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物語の主人公にはなれません〜魔力なしの令嬢に転生しましたが、なんとか踏ん張ります〜  作者: しーしび
6章 モブなのに実は聖女の知り合いです
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──どうしたものか…


私は、ティア皇女の授業の準備をしながら、頭を悩ませいた。

ティア皇女用の資料室で、私は使い終わった本を戻し、これから必要な本を取り出す。


──あ、これ…


本を出し入れしていると、ティア皇女用の教本の一つに、デネブレ公爵家に関する本が出てきた。

表装にはあのデネブレの狼の家紋が描かれていた。

今はまだだが、もう少し経ったらそれぞれの貴族の家について詳しく学習することになるらしい。


私はその本を開いてざっと目を通す。

デネブレはノアの曾祖父の代から始まったからか、歴史は浅いもの功績は多い。


──すごい、こんなことまで覚えなきゃならないのか…


既に亡くなっている人に関しても、いつ何のことで表彰を受けたのか、宮廷から与えられた給料明細のようなものまであった。

皇族になるのも楽ではない。


私は、今の悩みの種である人の家系図を眺めながら、先日の式典の事を思い出す。



ノアの突然の告白に私は固まった。


──好き?好きって…


いつもよりも引き締まって見えるノアの表情に、私は一瞬、いつもと違う考えをよぎらせる。


──い、いや、そうじゃない!


「そ、そんなの、知ってるよ!」


私はそんな考えを吹き飛ばそうと、ノアの背中を叩いて叫んだ。


「やだなぁ~、今更!何度言うのよ!と、友達なんだから当たり前じゃない~」


私は早く消し去るために、早口でノアの背中をバシバシ叩き続けた。




「痛い…」


ノアが小さく言葉をこぼした。

そんなに力を入れてたつもりはないけど、私は慌てて手を引っ込める。


「ご、ごめんっ!」


焦りすぎて、力加減がわからなくなっていたのかもしれない。

私はさらに自分をコントロールできなかった恥ずかしさが込み上げて、ノアが体勢を戻す前に動いた。

室内に目を向けると、すぐに目に入ったのはコーラさんだった。


「あ、コーラさん!私、ちょっと用事があったんだっ!」


私はテラスを去ろうと、扉に手をかけるが──


ガチャ、ガチャ


何度、ドアノブを触っても扉は開かない。


──あ…、ノアが閉めてた……


魔法ならば私に成す術はない。


「開ける」


ノアがヌッと横から手を伸ばす。

それだけでも私の心臓は飛び出そうだった。


もちろん、さっきのノアの発言もあるけど、それで私が感じちゃった事とか、やっちゃった事とか、もう全てが私の頭を支配して、口から恥を吐き出しそうだった。


「あ、ありがとうっ…」


まともにノアの顔を見れぬまま私は走り去る他なかったのだった。



──焦りすぎてたとはいえ、あれはダメだ…


なぜ、こんなに自分には後悔が多いのだろうと頭を悩ます。

もっと瞬時に賢く判断できなかったのか、それが悔しい。


──でも、それでも、ノアの「好き」の意味は、友達なんだよ


あれだけ信頼されていたら、親友の枠に入っているのかもしれない。

ノアは私の嫌なところでさえ好きになってくれる人だ。

だけど、それはノアの本当に純粋な気持ちで、それ以上はないのだと思う。

だって、ノアはそんな人だ。


──令嬢方の好意にも気づかない人だもんなぁ…


私は顔を覆った。

1日経っても冷めぬ熱に私はまだ翻弄されている。


──多分、レイナの好意も気づいてないだろうな…


そう思うと、すこしもやる気持ちと、あんしんする気持ちが同時に込み上げる。


「はぁ……」


私は自分のはっきりしない気持ちに溜息を吐く。

自分が情けない。


──1人になるとダメだ…


他人の目があると、今やる仕事を認識して取り組める。

だけど、こうやって1人でいると考えが色々と込み上げてくる。


「おい、私、仕事をしろっ!」


バチンと私は両頬を叩く。

いつまでもぼんやりとはしてられない。


第一、なりたい女官になれたのにそれを放置することはあり得ない。

それこそ、そんな自分がノアになんと見られるのか考えると恥ずかしい。

私は今の自分の中の順序を再認識する。


──おし、頭を冷やしに散歩しよう


あと数刻はティア皇女は授業で、私は担当じゃない。

この資料を運び終われば休憩の予定だったしと、私はさっさと仕事を続ける。


──あ、狩猟大会のドレスの発注してない


今更思い出す。

式典の時は、ママさんが用意してくれた未使用のドレスがあったからそれを着用した。

流石に毎度同じものは着れない。


──あのお店にしようかな


色々と融通が効くのが嬉しい。

時期的に新しく作るとなるとギリギリかもしれない。


なら、前の服をリメイクでもしようかなと考えを膨らませる。

それも意外といいのかもしれない。


私は店長に相談してみようと考えると、持っていく本を選び終わり、私は書庫を出ていく。

ノアについて考えなくなり、いつもの自分らしくなっていると──


「ミンディ嬢」

「うえぇ?!」


扉を開いた先には、ノアがいた。

私は驚いて、扉に背中を打ちつけた。


──いったぁ…


衝撃に気を取られながらも、私はノアを見上げる。


「痛くない?」


ノアは私に不思議そうな顔を向ける。

私は苦笑いを返す。


「え、うん…大丈夫……」


そこまでの痛みではない。


「そう」


ノアは少し目元を緩めて安心したような顔を見せる。

その表情を見るだけで私も何だか穏やかになってくる。


「何でここに?」

「君と乗馬の練習をしようと思って」

「乗馬…」

「アーノルドの妹から、君がこれから休憩だと聞いたから」


ノアはいたって普段通り。

焦っている私が馬鹿みたいだった。


「わざわざ誘いに来たの?」

「うん。僕が暇だったから。何してるかと思って」

「そっか…」


気になって来てくれたんだ。

ふわっとまた込み上げてくる。


「馬は頻繁に乗る方が慣れやすいから」


ノアが説明を付け加える。

この空気感が気持ちいい。

さっきまで悩んでいたものがどうでも良くなってしまった。

私は快楽に弱い人間なのかも。


「なら、ちょっとだけ…」


私はそう言って、乗馬用の服に着替えて、ノアと馬のいる方へ向かった。



*****



「仕事はどう?」


ノアが私に尋ねた。

この前と同じように、馬に私が乗って、ノアが引っ張ってくれる。

またこの前のように疲れないか心配になっていると、ノアは「大丈夫」と穏やかに言った。

「大丈夫」って言葉は「大丈夫」じゃない事が多いけど、ノアが言うのはそうなんだろうなってすぐに納得してしまう。


「ん~…、ぼちぼち?」

「筆頭女官になったのに?」


ノアが不思議そうな顔をこちらに向ける。


「なったけど…別に特段変わったことなんてないしね」

「……さぁ、それで終わるかな?」


ノアが珍しく意味深な事を言った。


「何?」

「…何もないなら、そうなのかもね」


あ、これは教えてくれないやつだ。

ノアは少し拗ねたように顔を横に逸らす。


「わざと気にする言い方してるでしょ?」


私が尋ねると、ノアは頷いた。


「うん。警戒してほしいから」

「警戒?ティア殿下が私に何かするとでも?」

「うん」


あのエンシェルがと言葉をつづけようと思ったところで、ノアが先に頷いた。


「何を?」

「言いたくない」


ノアはムッとした顔をする。

それがまた可愛いとか思ってしまう私も私。


「僕が気に入らない事だとは思う」

「殿下と喧嘩でもした?」

「してない。今、殿下と僕は敵対関係にあるからかも」

「何それ?」


聞けば聞くほど意味不明だ。

でも、不機嫌の理由は私にはないらしい。

よしとするしかない。


「あ、そうだ。昨日、ヴェロニカから伝言を頼まれててさ」

「?」


私が思い出して言うと、ノアが首を捻る。

そっか、ノアとヴェロニカは顔見知りじゃないのか。


「オリエンス公爵家のヴェロニカ」


私がそう言うと彼には十分だったみたい。

すぐにヴェロニカが何者か理解し、頷く。


「親の代からオリエンス公爵家にはお世話になってて、それで知り合いなんだけど、ヴェロニカが、ノアに手伝って欲しいことがあるらしくてさ」

「手伝い…」

「うん、今、スコットレットの薬草の研究にオリエンス家も加わっているの知ってる?」

「あぁ、うん」


ノアもそこらへんの情報は詳しいらしい。

私はヴェロニカから聞かなければ一生知らない話だと思う。


「それで、その薬草の一つが気になるらしくて、宮廷の力を貸して欲しいとか」

「…分かった」


ノアが頷く。

意外とすんなりと受け入れた。


「薬草は気になっていたことがあって、手をつけたかった分野だ」

「そうなんだ」

「うん」


ノアは少し楽しみなのか、ウキウキしているのが伝わった。

なんだかんだと研究は好きなんじゃないかと言いたい。

消去法で研究者の道に進んだというが、それがノアの天職のようにも思えた。



*****



「ミンディさん?」


しばらくノアとの乗馬を楽しんだ後、私はノアと別れて着替えに戻ろうとした。

庭園の側を横切って自分の部屋に向かおうとすると、いきなり声をかけられた。

振り向くと、付き人を引き連れたレイナがいた。

今日も昨日とは別の服を着て、可憐だった。


私はさっと頭を下げる。


「聖女様、ミンディ・ウルグスがご挨拶申し上げます」


少しドキマギした。

だって、レイナはノアに好意を寄せている。

そして、私にその協力を求めそうで、嫌に心が落ち着かない。


「そんな堅苦しい挨拶はやめてって言ったのに…」


私が顔を上げると、レイナは困ったような顔をする。

これ以上親しくなりたくはないので、この姿勢を崩すつもりはない。


「あれ?ミンディさんの服、他の方のと違う…」


レイナは私の服装を眺めて言った。

何かどきりとしたが、私は笑顔を返す。


「乗馬用の服装です」

「それなら、普通のズボンの方が履きやすくない?男性はみんな履いてるし」


そう思うよなと私も納得する。


「…女性が脚のラインを見せるのは、はしたないこととされていますので」

「何、それ?へんな文化。理解できない」


うん、確かに私も思う。

思うけど、レイナがよく知りもせずにバッサリと切り捨てたことに何か違和感を感じる。


「乗馬をする女性はみんなそれを履くの?」

「いえ、女性が乗馬をするのはあまりないことなので…」

「また、はしたない?」


レイナが先に察して言葉を遠慮なく出す。

私はそれに頷く。

するとレイナは首を捻らせ、理解しがたいという顔つきをした。


「なんで、そんな事言うのかな?馬に乗るのに女性も男性も関係ないと思う」


うん、私も思う。


「折角、乗馬ができる環境なのにしないなんて勿体ない!絶対するべきだよ!」


レイナは力強く言い切った。

私も折角だししようと思ったけど、“絶対“の言葉がどうも引っ掛かる。


──また嫉妬かな?


私は嫌な部分が出て来そうで、レイナから距離をとる。

さっさとこの場から逃げるべきかもしれないと思った。

けど、その時、私はレイナの腕についているものが目に入る。


「ん~~、もっと自由な考えを持てばいいのに…」


そう呟いて、自分のサイドの髪を耳にかきあげるレイナの腕には──


「それ……」


私が呟くとレイナは私の視線に気づいて、嬉しそうに表情を和ませる。

レイナは自分がはめているブレスレットを触りながら説明を始めた。


「あ、これ?これね、私が向こうの世界から持ってきたものなんだけど、どうやら魔石らしいの」

「え?」

「不思議だよね。向こうの世界にも魔法のものがあるなんてさ」


懐かしい緑色の輝きを見せる。

キラキラと輝くその緑の宝石はまさしく私がバビィさんの雑貨屋で買ったものに間違いはなかった。


──持ってたんだ…


あの時、確かにレイナの手の中にこれはあった。

つまり、レイナと一緒にこれが来た事になる。


そして、その石は魔石で──


私の頭の中で半分混乱していた。

これは偶然なのだろうか。


「あの、聖女様は…一体、どうしてこの世界に?何かきっかけでも?」


私は恐る恐るレイナに尋ねる。

レイナは短い髪を左右に振ってそれを否定する。


「分からないんだよね。だって、友達が事故に遭いそうになって「危ないっ」って思った瞬間にはここにいたの」


──やっぱり…


そうだ。

やっぱりレイナはあの時にこの世界に来た。

あの時、何かがあったに違いない。


私はそう確信し、いろんな事をめぐらませる。


そんな私を見て、レイナは「あっ」と可愛らしい声を発した。


「そうだっ!折角会ったから、ゆっくり座ってお話をしようっ」


レイナはいいことを思いついたと言わんばかりに、両手を胸の前で叩く。


だけど、私はそんな事をしている暇はなかった。

いろんな事が気になって、そんな話している暇はない。

それに、もうすぐ休憩時間は終わってしまう。

私はすぐに去ろうとした。


「あ、いえ、これから仕事が──」

「仕事ばっかりだと疲れるよ!ほら!」

「え、あ、ちょっと…」


だが、レイナが私を引っ張る。

全然良くない。

むしろ、さっきまで休憩だったのにと私はレイナ付きの侍女さんに目を向ける。


「…」


けど、侍女さんは素知らぬ顔をしている。

まるで私などいないかのようにレイナを見ていた。


──主を嗜めるのも侍女の仕事でしょ!


私はそう思って訴えかけるも、侍女さんは目を合わせてくれない。

嘘だろと私は驚いてしまった。


「いえ、本当に困ります。ティア殿下の元に向かわないといけないのでっ…」


私は半分叫ぶように言った。

腕を振り解くのは流石にできない。

足を踏ん張るのが精一杯だった。


私がそこまで言ったら、レイナも動くのを止める。


「そんな仕事、仕事って、仕事ばっかしてないで、美味しいお菓子があるし、ゆっくりする方がいいと思うよ?」


レイナは私がわがままを言っているかのような口ぶりだった。


──あ、この感覚…


少し過るものがあった。


「ミンディさんが来たくないのなら仕方ないよね。本当にいいと思うんだけど…。ね、そう思わない?」


レイナは自分の侍女に話しかける。

侍女は「そうですね」と同意を示し、私をキッと一睨みする。


「っ……」


私はつい言い返すこともできなくて、唾を飲み込んだ。

この感覚は何なのかはっきりしない。

はっきりしないけど、何か思い当たるものがある気がする。


ここにいてはいけない。


そんな気がして、私は頭を下げる。


「し、失礼します。御無礼をお許しください」


私はそう言って、足早にその場を逃げるように去った。


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