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物語の主人公にはなれません〜魔力なしの令嬢に転生しましたが、なんとか踏ん張ります〜  作者: しーしび
8章 モブですがイケメン公子の婚約者です!?
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6

「ノア様、私、新しい魔法石を貰ったんです」


食事会が始まると、レイナは自分の胸元にある宝石をノアに見せた。

美しい装飾を施されたその魔石はレイナにぴったりな淡いピンク色だった。


「え、前の魔法石は?」


私は食い気味で質問する。

しまったとか思ったけど、あのブレスレットの方が気になるから。


「これ?」


レイナは袖を捲って私に自分のブレスレットを見せた。

変わらない輝きを見せる翡翠の魔石がそこにある。


「なんか、この魔石、私のマナ?だっけ、それを上手く循環してくれないらしくて、新たに魔石を持っていた方が良いって言われたの。そしたら、お友達が特別にってこれをくれて」

「わぁ!素敵、素敵!」


ティア皇女は豪華な装飾の魔石に釘付けになる。

さっきまで、ご機嫌斜めだったティア皇女は楽しそうに表情を輝かせていた。


「ミミもそう思うでしょ?」

「はい、とっても素敵ですね」


ティア皇女の同調しながらも、私は首を傾げる。


──あれはレイナの魔石になったんじゃないの?あれがレイナのマナの反応してこっちに来たのかと思ってたけど……


そう思いながらレイナを見る。

元気そうな様子から魔石を二つ所有しても大丈夫なマナの量なのしれない。

だとすれば、レイナの魔力は膨大で……


──レイナはやっぱり普通じゃないんだ。ここでも特別なヒロイン


結局、彼女はどこでもヒロインなのだ。

人生は自分が主役だなんて言うけど、誰の人生でも主役の人もいる。

誰にとってもヒロイン。それがレイナだ。


「服も可愛いね!」


気分が良くなったティア皇女はレイナの服を見ながら言った。

そう言われて私もレイナの服装を見る。

すると、私が気づいたのとティア皇女が声を出したのは同時だった。


「ミミが着てたのとのそっくり」


──また、覚えのある服……


ティア皇女は「そっくりでしょ?」と横にいるベーリードゥ侯爵夫人に声をかける。

バーリードゥ侯爵夫人は、レイナをじっと見て頷いた。


「……そうですね。見覚えのある装いです」

「え?本当?これ、オーダーで作ってもらったんだけど……」


レイナは、本当に驚いたような顔をする。


「えぇ、お店の人にアドバイスももらったからそのせいかな?」


「なんでだろうね」なんて言っているレイナの口ぶりは嘘をついているようには見えない。

あまりにも自然で演技だと思う方が人格を疑われそうだ。


「私、すごく拘って作ってもらったんだけどね。もしかしたら、好みが似てるのかな?」


レイナが不思議そうに私に目を向ける。

だけど、私はまたスキャンをされているかのような気分になって、手を胸に当てて彼女の目に少しでもうつらないようにした。


「か、かも、しれませんね」


私は苦笑いを返しながらも、「なんで?」と考える。


──なんで、また……


嫌な苦い記憶が頭の中に蘇る。

数度しか会っていないのに、私の服をそこまで覚えていたのだろうか。

いや、あの店で作るのなら私のデザイン画が残っていてもおかしくない。

確かに何点か、店長から商品として出してもいいかと確認された事はある。

他の令嬢と違って、衣装が被るぐらい特に気にしないから承諾したけど──レイナは別だ。


レイナだけは嫌だ。

いや、こわい。


「………」

「食欲がない?」


私がグッと唇を噛み締めると、ノアが除き込んで聞いてきた。

私はびっくりして顔を上げる。


「無理して食べない方がいい」


ノアは手を中々進めない私を気遣って、そんな言葉を投げかける。

ノアの裏表のない正直で心配そうな顔を見て、私は少し落ち着きを取り戻す。


──そうよ。服が一緒なぐらい何よ……


自分に言い聞かせて、深呼吸をする。

今はあの時とは違う。

きっと分かってくれる人がいる。

だって、ティア皇女も私の服と似ているって言ったんだもの。


「大丈夫」

「そっか」


私とノアが言葉を交わしていると、次のお皿が運ばれてきた。

お皿にはかけるソースを選ぶように2種類置いてあった。

ベリーがベースのものと、野菜ベースと思われるもの。


甘党のノアだが、食事の時に果物などの甘い味が出るのは苦手だそう。

前に「僕はご飯とお菓子は別にしたい」と言っていた。

なんでも、分別できない曖昧な境界線が気持ち悪いらしい。


当然ノアは野菜ソースの方をかけようと手を伸ばすが──


「ノア様、こっちのソースの方がいいですよ?」


レイナはそう言ってノアのお皿にベリーのソースをぶちまけた。

いいかどうかの確認もせず、ノアのお皿の肉はベリーのソースで覆い尽くされていた。


「絶対、このソースが美味しいですよ。これを食べたら、こっちなんてありえません」


レイナがそう言うがノアは自分のお皿を見たまま固まっていた。


──変えてあげるべきかな…


私はノアのと取り替えようとしたけど、黙っていたノアは「いただきます」と小さくつぶやいて食べ始めた。


「……」

「美味しいですよね?」

「……」


レイナが話しかけるが、ノアは黙々と食べ続けるだけ。

真横にいた私はそんなノアの顔が半分死んでいたのを見つけてしまった。

けど、レイナは食べ続けるのが返事だと思ったのか、表情を綻ばせる。


「ふふっ」


嬉しいのか笑いを漏らすが、私はどうしようと焦っていた。

バーリードゥ侯爵夫人とティア皇女は両方味比べして、「ベリーも美味しいですね」ってレイナに言った。


──も、もしかして…この前の我が家でノアってこんな顔してた……?


必死に食べるノアを見て私は不安になる。

だって、ノアは胃もたれするほど食べてくれた。

私は家族でテンションが上がってしまっていて気づかなかっただけでは、と思うと不安になって仕方がない。

黙々と必死に食べているノアを見つめがなら私はあわあわとしていた。


すると、バーリードゥ侯爵夫人が口を開く。


「テーブルマナー講師はどなたですか?とても綺麗な所作ですね」


バーリードゥ侯爵夫人が食事をするレイナを見ていた。

釣られて私もそちらに目を向ける。

確かに食べ方は完璧で綺麗だ。

それこそ、映画にでも出てきそうな程。


「本当ですか?」


レイナは嬉しそうに顔を綻ばせる。


「えぇ、数ヶ月で習得したとは思えないほど自然です。殿下、マナーは一日では身につかないのは自然さが必要だからです。わざとらしい所作は逆に相手を不快にさせてしまいますから」


どんな事でも、ティア皇女の教育につなげていく。

流石、バーリードゥ侯爵夫人だ。

ティア皇女も「わかった!」とそれを素直に聞いて頷いている。



「そういえば、ミンディさんの先生はお母様だとか」


バーリードゥ侯爵夫人が私に話を振った。

私はノアを気にしながら答える。


「はい。家庭教師は付けずに、全て母が一から教えてくれました」

「勉強も?」


食べ切ったノアが、口元を拭きながら聞いてきた。

私は頷いて答える。


「うん。ある程度はね。でも、定期的にヴェロニカの…オリエンス公爵家でヴェロニカの家庭教師にちゃんと身についているかテストしてもらったりしてたかな」

「この世界って学校がないの?」


私が話していると、レイナが不思議そうに言った。


「学校は男性の通う場ですから」


バーリードゥ侯爵夫人がそう言うと、レイナは信じられないと言わんばかりの表情を浮かべた。


「勉強するのに男も女も関係ないですよ」


真っ当に訴える顔をしたレイナがバーリードゥ侯爵夫人に言った。


「平民の学校は女性も通うことがあるらしいですが、貴族の女性は家庭教師の授業で事足ります。女性が家庭教師から習う範囲は男性も同じように家庭教師から学びますが、男性は仕事をする上で、それ以上の内容が必要になるので、学校という場所があるのです」


レイナの質問にきっちりと返事をするバーリードゥ侯爵夫人。

いつも的確で簡潔な説明。

だけど、レイナがそれで納得するわけがない。


「女性だって、教育の場があっていいと思います。そうでないと可哀想です」

「それは家庭教師で十分です。女性でも学びたいという方は専門の家庭教師を雇って勉強されますし、宮廷内にも文官として働く女性はいますから」

「でも、女性や男性で分けてしまうんじゃなくて、もっと平等にするべきだと思うんです」


レイナは自分の意見を主張する。


「男や女、貴族や平民って分けるんじゃなくて、もっと平等な社会があるべき姿です。そっちの方がみんな幸せになって、よりより世界になるんだと思います。そうじゃないって、すごく悲しい事だと思いませんか?」


レイナはヒロインらしく健気に言った。

レイナの話す空気感を思い出し、私は前の世界ならみんなが賛同しただろうなと思った。


多分、レイナの言う事は間違ってないと思う。

それが理想で、目指すべき社会なのは分かる。

そして、レイナみたいに主張する人がいるべきなのも分かる。


「確かに、性別や身分に固執した考えは毒となる事はあるでしょうね…」


バーリードゥ侯爵夫人は頷いたが、複雑な表情を浮かべた。

レイナの言葉は少し主張が強い。

まるでそうでないといけないかのような口調に全てを賛同するのを躊躇っているのかのようだ。


そして、バーリードゥ侯爵夫人はノアの方へ顔を向ける。


「公子はどうお考えで?」

「僕ですか?」


ノアは話を振られて顔を顰めた。

ノアの苦手そうな話題だ。


「そうですね…。お二人の言うように性別や身分が障壁になるのは問題だと思います。枠組にはめ込んで、人の可能性を止めてしまうのは違う…」


ノアはゆっくりと考えながら言った。

レイナは何故か期待の眼差しをノアに向けていた。


「ですが、性別や身分によって差があるのも事実です。第一に、男女では体の仕組みが違う。一説では男性の体は生きるために必要な狩を目的としたもので、女性は生命を次の代へ継続させるのを目的とした作りになっていると聞きます。動物でも、雄と雌で個体の大きさが全く異なるように、元々の体の作りの根底から異なるという論文を読みました。その話はどこまで信憑性があるかは分かりませんが、僕は興味深かったです」


この時代でも、人間の起源って気になっているんだな。

私はぼんやりと考えながら、ノアの話を聞いていた。


「この話によれば、女性よりも男性の方が力仕事に向いていると考えられる。また、女性が男性よりも家庭に入るのが優れているとも言える」

「ノア様、私が言いたいのはそうじゃなくて…えっと……」


レイナは困ったような顔をした。

するとノアが手でレイナが話すのを制して、さらに言葉を続ける。


「ただ、これは能力的な点でしかない。動物ならそれでいいのかもしれないが、僕たちは人間であり、考えや思い、思考がある。つまり、こうでありたいというそれぞれの思いがあるからこそ、そこに身体的な優劣のみで判断するのは間違いなんだと思います。それは貴族と平民で育った環境による差も同じです」


きっとそれはノアが今まで感じてきた事なんだろうと思う。

公爵家の男として生まれてきたノアには、欲しくもない責任が常に付き纏ってきた。

そして、多くの人はそれは当たり前だと、ノアの思いを考えようとはしなかった。


「思いに応える環境は必要だと思う。同時に、能力が伴わないと意味がない。工事現場で女性を2人雇うより、女性2人分の仕事をする男性をそれぞれ2人雇う方が効率がいいのは確かだし」

「それは、そうだよね…」


いくら文官になりたくても、文官になれる学力に達してなかったら、無意味だもの。

私が頷くと、バーリードゥ侯爵夫人も頷いた。

レイナはどんな話が続くのか不安げな顔でそれを見守ってる。

ティア皇女は空気を読んで黙っていた。

本当に賢い人だ。


「この話で重要になるのは、もし、国の予算を使って、アカデミーに女性も通えるような環境を作ったとして、それに見合うだけの成果が出るかどうか」


ノアは淡々と説明を続ける。


「女性が通えたとしても、希望する女性がいなかったら無意味だ」

「それは、後々きっと増えてくるはずですっ!みんな固定観念ができてしまって頑張ろうって気にならないから……」

「それは絶対な話じゃない。寧ろ、今でも社会に出ようとする女性はそれぞれの方法を使って出てきている。現に、夫人やミンディ嬢もこうやって働いているし、女官でなくても文官になろうと勉強に励む人だっている。だとしたら、予算を使ってまで後の結果を取るか、それとも今ある状態でその予算をもっと今、現れる数字として獲れる方に回すかって話になる」


──なんか、複雑になってきたな…


ノアは噛み砕いて説明してくれているのだと思うけど、私の頭は既に混乱状態。


「結果結果って……、人の気持ちは数字では表せないと思います」


レイナは主張する。

まさしく心優しいヒロインそのものだ。

思いが大事だと言っているけど、ノアはそんなレイナを見て首を傾げた。


「政治は数字だ」


ノアは言い切った。


「1人が救う道よりも100人が救う道を選ばなければいけない」


ノアがそう言うと、レイナが泣きそうな顔をした。

うまく伝わってないのではと思い、私はできるだけ柔らかい口調で説明する。


「聖女様の意見を否定しているわけではありません。公子も夫人も、人に平等の機会があってもいいって話には賛同していますよ」

「でも、学校はダメだって……」


だが、レイナは悲しげに呟く。

私はもう一回トライする。


「ノア公子はダメとは言っていませんよ。可能性の話をしているだけで──」

「……でも、絶対、女性も学校に通う方がいいと思いますっ」


今度はレイナが私に向かって訴えるように言った。

何故かその顔は私は酷い事を言って彼女を泣かしているかのようだった。

私は少し焦りながら言葉を続ける。


「そうなるのが、理想でしょうけど、まずは段階を──」

「そうですよね…。ごめんなさい」


私が話そうとすると、レイナが心底傷付いたと言う顔をした。


「私、でしゃばって…いい過ぎましたよね。この国の助けになるかと思って言ったのに…なんでミンディさんはそんなことを…」

「いえ、そうじゃなくて……」

「あ、私、そろそろ授業の時間なので……」


レイナはそう言って、目を赤くして去って行った。


──え?


最終的に私が虐めたような結果になって唖然とした。

ノアも状況がよく分からないのか、首を傾げたまま固まっていた。


──どう言うこと?


私も混乱して首を傾げ返す。


「ねぇ、いきなり席を立つのはマナー違反だよね?」


ティア皇女がバーリードゥ侯爵夫人に問いかけていた。


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