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物語の主人公にはなれません〜魔力なしの令嬢に転生しましたが、なんとか踏ん張ります〜  作者: しーしび
7章 モブですが、イケメンこうしラブ、恋敵は聖女
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数日後、あの葉巻の件については密かに憲兵が動いているとの事で、私達は報告を待つ日々が続いた。

私達はそれぞれ気にしながらも、これといった報告がない事に半分安心していた。

ただ、勘違いであればそれでいい。

何事もないならそれでいいと思いながら、やっぱりちょっと気になる。

けど、何気ない日々を忙しく暮らしていた。


「コーラさん…ど、ど、ど、どうしましょう…」


だが、何気ない日常が必ずしも無いもないとは限らない。

私は震えながら手の中にある物をコーラさんに見せた。


「何ですの?あら、刺繍?」

「刺繍です…。そう、私、刺繍をしちゃいましたよ…」

「あなたがいくら体を張るっていう令嬢としてありえない方でも、刺繍ぐらいは嗜みとしてあるでしょ?」


コーラさんは呆れ顔で言った。

それはそうなんだけど、違うんだよ。

コーラさんみたいに不器用じゃないから、針仕事は得意だけど。


──いや、そこはいいのよ!


私は手に持っているものを更にコーラさんに突き出した。


「腕章に刺繍をしちゃったんですよ!」

「何か問題でも?あ、あら?これって…」


訝しげな顔をしていたコーラさんは、私の手の中を覗き込むと、目を丸めた。

そして、お兄さんのアーノルドさんそっくりに目を細めた。


「デネブレ公爵家の紋章ですわね。白銀の狼」


わざとなのか、コーラさんは熟考するかの様にゆっくりと言葉を紡ぐ。

そのせいで、私の耳に異常な熱がこもり始める。

それが頬にまで回ってくるのはすぐだと分かっているので、私はその腕章を握った手で顔を隠した。


「どうしましょう…、なんか気づいたら作っちゃってて…あれのせいですよ。出席者の名簿確認と一緒に色んな家の紋章もついでに調べたりしたからっ!」


言い訳だと分かっているけど、私は早口で言った。

もちろん、コーラさんの目からは冷凍ビームがやってくる。


「帰って来た時から、貴方は上の空でしたわよ?あれでちゃんと覚えていたのが、今でも不思議ですわ」

「う゛っ…、仕事は仕事です」

「そうね。さすが筆頭女官ですこと」

「違うんです…あれは、あれは…」


私は何か言葉を紡ぎ出そうとするけど、思い浮かぶのはついノアを抱きしめた私。

脳みそが爆発してしまうように感じて、私は項垂れた。


──だって、ノアも落ち込んでたから…私と同じで…


あの時はそうしたくなった。

いきなり母性みたいな何かが暴走した。

暴走して、恥ずかしさとか考えずについノアを抱きしめてしまったのだ。


「私って、痴女かもしれません…」

「ちょっ、ちょっと!なんて破廉恥な言葉を言うのよ!」


私が反省していると、コーラさんが顔を真っ赤にして叫んだ。

反省タイムのはずだったけど、自分より混乱している人を見ると少し冷静になる。


「いや、あれはノアが先に誘ってきたんだ。私だけが悪いとかじゃない…」

「さ、誘う!貴方達!一体何をしていたのっ!?」


コーラさんの顔はトマトみたいになっていた。

混乱しすぎて扇をブンブンと振っている。

なぜか、その扇がこの前よりも頑丈な何かで作られている事については、今は言及しないでおこう。


「あ、貴方っ、それを作ったってことは、渡すおつもりなんでしょ!だったら渡せばいいじゃないっ!なんで慌てているんですの!?」


今、慌てているのはコーラさんの方だ。

そう思いながらも、私は深いため息を吐いた。


「いや、渡しても迷惑に決まってるじゃないですか…」


ノアが贈り物にそうそういい感情を持っていないのはよく知っている。

トラウマレベルのものなのに、それを勘違いしているからギリギリ闇堕ちせずにいてる感がある。


「どうせ、私も友人止まりですしね…」


私がそんなことをぶつくさ言っていると、代わりに慌てふためいていたコーラさんがピタリと動きを止め、こちらを不思議そうに見てくる。


「迷惑?友人?」


おっかしいなと言わんばりにコーラさんが顔を歪ます。

なんだろう。友達未満とかやめてくれ。

これ以上惨めになってしまう。


そんな事を思って構えていると、コーラさんは更に言葉を続ける。


「あなた方ってお付き合いをしているのではなくて?」

「ふぇ!?」


いきなりの質問に、私は素っ頓狂な声を上げた。


──ノアと付き合ってる?!


何をどう捉えられたのか、私は頭を回す。

けど、分からなくて、そんな誤解をさせた責任は絶対自分だと確信する。

どう考えても、マイペースなノアから何か感じられるはずもない。


──私、何をやらかしたっ!!!!


やっと落ち着いた空気を取り戻しかけたはずなのに、またこの場が慌てふためき始める。


「え、え、私、そんなに好意がバレバレでした…?彼女面してました!動物的に私の縄張りだとか牙を剥き出してました!?」

「貴方、お付き合いの意味をとり間違えてませんことっ!?」


私が縋るようにコーラさんに質問のマシンガンをかますと、コーラさんも驚いて言ってきた。


「間違えてませんよ!付き合ってないんだから、そんな風に見えるわけないじゃないですかっ!きっと私がノアに近寄る女性を全員打ち倒してたんだっ!」

「武道でも習っていたの?」

「習ってませんよ!目で撃ち殺してたんです!」

「まぁ!そんなことができますの!是非教えてくださいな。お姉様もそれをマスターされていましたわ」

「あ゛ぁ゛ぁ~~~~」


私はその場に崩れ落ちた。

コーラさんとは話にならない。


──無意識に彼女面…


私はショックだった。

自分で言うのもなんだが、そこら辺は臨機応変に対応しているつもりだった。

たとえノアに好意を寄せていても、ドギマギすることがあっても、友人として演じれていると思っていた。


──いや、抱きしめている時点で…


既に私は下心の塊で、そんな自分に全く気づけていなかった。

ノアのあれはティア皇女にするのと一緒で親愛の一つのように思う。


──そして暴走の末に、こんな刺繍まで


浮かれて想像していたところまではよかった。

思い出して、夜にふとちょっと作ってみようかなとか軽い気持ちだった。

そんな軽い気持ちがきちんと作品として出来上がってしまったのだ。


「やっちゃったよ…」


私が項垂れると、コーラさんはそれを観察しながら声をかける。


「お付き合いはしてないにしても、それは公子に渡すのですわよね?」

「渡すなんて……、だって、まずノアは大会に参加しないだろうし。渡す意味がありませんよ。それに迷惑だからぁああ!」


私が、頭を抱える。

すると、コーラさんがため息を吐いた。


「貴方の人の立場に立って物事を考える姿は、美的だと思いますけど、考えすぎて過度な思考に陥るのはどうかと思いますわ」


顔を上げると、コーラさんは「あーあ」って私に困ってるような顔をしていた。


「汲み取るのも必要ですけど、本当はどっちかなんて本人の口から聞かないと分からないものですわ」

「確かに……そうです、よね?」


私もその言葉に納得する。

確かにその通りで、それで喧嘩になった事もある。

私は自分の中でもう一回言葉を噛み砕いて、頷いた。


「いじけたバーリードゥ侯爵夫人の御子息からその本音を引き出せるんですもの、それぐらいいつものバカみたいな直球で聞いて見ればいいのでは?」

「え?『私の事好き?』って?」

「なっ、そんな破廉恥な事っ…」


コーラさんが先生に見えてきた私が質問すると、コーラさんはまた慌て始める。

さっきから、シーソーみたいに私とコーラさんが交互に慌てて、突如冷静になる。


救済を求める私がじっとコーラさんを見つめていると、コーラさんは咳払いをして少しだけ落ち着いて言葉を続ける。


「そ、それはそれとして、渡しても迷惑ではないかぐらい聞いてみてはいいのでは?」

「あ、そっちか」

「そっちかって…、貴方は乙女としての恥じらいはありませんの?」


コーラさんは完全に呆れ返っている。

確かに、この世界では女性からのアプローチは良しとされない。

良しとされないと言っても、自分から告白するのがはしたないってされる程度。

いや、人によってはアプローチもダメっていう人はいるから、そこら辺はあやふやで人それぞれ。


「うふふ、そうですよね」

「あら、クリスティンも?」

「えぇ、私なんて──」


私とコーラさんがわちゃわちゃとしていると、先輩女官の数人が近くを通って行った。

その団体の中にクリスティンさんもいた。


「「…」」


私とコーラさんは瞬時に黙ってしまう。


クリスティンさんの体には問題がなかったようで、依存性も全くみられなかった。

どうやら、一時的に興奮状態にさせチェイスが自分とクリスティンさんとの恋を演出していたのではという事かも。

これは私の推測に過ぎないけど、ノアもそれを匂わせていた。

恐らく、私の襟に挟まれていたそれも、運が悪ければちょっと変な事になっていた可能性もあって…


──ノアが見つけてくれて良かった…


と思いつつ、あの日のちょっと浮ついた気分はそれのせいだったのではと恥ずかしく思う。


「…本当に平気そうで何よりですわ」


コーラさんが呟く。

私も同じ気持ちだ。


コーラさんはあの香りの効能を詳しくは知らないけど、クリスティンさんに異常がなかったって事は伝えてある。


「何もないのはいい事です」

「えぇ、そうですわね。ただ、やっぱりチェイス・スコットレットは気に喰いませんわ」

「そうですよね」


ただの女好きの嫌な男ってだけで終わらなそうだ。


「そういえば、聖女のことですけど」


コーラさんが思い出して、話し始めた。

コーラさんは私と違って、回廊で噂話とかをよく集める。

それが宮廷での生き残り方だとペタ胸を突き出して教えてくれた。

確かに、そういうのも知っておくのも生きる術だとは思う。


「まだまだ、魔力を扱えてないようですわね。どうやら、お飾りだけになりそうですわね」

「そうですか…」


レイナの話を聞くのは未だに複雑な気分。

心のすっごく隅に「本当は助けてあげるべきなんじゃない?」と囁く私がいる。

けど、面倒事に巻き込まれたくないって気持ちの方が多くて、気にしないでおこうと逃げている。

薄情と思われても仕方ないけど、嫌な思いをするかもしれない可能性の事をしようとする人はいないと思う。


「でも、彼女を聖女そのものだって言う方もいるんですのよ?聖女の侍女は決まりましたけど、まだ女官は決まってないらしいですの。元老院もお飾りに女官まで付けるかどうか悩んでるそうですの」

「あんなお茶会まで開いて?」

「えぇ、まぁそれこそご機嫌取りの取り巻きがいてもいいと思ってるのかもしれませんわ。利用価値があった時の保険ですわよ」


コーラさんの話に納得する。


女官をわざわざ雇って給料を出すまでするのは渋るが、それでも繋ぎ止めておける何かが欲しいって訳で侍女を配置して、ついでに仲良くしてくれる貴族がいればいいだろう程度なのかも。

様々な授業をレイナが受けて丁重に扱われているのかと思ってたけど、そんな話を聞くと少しだけ不憫に思う気持ちが湧いてくる。

私がそんな扱いをされたら、ちょっと傷つくから。

半分期待されてないとか知りたくないし、道具にされた気分が否めない。


「それで聖女そのものだって?」

「知りませんけど、彼女の元を通っている子たちの中での話ですわ。慈悲に溢れた素晴らしい方だと、聖女そのものだって話ですわ。聖女の力はまだ証明されていないのに…」


そう言われて、私はふと前世の記憶を蘇らせる。


表現が違うが、「レイナはすごい」「佐々木は他の人とは違う」そんな言葉をよく聞いた。

レイナは信頼が厚くて、だから私が真似していると揶揄されることもどこか仕方ないようで──


どろっとした何かを感じた。

飲み込むもの気分が悪いこの感情。


「聖女ってなんなのでしょうね?」


コーラさんが呟く。

私にも分からないから、複雑な表情を浮かべるばかりだった。

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