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博士の愛しき発明品たち!  作者: 夏夜やもり
博士は刻(とき)をみたようです
15/54

15 妹のひみつ②『おねだりが下手すぎる』の結果

 妹の発言に、私は内心で頭を抱えている。

 こやつのいきなり恐喝(おねだり)は、ぼんやり脳へのダメージが大きかったようだ。


 けどさ、さっきまでまじめな話をしていた所で、いきなし「ダイヤくれるの?」っておかしくない!?

 私、寝てたのかな!?

 意味がわからない!


 はじめの方はね、冗談めかして言ってるなーと思っていたんですよ。

 けどね、三度目のそれは真剣みと物欲が濃縮還元した感じで、横で聞いてて恥ずかしい!


 まあ、博士は初対面からフレンドリーだったから、言葉のチョイスは間違っていない気もする。けどね、数学に関してのまじめな話を続けてて、私がうつらうつらしだした直後に「ダイヤもらえるよね!」はダメでしょう!?


 私は恐る恐る博士の表情を伺う。しかし、博士はいつも通りの様相で、にやっと笑った。


「ほほう、いもっちゃんはダイヤが好きなんか?」

「もっちろん! てかさ、ほいっと合鍵くれたって聞いたわよ?」


 言いながら、妹は私を指さす。

 これこれ、ヒトを指さすんじゃない!


「そりゃぁひみっちゃんは儂の愛人じゃからの! 合鍵渡しただけじゃ!」

「愛人じゃありません!」

「それでもいいから、くださいな!」

「ちょ! もうもう!!」


 私の否定は聞いてないふりで、博士は怪訝(けげん)な顔で妹を見る。


「……しかし、合鍵が欲しいとは、いもっちゃんも愛人になりたいんか?」

「そういうのはヤだ! けど、ダイヤはほしい」


 うわ妹、おねだり下手か!?

 そんなん一部の方にしか通じないし、そもそもダイヤをもらえると、なにゆえ思い込んでいるんだ!?

 私か? 私が妹の中で低ランクだからか!?

 あのね、これでも、いろいろ頑張って生きて来たんですよ?


 妹の学費を捻出したり、生活費を工面したりと、それなりに積み重ねた苦労はね、結構、本当に、もう大変なんだよ!?

 そして、謎の低評価……むむう……苦労に見合わない!


 そりゃね、いくらか私の趣味・嗜好(しこう)でピンチに(おとしい)れたことはあるけれど、(おおむ)ねの部分を許したうえで、感謝して(あが)(たてまつ)ってほしいです。


「しかし、ダメじゃぞ。いもっちゃんには合鍵はやれん」

「えーなんで?」

「幼すぎるわ。あとな、儂にはひみっちゃんがおるじゃろ?」

「むう……こっちのダメなのが良いの?」


 うわ、こっちに飛び火してきた!?

 でも、なんというか、ダメダメ言わないでほしい。

 私って、ほめられて伸びる子ですよ?


「駄目じゃないわ! ひみっちゃんはええ子じゃぞ。儂が認める数少ない子じゃ!」


 え? なぜ博士がほめてくれるの!?

 いくらほめられ慣れてないからって、コロッと行くと思ったら大間違いですよ!

 というかさ、こういうのあんまり得意じゃないんだよなぁ……どうしよう?

 強く否定するべきだろうか?


 そんなことを考えつつ、私はまじめ顔を作って言った。


「んー、というか博士、そういった言動はパートナーさんが怒るんじゃないですか?」

「パートナー? あれ、博士ってばそういう人がいるの!?」


 あのね妹さん? そういう人がいなければ、そもそも愛人になれとは言わないよ?

 というか、ストレートに「愛人になっとくれ」って、セリフも変だからね?

 実はおかしいんだよ? わかるかな?

 まともな人はね、面と向かって言わないからね? たぶん……。


「んー? そういう人って何じゃ? 愛人はひみっちゃんだけじゃ。それにパートナーってのはなんじゃ?」

「え、その、えっと、伴侶とかでしょうか?」

「伴侶……? ふむ、伴侶……むむう……」


 あれ、居ないんだろうか?

 まあそこそこの付き合いでもわかるのだが、博士の生活環境は心配になる所が多い。


 一人暮らしに見えるし、色々ずぼらな姿も見ている。ご飯も適当っぽい。客間だけは掃除してるってのがびっくりだ。白衣の袖とか汚れているし、おそらく研究室は魔窟(まくつ)だと思う。

 そもそも何日も徹夜してるって時点で、注意する人がいないのは丸わかりである。


「言いよどむってことは、昔いたってこと? 逃げられたの?」

「ちょっ! 待っ!?」


 うん、止めれなかった妹よ。帰ったらお説教な。


「逃げる? いや、儂はえっと、うーむ……」


 あ、博士が珍しく口ごもっている。何か昔悲恋とかそんな感じだったんですかね?

 そろそろ妹の口をふさぐべきだな……。

 けれどもう言ってしまったし、興味はちょびっとだけあるのだ。しかし、落としどころはどうしよう? どうやって収めれば……。

 そんなことを考えていると、博士は軽く頭を掻いている。


「なんというか……」

「言えないようなことがあったの?」


 逃がさない感じの妹に、私はさすがに頭にきた。


「あーもう! 博士、無理に言わなくていいです。というか、かえったらお説教だからね!」

「ええっ!? 何その急な理不尽!」

「どっちが!? 鏡を見なさい、そして言動を(つつし)みなさい!」

「意味わかんない! あと、鏡を見ろはこっちのセリフ!」


 むか、さすがにちょっと言い過ぎである。


「あのさ、私のどこに問題があるの!?」

行動(こうどう)全般迷惑かけすぎ! あたしがどんだけ苦労したと思ってるの!」

「なにおー、私はぎりぎりを攻めてるの! そっちは言動(げんどう)全般正面から殴りすぎ! 自分が正しければひとを傷つけて良いってもんじゃないよ!」


 言われたら言い返すが、我が家の家訓みたいなものだ。妹も憤りをそのまま返してきた。


「ぎりぎりアウトが何言ってんのよ!? オブラートに毒包んで渡してるくせに!! 裏でいろいろやりすぎよ!」

「大人になったら裏も表も含めて判断するの! 裏ばっかり見てるから中二病でICU入りとかいわれるんだよ!」

「だれが中二病の重篤患者(じゅとくかんじゃ)よ! 楽しい時間は永遠なのよ!」


 私は妹を止めようとしたのだが、つい博士そっちのけで言い合いを始めてしまった。ヒートアップする私たちを止めたのは、博士の一言である。


「これこれおぬしら、ひとの家でケンカするでないわ!」

「あ……」

「う……」


 少しきつめの言い方に、私たちは一瞬で冷静に戻る。そういえば、ここって博士のお家だった。


「そうですね。博士すみませんでした」

「ごめんなさい、博士」


 そして博士は恥ずかしそうにお茶をすすってから、息を吐く。


「まあ、ええわ。気になっとるようじゃし、儂の伴侶を教えるわ」

「ああ、ラ・マンね! どんな人? 菩薩(ぼさつ)? それとも小悪魔?」


 ラ・マンて愛人のことじゃないかなぁ?

 それは良いんだけど妹よ、そういう想像は失礼にあたるから、もう少し配慮しなさい!


「で、じゃ。伴侶はじゃな!」


 心の中でわたわたしている私に構わず、博士はにやっと笑って立ち上がり、白衣をバサッとしつつ言った。


「儂の伴侶は科学じゃ!」


 ……ん?


「儂は、この冥府魔道(めいふまどう)に引き込む相手と一生添い遂げると決めておる! だから、家庭は作れぬ!」


 んー? それは、なんというか、うん、何でしょう?

 寂しくないんでしょうかね?

 あれ、昔の武将さんに似たような人がいませんでしたか?

 しかし、えっとそれじゃ博士に本気になった人はかわいそうなのかな?

 いや、でも、あまり人付き合いとか似合わないし……うーん、どうだろう?


「えっと……そのー」


 何とも困る台詞に、私も何と言っていいのか戸惑ってしまい、口の中でもごもごしている。


「でも愛人は良いの?」


 あ、妹が台無しにした。


「うむ! 愛しい人がおらにゃつまらんじゃろ! 恋は人生の彩りじゃ!」


 ……ほお? んー??

 それって、えっと、どういうことなんだろう?

 うん、何なんでしょうね?


 私はお茶を一口すすってみる。ちょっと熱めだけれど、我慢すれば飲めないことはないような……いや、熱いもんは熱いかな。


「そんなわけで、儂の愛人はひみっちゃんだけじゃ! これからもよろしくな!!」

「ええ!? え、えっと……」


 どうするかな? ごまかすべきか? 逃げるべきか? 混乱して判断が効かなくなってしまう。


「まあ、うちのダメなひとでよければお好きにしてくださいな」


 むう、妹の横槍で私は正気に戻ったぞ!


「あの、妹さん……勝手なことは言わないでくれる?」

「うむ! 好きにするぞい!」

「博士! 乗っからないでください!」

「でもあたし、ダイヤはほしい!」


 まだ言うのか? まあ、紛れたから良いや。よしよし、妹、お説教は加減したげる。


「おし、じゃあいもっちゃんには()()()()()、何か発明品を贈ろうかの?」


 ……え!?


「発明? どんなの?」

「時間を一気に進めるものとかどうじゃ? 10秒の体感時間で、10年は経っとるようなもんが……」

『やめてください!!』


 私たち二人は声をハモらせて、俄然(がぜん)やる気になった博士を押し(とど)めた。


【おまけ】

「あのさ、あたしもあれは、ちびっとまずって思ったのよね」


 妹が何か言っている。


「でさでさ、ちょびーっとだけ、反省してみたの。聞いてもらえないかな?」

「…………」


 私の眼は、ごく稀にみせる系の危ういものになっているはずだ。


「だからね、その、ね? ごめんなさい!!」

「戦争ってさ、相手の嫌がることをしないといけないって知ってた?」

「うん……白旗上げてる人に攻撃してはダメっ……顔こわ!」


 誰のせいだ?

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