


 まあ、まとまりがつかなくなってきたので、いちごミルクを一口いただくと、私は気を取り直して話を続けた。



**―――――

「それじゃねこさん、撫でさせてくれてありがとね」

「にゃあ」


 そんな感じで茶色の猫さんとはお別れし、あかふくさんを起こした。転んだあとの自転車は少しの違いが気になってしまう。


 あー、なんか(かご)(ゆが)んでみえるなあ……まいったなぁ……。

 なんかギーコギーコという音、前はしていたかな?


 そんな違和感などを感じてみたり、ブレーキの効きを心配したりで、そろそろとあかふくさんを押した。

 体の痛みはジンジンとしみ込むような感覚があって、こちらもあまり動かしたくない。


「たしか……こっちだったよね?」


 電柱に3丁目とあり、博士の家がここから近いというのは確信している。一応、そう一応ですが保険としてスマホナビをつけてみた。すると、とにかく戻れと怒られてしまう。

 あいかわらず、ナビは私に厳しいねぇ……。


 その後、ナビの指導をしっかり受けた私は、博士のお家へと訪れることとなってしまった。

 普段どおりの変な構造だと思う。いつも思うことではあるがこの雰囲気に少し躊躇(ちゅうちょ)してしまい、周りを見渡す。

 どうやら今日は白カラスさんもお休みらしい。私はチャイムを鳴らした。


『はーい? どなたかの?』

「こんにちはー、すみません博士、急な訪問で申し訳ないですが……ちょっと、転んでしまって傷を洗わせてほしいのですが……」

『おお、ひみっちゃんかー? だいじょうぶかの? どうぞー』

「ありがとうございます」


 今日の博士は私を覚えてくれていたらしい。扉が開き、その家へ、科学の深淵を体現しているその場へと足を進める。


「おおっ!? (ひど)い状態じゃの!」


 奥から転がるように出てきた博士は、片手に小さな(ビン)を持っていた。


「ちょっと、傷を洗わせてください」

「ああ、洗面所へ行くとええ。赤チンもあるぞ!」

「ありがとうございます」


 私はお言葉に甘えつつもつい、赤チンって……いつの時代? まあ消毒になるのか? と思いつつ、渡された瓶をもって、博士の案内に従う。


「こっちじゃ、タオルもあるから好きなように使ってええぞ」


 通された場所に入って、つい(たたず)む。えっと洗面所って、こんなことになるんですね……というような場所だった。

 不潔というわけでもないし、物が散らかっているわけでもない。ただ、落ち着かない。

 洗面台が丸くって、水道の蛇口がなんかおかしい。持つところが深紅の球形であり、水のでるところも曲がって見える。

 これ、どうやって使うんだろう?

 警戒心のままに蛇口っぽい球体をつまんでみると、普通に水が出た。


「あ、ちゃんと出るんだ」


 普通に出ている水でおそるおそる傷を洗わせてもらって、『穴あきGパンどうするかなあ?』などと考える。まあいっか、タオルは普通にあるし、脱いでから洗う。


「いったぁ……しみる」


 擦り傷って痛みが強いから嫌だ。タオルに血が付いたら申し訳ないとは思いつつも、使わせてもらい、一応赤チンの瓶を(なが)める。


「もうほとんど残ってないなぁ……というか博士、ラベル剥がす人なんだね」


 私はあまり考えずにその赤い液体を傷に()ってから、Gパンを履き直した。その手当で赤チンは全部なくなってしまった。



**―――――

「え、塗っちゃったの!?」


 妹がいきなり声を上げた。


「……うん、そうだね」

「というか、赤チンって何さ?」

「昔の消毒液だったはず。赤いからそう呼ばれてたらしいよ」

賞味期限(しょうみきげん)とか大丈夫なの?」

「食べるもんじゃないからね」


 妹は少し嫌な顔をしたのちに、さらに畳み掛けてくる。


「じゃあさ、人の体に使っても良いものなの!?」

「……それでね」

「答えてよ……」


 スルーしようと思って話を続けようとしていたのだが、やはりそれは制止されてしまった。


「まあ、もう出回ってないってことは、あまり良くなかったみたいだね。」

「もう、なんで博士そんなもの渡すのよ!」

「まあ、効果があるからだと思う……うん」


 歯切れの悪い私の言い方に、妹はピンと来たらしい。


「何があったの?」

「だから……まあ、話を続けるよ。そしたら解るさ」


 神妙に言った私の調子をみて、妹は考えるような表情で言った。


「ええ、聞かせてもらうわね」


【おまけ】

「どんな話なの?」


 妹のだらしなさは変わらずである。


「例えば……」


 少し考え……そう、これでいいや。


「博士ってば、実はロリっ娘だった可能性があるんだよ」

「マジで!?」


 まあ、本当か嘘かはひみつです。

 私は言葉を続ける。


「その場合、私は鬼畜眼鏡だったらしい」

「っ!?」


 あ、凄い顔だ。


「ねえ、鬼畜眼鏡って辞書で引いたことある?」

「は……?」


 妹はすっっっごく嫌そうな表情で、私に言った。


「土下座した方が良い」

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