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物語の主人公にはなれません〜魔力なしの令嬢に転生しましたが、なんとか踏ん張ります〜  作者: しーしび
7章 モブですが、イケメンこうしラブ、恋敵は聖女
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6

「──ってな話で、ひとまず、なんだかスッキリしないけどスッキリした」

「どこにスッキリする点が?」


ノアに乗馬を教えてもらい、その休憩中に、この前の休日の話をした。

ノアは不思議そうな顔をしてこちらを見ている。


「聖女の魔石の事が引っ掛かっているのは分かっていたけど、まだそれが本当にバーバラ王女の物だとは確定できない」


ノアの正論。

だよね。ノアはこういう曖昧な結論は嫌いだよね。


「でも、話的には可能性が高いでしょ?勇者は自分の世界に帰りたかった。そしてバーバラ王女はそんな勇者と一緒にって、きっと恋に落ちたんだよ!」


私はこの目で2人の愛の結晶まで目撃している。

結構な自信があった。

他にも色々と一致する点もある。


「恋に落ちる…」


ノアは考えるように呟いた。


「最近になって思うけど、その表現はおかしい」

「どこが?」


恋は落ちるものだ。

どの世界も共通ではないか。


「落ちるって言葉は常にマイナスのイメージだ。穴に落ちる、試験に落ちる、抜け落ちる、鮮度が落ちる、城が落ちる」

「腑に落ちるだってあるじゃん」

「それもある」


ノアは目を閉じて、何かか病んでいるような表情を浮かべた。


「何がおかしいの?」

「抜け道のない穴に落ちたことを表現するために『落ちた』を使っている」

「そうだね」


何が言いたいのか。


「愛に溺れる、恋は盲目……・辞書でも恋や愛に関する言葉はどうも悪いイメージも共に連想させるものが多い。割合は出してないけど」


──わざわざ辞書を読んだのかな?


また変なところにこだわるなと私は表情を歪める。


けど、ノアの言わんとするとこはなんとなく分かる。


──『沼にハマる』って言葉もあるしなぁ


私はぼんやりと考える。



「それだけ夢中になるって事を表現するには、他にまったく興味を示さないって事を表すにはそういう悪いイメージの方がぴったりなんじゃない?」


私がいうと、ノアは更に首を捻らす。


「恋や愛があるからと言って現実世界が変わってしまうわけでもない。尤も、自分の生活の中にその感情が加わるだけで、周りが消されるのはおかしい。僕は全くその言葉に共感できない」

「…まぁ、そっか」


そう言われて、私も考える。


ノアへこの気持ちを抱くようなって多少は浮かれた気分にはなる。

馬鹿みたいにちょっとした言動に、変な妄想が加わってしまうのもしばしば。


だからといって、女官の仕事がなくなるわけでもない。

寝るし、食べるし、トイレにだって行く。

その合間でちょっと考えたりするぐらいだ。


浮かれたり、ぼーっとする事があっても、頭の中ではきちんと自分の中の優先順位があって、それが崩れている感じはしない。


──寧ろ…、私は前世に帰れるかどうかの方に私はかなり揺さぶられた…


自分でも自覚がある分、ノアの言い分は頷ける。


──てか待て


私はノアの言い分に納得すると、さっきまでの会話をおさらいする。


「ノアって、恋したことあるの?」


思いついた疑問をそのまま口にしたが、いざ恋なんてものを言うと酷く薄っぺらいものに感じる。


「?」


ノアは目を開けて、首をかしげた。


「いや、だから、ノアって恋したことあるの?」


なんだか、その経験を元に苦情を言っているようにも聞こえる話だった。

意外すぎて、聞かずにはいられない。


──いや20の男が初恋もまだですってのが信じられないけど…、ノアなら信じちゃいそう…


そう言う欲がノアには無いのでは説が私のどこにあった。


「それ、本気で言ってる?」


私が詰め寄ると、ノアは訝しむ顔で私を見つめた。

私は、その表情の真意が分からない。

どこが本気に見えないのだろう。


ノアと私はお互いに首をかしげながら見つめ合った。


「…」

「…」


この沈黙はなんだろうと思いつつ、それを止めるのもなんだか負けた気分にもなる。


──相変わらず、綺麗な顔しているな


私はいつの間にかノアを観察していた。

こんな造形美が目の前にあったらやられるでしょ。


出会った時はキリッとした目をしていると思っていたが、今ではその目はどこか丸っこい

無気力感と彼の穏やかさが滲み出た優しい目に見える。


──こんな人を好きになるなんてさ。前世でも今世でも身分不相応だわ


実際の身分もそうだし、中身も見た目も全てがギリギリ及第点をもらえるかどうかの私には高嶺の花だ。


ひとまず見つめあって時を過ごしていると、人の足音が聞こえた。


「神聖な宮廷で、何をやっている」


ノアより低い声がこちらに投げかけられた。

私は一気に現実に引き返されてはっと振り返る。

そこには、あのジャマ家名産の冷凍ビームを放つ目が二つ。


「いいか、コーラ。たとえ、慕っている者がいても皇帝の御前であるこの宮廷で節度のない振る舞いは控えるべきだ」

「お兄様、わたくしはそれぐらい弁えていますわ」


──この兄妹は本当にそっくりだな…


細めた目がまたそっくり。

それを伝えたらコーラさんは顔を真っ赤にしながら「知ってますわ!」とか言いそう。


私がそんな事を考えていると、ノアが口を開いた。


「恥じることなんてしてない」

「いいか、コーラ、過ちを犯したものは、皆そう言うのだ」

「分かりますわ」


話の通じないアーノルドさんたちにノアは珍しくため息をついた。

そして、よっこいしょっと立ち上がる。


「これほど頻繁に会えるなんて、副騎士団長は随分暇なんだね」


また、珍しい嫌味。

なんだか、また不機嫌モード。


「お前に言われたくはない」


アーノルドさんも対抗してくる。


「そんな状態で、国の為に体を張れるのか?」

「だから、国の為に命を捧げる気のないお前には言われたくない」

「…」


ノアはブスッとした。

今回はアーノルドさんが勝ちだと思う。

だけど、一応私はフォローに入る。


「毎回、私がわがままで付き合ってもらっているんです。中々、上手くなれなくて」

「ウルグス嬢、言っておくが、この男を庇う必要なんてない」


アーノルドさんはノアを指さした。


「やりたくない事は何があろうとやりたくないという男だ」


確かに。


「つまり、たとえ貴方が誘ったとしても、8割はこいつの意思が含まれている」

「君は10割が自分の意思じゃなか」


まだノアは諦めていなかったようで、また噛み付く。

今日は本当にどうしたのだろうか。


「公子に何かあったのですの?普段と違う気がするわ」


コーラさんが私に尋ねる。

私にも分からないから、顔で表現しておいた。


「はぁ…、部屋にもティア皇女の宮殿にもいないからとわざわざ探しにここまで来たのに…」


アーノルドさんは顔を横に振る。

その過程でコーラさんと一緒になったのだろうか。


「探してくれと頼んでいない」


ノアは子供じみた返答をした。

少し突き出された唇が余計に子供っぽさを強調する。


アーノルドさんは困ったように頭をガシガシと触ると、声を小さくした。


「上から例の葉巻の回収をしろとお達しが出たぞ」


ノアに顔を近づけて呟いたアーノルドさんの表情は先ほどよりも引き締まった緊張感のあるものだった。

私たちに聞こえないように言ったつもりだろうけどバッチリ聞こえた。

私って結構地獄耳なのかも。


「…もう結果が?」


ノアもまだその報告を受けていなかったようで仕事モードも顔に変える。


「あぁ、お前の仮説通りだ」

「使用者は?」

「まだだが、そこらへんの調査もこれからするようだ。憲兵団にいる同期からの話だ」


これは聞いちゃいけないんだろうなと思いつつも、内容の意味が分かってしまう。


──やっぱり毒だったんだ…


そう思うと、また恐ろしくなった

毒だったものが普通に売られていた。

葉巻自体がそうそう良いものとは言えない。

言えないが、ノアの言い方から被害者がいてもおかしくないのだ。


──だとしたら…


想像しただけで足元が震えてくる。

歴史の教科書に薬物を使って国をどうにかさせるってものもあった記憶がある。

あの世界が自分の前にもあるんだ。

恐ろしさが私の視界を掠めていく。


「なんの話ですの?」


コーラさんがこそこそと話す2人に投げかける。

アーノルドさんもノアも上を見上げる。

聞かれちゃまずい話なのによく私たちの前でしたなと思いつつ、私もノアを見つめる。


「…教えないから」


教えてくれないらしい。

ノアは両手で目を隠した。


「お兄様?」


敗北した私に変わって、コーラさんが、アーノルドさんにお願い攻撃を始める。


「問題のありそうな製品を回収して調べるんだ」

「おい」


アーノルドさんがポロッとあっさり暴露した。

ノアが批判的な目をアーノルドさんに向ける。

アーノルドさんは「どうせすぐに公表されることだ」と跳ね除ける。

出会った頃のあの厳格な性格はどこいった。

そして私の中でアーノルドさんに対するコーラさんの有効性を実感する。


「まぁ、問題とは?」

「それはこれからだ」


そこのところは誤魔化すらしい。


「では、どの製品で?使用していたら恐ろしいわ」


コーラさんの感想は尤もなものだった。

私も知ってるけど頷く。


「ほら、最近流行りの香りのある葉巻だ」

「香りの…あぁ、香水のように甘い香りのするものですわね」


コーラさんが思い出したような顔をした。

どうやらよく知っているらしい。


「でもあれって、確か…」


コーラさんが困った顔をした。


「どうした」


曇ったコーラさんの表情に全員が注目した。


「恐らくですけど、確かクリスティンさんの親族の方が関わっているはずですの」

「クリスティンさんの?」


その情報に驚く。

すると、それに眉を顰めたのはアーノルドさん。


「販売はミンタ男爵の店ではなかったか?」

「ミンタ?」


今度は怪しい名前が出てきた。


「確か、葉巻を売る老舗のシーガレ商会ですわ。販売店は違いますけど、クリスティンさんからそのお話を聞きましたの。老舗の葉巻専門と香り専門で新たなものを作り出すって」


コーラさんは聞いた事を教えてくれる。

私はその情報に呆気に取られていたが、一つ思い出したことがあった。


──ミンタ男爵は昔、ミンタで一儲けしたんだっけ


植物のミンタの話でノアが教えてくれた事。

だからミンタとミンタの名前が一緒だと。

確かに、ミンタは香料として使っていたし、それを使って儲けていたミンタ男爵家は香りの老舗だとも言える。


「でも、待ってよ、コーラさん」


私はコーラさんに声をかける。


「クリスティンさんの親族の事業で関わりがあったのってスコットレット家なんじゃ?」


この前、クリスティンさんから教えてもらったのは確かにその話だった。

だから、婚約話まで行ったはず。


「そういえば、そうでしたわね」


コーラさんもそれに頷く。

コーラさんもそう答えておかしいなと首を傾げた。


「販売元はミンタだが、その製造元にはシーガレ商会が関わっていて、でもシーガレ商会と事業を起こしたのはスコットレットってことか?」


アーノルドさんが混乱を露にする。

私も同じ気持ちだ。

複雑で、見えないけど、何かがつながっている気がした。


「ミンタ男爵家の領地って、スコットレット伯爵家の管轄では?」


ノアはぽつりと言った。

それにアーノルドさんが思い出しながら答える。


「確か、スコットレットは北部の瘴気が集まりやすい土地だったよな?」

「かつてのミンタが生息していたのもその辺りだ。曾祖母が浄化した為に、ほとんど生息できなくなったけど、記録ではそうだった」

「よく覚えているな」


アーノルドさんが感心したような声を出す。

だけど、ノアは平然として返す。


「授業でやったはずだ」

「覚えてないな」

「だから試験の討論で負けるんだ」

「私は負けだと認めてない」


いばるアーノルドさんにノアが冷たい目を送る。

私は私でまた思い出す。


「あぁ、だから、ミンタ男爵はスコットレット伯爵にゴマスリしてたんだ」

「「ごますり?」」


アーノルドさんとノアがこちらを向いた。

コーラさんはすぐに気づいたみたい。


「ミンタ男爵が自分の愛人をスコットレット伯爵に献上したって、あれですわね?」

「そう、それ!」


ノアの家の夜会で私がヴェロニカに教えてもらったやつだ。


「どういう事だ?ミンタ男爵とシーガレ商会の仲人をスコットレット伯爵家が手配したとでも?」


アーノルドさんが聞いてきた。


「って、考えられますよね?ミンタ男爵って経済的にも結構やばいって聞きますし」

「成程ですわね。愛人を献上してその報酬に新たな事業の手伝いをしてもらった」


コーラさんは納得してくれた。


「って事は、あのチェイス・スコットレットは、最初からクリスティンさんのご親戚目当てだったという事ですわねっ……」


バキッ


コーラさんの手の中で扇が折れた。

私は、コーラさんを怒らせまいと心に誓う。

あの扇のようにはなりたくない。


「それにしても…、ミンタ男爵も無能ですわね。ノイトラール公爵を敵に回すだけでなく、問題のある商品まで販売するなんて…国を敵に回すおつもりかしら?」

「ノイトラール?」


今度は私が首を傾げる。

また新たな話が出てきた。


「…マリッサさんのことですわよ」


コーラさんがノアに遠慮しながら言った。


「マリッサさんのお家は、ノイトラール公爵家の分家ですから。痴情のもつれだけで男爵の立場が無くなってしまったのはマリッサさんのバックに公爵がいるからですわ。公爵家を敵に回したくないですもの」

「えっ…」


夜会の出来事が蘇る。

つまり、ミンタ男爵はあの時点で、スコットレット伯爵を攻略しながらも、ノイトラール公爵を敵に回すという高度な技を繰り広げていたのだ。


「もしかして、ノアの件が有耶無耶になったのって…」


私が言うと、ノアが先に口を開いた。


「大人の余計な忖度が働いたのだと思う。ノイトラール公自体はそんな人じゃないから、彼女の家の誰かが圧力をかけたか、役人の勝手な行動かのどちらかと思うけど」


ノアは興味なさそうに言った。

知ってたのなら教えて欲しかった。


「なんか…色々と複雑すぎない?」


私が情報量の多さにパンクしかけていると、アーノルドさんが口を開く。


「おい、憶測だけで話を進めるな。まず、本当にスコットレット家やシーガレ商会が関わっているかも確かではないんだ」


厳しい口調だった。

確かに確証はない。

人の話をつなげただけだ。


まだこの葉巻についても回収が決まっただけで調査がされていないのかもしれない。

どちらにしても後からきちんと分かる話ではある。


──でも、使われたのはスコットレット産の薬草なのよね…


私の中で疑問が浮かぶ。


そう、ノアもアーノルドさんも言わないけど、薬草が繋がっているのだ。

それが私を余計に落ち着かなくさせた。


ヴェロニカはあのスコットレット産の薬草に期待をしていたが、大丈夫なのか。

いろんな不安が意味もなく押し寄せる。


私はパンクしそうな頭と、いろんな感情の渦巻く心に落ち着きのなさを感じる。

このままでいいのか。

何もできることなんてないのに、無駄な恐怖が私を急き立てる。


そう思っていると、私の手に温もりが感じられた。

驚いてその温もりの主を見上げると、ノアが私に頷いた。


「きっと、後ではっきりする」


落ち着いたノアの声に私は、頷き返す。


──そうだよ。もう国が動いてくれているんだ


それがどんな結果を産むのかまだ分からないが、私は待つしかない。

ノアが力強く握ってくれるおかげで私はそう思えた。


──いざとなれば、大切な人を守れるように、自分の世界を守れるように…


その時が来るまで私は待つ。


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