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7

ノアが私を訪ねてきた翌日。

私は目を覚ましてから、ずっと考えていた。


「ミミちゃん、考え事?」


何かを磨いているママさんに訪ねられた。

ワイアットはアカデミーに行っていて、パパさんはお仕事。

ママさんと2人だから周りはやけに静かだ。


「うん」


私は天井を見つめながら答える。


昨日のノアとの会話をもう一度おさらいする。

何度考えても、嫌な予感ばかりが浮かんでくる。

こうやってだらけていてはいけない気分。


ノアに会ってから、私はうずうずしていた。


──このまま待ってるだけでいいの?


それが性に合わない。

でも下手な事をして迷惑もかけられない。

私が私であることが酷く恨めしい。


「随分真剣に悩んでいるのね」


ママさんはそう言いながら、せっせと何かを磨いている。


「何してるの?」


流石に気になって声をかける。


「これ?これね。たまには磨こうかなって」


ママさんが私に見せてきたのは、例の家宝。

相変わらず錆びた短剣は、歴史的な価値がない限りゴミに見える。


「なんで今日?」


昨日の雨は止んだけど、じめっとして湿気ている。

こんな時に磨くなんてと私がママさんに尋ねると、ママさんは銀髪を揺らして、ふふっと笑った。


「もしかしてに備えて」

「備えてって?」

「ん~、何かあるかもでしょ?」

「そうなの?」

「そうね。泥棒さんがいきなり来たり?」


ママさんは笑みを見せる。

なんの話だ。全く理解できない。


「ところで、ミミちゃんは本当に夜会に行くの?」

「行くよ。ノアとも約束したし」


ノアが迎えに来ると言った。

デネブレ公爵も来てくれって言ったし、私に断る理由なんてない。


「そうよね。そうなのよね…」


ママさんは何か困った顔をした。


「どうしたの?」

「んー、どうもしないけどね。そうよね。あ、ヴェロニカちゃんにドレスのお礼の手紙書いたの?」

「いや、まだだよ」

「それなら、私もお手紙書きたいからちょっと待ってね」

「うん。でも、今日中には送ろうと思うってる」

「分かったわ」


ママさんはそう言うと、また短剣をせっせと磨き始めた。

ヴェロニカの家には昔からお世話になってるし、ママさんも何か送りたいと思っているのかもしれない。

私もそれに返事をして、ヴェロニカに何かお返しをするべきかなとか考える。


──明日は前夜祭があるしな…


凱旋式の前に、招待客を歓迎する前夜祭が行われる。

外交命のヴェロニカはそれに出席するに決まってるし、早めに送ったほうがいいかもしれない。

そう思って私は立ち上がる。

今は何かやってないと、やらかしてしまいそう。


──よし、ヴェロニカへの贈り物でも探しに行こう


私はそう決めると、すぐに街に繰り出した。





街は凱旋式前のお祭りモードでかなり賑わっている。

昨日の雨の影響で準備できなかったからか、慌ただしく動いている人も多い。


「お嬢ちゃん、この花いるかい?」


カゴを持って配るおばあさんが声をかけてきた。

青と白のリボンで花に見立てたブローチが突き出された。

カゴの中にはそのブローチが一杯だった。


「これは?」

「歓迎の花なんだよ」


そう言われて思い出してみるけど、帝国にはそんなものなかった気がする。


「なんでも明日くる女王の国のものらしくてね。聖女様の為に来てくれるんだから、歓迎しないわけにはいかないだろ?」

「女王?あぁ、グリード国ですか?」

「そうだよ。それさ!」


ふと、周りを見渡せば、その花を胸元につけている人が大勢いた。

成る程、見た事のないものがたくさんあると思っていたが、歓迎の意を込めて他国の文化を取り入れているようだ。

貴族だけの集まりの前夜祭も、帝国のおもてなしをしながらも、他国の文化を織り交ぜたりする。

きっとその流れだろうなと私は納得した。


「それなら、一つもらいますね」


私はブローチを受け取り、お金を渡す。

グリード国にいいイメージはないけど、こういうのには乗っかりたい質だ。

胸元にそのブローチをはめる。

うん、なかなか悪くない。


──賑やかなのは楽しい


色々と気が晴れない事はあるが、お祭り自体は好きだ。

賑やかな街を歩いていると、気分は次第に晴れてくる。


──さぁて、ヴェロニカは何を喜ぶかな


普通のものじゃ面白くない。

きっとヴェロニカもありきたりなものじゃ満足しない。

高価だからいいってもんでもない。

難しいけど、楽しい。


ヴェロニカへのプレゼントを探しながら歩いていると、いつの間にか例の洋装店の近くに来ていた。


──ん~、スコットレット伯爵……かぁ


そう思いながら、チラリと店を覗いてみる。

けど、店の中は暗くて営業中の札がかかってない。

お祭り騒ぎのこの時期は稼ぎ時だとほとんどの店が扉や窓を全開にして人を呼び込もうとする。

なのに、あの洋装店だけ閑散としていた。


──あれ?


おかしいと思って、さらに近づくと…


カランカラン


丁度、中から人が出てきた。

店の横につけてある荷馬車に荷物を運んでいる。

それはあの店長だった。


「こんにちは」


どうしたのかと興味が掻き立てられ、挨拶をした。

例の店長──ミンタ男爵の愛妾もこちらを振り返って驚いた顔をする。


「あ、ミンディ様」


だけど、すぐに優しげな商売人に笑顔を見せる。


「どうされたんですか?貴族の方は明日からの事で大忙しなのでは?」

「えぇ、そうなんですけど、ちょっと用事がありまして」


確かに普通の令嬢なら、今日から肌や髪のお手入れに必死なはず。


「店長さんはどうされたのですか?」


私は彼女に問いかける。

かなり荷物を積み込んでいるようだし、どこかに出かけるのだろうか。

量からして、帝都から出ていくのかもしれない。


「それが、彼から連絡が来たんです。前の出資者の…」


──ミンタ男爵?


私はアンテナをピンと立てた。


「理由は分からないのですが、しばらくの間、王都を離れるようにって…、今の出資者の方と知り合いらしくて、その方を通して連絡がありました」


スコットレッと伯爵が手を貸したってことか。

聞く限り、ミンタ男爵は屋敷で軟禁状態だから、そう簡単に連絡が取れるわけない。

きっと頼み込んで連絡を取ったのかもしれない。


「私も急で驚いているのですが、出資者の方も彼の言う通りにすればいいって仰ったので、今、準備をしてるんです。明日までに出ないといけないらしくて…何がなんやらですけど…」

「そうですね」


本当に何がなんやらだ。

店長も私に挨拶をして、荷物を詰め込もうと動き出した。

私も何かがある気がしながらも、彼女は何も知らなさそうだし、その場を離れようと歩き始めた。

だけど、すぐに店長が振り返って、私に声をかけた。


「あ、そうだ。ミンディ様」


そう言って、駆け寄ってくる。


「彼の手紙で書いてあったのですが、もし、帝都を出るつもりがないなら、絶対メイン通りは避けたほうがいいって」

「メイン通り?」


宮廷に続く大通りのことだ。

宮廷で催しがあれば貴族の馬車がずらりと並ぶし、今回の凱旋式でも使われる道だ。


「よく分かりませんが、ミンディ様も気をつけられたほうがいいかもしれません。なんだか、嫌な予感がするんです」


店長はそう言って暗い顔をした。

その話に嘘はないのだと思う。

私は店長で礼を言って別れると、さっきの話を考える。


──ミンタ男爵が彼女にわざわざ注意喚起をした…


それは何かスコットレット伯爵の計画の何かがある。

そうとしか考えられない。


──大通り…明日にはここを離れる


となれば明後日、大通りで何かがあるってこと。

そしてすぐに結びつくのは、レイナ──聖女の凱旋式。


──まさか…


緊張して、手のひらに汗が滲む。

スコットレットが凱旋式で何かを企んでいる。

それは間違いがない。


──ノアに伝えないとっ…


そう思って踵を返すが、すぐに足を止める。


──どうやって…


私には方法がない。

隠蔽魔法を使える魔力も何もない。


余計にノア達を混乱させる要因になるかもしれない。

それにもしこれが間違いだったらと考えれば伝えることは迷ってしまう。

時間がないからこそ確実な情報がいる。


──十分待ったよね


私は時計を確認する。

できるだけ迷惑のかからない方法をとる。

ノアは命まで擲ってやってるのに、じっと待ってるなんてできない。


──だって私はヒロインじゃない


物語のように守ってもらうばかりは嫌だ。

確かに、私には何もない。

だからって何もできないわけじゃない。

私のこの人生は空っぽだったわけじゃない。


──私だって一生懸命生きてきたんだ


それは誰にも否定させない。

私には私のやり方がある。


──やるっきゃないね


動かなきゃ、人生は動くことはない。

待ってても進むのは物語だけだ。


「うし」


私は頬を叩いて気合いを注入した。







「まぁ素敵な会ですわね」

「これもどれも聖女様のおかげですわ」

「ふふ、聖女様が来られてからいいことばかりですわ」


貴族がグラスを片手に語り合う。

レモラの件なんてさっぱり忘れてしまったようで、煌びやかな装いで優雅に談笑をする。

宮廷で行われる前夜祭は、室内を施されている豪華な装飾品に負けず劣らない賑わいに、異国の空気も混ざり、今までで類を見ない活気に溢れていた。


「そこの貴方、お代わりを」


談笑を楽しんでいた貴婦人が、1人の使用人を呼び止め声をかける。


「はい、かしこまりました」

「同じものを」

「デネブレのシャンパンですね」

「え?えぇ、よろしく」


そんな会話をした貴婦人は首をかしげた。


「どうかされたの?」


一緒に話していた者が彼女に問いかける。


「いえ…、下女が飲み物に詳しいから」

「きっと盗んで飲んで覚えたのよ」

「そうかしら?」


彼女は不思議がっていたが、すぐに先程の続きの会話を始めた。

そしてすぐ様先程のやけに品のある下女の事など忘れてしまった。



「き、緊張した…」


下女の格好をした私──ミンディは物陰に隠れると、ふっと息をつく。

そしてその時たまたま通った下女に声をかける。


「あ、あの緑色のドレスの方に、これを」


そう言って、用意されていたものを手に取り渡す。

下女はそれを受け取ると怪訝な顔を私に向ける。


「女官様、絶対にバレないで下さいね。バレたら私の立場が…」


周りを警戒しながら、その下女が言った。


「分かってる。貴方の命も立場も、オリエンス公爵が保証するから」


私はそう言って、彼女の肩を叩いた。

すると彼女は少しだけ安心した表情を浮かべると、その場を立ち去った。


そう、私は今、下女になって宮廷で行われている前夜祭に参加している。

つまり、スパイ顔負けの潜入作戦を決行中。


あの後、私は貢物を手にしてヴェロニカの帝都内の屋敷に向かった。

この数ヶ月ヴェロニカが事業の件でこっちに残っていてくれて良かった。

最初はヴェロニカが何か情報を握ってないかと尋ねたが、残念ながらヴェロニカは持ち合わせていなかった。

いや、一つだけ持っていた。


『そう言えば、明日の前夜祭でどっかでスコットレットの豚さんが頑固親父に会うとか会わないとか聞いたわね』


だとすれば、凱旋式でスコットレット伯爵が何かを画策するのか分かるかもしれない。


──けど、私や知り合いは警戒されてるだろうし…


困ったなと思っていると、ふと思いついた。

こういう時、物語なら潜入作戦しかない。

下女ならふらついていても疑われないし、学のないふりをすれば油断してもらえるかもしれない。

その後、コーラさんにも協力してもらって、水汲みの時に親しくなった下女さんに頼んでみた。

接待には人手がいるから、違う部署の人も駆り出されることも多い。

ヴェロニカの助けで、昼には宮廷に入り込んで下女として紛れ込んでる。


私だってバレちゃダメだから、ノアと同じ黒髪のカツラを被り、メガネをつけている。

変装はバッチで、知り合いの人にも全然バレてない。

いつもは化粧なんてしないけど、今日は化粧をして、そばかすまでした。


──後はスコットレット伯爵がどこで密会をするかよね…


私は密会に適している場所はいくつかある。

バルコニーや、宮廷内の庭。

後は、休憩用に用意されている部屋。


──スコットレット伯爵を追いかけるしかなさそう


まだ、スコットレット伯爵は来ていない。

彼が到着したら、そのまま見張るしかなさそうだ。


──ノアも来るのかな?


ちょっとそこが気になって、あたりを見回すがそんな影はない。

ノアがいたらもっと令嬢たちがわーきゃーしてる。


すると、会場が響めき始めた。


「まぁ、どなたかしら?」

「美しい…」


誰かが入場したのか、その者を見つめる彼らの目は蕩けそうだった。

私も釣られて目を向けれる。


──あれは、アーノルドさんと………


彼らの視線の先にはアーノルドさんがいた。

アーノルドさんも切長の目のイケメンなのは間違いない。

ただ、ノアの比べてしまうと、男らしさはよく分かるけどイケメン度ってか美レベルはちょっと下がってしまうのは仕方ない。

だが、人々が注目しているのはアーノルドさんではない。

その彼の隣にいる人物だった。


──うわっ、美人…


アーノルドさんがエスコートしている女性に釘つけになった。

後光が差してるのかってぐらい輝く彼女は、深緑の瞳の優しげな目元、綺麗に整えられた眉は真っ直ぐで意思の強さと気品があるものの、どこか柔らかみもあり、綺麗な高い小ぶりの鼻と果実のように誘われてしまいそうなぷっくりとした唇、輪郭も無駄な余白が一つもなく陶器のような白く滑らかな肌……そして、白銀の美しい髪。

美しい彼女の顔はどこか儚げな印象もあるが、大柄なアーノルドさんの横にいても全く引けを取らない身長で、どことなく威厳があって神々しかった。


「誰でしょうか?」

「あんな方見た事ありませんわ」

「娼婦?」

「それにしては気品が…」


彼女は首元から指先、そして脚も全て布で覆われていて、彼に媚びているような印象はない。

むしろ彼女は神聖な存在であるように見える。


「なら、どこかの国の方?」

「グリード国の女王か?あそこの王族はツヤのある白銀の髪色をしていると聞いたぞ」

「まぁ、ジャマ家と親交が?」


謎ばっかり。


──でも、女王か…


納得してしまう。

あれが王座に着くものの威厳と言われれば、皇帝と似たようなものを感じる。

だとすれば、彼女はバビィさんの妹。

勿論、バビィさんも美人なんだけど、彼女とは全く似てない。


──どっちなんだ…


すると、突然、その女性と目が合った。


「!」

「…」


女性はじっとこちらを見る。

女性なのに私はなんだかドキドキしてきた。


「う、美しい…」

「こっちを見たぞ!」


私の目の前の人たちが騒ぎ出した。

ここの周りの人間はきっと私と同じ思いだったのだろう。

勘違いだったと恥ずかしさを覚え、私はすぐにスコットレット伯爵の捜索を始めた。

今はそれどころではない。

後でアーノルドさんに問い掛ければいいと私は後ろ髪を引かれながらも、本来の目的に専念することにした。


私は下女の仕事をしながらも、耳をダンボにして人々の会話を聞く。

何かしらの情報はあるはずだ。

ついでにバルコニーの方も観察し、怪しい人たちがいないか確認する。


ドンッ


見つける事に集中しすぎて、前方不注意。

誰かにぶつかってしまった。


「申し訳ございませんっ…」


咄嗟に頭を下げた時、ぶつかってしまった人の服装が見えた。

どう見ても貴族の服装。


──やっちゃったよ…


「いや、これぐらい……?」


私が顔を上げると、目の前の人物は最後まで言葉を続けなかった。

私も、誰か確認すると固まった。


──チェイス!


「げ」


脊髄反射のように声が出た。


「君は…」


チェイスがじっと私の顔を見てくる。

変装していても、めちゃくちゃ知り合いの人間にガン見されたら終わりだ。


──それにチェイスは…


多分、助けてくれない。

彼には母親がいる。

あの店長でよく分かった。

スコットレット伯爵は弱みを最大限に使う。

彼に協力を仰ぐのは、彼を余計に追い詰める行為だと思う。


「も、申し訳ございませんでしたっ!わ、私、仕事がありましてっ…お、お許しをっ!」


彼は何も知らない方が救われるはず。


「あっ…」


そう思った私は、チェイスの反応を見ずに駆け足でその場を去った。

本当はスコットレット伯爵が何をしているのか問いかけたい。

でも、私にはチェイスとの会話を聞かれた前科がある。

彼の苦しみを増やすわけにはいかない。

私はそう思って、急いで彼から離れた。


──これぐらいなら、追いかけてこないでしょ…


会場で走り回るわけにもいかず、私は外に出て身を隠す。


──にしても、チェイスがいたなら、スコットレット伯爵も来てるはずよね…


もう一度、会場内を観察しようと庭の方から中を眺めようとした。

まずはスコットレット伯爵を探す。

すると、上の方から声が聞こえた。


「おい、あれはどうなっている?」


ちょうど真上。

階段があるからそこから漏れ聞こえる、ひそひそ声。

会場から離れたこんな物陰で、隠れて小声で話すなんて怪しすぎる。

私はサッと身を小さくさせて、その声に耳を傾ける。


「先日の雨のお陰で滞りなく準備は整いました。スコットレット伯爵」


「!」


目的の人物の会話に私は息を潜めながらも、驚く。


「まさか、ここで雨が降るとは、良い兆しだ」


ヒキガエルのような笑い声を上げながら、スコットレット伯爵と思わしき人物が言った。

ここからでは影しか見えない。

見える場所に移れば、向こうからも見えてしまう。


──雨?雨に何かしたってこと?


「それで、誰にも知られてないな?」

「えぇ、平民どもも全く気付いておりません」

「誰も己の足元にダイナマイトが埋まっているなど思うわけなかろう…」


──ダイナマイト?


楽しげにスコットレット伯爵は話している。

だけど、私の血液は勢いよく流れ溢れ出しそうな怒りが湧く。


──何を考えているの?まさか、凱旋式で爆発を起こそうとしているの?


ダイナマイトは魔法石の発掘の為に作られたものだ。

なんの仕組みか分からないが、爆破さようとしているのは間違いない。

雨でぐしょぐしょになった地面ではどこに何が埋まっているのか発見することなんて出来ないはずだ。


彼らの目的はレイナを殺す事だろうか。

その可能性は高くなった。


「さぁて、どんな騒ぎになるのだろうな」

「伯爵、まだ成功したわけではありませんよ」

「何を言う。成功したも同然だろ。平和ボケして自分たちが薬物を吸ってるのさえ気づかなった奴らだ。そう簡単に気付くわけが無かろう。討伐では奴らに任せて失敗したが、今回はそうはさせぬ」


愉快そうに彼らは笑い声を上げた。


──なんで、なんで笑ってんのよ…


怒りが込み上げる。


やっぱり、全部スコットレット伯爵が仕組んだ事だった。

全て、彼の計画だった。


そして、そのせいでノアがどれだけ苦しんだと思っている。

どんな思いで、心の傷を隠しながら苦しさを抑え込みながらいると思っている。

ノアだけじゃない。

彼らによって、多くの人生に深い傷を負わせたのか。


──なのに、また人を犠牲にしてっ…命をなんだと思ってるのよ…


唇を噛み締める。

こんな奴らの為に苦しむなんて。

それが許せない。


──絶対っ…


私が憎悪の感情を込み上げていると、力が入り良すぎてそばにある植木に触れてしまった。


ガサッ


その音に気づいたスコットレット伯爵達は笑い声を止めた。

少し間があって、彼らがこちらに動く音が聞こえる。

私はさらに身を小さくして固まる。


「誰だ?」


──どうしよう…


「誰かいるのか?」


彼らが階段を降りてくる。


──見つかるっ…


逃げる機会を失った。

足は緊張で震える。


「おい。返事をしろっ!」


もうすぐ側で声が聞こえた瞬間──


「どうされました?」


なんとも鼻に付く声と共に、私は腕を引っ張られ、誰かの胸に受け止められた。




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