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──相手のものを引き上げる?
ノアの説明がいまいち分からない。
魅了、治癒、強化、それらを繋げるのが、引き上げる?
そんな私の疑問が通じたのか、ノアが話し始めた。
「もし、自分が愛されたいと思うのなら、相手が自分に感じている行為を最大限に引き出せれる。もし、目の前の人が死んでほしくないのなら、その生命力を最大限に引き出せれる。そして助かりたくて大きな力欲しい場合も。多分、言い方としては、『人のリミッターを外せる』ってのが正しいかもしれない」
ノアは落ち着いて説明をしてくれた。
──リミッターを外せる…
ノアの解毒できてないって話に納得がいく。
レモラやミンタの毒の効果を下げたんじゃなくて、その毒に勝つぐらいの力を引き上げている。
「実際、昨日、例の侍女は倒れ、息を引き取った」
ノアが感情のない声で言った。
──ベイリーが死んだ?
「恐らく、限界が来たんだ。聖女を信じすぎて、他の治療を受けなかった。そのせいで、ついに……」
ノアはそこで言葉を止めた。
言い切るには強さが足りなかった。
「他の患者は、もしもに備えて対処できた。討伐の時も、なんとかては回ったけど、能力強化をした騎士の腕は使い物にならなくなった」
「え?」
「体に合わない力を発揮したことで彼らの体が悲鳴を上げた。一時的な事だったが…」
ノアの言葉尻には後悔が見える。
私も体温がなくなったような気分だ。
レイナはきっと自覚がない。
ただ力を反射的に使っただけなんだ。
「僕が騎士の手配を頼んだせいで…間に合わなかったせいでっ…」
悔やみきれない。
どうしようもない結果、過去。
なのに何度も繰り返し思い出してしまう。
幻なのではないかと思ってしまう程、ノアには辛い現実だ。
「君が僕に話せないのも、分かる。僕が無能なせいだ」
「ノア…」
私は同情的に声をかけるしかできない。
「いつか君が全てを話してくれると思って…僕は…」
ノアは小さな声でつぶやいた。
その言葉に一瞬ドキッとしたけど、ノアが苦しんでいる姿の方に胸が痛む。
なんでノアにこんな思いさせるんだと、見当違いな怒りさえも込み上げる。
でも、そうでもしないと、思いの行き場がない。
「陛下には報告した。だが、この結果を公表すれば、聖女の立場がなくなる」
「それって…」
私が言うと、ノアはゆっくりと頷いた。
切なそうなノアの瞳。
──レイナはいつ放り投げられてもおかしくないって事だよね…
それは流石に賛同するわけにはいかない。
レイナの力によってこれ以上被害者を出すわけにはいかない。
だからといって、レイナを見知らぬ世界で放り投げるなんて。
彼女が普通の高校生だったのを知っている分、躊躇う。
「陛下は暫く伏せる気でいる。これ以上被害を少なくするめには、聖女への接触者を減らし、洗脳状態にある彼らを治療を受けさせる予定だ。凱旋式までして、その力が偽りだと分かれば、民が反感を持つだろう。そうなれば、彼女の命自体が危ない。きっと…」
ノアも迷っている。
この世界に放り出されたレイナには同情するし、彼女が悪いわけじゃない。
ただ無意識に彼女は力を使ってるだけで、その力を把握していないだけ。
ただ、それを罪だというのなら、それまで。
でも、ここまで聖女として持ち上げてきた国、人々にはなんの罪もないのか。
これを解決するには問題が多すぎる。
「彼女の力は制限する事はできるんだ。彼女のマナ量は多いが、手こずるほどじゃない。それだけ、体力は使うけど…」
ノアはそう言って苦しそうに顔を歪めた。
「兎に角、彼女には注意するべきだ。昨日発覚して、すぐに対策を取るように動いている」
「そっか…」
ひとまず、皇帝はレイナの安全を考えている。
それが聞けただけでよかった。
──それにしても、リミッターを外せる能力…
それはつまり、自分のいいように人を操れるってことだ。
その事にゾッとした。
「でも、なんで私は何もなかったんだろう…」
「多分、僕だよ」
ノアが言った。
「デネブレの浄化の力は周りの人にも影響するんだ」
「だから、私の周りの人も?」
「あぁ」
なるほど。
──待って、だとしたら、前世では?なんで?
疑問が残る。
「おぉ、ノアまだいたか」
デネブレ公爵がやってきた。
「お?もう着替えたのか?」
「もう必要ないと思う」
「いや、まだ必要なんだ」
「まだ何か?」
ノアが問いかけると、デネブレ公爵は待ってましたと言わんばかりに目を輝かせた。
「おう、そうだよ!皇后にもあの姿を見せないといけない!」
「なんで?」
「なんでって、皇后は妻の大ファンだったからね。ほらいくぞ」
「やだよ」
「ほう、そんなのいいのかな?明日、皇帝に婚約の宣言してもらうのやめよっかなぁ~」
デネブレ公爵は巫山戯ながら言ってるけど、目が本気だ。
デネブレ公爵が本気を出せば、皇帝は撤回しちゃうかも。
ノアはそれが分かっているようで、遠い目をした。
「ミンディ、行ってくる」
「うん」
逃げ場のない魚の目。
「明日、宮廷で待ってて」
ノアが去り際に言った。
私はそれに力強く頷く。
──ノアは、私が隠してるの薄々気づいているのかな…
私は去っていくノアの背中を見つめながら思った。
勢いのままノアがつぶやいた言葉が離れない。
もしかしら、それに気づきながらも待ってくれているのかもしれない。
──どんだけ優しいのよ…
私はツンと鼻の奥が詰まった。
私は待つ事に苛立ちを感じているのに、ノアは待ってくれている。
それが嬉しく、申し訳ない気持ちになる。
彼が気弱になる一因を私が作っているのかもしれない。
──明日が終われば、ノアに話そう
たとえ信じて貰えなくても、話そう。
そうすれば、私はもっと自信を持ってノアの隣に居れる。
ノアも安心してくれるかもしれない。
──一緒に踏ん張るにはきっと…
もう決めたのだ。
2人でいると。
きっと疑問が晴れるかもしれない。
私は自分の世界では素直でいたい。
何も隠さずきちんと話したい。
──きっと…
ノアなら受け止めてくれる。
私が必死に話せばそうだ。
ノアの気持ちに私はそう答えるしかない。
そう決めて、私は歩き出した。
*
そして、凱旋式当日。
レイナを連れてくるパレードの列は帝都の門を出発し、この宮廷にまでやって来る。
貴族達は昼を過ぎてから宮廷に集まり、レイナの正式な聖女任命の儀式を見守り、その後祝杯を上げることになっている。
昨日の前夜祭よりもさらに盛大で、昨日より大勢の人が集まっていた。
国内外から人が集まり過ぎて、何が起こっても不思議じゃない。
「ミミ!」
私は1ヶ月ぶりにティア皇女との再会をした。
それはもう感動的なもので、宮廷画家にあのティア皇女の姿を描いて貰いたいぐらい。
「お変わりありませんか?」
バーリードゥ侯爵夫人は心配そうに聞いてくれた。
「はい、全く問題ありません。今までご迷惑をおかけして…」
「そんなの気にすることではありません」
そんなやり取りの後、先輩女官にはもみくちゃにされた。
困った事はなかったとか、聖女のあの噂はなんだとか色々と質問されたり、抱きしめられたり。
本当にいい職場だ。
「ほら、ミンディさん、コーラさんにも声をかけて。拗ねちゃってるから」
クリスティンさんは悪戯な笑みを見せなが私の背中を押す。
隅でひっそりとしているコーラさんに私は近寄る。
「コーラさん、この前は伝言ありがとうございました。無事に来ました」
「…見ればわかりますわ」
久しぶりだからツンが強い。
コーラさんは私の服装をじっと見ると、またツンとしたまま言う。
「そんな服装でいいですの?聖女に負けますわよ?」
今日の私の服装は、いつものパーティー用でそれなりのものだ。
勿論、お気に入りのデザインなんだけど、特に人目を引くようなデザインではなく大人しい清楚な感じだ。
ヴェロニカもあの婚約式のドレスを着てこいって言ったけど、やっぱり大切にとっておくほうがいいと思う。
婚約式は婚約式で素敵な思い出だけにしたから。
私は今日、ティア皇女のお付きとして参加する。
ノアはきっと、レイナのパレードに同行しているはず。
ここに彼らがが付けば全てが終わる。
チラリと、スコットレット伯爵がふんぞり返って座っている場所を見つめた。
でっぷりとしたお腹を突き出して、下品な笑みを浮かべていた。
この笑みの為にどれだけの犠牲があったのか。
私は顔を上げた。
──ノア、待ってるよ
絶対、大丈夫。
私はそう自分を奮い立たせた。




