19 なぞのおみやげ②『家に住み着いた悪夢に出てくるかんじの家族』
人通りの多い所で口喧嘩は慎むべきだ。
新たな発見を胸に、私たちは自転車に飛び乗ると、急いでこの場を離れ近所のスーパーへと向かう。
買い物中には、段ボール持ちを交代した私が外で待つ。これ知ってる、きっと不審者アピールで悪目立ちさんだ。
ときおり、段ボールから聞こえてくる、がさがさという何かの蠢きが、その形をさまざまなものへと変えているであろうと想像をかきたてる。気にしないができなかったので、私は我慢して抱えていた。
妹は簡単なもの、サンドイッチ的な何かを買い込んできたらしい。私たちは少しの荷物と謎の生物と共に帰宅した。
「あ、そうだ」
「どうしたの?」
「どどめさんにしよう! この生物!」
「ダメ!」
思い付きを口にしただけなのだ。我ながら素敵な名前だと思い、提案したのだが、妹には不評らしい。止められてしまった。
なぜ駄目なのかと聞いても、首を振るばかりで教えてくれない。
「ねえ、なぜ駄目なのかな?」
「言わぬが花よ!」
「解せぬ……」
そんなやり取りののちにリビングへ移動し、軽めのお昼としてサンドイッチらしきものを並べる。妹は昔使っていた猫さんのごはん皿へしっかりと塩水を用意して置いた。
その瞬間、どどめさん(仮)が……げげっ!? なんか唇だけで輝く笑顔を見せたのち、背中の痣をぐねぐね移動させながら、お皿へと這い寄っていく姿をみせてくれた。
うっわー、この子とご飯は一緒にすべきじゃないと思う。私は少し気分が悪くなってしまった。妹も、少し青ざめているじゃないか。
ただなぁ、猫さんの時も私たちが食べてる時に食べようとするしなぁ……どどめさん(仮)も同じ習性がありそうな予感が……むむむ……。
「うー、なんで私これ持って帰ったんだろう?」
「乳歯が抜けるまでよ!」
「あー、なんでこんなことになったのかなー」
「ちょっとの我慢でしょ! ダイヤよ! ダイヤ!!」
「でも、歯なんだよ? ダイヤの歯で、齧りついたらとられちゃいそう……指が」
「大丈夫! 乳歯だもん」
それは……どのあたりを見て大丈夫とか思えるんだろう?
「ねね、そんでさ、登録しないの?」
「うっえ!?」
私はすっごい顔をしていたはずだ。
「だってあたしが登録して、家計簿消えてもらっても困るじゃん」
「消えるときは、そんなこと考えられないから大丈夫だよ。登録はゆずったげるさね」
「絶対イヤ!」
「私も嫌だ!」
しばらくにらみ合う。
「まあ、登録はお互い無しってことで」
「賛成」
羽化のことは思い出さないようにしておく。
こうして、私たちはダイヤを落とす予定の、存在を直視したくないUSBの差し込みが付いた謎の不定形生物どどめさん(仮)と、一緒に暮らすことになってしまった。
**―――――
「ふぁ~あ」
私たちは買ってきたサンドイッチっぽい何かでお腹と心を満足させて、どどめさん(仮)で満足した心を傷めつけ、コーヒーを喫して一休みしている。
あくび一つにつられて、妹が頭を揺らしてうつらうつらと船こぎ状態となっていた。
「大丈夫?」
「ぅう、眠いわ」
急に出した妹のあくびに、私もつられて一つこぼれてしまう。
「うん……あー、そっか今朝早くに起こされて、そういや寝不足だったね」
「あたし、ちょっと、横になるわ」
「あー、私も一寝入りするかなぁ?」
「ね、この子どうするの?」
「家計簿PCのUSBに差し込んでみる?」
「おかしなことになりそうだから良い。自分のにつけたら?」
「むう、私のPCは部屋だからなぁ……」
これさ、寝ている所へ這いずり回られるのは心臓によくないよなあ。
「そうだ、部屋片付けなくていいの?」
「次の休みに片付ける」
「それ……何回目かしら?」
「100回から先は覚えないことにしている」
「もう、しらないからね!」
「あいあい、おやすみ」
「おやすみ。あたしご就寝~」
お互いに部屋へと入った私は、何となくだが部屋に鍵をかけてベッドに横たわると、すとんと眠りに落ちた。
「ん~……うぅ……」
お昼寝ってさ、なぜだか結構夢を見る気がする。今日の夢は明晰夢で、懐かしいものであった。
昔、うちに住んでいた猫さんが出てきたらしい。
この子は妹には懐かなかったけど、私と二人っきりのときは甘えてくれる。
私がご飯を用意するとしっぽを立てて指を舐めてくれたり、朝には顔を舐めて起こしてくれたりする。
なんていうか人見知りさんなんだよね。
妹への態度は、たぶん照れくささとライバル心が半々だったと今では思える。
「おやぁ? ひさびさだね。元気だった?」
懐かしくなって頭をなでる。
あ、甘噛みしおった。これこれ、ちょっと痛いですよ。
そのまま寝ている私に飛び乗って背中丸めて尻尾を伸ばし、近づいてきて、顔を舐めてくる。
「ねえ。君は今、どこに行っているんだい?」
久方ぶりに会いたいなぁ……そんなことを思っていたら、猫さんが私の声でしゃべった。
『登録完了しました。これからもよろしくね』
「うわっ!?」
びっくりして大きく声を上げて、起き上がる。
あの生物はいる!?
入ってきた!?
必死になって周りを見回しても、居ない。
ぐしぐしと頭を掻き上げて、スマホを見ると夕方前、しっかりと周りを見回しして、ドアがしっかり閉っていることを確認して、安心を言葉に出した。
「よかった齧り取られてない……けど、うう、目覚めた」
**―――――
「ふぅ……」
軽く息を吐き、居間へと入る。今の私はおそらくだが、目のハイライトが消えていると思う。どどめさん(仮)は丸まっていた。
何か、真球に近い感じで眠っている(!?)ので気持ち悪さは少ない。ちょっと嫌だが、その背をなぜると、びくんと揺れて背中に唇が現れた。
うわぁ……うわぁ……。
しかし心をしっかり持つように自分を励ますと、指を差出し甘噛みさせる。
『登録完了しました。これからお世話になります!』
私の声を聴きながら登録をして、息を吐いた。
「君は、人の部屋へ勝手に入らないよね?」
答えることはない。しかし、なんか先の部分に青の濃い紫っぽい肉塊がぐねりとうねって膨らんで、うっわ、うっわ……これ機嫌悪い返事か何か!?
「ああああ!!」
そんなことをしていると、急に妹が大声あげて入ってきた!?
「どうしたの?」
「夢! 夢見た!! あああ!?」
目がうつろになっている。たぶん、あんな感じの夢をみたっぽいな。そうか妹、オマエモカ……。
「私もだよ」
「みたの? 最後に、この子が出てきてうあああああ!!」
「私は声だけだったけどね」
「もう見ないように登録する。あたしも、そしたら夢、ミナイヨネ?」
なんだか変なしゃべり方になっている。まあ妹にはダメージが大きい夢だったようだ。
あ、平然と分析してるけど、私もダメージ凄いですよ?
それはもう、気力と経験で何とか平静っぽい外見を取り繕っている感じです。
そんな内心を見せぬよう、私は答えた。
「さあ?」
妹が取り乱してぽんぽんとその生物の背を強めに叩いている。
おやおや、もうちょっと優しくしなきゃだよ。
だから猫さんに嫌われたんだよ?
「きもっ……うう、なんでこんな事に」
「ダイヤだよ、ダイヤ」
ちょっと涙目で小指を食ませる妹は、なんか面白く見える。
『登録完了! よっろしくね!』
「何よ博士に比べてフランクねえ……まぁ、よろしく……」
「ああ、私もだ、これからもよろしくね! どどめさん」
「その名前で呼ばないで……」
私たちの声を受けて、気持ち悪さの塊で出来たUSB付き不定形生物どどめさん(仮)は、その背に少しピンク掛った痣をいっぱい出して蠢いていた。
たぶん、これが機嫌のいい感じなんだろうけど、インパクトきもきも増量って感じだ。
「そうだ、こんど博士に呼ばれたら、何か持ってくかな?」
「えっと? お礼よね? どっちの意味で?」
「御礼と報復、どちらもだね」
「ああ、手伝うわ」
こうして、いろいろな意味でお礼する案件を心に刻み込み、私たちは再び博士宅へ訪れる日を待つのであった。
第一部 おしまい
【おまけ】
「はい、これにて一部は、おしまいとなります!」
「あたしたちの赤裸々な日々、お読みいただきありがとうございました!」
「ところでさ、このあとがき要るかな?」
妹が少し首をかしげる。
「試しにやってみたんだけど、どうだろうかねぇ?」
「うん、次から、ちょっと考えます」
「欄外でのおつきあい含め、ありがとうございました」
「ご意見等ありましたら、気軽にご感想などお記しください!」
「では、次の話もよろしくねー!」