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物語の主人公にはなれません〜魔力なしの令嬢に転生しましたが、なんとか踏ん張ります〜  作者: しーしび
7章 モブですが、イケメンこうしラブ、恋敵は聖女
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私が思わず呟いてしまった言葉に、ノアは綺麗な目をパチクリとさせた。


──ノアが女性的に見えるのは線が細いだけじゃなくて、この大きな丸い目も理由なのかな…


私は告白をしておいて、そんなことを考えていた。

ポロっと出てしまった言葉は、たまたま足元に転がってきた小石ぐらいのものだった。

いや、たまたま蹴ってしまった小石だ。


「…」

「…」


お互い黙り込んで、うつ伏せのまま見つめ合っている状態。

私は結構ぼんやりしてたけど、ノアは固まっているようにも見えた。


伝わったのか、伝わってないのかよく分からない。


数度瞬きをしてこちらを見ていたノアがやっと口を開いた。


「知ってる」


やっと出た言葉がそれだけたった。


このやりとりに覚えがあるなと思っていると、この前の式典での会話だ。

ノアと私が逆になっただけ。


──伝わってなかった


私は一度目を閉じて確信した。

これはきっと私と同じパターンだ。

私は悪いやつだから一回ときめいたりしてしまったけど、ノアはすぐに純粋に捉えたんだろうな。


余計に後ろめたくなる。


ノアは言葉を続けた。


「ミンディ嬢が僕を嫌ってるなら、既にチェイスの様に扱われていると思う」


そう言われて、余計に気が抜けた。

確かにそうだけど、何とも言えない気持ちになる。

やっぱり私の好意が気づかれるはずもない。

あれだけオープンなレイナにもあれなのだ。


「そうだね…」


何だか苦笑いに近い笑みを浮かべてしまった。

自分でも笑っているのか誤魔化しているのか分からない。


だって、伝わらなかった事が残念に思う気持ちとホッとしてしている気持ちの両方があるから。


ノアはこちらを不思議そうに見えている。

その目は本当に透明感があって、私は仕方ないと思えた。


──だって、今からだから


生まれたての気持ちをそのまま言葉にしただけ。

やっと殻を破ったこの気持ちは、まだ小さくて弱い。


もっと、この気持ちが大きくなればいいのに。

もっと、この気持ちがあったかくなればいいのに。

もっと、もっとこの気持ちに酔いしれたい。


そうなれば、もっと堂々とノアに言えると思う。


蹴った小石がノアにたまたま当たったような言葉じゃなくて、ちゃんとノアに向けた言葉を私は言えるようになりたい。


だから、敢えて私は訂正しなかった。


卑怯だけど、そのまま誤魔化すことにした。

ノアの優しい綺麗な心に、甘えさせて貰う。


「ノア、ありがとう」


これから何十回、私はこの言葉を彼に言うのだろう。


「うん」


ノアはよく分かっていないのだろうけど、素直に頷いてくれた。



*****



「ミンディ嬢は何を調べに?」


ノアが私が山積みにした本を手に取って眺める。

幾分かのどかな空気で見つめあった私たちは、その後自然と体を起き上がらせて普通の雑談を始めていた。

本当にいつの間にかで、ごく自然で私も気付けば状態。

ノアが纏う空気が私にそう感じさせるようにも思う。


「うん、ちょっと魔石と異世界について」


私は全く読めなかった本をノアに渡す。

古い言語だから私には難しい。


ノアは私から書物を受け取ると目を細めた。


「もしかして、聖女の持っている?」


ノアもバビィさんのあのブレスレットを知っているようだ。


「うん。この前、魔石を見せてもらったの。異世界には魔法がないのに魔石があるんだなって思ってさ」


少し嘘を交えながら語る。

ミンディ・ウルグスにとってはこれは真実。

ただ、美々の意識がある私には偽り。


「恐らく、グリード国産のものだ」

「え、魔石に産地ってあるの?」


植物でも生き物でもあるまいしと思いながら問いかける。

ノアはコクリと頷いた。


「別に正式にはない。魔石は魔石だし。ただ、魔石の雰囲気って言えばいいのかは分からないけど、ある場所によって何かが違うんだ」

「そうなの?」

「前、植物にもマナはあるって言ったの覚えてる?」


ノア言われて、今度は私が頷いた。

マナがあるから、瘴気の影響を受けると言っていた。

だから、毒とかが生まれるって。


「恐らくだけど、その土地自体にマナの性質が定借しているのではないかと思う。場所によって育つ植物や、土の性質が違うのもそうかもしれない」

「へぇ~」


なるほどな。

つまり、その国で発見された魔法石は、その国の土地自体のマナの性質に影響されている可能があるのか。

マナが感じられるノアにはそれが何となく分かるのかもしれない。


「この前来ていた、グリード国の使者が使用していた魔石と同じ感じがした」

「だから、ノアはグリード産の魔石だって思ったの?」

「あぁ」

「ってことは、あの魔石は異世界から来たけど、この世界のものって事?」

「その可能性は高い」


ノアが断言するから、きっと間違いはないのだと思う。

ノアは少しの疑いがあるだけで、「絶対ではない」と言う人だから。

そう言われて私はやっぱりこの世界と私達をつなぐ何かがあるのだと確信する。


「前から思っていたのだけど…」


私が1人で頷いていると、ノアが複雑な表情で私に問いかける。


「ミンディ嬢は何故そこまであの聖女が気になるの?それに魔石にも……」


最後には消えるような声を出すノア。

私から視線を外し、居心地の悪そうな顔をした。


──あ、この顔…


踏み込んでいいのかどうか分からない、そんな顔だ。

ノアは本当に優しすぎる。

私がぐいぐい聞いても嫌な顔をしない癖に自分の時はこんな顔をするなんて。

本当にずるい。


「気になる?」


私はいたずら心をくすぐられて言った。

ノアはやっぱり素直で、コクリと頷く。


「それはね──」

「…」


私がわざと溜めてみると、ノアはじっと待っている。

本当にノアはどこまで、純粋なんだろう。

私はフッと笑みをこぼして言った。


「なんかね。気になるの」


淀みが残らないように私はあっけらかんと言ってみた。

ノアは思い通りのキョトンとした顔をする。

こういう素直な表情のノアが好きだ。

ノアは表情が乏しいこともあるけど、別に感情を隠そうとしているわけじゃない。

ただ分かりづらいだけ。

それに気づいてしまったら、きっと癖になってしまう。


「それだけ?」


ノアが私に尋ねる。


「うん、それだけ。異世界とか面白いなって思っただけ」


私は同じペースで言葉を続ける。

ノアにこれ以上甘えるのは違うと思う。

これ以上、私がノアに依存してしまうのは、きっと友として私を見てくれているノアの負担になる。

それこそ、私が離れられなくなっちゃう。


「本当に、それだけ?もっと、あの魔石とか──」


ノアは私の言葉が信じられないようで、もう一歩踏み込もうとしたが、ノアはすぐに口をつぐんだ。

そして言い直す。


「本当に、他に理由はない?」


ノアが私に再度問いかける。

だけど私は首を振った。


「そう……」


ノアは何かを考える素振りを見せる。

ふと、私も何かあるのではと逆に気になった。


「何で?」

「…」


ノアは私の質問にすぐに答えなかったが、少し間を開けて、「いや」と小さく呟く。


「…何でもない」

「そう?」

「うん」


私が言わないのに、聞き出すのはフェアじゃない気がして、私もそれ以上聞かなかった。


それにしても、引っかかることがある。

何でこの世界と私とレイナが関係しているか。

不思議なことが多すぎる。


──なんだろう…、あのブレスレットはバビィさんの店で………


私はブレスレットと出会った事を思い出してみた。

すると、一つの疑問が浮かんできた。


──グリード国、魔石、バビィさん……


「あ、あのさ、ノア」


私は焦って、言葉を詰まらせたが、ノアに声をかける。


「何?」


私が聞けばノアは穏やかな声ですぐに反応してくれる。

私は一旦唾を飲み込んで、ゆっくりと言葉を吐き出した。


「バビィって愛称で思いつく名前は?」


私の問いにノアは少し不思議そうな顔をしながらも、考えてくれた。


「一般的には、バーバラかな?他にも名前があるかもしれないし、国によって変わるかもしれない。あぁ、けど、グリード国はたしか同じだった。約20年前に失踪したバーバラ王女の愛称の一つがバビィだったはずだ」


ノアの言葉で結びついていくものがある。


──バビィさんは、凄く綺麗で…顔立ちは……


使節団で来ていたグリード人の顔立ちを思い浮かべる。

日本人とは明らかに違うほりの深い顔で、帝国の人間よりも少し濃い顔をしていた。

それは、どこかバビィさんと似ているものがある。


──いや、まさか、まさか…


何か違うものはあるはずと思い浮かべようとするも、思い出される。


『元々、私のお守りみたいなものでリメイクしたの』


バビィさんがこのブレスレットをくれた時の言葉。


『お守りは支えでしょ?私はこっちの世界にたくさん支えができたからね』


そう笑うバビィさんに私はロイヤルファミリーみたいだななんて感じた。

それはこの世界で言えば、貴族のような優雅な立ち振る舞いだった。


あの時は何も思わなかったけど、『こっちの世界』なんて言い方は普通はしない。

だって、その言い方はまるでどこか違うどこから来たようで──


──そういえば出身の国を聞いた時、バビィさんは『遠いところよ』って教えてくれなかった…


血流が変に激しくなってくる。

気づくべきだった物事がいきなり前にやってきて、私はどうしていいか分からないでいる。

それでも、その先にまだ新たな発見がありそうで、ワクワクと緊張と、そして恐ろしさが私をより混乱させていた。


「ミンディ嬢?」


ノアが私の前髪をかき分け、心配そうに覗き込んできた。

ノアの優しい手が、私を少し安心させる。


──いや、まだ憶測よ…


私は深呼吸をする。

だって条件が揃っているだけ。


まさか、あのバビィさんが残酷非道なバーバラ王女と決まったわけじゃない。

他人だってこともあり得る。

でも、もし、もしも、それがバーバラ王女がバビィさんで、あの世界に魔石があった理由があるのだとすれば──


──もしかしたら、帰れる可能性がある…


その考えは、かつて忘れていたはずの未練を思い起こす。

少し音が遠くに感じてきた。


──お母さんに会える?


さよならを言えなかった家族にまた会えるのだろうか。


そして、もしかしたら、あの世界で生きることも──


そう思い始めたら止まらない。

私はノアに顔を向き直して焦ったように問いかける。


「あのさ、もしもだけど、異世界からこっちに人がやってくる事があれば、逆に異世界に行ってしまう人もいるって事ある?」


少し、声が震えていたかもしれない。

少しの可能性が、私を乱す。


──人が移動してくることに時空の歪みがあるのなら、その逆だってあり得るかもしれない


私はうるさい心臓を落ち着かせながらノアの答えを待つ。


ノアは私に添えていた手を離し、そっと自分の顎に当てる。


「いや、それは聞いたことがない」


穏やかなノアの声で、私の張り詰めたものが和らぐ。

さっきよりも落ち着いて聞き直す。


「そうなの?」

「前も言ったが、それに関する文献が少ないから」


はっきりと判断はできないらしい。

それなら、何も言えない。


──そっか…


私は緊張を解くように深く息を吐く。


「そうだよね。『異世界の聖女』自体が珍しいし…」


そう言いながらも、決して可能性は低いわけじゃない。

私は興奮する自分と冷静でいようとする自分とで格闘する。


まだ結論は分からない。


ただ、分からないことが私を余計に乱す。

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