9
ノアと私は宮廷で行われている前夜祭の会場を離れ、皇帝のいる宮殿へ向かう。
ノアはデネブレ公爵家を証明する何かを持っていたようで、何度か憲兵に提示しながら進んでいく。
その後ろをついていく私は、ノアの背中を心強く思いながらも余計な事を考える。
──女装のままで行くんだ…
皇帝の前で女装を晒せるノアは意外と凄い度胸だと思う。
てか、全然女装を恥ずかしがっている様子は最初からない。
──そう言うところはなんか凄いよね
そう感心すると、やっぱりノアは頼もしい。
一緒に歩く道は、明るく見えるのはノアが手を伸ばしてくれたから。
踏ん張れる。
──うし
私は皇帝の待つ、謁見の間に入る直前に両頬を叩いた。
そんな私に気づいたノアが声をかけてくる。
「君からも証言して貰う方が信憑性がますと思うから」
「ノアだけでも十分、信憑性はあるでしょ?」
「そんな事ない」
そんな事あると思う。
ノアはやっぱり自己評価が低い。
自分がどれだけ凄いのか絶対分かってないと思う。
「行こう」
扉が開く。
ノアを先頭に私たちは入った。
すると、その部屋には既に先客がいたようだ。
複数の付き人を連れた誰かがいた。
その異国漂う雰囲気の服装には見覚えある。
──グリード国だ
今日も貴族の中で胸元にあのブローチをしている人は多かった。
貴族のは平民のところで配られていたのは違って、青と白銀で作られている。
本当は白ではなく白銀らしい。
グリード国では白銀を高貴な色だとして扱われているとか。
ワイアットもアカデミーで配られたのか、白銀のブローチを持って帰って、私達に配ってくれた。
なんだかんだとお祭り自体は大好きな我が家は、そういうもので盛り上がる。
ワイアットも私もつけて遊んで、パパさんとママさんはそれを眺めていた。
「我が国の訪問に感謝する。グリード国の長よ」
皇帝が重厚感のある声で言った。
どうやら、前夜祭とは別にここで対談をしていたようだ。
「今宵は存分に楽しんでくれ」
「ありがたき幸せにございます」
グリード国の集団の一番前にいた女性が言葉を発した。
彼女がリリアーヌ女王なのかもしれない。
顔をベールで隠しているから、見えないけど、白銀の髪色ははっきりと確認できる。
──ママさんみたいに綺麗な髪…
そう思って見ていると、挨拶を終えた彼女達はその部屋を出ていこうとくるりとこちらを向いた。
そっと部屋に入った私達に誰も気づいた素振りは見せなかった。
その為、女王たちも振り返ってやっと私達に気づく。
「…」
すると、リリアーヌ女王が退場しようとした足を止めこちらを見た。
そして何かを呟いた。
彼女はノアを見ているようだった。
──何?
だけど、それも一瞬のことで、すぐに彼女はその場を去って行った。
──ノアの美貌にやられたか…
私の婚約者はなんて罪深い人なんだ。
リリアーヌ女王に共感しながらも、バビィさんの事を思い出す。
気になってしまう。
どうして彼女はバビィさんを追い出したのか。
あんなに優しいバビィさんを──
そう思うとなんとも言えない気分になる。
祖国に追われた彼女を思えば、リリアーヌ女王にいい思いをお持てないのは仕方ない。
「ノア、報告を聞こう」
隅で待機していると、皇帝が呼んだ。
緊張が走る。
これから皇帝の前まで歩くなんて考えれば足が震えてしまう。
──落ち着け…
私がそう呼吸を整えていると、ノアがそっと私の腰を手を回してエスコートしてくれる。
その頼もしさを感じながらも…
──女装してなかったらな…
なんてまた考える。
それでも幾分か緊張は解れる。
ノアとならいつも以上に踏ん張ってやる。
そんな気分だ。
──あれ、ヴェロニカ?
さっきまでグリード国の人たちばかりに気を取られていたけど、その部屋にはヴェロニカがいた。
相変わらず、こういう場所にはオリエンスの現公爵よりヴェロニカが出席するようになってるみたい。
それに、ノアのお父さん──デネブレ公爵と宰相もいた。
デネブレ公爵は、なんか杖みたいなものを持っている。
青い宝石が嵌め込まれていて、存在感のある杖だ。
「ノアは興味深い格好をしておるのだな」
皇帝はノアを見るなり愉快そうな声を上げた。
恐れ多くて顔は上げられない。
「こうやって見れば、今は亡き姉上にそっくりだ。公爵もそう思うだろ?」
「えぇ、妻が生き返ったようです」
──ノアのお母さんはこんな顔だったのか…
そりゃ、ノアが生まれるわけだ。
私は彼らの話に納得する。
「それで、報告とは?」
挨拶代わりの雑談を終えた皇帝は、よく響く声で私達に尋ねた。
空気が一気に張り詰める。
私なら、喉が潰れてしまいそうな圧迫感。
だけど、ノアはそれに動じずに語り始めた。
私は皇帝に「誠か?」と確認されて頷くのが精一杯だった。
「これが、チェイス・スコットレットに渡された、スコットレット伯爵の計画書です」
ノアが後は読んでくれと、宰相にその書類を渡す。
宰相はそれを読み、皇帝に渡した。
「…ノイトラール公爵邸を使うつもりか」
ニヒルな笑みを見せる皇帝。
私は見えてないけど、他の誰とも比べ難い恐ろしさがあった。
それが帝国の忠犬である彼に対する怒りなのか。
それさえもはっきりしない。
何か考えるようにしばしの沈黙があった後、皇帝は再び口を開いた。
「ノイトラール公、聞かせてもらおうか」
私たちが入ったのと違う扉が開く。
そこから、ノイトラール公爵が現れた。
深い皺の刻まれた厳格そうな顔がそこにあった。
「陛下」
皇帝に敬意を表す挨拶をしたノイトラール公爵。
──なんで…
彼は既にここにいたのだろうか。
──まさか…先回りされていた?
ここで全て否定されるのだろうか。
私たちが彼らを陥れようとして投獄されるかもしれない。
そんな考えが過る。
手に汗がブワッと吹き上がる。
「先程の話、其方からも聞かせてくれ」
皇帝は私達に話しかける同じ声で問いかける。
──ノイトラール公爵も今までの功績で信頼を得ている…
そうだ。それが簡単に崩れるわけがない。
ここで誤魔化されれば終わり。
嫌な予感が止まらない。
「彼らの証拠だけではスコットレット伯を罪に問うのは難しいでしょう」
彼の妥協を決して許さないような厳しい声。
私の口の中はカラカラだった。
だって手札は全て出しちゃったから、どうしようもない。
チラリと見れば、ノアの表情も厳しいものだった。
「ですが、スコットレット伯がてを回す前に、彼の協力者全員から証言を回収し、金銭取引の物的証拠、さらには現行犯で捕らえる事が出来れば彼の逃げ場などないでしょう。彼の拘束と同時に、今回告発をしたチェイス・スコットレットの協力を得て、屋敷、別荘、彼の関わる事業全てに一斉調査を行うことを進言いたします」
長々とノイトラール公爵が言った。
私は目が点になった。
──え?
「私からは、スコットレット邸へ出入り、又は彼と接触したと思われる、彼の協力者リストを提示させて頂きます。加えて、スコットレット家の提出した事業利益表とその推移に関する書類もございます。レモラによって得られた利益の予測金額と、ミンタ男爵から流れたと思われる不正金額が、スコットレット家の昨年度との収支差と一致します。また、彼が接触したと思われる他国商人のリストもございます。聖女やノア卿に接触した者達は協力者の中でも捨て駒要員ですので、シラを切られて終わりでしょう。ノア卿の計画書に書かれている場所でダイナマイトの回収も確認できれば、全員を連行するには十分な証拠のはずです」
半分理解できなかった。
何がどうなってるんだ。
ってか、レモラのけんも出てきた。
──それってデネブレ公爵が調査してたんじゃないの?
そう思って、デネブレ公爵の方へ目を向ければ、ニンマリと笑ってる。
すると、ノアが呟いた。
「そっちか…」
──え、どっち?
「ノイトラール公は最初からスコットレット伯爵を監視するために、沈黙を貫かれていたのですね…」
ノアが、疲れを声に表しながら言った。
すると、ノイトラール公爵は厳格な表情を変えずに答える。
「スコットレット伯の動向は前から問題があると疑ってはいた。その矢先に、彼からの接触が始まった為、陛下に報告し、内密に調査を続けていただけだ。今頃、私を失脚させて公爵の座に収まりたくないかと我が息子にこの計画を持ち出しておるのだろう。しばらくすれば、我が息子と親族の証言も加わるだろう」
私はデネブレ公爵の話を思い出す。
『帝国はいい犬を飼ってるからね』
──そういうことかぁあああ!
つまり、デネブレ公爵はそこんところが分かっていたみたい。
だから、そこまで調査に焦った素振りは見せてなかったのだ。
「父上は、以前からご存知だったのですね」
ノアもそれに感づいたみたいで、デネブレ公爵にちょっと怒った声を向ける。
「そうだよ。彼は帝国の忠犬だし、報告は前々から聞いていたからね。ただ、レモラの件は我々は把握してなかったら、君たちのお手柄だよ。残念なのはスコットレットがその事業自体をメインでしてなかったって事だ。最初から切り捨てる気でいたものかもしれないね。実に惜しかったよ。我が息子」
悪戯な笑みを浮かべてデネブレ公爵は言った。
「其方が前もって報告せぬせいで、私が疑われる事になった」
だけど、ノイトラール公爵が抗議した。
ノアもそうだそうだと同調し始める。
ついでに私も心の中でする。
「色んな可能性を考えることは大切ですよ。信じていた部下に裏切られることだってあるのですからね。私は今回の息子には大満足です」
「とんでもない無茶をする子のようだがな」
ノイトラール公爵が私とノアを舐めるように見つめる。
下女に女装。
うんそうだね。
「息子達の面白い発想はとてもいいと思いますよ。公も大して変わらないではありませんか。息子達は真実の追求ですけど、ちゃっかり万能薬では稼いでますし」
「問題がないと判断したまでだ。帝国の繁栄につながる」
デネブレ公爵の軽口に真顔で返答するノイトラール公爵。
皇帝はそれをただ聞いていて止める気はなさそう。
「一本やられたわね…この狸親父ども」
ヴェロニカは悔しそうにい言った。
どうやら、彼ら情報管理は完璧だったみたい。
言い合いをしていてもいいチームワークなんだね。
「ノア卿、ノイトラール公は確かに皇帝の犬ではなく、帝国の忠犬です」
宰相が人のいい笑みを見せながら言った。
「ですが、それ以前に彼は国民の忠犬なのですよ。彼は人の腐った考えは国を滅ぼすと心から信じ、民を苦しめることを悪としています。法に反する事は決して許すことのない方です。そのせいで、貴族には嫌味嫌われてもいますがね。年々、敵は増える一方です」
そう言って、宰相は爽快な笑い声を出す。
するとヴェロニカも口を開く。
「人は歳をとると思考が凝り固まって正しい判断ができなくなる聞きますわ。年々その頑固さがひどくなっているようでしたら、スコットレット伯の助言通り、ノイトラール公はそろそろ御隠居を検討されるべきなのでは?なんなら、万能薬の事業は引き継ぎますわよ?」
「…其方は相変わらずだな」
三大公爵の関係性、どうなってんだ。
今はいいけど、意見が分裂した時が恐ろしい。
ヴェロニカが公爵になる前に、なんとか治ってほしいと思う。
私は呆然としてその光景を見つめる。
「ノア…」
「何?」
私が声をかけるとすぐに返事が返ってくる。
「これ、国の一大事だよね?」
「だね」
「こんなんでいいの?」
さっきの緊張はなんだったのだろうか。
「解決するならいいと思う」
ノアの答えに疑問は残るものの。それもそっかと思えてきた。
「陛下、もう一つお耳に入れておきたいことが」
談笑モードになりかけた時、ノイトラール公爵が声を上げた。
ただ聞いていた皇帝も再び口を開く。
「なんだ?」
「ノア卿とミンディ・ウルグス子爵令嬢が見張られている件です」
ドキリとした。
そう、それこそ今回のよく分からない点。
なんの為にスコットレット伯爵は私とノアの接点を妨害しているのか。
「単刀直入に申しますと」
ノイトラール公爵は表情を変えずに語る。
「ミンディ・ウルグス子爵令嬢は一切見張られておりません。スコットレット伯爵は、誘拐の為に聖女の信頼を得ようと手駒を送り、計画を勘付かれぬ為にノア卿の動きを制限しようと大量の書類を送り込む事はしていますが、その他の件に関しては全く関与しておりません」
──へ?
ノイトラール公爵の話に口があんぐりと開いてしまった。
──え、全然関係ないの?
「ですが、デネブレ公の話を聞く限り、ただの偶然と片付けるには不可解」
──ですよね
私もめちゃくちゃ思ってますよ。
「そこについてはこっちで調べた。ちょっと好意的に話したらベラベラと教えてくれたからね」
デネブレ公爵が手を上げた。
「うちのノアはそこんところが器用じゃないから、親がしゃしゃりでる形となりましたが、私がね」
主張するところは主張する。
多分、何かこの先の話があるんだと思う。
ノイトラール公爵は不快そうな顔をした。
ヴェロニカはそれを見て楽しそうだった。
「いや~、参りましたよ。まさか、あの噂を信じて、盲目的に聖女の言い分を信じた方々の暴走だとはね。なんでも『聖女と公子は想い合ってるのに、あの女が皇女に取り入って、婚約者になろうとしてる』ってね」
──なら、本当にレイナ信者たちの仕業だったって事?
「スコットレットの部下達も、目的を忘れたように彼女に夢中。本当に困ったものですよ」
──そんなにレイナは人を虜にしてしまうんだ…
私にはないレイナの魅力なのだろう。
確かに私も嘗てはレイナに憧れていた。
安堵と不安が同時に込み上げる。
スコットレット伯爵に目をつけられてなかったのは良かったけど、やっぱりスッキリしない。
笑顔でデネブレ公爵は言い続ける。
「陛下、とっても面白いお話だと思いませんか?私どもは帝国と教国の為に力を貸しているだけだというのに、真実がねじ曲げられ、偽りを信じる者がいるとは、驚きしかありません」
──ノアパパ、命知らず…
こっちがこわくなるくらい、デネブレ公爵は流暢に話し続ける。
「デネブレ公爵家の尽力には感謝してる。だが、噂は噂だ。決してそれらを肯定した覚えはないぞ」
「おや?責任逃れをするおつもりで?」
「ったく…」
フッと皇帝が笑うと、頷いた。
「あぁ、大切な義兄の為に尽力する。明日、国内外の招待客の前で、其方たちの婚約を正式に発表しよう。婚約式は改めて。これでいいか?」
含み笑いをして、皇帝が言う。
「えぇ」
デネブレ公爵は満足げな表情を見せる。
そして、ふとノアを見れば、ノアも目を輝かせていた。
ずっと緊張しているのは私だけみたい。
──全員心臓に毛が生えてるよ…
私は息をするのがやっとだった。
*
「あのさ」
そんな異様な部屋から出た後、ノアが着替え終わって神妙な顔で私に話しかけた。
私は帰るまでバレちゃいけないから、下女の服のままで振り返ってノアに目を向ける。
「ミンディはどう思った?」
私を真っ直ぐ見てノアが尋ねる。
なんの話か全く分からない。
「どうって?」
「彼女、聖女の周りの人間を見て、君はどう思った?」
「聖女?」
「あぁ、彼女の信者たちだ。噂の速度も異常だし、父上のあの話を聞けば余計に…」
ノアは言葉を濁す。
そういう時は絶対に良くない何かがある。
「どう思ったも何も──…」
そう言いかけて、やめた。
確かにあのデネブレ公爵の言い方は、聖女の周りの人間が異常だと言いたげだった。
改めてノアを見つめる。
彼は私の答えを求めているが、どんな答えを待っているのだろうか。
──でも、もしあの違和感のことなら…
そう思うと、そうであって欲しいと考えた。
私のもつこの違和感をノアが理解してくれれば、と。
前世とは違う何かが得れるかもしれない。
不安なのに期待が膨らみ続ける。
「これは、私の……、個人の思いで、聖女に対していいイメージがないからかもしれないけど…」
保険をかけるぐらいに私は卑怯な人間だ。
それでも、ノアは「うん」と表情を変えずに聞いてくれる。
「おかしいって思った。みんな、まるで彼女に……」
思っていても、言葉にするには躊躇ってしまう。
だって、これはただの嫉妬かもしれしない。
悪口かもしれない。
「ミンディ、教えてくれ」
そんな私にノアが言った。
隣で私の手を握って、いつものあの優しい瞳で見つめてくる。
「教えて欲しいんだ」
再度、私に言った。
何を言ってもノアは受け止めてくれる。
それがわかっているから、私はもう一度自分の中で整理して顔を上げた。
「…私、おかしいと思った」
ある時から感じ始めた。
「人の好き嫌いは、人それぞれだし私の考えだけじゃ分からない事も多いと思う。彼女がただ人に好かれやすて、カリスマ性があって人を惹きつけるのかもしれない」
私だって、そんなレイナをすごいと思ってた。
純粋に尊敬していた。
「けど、マリッサさんを見て、違うって思った」
「マリッサ…アゴー伯爵令嬢?」
「うん」
私はノアに力強く頷いた。
「マリッサさんはノアに執着していた。だから、ノアと接触しようとする私にあんな事をした。でも、あの時の、この前のお茶会でのマリッサさんはなんだか違ったの。ノアの時はただ私を傷つけてノアから距離を取らせようとしただけなんだけど…あっちはなんていうか、すごくどろどろしてて……」
うまく言葉にできない。
ノアならもっとちゃんと説明できるんだろうけど、私の頭はそんなに上手くできていない。
それでも、ノアは最後まで聞こうとしてくれている。
「えっと…あれは……」
中学最後のあの思い出が蘇る。
あの場の何がこわかったって、誰も私を認めようとしてくれなかった事。
まるで私が──
「排除……されてる。私自身が否定されて消される感じがした」
彼らが思う私は違うのに、全てを否定され私など無意味なもののように感じた。
そう、それが一番しっくりくる。
「排除…?」
ノアが眉を寄せて言った。
「うん…。私自身がなんの価値もないようなそんな気分になったの。他の人のだとそれに気づかなかったけど、マリッサさんの行動の違いで、それがはっきりした。ノアの時と明らかに違うの。ノアと聖女をくっつけたいのかもしれないけど、ただ私を離すんじゃなくて、排除しようとする感じが…」
──でも、なんで?
疑問が拭えない。
「そんなの聞いてない」
ノアは怒った声を上げた。
「そんな話、君から聞いてない」
「だって、話す機会がなかったし…」
「報告さえもしてないじゃないか」
「別に聞かれなかったし…」
私がそう言うと、ノアがため息をついた。
「…そんなに僕は頼りないか?」
「そんなんじゃないよ」
「ならなぜっ!……っ…」
ノアは声を張り上げかけたが、苦味を噛み締めるような顔をしてやめた。
「心配ぐらいさせて欲しい…」
「さっきは心配させるなって」
「話が違う!」
今度は最後まで声を張り上げた。
でも、やっぱり苦しそう。
人を怒鳴るってことにノアは慣れてない。
「何かあったらまず話してくれ……それだけはお願い」
ノアは片手で顔を覆ったまま言った。
なんだかいろんな感情で難しそう。
「うん、わかった」
良く分からないけど、私の心は喜んでいる。
だから、私も素直返事をした。
なのにニタニタ笑ってる私を見てノアはまたため息をつく。
そして、私に何を言っても無駄に思ったのか、レイナの話を再開し始めた。
「ミンディの話は間違いじゃないと思う」
ノアは冷静さを取り戻そうと早口で話し始める。
「聖女の周りにいる彼らはどう見ても、異常な程彼女を信じている。普段ならおかしいと思うはずの事でも聖女が真だと言えば、そうだと言ってしまう。そして、その彼女が嫌うものがいるのなら排除しようとまでする」
「聖女は私を嫌ってるの?」
ノアとの事を考えればそうだと思うものの、それだけで苦手と思われても嫌われる事はないように思う。
「そんな感じはする。彼女のマナはなんだか逆立つ感じがするから」
──猫かよ
身震いするノアを見て、そう思いながらも私も考える。
確かにあんな事になるなんて私が嫌い以外のなんでもないと思う。
──だったら、前世でも?
私はレイナを好きだった。
あの件さえなかれば好きだったと思う。
でもレイナは私を嫌っていたのだろうか。
そう思うと、前世の私が酷く惨めだった。
「彼らにとっては聖女が真実。そんなの洗脳みたいな事が起こっている」
「まさか、ノアはそれが聖女の力と関係していると?」
私が問いかけるとノアが頷いた。
そんな力一つしかない。
「魅了の……力?」
私は震える口で呟いた。
──そんな、まさか…
だとしたら、私はどれだけレイナに振り回された事になるのだろう。
誰も認めてくれない所以がそこなのだとしたら、私は──
「似ているけど、具体的には違う」
ノアがそれを否定した。
「それで治癒能力や能力強化の説明はつかない」
確かに、その通り。
──だったら、何?
「彼女の能力は恐らく、自分の望む相手のものを限界まで引き上げれるものなんじゃないかな?」
ノアが言った。




