12
心臓がドッドと激しく動く。
血流は勢いがあるはずなのに、なぜか体は冷たく感じた。
「ミミ?」
呆然と立ち尽くす私に、ティア皇女が声をかけた。
私はすぐにハッとして、我に返る。
「お腹痛いの?」
ティア皇女は皇太子に抱かれながら、心配そうに私を覗き込む。
皇太子も同じような顔をしていた。
「ずっとティアについていてお疲れでしょう。休まれた方がいいのでは?」
「いえ、さっきまでふらついていたので」
ちゃっかり私はノアに会って大会を満喫している。
心配してくれている2人に申し訳ない気持ちになった。
──違う。考えちゃダメ
関わらないと決めたのだ。
レイナが何をしようと私には関係ない。
私は表情を引き締めた。
ナヨナヨしていい期間は過ぎた。
私は、今を守るって決めた。
前世のあの世界に戻れる可能性を私はもう探ってない。
探る必要なんてないから。
「殿下、皆さんの所へ行きましょう」
私は笑顔を引き寄せて言った。
ティア皇女はそれに元気よく頷いて、皇太子の腕から降りた。
自分で歩きたくなったみたい。
「そうだ。ウルグス嬢もご一緒しませんか?」
皇太子が私に提案してきた。
元々、ティア皇女を目的の場所まで行ったら、後は侍女に任せて近くでのんびり待機しておくつもりだった。
お偉いさんの食事会に下級貴族でただのお付きの女性が居座っていい訳がない。
特に、乳母でもないし、皇后付きの女官でも、同席する事は滅多にないはずだ。
「いえ、そんな、恐れ多い…」
私はブンブンと手を振った。
そんな食事会に参加しても、水さえ喉を通らない。
「今日は、いつもより参加者が多いのです。私も面識のない方々が多いので、何も緊張される必要はありません。それに、ティアがあまりにもウルグス嬢の事を話すから、陛下も貴方に会いたがっているのです」
「いや、でも…」
「しかも、食事会で陛下達は内々の話を進めるようです」
皇太子は声を小さくして話し始めた。
「なので、本当は僕もティアも退屈してしまうので、付き合って頂きたいのが、本心です」
そう言って、皇太子はちょっと茶目っけのある表情を見せた。
──これが、次期皇帝…
皇太子は吃ることもなく、サラサラっと言ってのける。
しかも、私が気兼ねしないようにいいように話を回す、回す。
回され過ぎて私は、彼の人形になってしまいそうだ。
これが皇族の15歳かと私は感嘆した。
2周目の15歳でもこんな事にはならないぞ。
しかも、腰の低さも100点満点。
ヴェロニカみたいな裏がないような、ティア皇女そっくりの純粋さ。
皇族の血って、他人がつい言うことを聞きたくなっちゃう能力があるのかな?
ノアにしてもティア皇女にしても、この皇太子にしても凄い。
「それなら、お言葉に甘えて…」
私はそう言うしかなかった。
そして始まった、食事会。
皇太子の言う通り、聞いていたよりも人数が多くなっていた。
ずらりと大御所達が並んでいて、私は一瞬で緊張する。
──やっぱ、場違いじゃん
私は一歩一歩、慎重に歩く。
もちろん、神経を全方向に尖らせて、すぐさま何かを察知できるようにした。
すると、私のセンサーに引っかかったのは──
──ヴェロニカァアアアアア!
バチンと目があった。
ヴェロニカは「あら、いたの?」ってな感じで、余裕の笑みを見せてくる。
ここにいたのかいお嬢さん。
初めて、ヴェロニカを見て助かったとか思った。
「ウルグス嬢、こちらへ」
皇太子が席を教えてくれる。
「ミミはティアの隣だよ!」
お付き女官の特権だろう。
私の席をポンポンと叩いてティア皇女が嬉しそうに言ってくれた。
だが、その席はヴェロニカと距離がある。
──そんな…
心細さを感じ、ヴェロニカに視線を移すと、それに気づいたヴェロニカが口をパクパクとさせる。
私は前世よりもかなりいい視力でそれを確認する。
『いい情報、よろしくね♡』
一瞬でも、ヴェロニカに助けてもらおうと思った私が馬鹿だった。
──こういう女だった
今更だけど、ヴェロニカは一筋縄ではいかない。
助けてもらうには対価がいる。
何があってもその精神を崩さないヴェロニカは逆に尊敬する。
──私の周りって、己貫く系多いな
そうぼんやりと思っていると、その第一号が現れた。
1号も私がいたことが意外だったようで、驚いて一瞬立ち止まる。
──ノア、人の邪魔になってるよ
ノアの後ろにあった流れがちょっとゴタゴタとし始めた。
私はその様子に笑みを浮かべる。
ノアもそれにすぐ気が付いて、自分の席に向かおうと何となくぎこちない動きを見せる。
──何やっててんのよ
いつものノアのお陰で私は少しリラックスし始めたのだけど──
「陛下、彼女がウルグス嬢です」
「あ!ミミはティアが紹介するの!」
私がノアを苦笑いで見ていると、皇太子とティア皇女がいつの間にか両陛下に私を紹介していた。
いきなりそんな大イベントが発生するなんて思ってもなかった私は慌てて挨拶をする。
「我らが太陽にご挨拶申し上げます。ミンディ・ウルグスです」
「其方が」
皇帝が目を細めて私を見る。
品定めされている感じがビンビンと伝わる。
その横で、穏やかに微笑んでいた皇后も口を開く。
「ティアからよく話は聞いています。会うのを楽しみにしていましたよ」
柔らかい雰囲気がありながらも、どっしりとした感覚。
皇后も、この国の母であるのだと思わざるをえないものがある。
その後、どんな会話をしたか正直、覚えていない。
ティア皇女が色々とはしゃぎながら話して、皇太子がフォローしてってな感じで挨拶は終わった。
席に着く頃には疲労感で一杯。
──あれ…今日って楽な日じゃなかった?
お祭りモードでみんなワイワイする場ではなかったのか。
思い描いていた今日とは何か違う。
少し憂鬱な気分でいると、それを追い討ちをかける人物が現れる。
「この度はお招き頂きありがとうございます」
綺麗な挨拶をして現れたのはついさっき人々の注目を集めていたレイナだった。
「これは聖女様、初めまして」
「お久しゅうございますな」
「これはまた、随分と美しい方で」
テントの中にいた人たちはレイナを歓迎する。
別にレイナがここで邪険にされる理由なんてない。
ないのに、そことに少しモヤモヤとする。
──私、無事に帰れるかな?
このテントで行われる食事会がそう簡単に終わる気がしなくなった。
*****
「今回の優勝者は誰でしょうな」
「やはり、ジャマ家ではなくて?」
「だが、この度は伯爵も跡取りも不参加ではなかったか?」
「確か、瘴気が濃くなって魔獣の討伐で離れられないと聞きましたわ」
「先代の聖女が亡くなってから、瘴気が濃くなりましたな」
ワイワイと話が進んでいく。
それぞれ近くのもの同士で世間会話をしていた。
まだ、最初だから真面目な話はしないのかもしれない。
皇帝陛下の近くに座っている私は笑みを浮かべる余裕もなく、話を聞いていた。
目の前にノアがいるのがせめてもの救い。
けど、その近くにはレイナがいる。
「参加者が皇族から1人もいらっしゃらないのは残念なことですわ」
「我らが参加すれば、皆遠慮してしまうではないか」
「それは困りますな」
皇帝陛下が軽く返した言葉で、周りがどっと沸いた。
「もう数年されれば、皇太子殿下がデビューされますかな?」
「はい。皆様方の期待に添えるよう、今から精進しています」
「おぉ、これは心強い」
この面々の中で皇太子は普通に言葉を返す。
流石だ。
「デネブレの公子は今回も参加しないのですか?」
誰かが、ノアに話を振った。
ノアは黙々と食事をしていた顔を上げる。
「はい。体を動かすのは苦手なので」
そういう事を平然と言ってのけるノアは嫌いじゃない。
周りの方達もそんなノアに慣れているのか、それに笑って返す。
「若い頃のデネブレ卿は、ジャマ卿と優勝を争うぐらいでしたのにね」
「その才能が受け継がれてないのは実に残念だ」
「恥ずかしながら、我が息子は、本ばかり読んでいた為、私の才能を受け継ぐ暇がなかったのだよ」
デネブレ公爵が軽い口調で言った。
この人はどこでもこんなノリらしい。
「それにしても、どんな大物が現れるか楽しみですな」
「昼を控えめにしなければ、夕食にたらふく食べられませんぞ」
お偉い方ばかりで緊張していたが、そこまで気を張る必要なんてなかったのかも。
普通のおじさんみたいに笑いながら話す彼らを見ていると、気分がほぐれてきた。
「スノトーラ卿もそう思いませんか?」
誰かが黙って食事をしていたスノトーラ公爵に話を振った。
今回はヴェロニカのお父さんは出席してないけど、三大公爵家の人が勢揃いだ。
──彼がスノトーラ公爵…
初めて本物を見た。
深いシワが顔に刻まれ、表情が険しく見える。
綺麗に整えられた髪や髭、服装から彼が硬派な人柄が見て取れた。
デネブレ公爵や皇帝よりも歳を召している様だった。
スノトーラ公爵は口元を拭くと、低い声で言った。
「この度は、この会の格式を下げる愚か者がいないことを願うばかりだ」
どっしりとした物言いは、皇帝とはまた違った威厳がある。
緩み始めた私の糸が再び張る。
──この人の前では絶対失敗しちゃいけない…
目の前にある平均台から落ちたら即死。
そんなイメージが頭に湧いた。
さっきからグラスを何度も煽っているのに、喉の渇きが癒えない。
そんな緊張感のある中、鈴の音のような愛らしく、そして凛とした声がその場に響いた。
「名誉とか格式とかそんなに大事ですか?」
ざっと視線がその声の主に向かう。
その発言をしたのは、レイナだった。
不思議そうな顔をしてレイナが言葉を続ける。
「実力を見せる場とか聞きましたけど、こんなのただの生き物の虐殺ですよね?それで楽しむなんて、名誉でも何でもありませんよ。命を無駄にするなんて、皆さんの言う神を冒涜する行為じゃないんですか?」
レイナは私の知っているレイナだ。
かわいいだけの人だったら女子から嫌われていただろう。
でもレイナは物事をはっきりと言って、自分の考えを言えるサバサバした性格の人だった。
発言する姿も、自分の正しさを胸を張っていて、そこにカリスマ性を見出していた人は少なくないと思う。
このメンツの中でそんなに堂々と言えるレイナは、やっぱりそのままのレイナなんだなと私は感心しつつも──
──ここで、それを言うか?!
と目を剥きそうになった。
正直、レイナの言い分はわかる。
分かるけど、それをこの場で言うのは違う。
正しければ何をしてもいいってのは違う。
もちろん、さっきまで和やかな空気であったはずのテント内は静まり返っていた。
スノトーラ公爵が発言した時とは全く色の違う緊張感が漂い、どう見ても良くない雲行きが見られた。
──うわ…
嫌な雰囲気が流れる。
「陛下が主催する大会が只の虐殺行為だと?」
重い空気の中、最初に口を開いたのはスノトーラ公爵だった。
厳しい公爵の声で余計にその場の空気が悪くなる。
その場にいるほとんどの人がレイナを厳しい目で見始める。
「えぇ、そうです。生き物はみんな生きてるんです。それをただ、名誉のためなんてくだらない事の為に犠牲にするなんて、気がおかしいです。人じゃなきゃ殺しても構わないって考えがおかしいです」
レイナは怯むこともなく言った。
「名誉のためなら、自分の家族も殺されてもいいって人はいるんですか?」
レイナは演説をするかのように周りに呼びかける。
だが、誰も賛同しない。
皇帝の前でそんな愚かな行為をする人なんていない。
そんな空気に気づかないレイナは、自信のある顔をしていた。
自分が間違ってないと思うなら、そんな顔になってしまうのかもしれない。
「其方、陛下を愚弄するつもりか?」
スノトーラ公爵が変わらぬ口調でレイナに問いかける。
「愚弄とか、そんなんじゃなくて、ただ間違っているって言いたいだけです」
──それが、皇帝を批判しているってことだよ!!
何で伝わらないんだと私は頭をかきむしたい気分だった。
いくら関係ない世界で生きてきた人間だとしても、それぐらいは分かるはずだ。
レイナが妙に平然としている分、私が焦ってくる。
レイナにはこの周りの今にも摘み出されそうな空気が分からないのだろうか。
──もし、ここでレイナが帝国の反感を買ったら…
そう考えると只では済まないと分かる。
下手をすれば──
ギュッ
そう考えていると、私の袖をティア皇女が掴んだ。
不安そうに周りを見つめながら、しっかりと掴んでいる。
──こんな空気耐えられないよね…
5歳の子どもに酷い場面は見せたくない。
そう思うと、気になるのはノア。
ノアの方にも目を向けると、ノアも複雑そうな顔をしていた。
まるで、自分が罰を受けているかのような顔。
さっき、ノアと交わした会話を思い出す。
──そりゃ、ノアも責められている気分になるか…
具体的に言えば、レイナとノアの発言は少し違う。
レイナは根っから批判しているけど、ノアは大会を楽しむ人たちの気持ちも汲んでいるから。
けど、今、レイナを批判したらノアはきっと──
──何で、私はもっといい方法が思いつかないんだろう…
そんな溜め息が出そうな気分になりがら、私は息を吸った。
「そういえば、聖女様の世界は争いの少ない平和な世の中だと聞きました!」
はい、発表しますってなテンションで私は叫んだ。
そうでないとこの空気に打ち勝つ勇気が持てない。
レイナはいきなり大声を上げた私に驚いた顔を向ける。
「きっと、瘴気もなくて危険な魔獣もなく、討伐することもないし、人同士の争いも少なくて、下手をしたら兵士や軍もいらない世界で、生き物全てが同等の命として扱われていたのでしょうね!」
「軍がいらないだと?では、国をどうやって守るのだ?」
私の発言で、静まっていた空気が響めきだす。
いらないって表現はオーバーすぎた。
過ぎたけど、今更止められない。
「国同士での武力での争いは利益がないと言う考えがあるそうですよ。話し合いで、お互いが利益を得れる形でまとめるんです。皆様も領地間で取り決めをする時はそうではありませんか」
「あぁ、そうだが…」
「そうよね」
「確かにな」
何とか、皆さんは納得してくれた。
正直、よく分からないけど、ニュースでのイメージはそんな感じだ。
戦争による利益より、何かが上回って何かになっているはず。
有耶無耶だけど、仕方ない。
「それに、確か、武器を持って歩く方なんていないそうですよ?そうでしたよね、聖女様!」
私が話を振ると、レイナは驚いた顔をしたまま、頷いた。
「そうだけど…そんな話したっけ?」
「教えてくれたではありませんか。聖女様の国の価値観は私たちと違うのですね」
私は無理やり話を進める。
「きっと、何が大事かなんてきっと国や世界によって色々と違うのでしょうね!」
私は今度はレイナに向かって言った。
緊張で顔は笑顔で固まってしまっていた。
「聖女様が生き物の命を尊ぶように、自分の家族や大切な方々の為にも名誉を守ろうとする人もいる。人によって優先するものは違うでしょう。ヴェロニカさんも、ワニと長年友人のように暮らしていますし、聖女様の思いがわからなくもないのでは?」
今度は貼り付けた笑顔のままヴェロニカに話を振った。
ヴェロニカは私の「伝われ~」って念をすぐに受け取って、意味深な笑みを浮かべた。
頼む。子爵の娘ではこれが限界だよ。
「そうですわね」
ヴェロニカがゆったりと口を開く。
私はその間も念じ続けた。
「確かに、私はエリザベスを友人のように思っていますわ。聖女の言う通り、無闇に命を消すってのは賛同しかねますが、この狩猟と言うのは虐殺ではありませんもの。私は毎年楽しんで参加していますわ」
ヴェロニカが笑って言った。
「楽しんでって…」
レイナが反論しようとすると、ヴェロニカは扇でそれを止める。
「聖女、このような会が定期的に行われることで、魔獣達によって脅かされる生活を守る行為にもなるのですわよ?」
「そんなの言い訳で──」
「それに、どの命も粗末にはしませんわ。私達も頂きますが、民へも食料や物資として提供されるのです。私達には誇りがありますもの」
ヴェロニカはクイッと顔を上にして、レイナを見下げるような仕草をした。
「聖女にはチンケに見えても、この大会はとても意義のあるものですの。まだ日が浅く、聖女はよく分かっていないようですわね?博愛主義も大切ですけど、まずはこの国を理解してくださると嬉しいですわ」
「……」
ゆったりと笑いながら毒を吐く。
高度すぎて私にはできない。
レイナはそんなヴェロニカを理解し難そうに見つめていた。
ヴェロニカも溜まっていたのか、流暢に色々と言ってくれた。
釘刺しも完璧で、他の貴族も目が穏やかになった。
──そんな意味もあったのか…
実は知らなかった私。
ヴェロニカに助け舟を頼んで正解だった。
けど、ヴェロニカが「借りよ?」ってな感じで、ニヤリと唇を歪ませられたのが忘れられない。
「なるほど。価値観か。それは盲点だった。これは我々の配慮が足りなかったようだ」
皇帝が笑いながら最後に収める。
皇帝がレイナを擁護したことで、他の人たちもそれ以上何も言わない。
スノトーラ公爵も黙っていたが、厳しい目つきになっていた。
その中で平然と食事を続けているノアのお父さん。
けど、それより、私が思っていたのは…
──でかい…
器のデカさが全然違う。
これが皇帝かと私は面を喰らう。
レイナは大人しく座って、黙っていた。
何を考えているのかは分からない。
何がいけなかったか分かってくれればいいが、どうなのだろうか。
私が気にしていると、また皇帝が口を開いた。
「それにしてもウルグス嬢と言ったか?其方のお陰で、実に興味深い話が聞けた」
皇帝がこちらに顔を向ける。
「私は、聖女様のお話をお伝えしたに過ぎません」
私は頭を下げながら言った。
ほとんど勢いだったから、恥ずかしさで悶えそう。
賢い人なら、お偉いさんの前で恥をかくこともなく、上手く収められたのかもしれない。
ただ、あの場でレイナを庇う気のあった人間が誰もいなかった。
知り合いが命の危機にあって、素知らぬ顔をするのは流石に出来ない。
後味が悪すぎる。
「ウルグスといえば、もしや『魔力なし』の?」
「あぁ、非常に残念でしたな。だが、確か最近魔力なしは呪いではないと聞いたことがあります」
「私の兄も『魔力なし』でしたわ。体の弱い方でしたからそれが原因だと言われましたわ」
さっきの空気はどこへやら、元の様に語らい始める。
私はやっと空気が吸える。
震えも止まってきた。
「ミミはねすごいんだよ!」
「ティア、行儀が悪いぞ」
私の話になってティア皇女が大きな声で話そうとする。
それを、皇太子が止め、困ったように話し始めた。
「ウルグス嬢には、ティアが酷くお世話になっているんです。ティアがすごく懐いていて、終始その話ばかりをするんですよ」
皇太子がまた大人顔負けの話の広げ方をする。
皇族の血って何だろう。
「ミンディ嬢は素晴らしい方です」
すると、ノアも話し始めた。
話を振られるまで黙っているタイプの人間が口を開いた事にみんなが驚く。
一斉にノアに注目が集まった。
「ノアお兄様も、ミミと仲良しなの」
「まぁ、そうでしたの?」
「確かに、お歳が近いですものね」
「公子にそんな方がいらっしゃるなんて」
ティア皇女のこの話に食いつくのはご婦人方。
そんな色めき立つ話じゃない。
私は誤解されるのではと慌てていると、ティア皇女がトドメを刺した。
「あのね!ティアはノアお兄様とミミが結婚するといいなって思うの!」
「ふぇ?!」
飛んだ爆弾発言に私は素っ頓狂な声を上げた。
何で小さい子ってこんなとんでもない話をし始めるのだろう。
ご婦人方は「まぁ!」って驚いて嬉しそうな声をあげる。
「ほう…」
「そこまで話が進んでいるの?」
両陛下も勘違いして、反応していた。
「知らなかったな」
ノアのお父さんも何故か愉快そうに言った。
──違う!違う!そうじゃない!!
私は慌てて訂正する。
「違います!確かに、公子とは友人として──」
「僕もそう思います」
ノアが私が訂正するのに被せて言った。
私がノアの言葉に「何が?」って思っていると、ノアが再び口を開く。
「僕もミンディ嬢と夫婦になるつもりでいます」
抑揚のない声、平然とした顔のノア。
まるで業務報告でもしれいるかの様な口ぶりで、言った。
言い切ったノアは口を閉ざしたけど、私は空いた口が塞がらなかった。




