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物語の主人公にはなれません〜魔力なしの令嬢に転生しましたが、なんとか踏ん張ります〜  作者: しーしび
8章 モブですがイケメン公子の婚約者です!?
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8

「ウルグス嬢」


低い厳しい声が私を呼んだ。

荷物を持っていた私がゆっくり振り返れば、そこにいたのはアーノルドさん。


「重そうだな。持とう」


アーノルドさんは軽々と私の持っている本を持ち上げる。


「これぐらい侍女に任せればいいのに」

「暇だったんで、勝手に持って行ってるだけです」

「ノアに似てるな」


アーノルドさんがフッと笑った。

確かに、ノアも自分でお茶を入れたりするなと思い出す。

そして重要な事も思い出した。


「あ、この度はおめでとうございます」


私は深々と頭を下げる。

アーノルドさんは狩猟大会で見事優勝した。

どっかのお偉いさんの予想通りだ。


「あぁ、たまたまいい獲物が見つかったんだ」


アーノルドさんは軽く返事を返すが、目がハンターのものだった。

ジャマ家は敵に回すまい。

私は心で誓う。


「君も婚約おめでとう」

「ありがとうございます」


そうだった。

私も祝われる立場だった。


「もっと時間がかかるのかと思っていたが、急な展開だったな」

「時間がかかるって……」

「コーラが言っていた。あの2人は恋人のような空気感を醸し出しておいて、未だに付き合ってないとほざく焦れったいカップルだとな」


平然とアーノルドさんから繰り出された言葉に私は恥ずかしさで悶えそうだった。


──そんなバカップルみたいな空気を出してた?!


だからコーラさんはあんなことを言ってたのか。

私だけの問題でもなかったようで、両思いに見えてたんだとかホッとしたり、でも恥ずかしかったり…

この感覚に慣れるには時間がかかりそうだ。


「お互いに恋愛感情に疎そうだから、俺も時間がかかるだろうと思っていたな」


アーノルドさんが言った。

この人って結構堅物に見えるけどよく話す。


「まぁ、ノアは人の好意を勘違いして怨念の類に思ってましたしね」

「あぁ、あいつはかなり鈍感だからな」


アーノルドさんが頷く。


「それでも、いい奴だ。あいつほどいい奴を俺は知らない」


アーノルドさんはいつものように目を細めたけど、今回はちょっと柔らかい目をしていた。

彼にとってノアは最高の友人なのかも。


「すっごく分かります」


私が言うと、アーノルドさんは「そうか」と嬉しそうに返してきた。

ノアはアーノルドさんにとって大切な人の1人なんだ。

そう思うと、私が嬉しくなる。

だって、ノアも嬉しいはずだから。


「そういえば、コーラも目的の獲物が仕留めれたと言っていたが、そこまで嬉しそうではなかった。何か知っているか?」


唐突に質問された。

私はその内容にウッとなる。

そう簡単に話せる内容ではない。


──いや、話しちゃダメなんだよね


ノアのお父さん、デネブレ公爵が直接動く事になっているから、騎士団の方には知らせが行っていないのかも。

結果はどうなるか分からないけど、ここは慎重にしないと絶対に後悔する。


「さぁ、どうでしょうか」


私は苦笑いを浮かべて、アーノルドさんに奪われた本をさっと取り返した。


「もうすぐ着くので、ここで大丈夫です。どうも、ありがとうございました」


私は引き攣った笑顔でそう言って、体を翻す。


──よし、うまく切り抜けられたはず


私は心の中でガッツポーズして、目的の部屋に向かう。

だけど、私の視界の隅に何か影を感じた。


──あれ?


「どうした?」


私の動きが止まったからか、アーノルドさんが不思議そうに声をかけてきた。


「いえ…さっき、そこに誰かいませんでした?」


私が指しながら尋ねると、アーノルドさんもその方向に目を凝らす。

だけど、そこには誰もいない。


「いや、いないが…」


──勘違いだったのかな?


そう思うも、どこか見覚えのある人だった気もする。


「気のせいですかね」


私は追求してもなと思い、そう言った。

アーノルドさんもそれで納得していた。



*****



「はい、先生、魔石との契約を破棄するには手元に魔石がないとダメですか?」


ティア皇女の授業中、私は元気よく手をあげて質問した。


「はい。ダメです」


ティア皇女の時より、私の質問にはいやそうに答える先生。


──やっぱりダメなのか…


授業が終わっても、私はそれを思い返して心で泣いているとコーラさんが寄ってきた。


「なんですの?魔法が使えませんのに、そんなに興味を持って」


コーラさんは不思議そうだ。


「いや、まぁ、諸事情です」

「ですから、それを聞いてますのよ!」


私が誤魔化すとコーラさんが噛み付いてくる。

私はそれを苦笑いで返す。


だってレイナがあの魔石を持ってる限り、私が魔力を使える可能性はゼロだもん。

あの魔石を得るのはレイナと下手に関わる事になる。

それはノアの警告を無視する形になるからしたくない。

今は契約を解除して新たな魔石を手に入れるってのが有効なやり方だと思う。

けど、手元になくちゃ意味がないのなら仕方がない。


ノアも気を遣って話を通そうとしてくれたけど私が止めた。

私もノアにレイナとこれ以上関わりを持ってほしくない。

それは前世の記憶があるからかも。


ノアはかなりあの翡翠の魔石を不思議がっていた。

心当たりはあるかと聞かれて私は「いや…」って誤魔化した。

はっきり否定しなかったのは私もずるいとは思う。


正直、魔法をそんなに使いたいかって聞かれれば、それほどって思う。

けど、婚約者が魔法を使えないことが「妖精の嫌われ者」であることが今後ノアの足枷になる可能性だってある。

だったら、取り除く方がいいって思う。

だから、何かいい方法がないか調べているところ。


私がその事をどう説明するか悩んでいると、コーラさんが先に口を開いた。


「もしかして、聖女の事ですの?」


コーラさんが私に質問してくる。


「聖女?」

「最近は魔力を操れる様になったとかって…」


コーラさんは嫌そうに言った。

私はそうだろうなと納得する。

原因はあの自慢していた魔石だ。

きっとあの魔石に変えたから、魔力の循環ができる様になったんだ。


「それはいい事じゃないですか。帝国も聖女様を引き取った意味ができるなら万々歳ですよ」


私も無闇にレイナの心配をしなくて済む。

価値が少しでも生まれたのは良いことだ。


「まだ、聖女の特別な力があるとは確定しませんわ。人より魔力が強いのは本当みたいですけど…」

「コーラさんは聖女様を警戒してますね」

「だって、あの方を尊敬するところがひとつも見つかりませんもの。この前の押しかけてくる件はあまりにも非常識でしたわ。それに殿下に目もくれず、『ノア様!ノア様!』って馬鹿みたいに連呼して……殿下を皇族を馬鹿にしていると言ってもいいですわよ。」


レイナはコーラさんの導火線に火をつけたみたい。

だた、コーラさんの言葉を聞いていると安心する。

別にレイナの悪口に喜んでいるとかじゃなくて。公平に見てくれているって感じがする。


「貴方だって、婚約者としてあの態度を放っておいていいですの?平気ですの?」


コーラさんに尋ねられた。

そう言われて私は下唇を突き出した。


「別に平気ってわけじゃないですよ」

「それなら、きちんと言いませんと。言わないと伝わりませんわ。あの方はこの国で生きていくのですから、それなりにマナーは身につけませんと」


コーラさんの怒りの火の粉が私の方にも飛んでくる。


「それは、そうですけど……人の気持ちを押さえつけるって出来ませんから」


私はそう言ってヘラッと笑うと、コーラさんがスッと目を細めた。

あ、やばいって思った時は遅かった。


「あなた、お馬鹿すぎではありませんのっ!?」


コーラさんの甲高い声が私の鼓膜に響く。

耳がキーンとなって私はちょっと混乱状態になった。


「痛い…」

「そんな甘ったれた事言って、公子をあの女に取られても後悔ないんですの?」


コーラさんがついにレイナをあの女呼ばわりした。

心底、レイナの事が嫌みたい。

人には相性があるし、それは仕方ないと思う。


「後悔しまくるに決まってるじゃないですかっ!」

「だったら、もっとあの女に釘を刺すべきですわ!私の男に手を出すなって!」


確かに、婚約者のいる男性に近づくのって良くない。

それはどの世界、どの時代でも共通の話だと思う。


「でも…」


私はそういう意味で言ってるんじゃない。


「誰かがノアに近づくのを阻止するより、もっと好きになって貰える様に努力する方が私はいいです……」


なんだか苦しくて、大声のコーラさんに反して私は小さい声で言った。


「ノアを信用してるし、そう簡単に心変わりをする人じゃないって分かってるから、そんなノアだから惹かれたってのもあるし……、だったら、もっといい女になってやろうって思うじゃないですか。ノアに想いを寄せる人にアンテナを張り続けるよりも、ティア皇女の筆頭女官としていい働きをしたり、魔力が操れる様になったり、もっともっと私が自分で自分を振り返って、自分に自信をつける方が、私はいいです」


そうなんだよ。

もっと、私はノアに似合う人間になりたい。

私が毎日ノアを見るたびに嬉しくなるように、ノアにだってそう思ってもらいたい。

ただの魔力なしのモブ令嬢で終わっちゃいけない。

モブはモブなりに踏ん張るしかない。


「他人の努力の邪魔よりも、自分の努力の方が後悔は少ないから。そっちの方が私の性に合っているので」

「……」


なんだか、らしく語ってしまった。

私は少しの恥ずかしさを噛み締めて、コーラさんに笑いかける。

コーラさんは明らかにむっすりした顔でこちらを見つめる。


「別にいいですわよ…。貴方がそう言うのなら。確かに、恋人を振り向かせる努力だって必要ですわね」


そう言いながらも、まだ不服なようで言葉を続ける。


「それでも馴れ馴れしくベタベタとする彼女を放っておくのもどうかと思いますけど?」

「彼女の想いをどうこうできるのはノアしかいませんよ」

「ノア公子が受け入れたら黙って引き下がると?」

「まぁ…それはそうでしょうね。いや、欲張りになってるんで馬鹿みたいに踏ん張っちゃうかも」

「取られてから踏ん張っても意味がありませんわ」

「だから、その前から踏ん張りますよ。ノアが奪われないように」


私は苦笑いで返しながらも、色々と想像してみる。


「けど、もしですけど、ノアがそんな簡単に心変わりする人ならちょっといいかなとか思っちゃいますね。だって…あんな風に色々とかき乱すようなことばっかり言いってくるクセに……そんなコロッとって」


そう言うと、コーラさんが前のめりになって聞いてきた。


「か、かき乱すとはっ!?」

「まぁ色々と」


なんだかんだとノアに振り回されている気もしないではない。


「そういえば…貴方たちどこまで行ってますの?そのせ、せせ、せ……………」

「せ?」

「接吻は?」

「ふぁああ゛!?○▼※△☆▲※◎★●!?」


驚きすぎて、答えの半分も言葉にならなかった。

最初はちゃんと呻き声だよ。

私が顔中が熱くなっているのを感じていたら、コーラさんも顔を赤くしていた。


「べっ、別に興味があるとかそんなことではありませんわよ。わたくしはわたくしの将来の旦那様の為にさ、参考までに聞きたいだけですわっ。別に、興味があるとかそんなんじゃなくてよ!」


言い訳がましくコーラさんは言う。

普通に恋バナに興味があるんですね。

こんな時もツンデレキャラは大変ですね。


「な、何よその目はっ!貴方の幸せにわたくしも浮かれたいだなんて思ってませんわよっ!」


そう思ってたのか。

かわいいな、おい。


そう思いながらも、ノアとのあれこれを思い出す。

思い出すけど……


──あれ?


そういえば、雰囲気はそんな感じの事は何度もあったけど、手を繋いだりほっぺをぷにぷにされるばかりでそれ以上の触れ合いはない。


──ないな!


「コーラさん、接吻のせの字もないです。ノアはあれだけ色気を出していながらお手手繋ぐだけですっ」

「あれだけ甘い雰囲気を出しておいてですのっ!?」


私が報告すると、コーラさんは信じられないと驚愕の表情を浮かべる。


「クリスティンさんは接吻なんてすぐに済ませたと聞きましたわっ!」


良く知ってんな。

その相手がチェイスのは分かっているのだろうか。


「あれ…私って女としての魅力ないですか?」

「お、女………」


私が尋ねるとコーラさんが声を詰まらせた。


「生物学的には十分な女性ですわ」


なんとか絞り出した答え。

魅力ないんかい。

確かに私たちはペタ胸だ。

ペタ胸だけども……


──思い返せば、私、女らしい行動とった事なかった……


安心感が優先してたし、ノアの色気でお腹いっぱいだったから、そこまで考えてなかった。


「だ、ダダダッ、だ、大丈夫ですわ。ミンディさんは性別的な魅力よりも、アイデンティティがありますものっっ!女性的なただの女より、ミンディさんも…きっときっと……魅力があ、あ、あ、あるはずですわっ!!」


コーラさんは嘘がつけないタイプみたい。

吃りながらも、なんとかフォローしようとしてくれた。


そっからは自分を卑下する私と、そんな私を慰めようとするコーラさんという、とっても貴重なやりとりが繰り広げられることとなった。


「コーラさん、なんでそんなに優しいのですか?」


私はズタズタの心のままコーラさんに泣きついた。

何故か弱気になってしまう。

すると、コーラさんはペタ胸を突き出した。


「そ、そんなの決まってますわ!」


また、きつい言葉が返ってくるのかと思ったら…


「貴方はわたくしの大切な『同僚』…ですもの!」

「コーラさんっ!」


心が浄化された。

ティア皇女には敵わないけど、貴方も私の推しです。

そんなこんなしていると段々と私も自信を取り戻してきた。


──えーい、こっからじゃいっ!


っと、もうちょい踏ん張ることとなった。

女としての魅力はもうちょっと勉強しようと思う。


しばらくして落ち着くと、コーラさんが私に「ノア公子は聖女の事はなんと?」と尋ねてきた。


「ノアは…多分、まだ彼女の好意にさえ気づいてないかと……」

「そうですの?」

「だってマリッサさんの好意にも気づかなかったんですよ?」

「それもそうですわね…」


コーラさんはすんなり納得した。

ノアもそれぐらいの認知になってきたなと私は苦笑いを浮かべた。


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[良い点] ミミ、めちゃくちゃカワイイ
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