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博士の愛しき発明品たち!  作者: 夏夜やもり
博士は刻(とき)をみたようです
11/54

11 妹のひみつ②『実はとっても絵が上手い』

 私はでき立てで、良いにおいのする朝食を並べている。


「結局眠れなかったわ」

「おはよう」

「おはよー……」


 目の下にくまを作ってもどってきた妹と挨拶(あいさつ)を交わす。


 あら妹ってば、ほんとにねむそうだね?

 まあ仕方ないかぁ、おや? ねぐせ残ってるじゃん……。


 どう伝えるべきか少し悩んだが、こんなところで、時間使っても仕方ないと思い見たまんまを言葉にしてみる


「頭、もっさーってなってるよ」

「うー、後で直すわ。ちょっとお腹すいたわ」

「はいはい……」

「今日何?」

「いつもの簡単モーニングにしたよ。斉藤さんがママレードくれたからさ、付けてごらんよ」


 その言葉で妹は少し首をかしげる。


「どっち?」

「え?」

「どっちの斉藤さんがくれたの?」


 別にどっちでも良くないかな? と思いつつも、今度お礼を言いたいのだろと勝手に納得して私は言った。


「どっちだと思う?」

「んー……実家でいろいろ作ってる方かな?」


 実家でいろいろ作っている斉藤さんはどちらも当てはまる。

 だが、どちらもベクトルが違うのだ。斉藤さんの親御さんは陶芸とかそういった物にはまっているし、斉藤さんのご両親は農業をこれでもかと(たしな)んでいる。

 妹はおそらく後者の斉藤さんを言っているのだと思った。


「いやぁ、これは旅行のお土産らしいよ」

「…………どこのよ?」

「え?」

「どっちも旅行くって自慢してわよ?」

「そうだっけ? あっれー? どこに行ってたっけ?」

「あたし覚えてない」

「……さよけ」


 そういえば斉藤さんはそろって神出鬼没だったな。そして聞きなれない所へ遊びに行く。

 そして二人とも旅行先をピンポイントで伝えてくる(○○県の××じゃなく、××とだけ伝える)人なので、私たちの記憶には残りにくいのだ。だから考えても仕方ないと思う。


「これをくれた斉藤さんは……何処に行ったっけ?」

「あたしが知るわけないでしょ?」

「あれー、仲良さそうなのに」

「うぇ、そうかなぁ? でもさ、ご当地名物ではないと思うわね」

「え、なんで?」

「だってさ、北海道行って珊瑚玉くれたり、沖縄行ってジャガイモくれたりするじゃん」

「まあ……たしかに……でも、気になるなら食べなきゃいいんじゃないかな?」

「……いや、食べるけどさぁ……むぅ、あたし仲良くないわよ?」


 妹が少し眉をひそめてトーストにバターとマーマレードを塗り始めた。もう斉藤さんの詮索(せんさく)は良いらしい。私は残りの品を用意して、軽く息を吐いた。


「よし、ご飯を食べて、少しゆっくりしたら出ようかな?」

「はーい、いただきます。でも連絡とかしなくていいの?」


 バターとマーマレードがしっかり乗ったトーストを眺めつつの問い。私もトーストをちぎりながら答える。


「いただきます。連絡手段がないのだよ」

「電話は?」

「知らない」

「とんだ愛人ねえ」

「愛人じゃないからね!」


 いいかげん、愛人呼びはやめてほしいものだ。


「まあ、ダイヤもらったら、あたしも愛人呼びされるかな」


 むう、この年頃でそのさばけ方はどうだろうか? もうすこしツツシミを持った方が良いんじゃないかな?


「あまり期待しない方がいいんじゃない?」

「えー、じゃあそのカギくれる?」

「やだ」

「むう、やっぱ(うば)った方がいい?」

「野蛮だなあ」


 その言葉を受け、妹が少し眉をしかめた。


「あのさ、今月の家計簿見る? もうちょっと危機感が出るかもよ?」

「み、見ない……何とかするから、大丈夫」

「まあ、カギの換金(かんきん)は視野に入ってるからね」

「そうならないようにすると、私は言っているのだよ」


 そんな感じで朝食は(つつが)なく進む。

 食後、私たちの間に落ち着いた時間が流れた時、妹は食卓の隅に置いてある『いろいろノート』を取り出して、ペン回しを始める。


「およ、何、どうしたの?」

「ちょっと思いついたの。博士ってどんな感じ?」


 そう。この『いろいろノート』は、基本的には妹の落書き帳に()している。そしてこやつは、びっくりするほど絵が上手いのだ!

 なんたらの気まぐれってやつか、妹は急に描きだしたくなる衝動(しょうどう)があるらしく、変なタイミングで筆を走らすことが多い。


「あー小柄で、よれよれ白衣がトレードマークの、ちわわっぽいとパグの子供……猫さんみたいな雰囲気も持ってる、かな?」


 我ながら、適当に言ってみたものだ。


「……ふむ」

「あ、でもね、すっっっっっごくまれに、素敵雰囲気をだすよ!」

「むむむむ……うん、わかったわ」


 そんなやり取りの後、私は洗い物を終え、掃除(自分の部屋以外はちゃんとやる。ちなみに妹よりも上手と()()している)や洗濯など終えて居間に戻ると、妹がにっこり笑っていろいろノートを渡してきた。


「描けた! どう!?」


 そこには、なぜか博士がいる。


「えっ!? ……なんでこんな似てる感じにできるの!?」


 若干の美化を入れ、かっこいい帽子をかぶった博士その人を、なぜ見た事ないのに描けるのだ!?

 あっれー!?

 惑わす感じで言ったつもりだったのになぁ……あ、でもあながち間違ってはいないんですよ?


 でもさ、妹さん?

 あんなんでどうやって特徴(とくちょう)(つか)めたのっ!?

 腕上げた!?

 それとも!?

 なんか、妹固有の新能力的なあれ!?


「あーうん、このまんま……すごい……」

「ふっふーん、あたしの想像力、なかなかでしょ!」

「……うん」


 ほぼ絶句気味にいろいろノートを置く。どうやら妹は気が済んだらしく、筆記用具を片付けて、お出かけモードとなった。


「でさでさ、何もっていこっか?」

「えっと……何って、なにかな?」

「おみやげに決まってんじゃん!」

「私たち、怒りに行くんじゃないの?」

「えー、必要じゃない?」

「ふむ……」


 博士は遠慮が通じないひとだ。

 おみやげなんて無くてもいいし、もし持ってくならあり合わせでも良い。だから私は冷蔵庫をあさり……入れた覚えのない上等な和菓子(日保ちするもの。空いてない)の箱を取り出した。


「あれ? なんでこれ、冷蔵庫に入れてるの?」

「あたし覚えてないわ」

「じゃ私かな? いつ買ったんだっけ?」

「貰いものじゃない?」

「そっか、最近お茶淹れてないから入れっぱだった?」

「たぶんね」


 和菓子はお茶を引き立てるためにあるらしい。でも、うち、あまり煎茶(せんちゃ)は淹れないんだよね。


「これにしよっか?」

「まあ、良いんじゃない?」


 そんな感じで準備がおわり(ちゃんとハンマーは持っています)、ようやく出る時分となった。


「おし、そんじゃ行こうか」

「はーい」


 私の声掛けで、妹もやる気に満ちた返事を返す。私は黒自転車、妹は青い自転車に乗って、いまだ午前中といえる時間を走らせている。


「ねえ、どっちに行こうとしてるのよ?」


 急に後ろから妹が声を掛けた。


「え、博士の家だけど」

「3丁目じゃないの?」

「そそ、斉藤さんちの近くだよ」

「逆でしょ?」


 あれ、そうだっけ? スマホを取り出し、ナビを起動するとやっぱり戻れと怒っている。仕方なくそれを切り、Uターンを始める。


「またのんびりモードなの?」

「いやあ、寄り道しようと思って」

「方向音痴もたいがいにしてね」

「ほ……方向音痴じゃないからね!」

「仕事が絡まないと、ふらふらするもんね」

「ふらふらじゃないって! ただ、嫌な予感で足が進まないだけだよ!!」

「へーそうですかー」


 そんなやり取りの後は、特に迷うこともなく進んで行き、たどり着く少し前に妹が声を掛けて来た。


「あら、道場の近く?」

「そうだよ」


 3丁目の道場とは、私が通って稽古している武道の道場だ。

 武器術や体術などふくめ、結構いろいろな技が練習できる。


 これに関してはもう縁の問題で、あるとき急に護身術(ごしんじゅつ)を習おうと思い立ち、友人の紹介を経て扉をたたくと、大勢の変な人たちとの出会いがあった。

 残念街道まっしぐらと賞賛(しょうさん)を受けているこの私が、『先生』と素直に呼ぶことのできる人たちとの出会いであり、それ以後も細々と続け、結構長い間通い続けているのだ。


 そう『……こうみえて私、強いんです』と胸を張ってみるけれど、大概(たいがい)は、冷たい目で見られることの方が多い。


「じゃあ、その関係で知り合ったの?」

「いやいや、そういう訳じゃないんだけどね。ただ、博士は先代とも交流があったらしいね」

「へえ、いくつなんだろうね?」

「ひみつ」

「え、他人の年齢も秘密にしてるの?」

「最近はね、もう言わなきゃダメな気がしているのだよ」

「もう処置なしだわ」

「まあ、こんな癖を作った人を恨むと良い」

「本人以外に居るの?」

「うん。何名かが、この癖のカギをにぎっているのだよ」

「だれよ、それ?」

「覚えてないなぁ」

「あらそう」



**―――――

 適当なやり取りを続けつつも、私たちの足取りは軽く、ついに博士の家へとたどり着いた。


「うわ、正面で見ると変な家ねえ」


 感想を述べる妹だが、その額に一筋の汗が見える。やはり、この家は変なのだ。


「さあ、覚悟は完了?」

「もちろん! ダイヤは絶対もらうわね!」


 実際のところ、そんなぽんぽんくれるもんじゃないと思うんだけどなぁ?

 ふんわり思いつつ、私はチャイムを鳴らした。


『ハイー、どなたかの?』

「私です」

『おおー、ひみっちゃんか? どうした?』

「ちょっとお小言のために(うかが)いました。妹もつれてきています」

『お、おう、なんじゃろ? 今あけるわ!』


 博士の声に鍵が開くのを待っている。


「合鍵使わないの?」

「開けてくれるからいいじゃん」

「まあね」


 そして、私と妹の眼前で、科学の深淵へと続く扉が再び開くのであった。


【おまけ】

「さて、なにかあるかな?」

「えーっと、博士に関してよ」

「うんうん」

「川で泳いで何してたの?」


 何でそんなこと聞くんだろう? 泳ぐのが目的の人に、何で泳いでるんですか? って聞いても変な顔しか返せない。


「河童になりたかったんだよ」


 嘘である。


「本当?」


 あれ? 妹ってば純真?


「え、嘘だよ?」

「なんでそんな嘘つくのー!?」

「ノリ」

「ぐぬぬ」


 妹のぐぬぬ顔も見れたし、今回は勝ちかもね!


「次回やり返すからね」

「え!?」


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