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令嬢達の悪意ある話し声を耳にしながら、私はお口直しのシャンパンを探す。

皇家とも繋がりの深い公爵家なだけあって、美味しい。


──瘴気のない土地で作られたんだっけ?


私は公爵家の領地で生産されているものだったはず、と思い出す。

確か、皇帝や教皇に上納されるほどの上等品だった。

しかも、生産量がそれほど多くないからかなりプレミアなやつだ。

辺りを見回すと、他の客人達もワインよりもシャンパンを楽しんでいる。



──味わえたのはラッキーだったかも


嫌味の事は勿論、苦手な夜会だったが今日は悪くない。

有名なシャンパンを人生で一度でも味わえたのだから幸運だ。

前世では絶対に手が出なかった値段だろうなと想像を膨らませる。


「ミミ、夜会はどう?楽しんでる?」


一人で勝手に楽しんでいると、いきなり声をかけられた。

顔を上げれば、吊り目の美人さんがいた。

この人が私をこの会場に付き合わせている張本人。


「皇族並みの豪勢な食事を堪能できて最高よ」


半分嫌味のつもりで私は言った。

吊り目の美人さん──ヴェロニカは唇も挑発的に持ち上げる。


「結婚適齢期目前の貴方をわざわざ素敵な場に連れてきた甲斐があるわ」


どの口がいうかと私は心の中で毒づく。


──自分だってまだ婚約者がいないくせに


ヴェロニカは私よりも年上で結婚適齢期に突入している。


「それはどうも」


私もツンとして答えるけど上手く決まらない。

ヴェロニカはそんな私が面白いようで自信満々に素肌が丸見えの胸元を揺らす。


「…」


何故この時代の人たちは谷間を見せたがるのか。

これが私の最大の謎だ。


──胸と脚って言えば、胸の方が絶対エロいでしょ?


そう思う。確かに現代でも人によってフェチはある。

「胸より脚だ!」って主張する人はいるぐらい。

けど、胸にモザイクが入ることがあっても脚にモザイクは入らない。

つまり一般的なエロさ階級では脚よりも胸の方が格段に上。


なのに、この世界では胸よりも脚に性的な意味があって、脚を見せる女性はよろしくないらしい。昔は脚をむき出しにするデザインの服もあったぐらいなのに、今はなんでそうなのか、本当に謎。


「ミミ、それでどう?」


ヴェロニカが聞いてきた。


「楽しんでるってば」

「それを聞いてる訳じゃないわ」


少しだけヴェロニカの目の色が変わった。

きっと付き合わされている本題の方だ。


私がここに連れられた理由は観察。

壁の花になりやすい私にヴェロニカが命じた。

なんでも、情勢で貴族の派閥で動きがあったようでそれを知りたいらしい。

それが分かりやすいのが大きな夜会だ。

誰がどんな人たちと頻繁に交わすかでかなり情勢が分かる。


つまり、相当面倒な仕事。私だってこんな事したくない。

最初は断ろうと思ってたけど、パパさん達が許してくれなかった。


なんでもパパさんとママさんの結婚の時、ヴェロニカの家にお世話になったとか、ならなかったとか。多分、仲人的なやつだと思う。

ヴィロニカの家もこの帝国の有名な公爵家で、先祖にはどっかの国の王家の血が流れているとか、流れてないとか。そこら辺は曖昧だ。

とにかく、パパさん達はすごくヴィロニカの家に感謝しているので、ヴィロニカの家の頼みは断らない。ってことで、私も「観察するだけだから~」なんて諭されてしまった。


「特に分からない。皇宮の役人達はあまり変化ないみたい」


小声で私はヴィロニカに言った。

女官になりたくて皇宮に出入りしているから分かる。


私もいやいやだけど、ヴィロニカに付き合うことは嫌いじゃない。

年の近いお姉さん感覚で小さい頃から付き合っている。

話は面白いし、この世界の初めての友達だから大切な人。

正直彼女ほど仲良くなった人がいない。私は精霊に嫌われたから人にも嫌われるらしい

女官を勧めてくれたのも彼女だ。


「変化ないよりある事を報告してよ」


ヴェロニカがうんざり顔で言ってきた。

変な事ばっか頼んでくるからやっぱり、やだ。


「…ミンタ男爵が知らない女の人と来てた」


知らない顔を思い浮かべて私は言った。

それぐらいしか分からない。残念ながら、神様は必要以上の洞察力を私にくれなかった。

てか、私が単に向いてないだけかも。


「ミンタ?あぁ、きっと新しい愛妾よ」


ヴェロニカは興味なさそうに言った。


「どっかのお針子みたい。なんでも店までだしてあげたって」


この世界でも愛の形は様々だ。

パパさんとママさんみたいにお互いが一筋の人もいれば、夫婦でそれぞれ愛人がいたり──

それでドロドロの愛憎劇もあるから、人間って根本的にそんな生き物なんだなって思う。


因みに、令和を歩み始めた日本を生きてきた私にとっては、純愛を推進してます。

一生に一度の恋までとは言えなくても、夫婦になればお互いに責任と義務は負うべき、とか偉そうに言ってみる。うん。でもパパさんママさんは理想そのもの。


「前の愛妾は、伯爵に献上したみたい。ほら、あれ」


ヴェロニカがクイッと顎で指す方向には、前にミンタ男爵と一緒にいた女性がいた。


「こういうのって気まずくないの?」


私は思わず聞いてしまった。

すると、ヴェロニカがそんな私を鼻で笑った。


「馬鹿ね。全員が利益を得ているのに何が気不味いの?」

「利益って?」

「男爵は伯爵に胡麻をすれた。愛妾は男爵から伯爵の妾にランクアップ。伯爵も質のいい妾を手に入れて嬉しい」

「質がいいって、美人だけどさ…」


私はちらりと男爵の元愛妾、伯爵の現愛妾を盗み見る。確かに美人。しかも体つきが女性らしく魅力的だ。

けど、この世界には美人さんが多い。絶世の美女ほどとは言えない彼女をわざわざもらって何がいいのかと思う。


「馬鹿ね。だからあんたはお子ちゃまなのよ」


ヴェロニカは私のおでこにセンスをばちんと打ち付ける。


「ある程度の美人がご機嫌でいいよってくれば嬉しいものよ。しかも性病も厄介な人間関係もないって男爵の保証付き。プロの愛妾なら喉から手が出るほど欲しいでしょ?」


一から十まで説明してくれた。

だけど全然理解できない。てか、性病って恥ずかしがらずによく言える。


「分かった。ヴェロニカはもっと恥じらいを持つべきだ」


私がそう言えば、ヴェロニカはため息をついた。


「そんなこと言ってても、なんの利益にもならないじゃない」

「だから、ヴェロニカは魔力があるのに婚約者が──」


私がそう言いかけた時、会場に声が響いいた。


「大変だ!!人がっ…、人が飛び降りようとしてる!!!!!!!」


テラスにいたと思われる男が飛び出していた。

あまりにも慌てていて足がふらついている。


男の発言で会場がざわめく。

もちろん私も驚いてヴェロニカと顔を見合わせた。

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