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物語の主人公にはなれません〜魔力なしの令嬢に転生しましたが、なんとか踏ん張ります〜  作者: しーしび
6章 モブなのに実は聖女の知り合いです
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レイナは、不慣れな服でうまく歩けないのか、少しぎこちない足取りでこちらに向かってきた。

そして、少しよろけると、遠慮なく当たり前のようにノアの腕にしがみついた。


「ごめんなさい…やっぱり、うまく歩けなくて……」


レイナは、申し訳なさそうに長いまつ毛をふせて言った。

恥じらう姿は可憐そのもの。


「まともに歩けないのなら座っている方がいい」


ノアは最初は驚いた顔をしたものの、律儀にアドバイスを投げる。

レイナはノアから手を外すこともなく、恥ずかしそうに言葉を続ける。


「あ、そうですよね…、知らない方ばかりで不安で…」


すると、ノアはぎゅっと唇をきつく閉じた後、ゆっくりと吐くように言葉を続けた。


「この世界にいる限り、常にそうなる。慣れぬと困るのは君だ」


ノアは穏やかで静かな口調をしているけど、今日の話し方はどこか堅苦しい。

いつもとは違うノアに私は「どうしたのだろう」と眺めたが、レイナは元気一杯の声を出す。


「そうですよね!私、頑張らないとですね!」


前向きな発言はレイナらしいものだ。

レイナはノアから腕を離して、胸の前で拳を作る。

変わらないなと私は思いながらレイナを観察していると、不意にノアがこちらに顔を向けた。

いきなり吸い込まれそうなあの瞳がこっちに向いて、心臓が跳ね上がった。


──あ、これ…


流石にダメだ。

今まで経験したことのないこの感情。

もう半分、その結論は見え始めていた。


「あの、少しいいだろうか…」


ノアは少し悲しそうに私に問いかけた。

また、置いてけぼりをくらったわんこみたいな顔をしている。

そして、私はその顔には弱い。

きっと私が避けていたのが分かっていたら、困っているのだと思う。

やっぱり不器用な人だ。


──無理矢理話しかければいいのに…


それをしないのがノア。

だから私はノアを──


「あの、ノアさん、その方は?」


すると、レイナがノアの背中から顔をひょっこりと出して私に問いかける。

興味があるのか、目をくるりと丸くさせ私を映す。


「あっ……」


レイナになんと答えればいいの分からず、私は言葉を詰まらせた。


レイナは悪い人間ではないと思う。

だけど、何故か私はレイナと関わりたくない。

関われば何か変な感情に自分が囚われそうで嫌だ。

だから、勿論、私が美々だと言いたくはない。


「ウルグス子爵令嬢だ。ミンディ嬢、こちらは『異世界の聖女』だ」


ノアが淡々と説明をしてくれる。


「ミンディ…さん?」


ノアの説明に、レイナは首をコテンと傾げてこちらを見つめる。

何をしても可愛いのも相変わらずだ。

しばらくすると、レイナの視線は興味深そうに私の手首にとまった。


──あ、繋いだまま…


さっきノアに掴まれたままの手に私も気づく。

空いているもう片方の手で、ノアの手をそっと外し、私は形式的に頭を下げた。


「初めまして、ウルグス子爵家のミンディでございます。聖女様にご挨拶申し上げます」


私が軽く挨拶をすると、レイナは慌て始めた。


「あっ、ごめんなさい。私まだ家とか礼儀とかよく分からなくて」


レイナはそう言って、私の手を遠慮なく握りしめ、顔をあげさせた。

私も流れに身を任せることにした。

他人として。ミンディ・ウルグスとして振る舞うだけだ。


「だから、そんな挨拶なんてなくて大丈夫!普通に話してくれる方が私にとっては楽だし…私はレイナ!」


さっぱりしたレイナらしい発言だ。

そして私が身分が下のような挨拶をしたからか、砕けた現代人らしい話し方をした。

言葉遣いはこれから習うことになるんだろうなと思いながら、私は令嬢として言葉を続ける。

聖女といえば、子爵令嬢よりも身分は高いのは間違いない。


「聖女様、ありがとうございます」

「いえ、身分なんて関係ないもの。歳の近い方とお話しできてとっても嬉しい!」


きっと大丈夫だろうなと私は思った。

きっと彼女なら、この世界でも、同じようにうまくやっていける。

何より、帝国が生活を保障してくれるのなら安心だ。


意外と普通に挨拶を交わせたことに私はホッとする。

そして自分も大丈夫だと確認した。


「聖女、僕は彼女と話がある」


一通りの会話が終わり、間が空きそうになるとノアがそこに割って入った。

さっと私の肩を自分の方に寄せて、レイナから私を離す。


そして、レイナに掴まれている私の手を見てムッとし、すぐに私の手も回収した。

私は肩を抱かれ、手も掴まれている状態。

側から見たら、まるでエスコートされているみたいだった。


──おぉ…


パパさん以外にされたことのない行為に私は耳たぶが熱くなるのを感じる。

いや、きっと、顔全部が赤くなったと思う。


──化粧でこの赤みって消えないよね…


バレバレな自分が恥ずかしい。


「ノ、ノア…近い…」


私は消えそうな声で呟いた。

顔は絶対ノアを見れないからわざと逸らす。

さっき感じ始めたものがあるから余計に心臓がうるさい。


「用事がある」

「分かったから…」

「また逃げる」


どうやら、ここ数日で私の信用は地に落ちたみたい。

避け続けた私が悪いのは分かってる。


でも、ノアだっていきなり近づくなとか触るなとか、全然言うこと聞いてくれないくせに。


「もう…逃げないよ。避けないしっ………」


限界を超えそうで、近づくノアの顔面を手でブロックする。

手もノアに掴まれているからあんまり上手くいかないけど。


「あの……、もしかして、ノアさんとミンディさんって……」


レイナがその様子を見て問いかけてきた。

少し戸惑い気味の言葉に何か嫌か予感がする。


すると、ノアはぴたりと動きを止めてレイナの方へ顔を向けた。


「僕が最も信頼する友だ」


目を輝かせて、ノアはドヤ顔で言い放つ。


──友ね…


さっきの事があるから、私の中に居心地の悪いものが込み上げる。

私が少しだけ気分を落とすと、レイナがノアに反応する。


「友?友達?そうなの?」


愛らしい目をくるくるとさせると、レイナはしばらくしてパッと華やぐ笑みを見せた。


「そっか、友達!よかった!」


レイナは頬をほのかに染めて、さくらんぼ色の唇が嬉しそうに綺麗な円弧を描く。

淀みなど全て消し去るようなそんな勢いのある美しい笑みに心が奪われそうになる。


ただ、私のエンジェルはティア皇女なので、浮気はしません。


浮気はしないけど、そのレイナの表情に気づいてしまった。


明らかにレイナの表情はノアへの好意に溢れている。


「……」

「ミンディ嬢?」


そんなレイナを見てつい私は押し黙ってしまった。

ノアはそんな私を不思議そうに見つめるけど、それに反応する余裕はなかった。


──ま、まじか…


いや、小説ならあり得る展開だ。

知り合いのいない知らない世界に迷い込んで、そこで最初に出会った男性と恋に落ちる。

ベタだが、ベタなだけ納得できる展開。


──つまりレイナがずっとノアを信頼していたのも…


気付いてしまって、すっごく気不味い気分になった。

だって、それってつまり──


「よかったっ!それなら、ミンディさんは、ノアさんの事をよく知ってるよね!お話がとても楽しそう!よかったら、私も混ぜてください!」


これが主人公ならではのセリフなんだろう。

遠慮なくそのまま気持ちを言葉にできる。


気持ち悪いものが私の中で膨らみ始めた。


「ねぇ、いいですよね?」


断られるだなんて決して思っていないレイナの表情に私は言葉を返せない。

だって、私は許可したくなかったから。

すると、すぐにノアが私をさらに強く抱き寄せた。


「遠慮してくれ」


ノアの声は少し冷たかった。

私の知らない声色に少し驚く。


「では、失礼する」

「あっ、ノアさん…」


私が驚いている間にノアは私を引っ張ってその場を離れる。

レイナは声をさらにかけようとしていたが、ノアは振り返らなかった。


決して足取りは早いものではなかったけど、私を引っ張るノアは力強かった。

その力強さが私は「いいな」とか思ってしまう。


「ここなら大丈夫」


ノアは少し離れたテラスに出ると、扉が勝手に開かないように魔法をかける。


「え、なんで?」


その行動に驚いた私はつい声を出した。

ノアはそんな私に顔を向け、少し眉を下げる。


「また誰かに邪魔されそうだから…、ダメか?」

「ダメってか…、なんていうか…」


だってこういう展開って少女漫画によくあるやつ。

変な想像が私の頭を巡ってしまった。


「いや、ダメではないです!私の煩悩が悪いだけです!」


私はその考えを振り解こうと、焦って声を出す。

だけど、ノアは言葉をちゃんと聞いてくれるタイプの人だから、理解できなくて難しい顔をする。


「煩悩…」

「ノア、そこは深く考えないで!」


顎に手を当てて考え込むノアを私は慌てて止めた。

勢いよくノアの手を掴んで、考えるポーズを阻止した。


すると、ふわりとノアの爽やかな香りと共に髪につけた大人っぽい香りが私の方へ漂ってきた。


「…ノア、ごめん。また触っちゃった…」


ノアの言う通り、私は人に言うくせに自分は全然守れてない。

私は俯いたままノアから離れる。


「…」


ノアは何も言わなかった。

沈黙がその場に流れる。


私はしばらくして、落ち着いたのを確認するとおずおずと口を開いた。


「別にさ、……ノアに触られたくないとかじゃないよ?」

「……本当に?」


ノアは驚いた声を私に投げかける。

私は、少し焦ったノアを見て、少し安心した。

私は自分をずるいと思う。

ノアが私を信頼してくれているって確信しないと安心して語らないから。


「うん。そう、私は別に嫌とかじゃない。たださ、ただ──」

「嫌ではないのなら何?」


ノアがぐいっと顔を近づける。

私は一瞬息するのを忘れそうになった。

のけぞりながら私は言葉を続けた。


「いきなりでびっくりするだけっ!」


私はノアの追及を逃れるように、今感じたことをそのまま伝える。

ちょっと無理矢理な気もしたけど、ノアはそれをすんなりと受け入れた。


「そうだ。たしかに、僕も驚く」


何故か胸に手を当てて納得している。

ノアは結構謎な人間だ。


「ミンディ嬢の言う通りかもしれない。だから、僕も──…」


──なんなのよ…


ノアは最後まで言ってくれなかった。


「ごめん…」


ノアが呟いた。

夜のそよ風が気持ちいい。

髪をあげているせいか、今日のノアはいつもより大人のように見える。


「僕でもよく分からない。正しい事をあの時は言ったつもりだったんだ…」


ノアは手すりを持って、言った。


「うん」


私は相槌を打ちながら、ノアが言い切るのを待つ。


「けど、すごく言った後、後悔が残って……」


ノアは確かめるようにぽつりぽつり話し続ける。


「本気で言いたかったわけじゃない……」

「そっか」

「だから、……ごめん」


ノアは顔を俯かせる。

背の高いはずなのにノアが小さい。


「いいよ。私も、カッときちゃったし、こっちこそ、ごめん」


私はできるだけ普段通りの声を出す。

頼りないって思ってしまうのは隠す。

ノアが欲しいのはそれじゃないと思うから。


「私は、ノアがいちいち不機嫌で嫌だった。だって、ずっと顔色伺ってるなんてさ、せっかく仲良くなったのに楽しくないじゃん」

「仲良く…」


私の言葉にノアは少し感動した顔をする。

ノアは意外と単純なのかもしれない。


「それにさ、嬉しかったのに…否定するようなこと言うし」


目頭のあたりが熱くなって、私は堪えようと唇と尖らせた。


「折角頑張ろうって思えたのにさ」

「…ごめん。僕は、本当に君が……っ」


ノアは言いかけてまたやめた。

今度は片手で顔を覆っている。


「何故か、今日は自分の言葉が薄っぺらい…」


うまく伝えれなくてノアは困惑しているのかもしれない。

何かを捻り出そうとノアは黙って考え始めた。

ノアは私と違って、無駄に言葉を出さない。

だから今までの言葉に意味があるのだと感じる。


「いいよ。十分わかったから」

「っ…ちがっ……、僕はこの前言ったのは……君を否定したいわけではっ」

「ふふっ、分かってる。大丈夫。腹の虫の居所が悪い時は誰だってあるし」


焦るノアに私は、ゆっくりと言った。

ノアでもこんなところがあるんだと何故か今は笑えた。


「ノア、機嫌が悪い時は悪いって言えばいいよ」


私は手すりに背中をつけてノアに笑いかける。

さっきまで泣きそうになったのが恥ずかしいから、ちょっと戯けた口調で誤魔化す。


「それぐらいで、私はノアを嫌いになったりしないよ?」


ノアが不安だと言っていたことだ。

自分の言葉が相手にどう映るのか不安になると言っていた。

きっと、それだけ優しい人なのだと思う。


──何故かレイナにはちょっと冷たかった


それは疑問だけど、今はそこは置いておこう。


ノアが私をじっと見つめているような視線を感じた。

格好つけているようでちょっと恥ずかしいから、私は室内を扉越しに眺める。


室内の明るい光が丁度私の足元で止まってる。

ここだけ区切られた空間みたい。


「思ったことをそのまま言っていいよ。てか、言ってくれなきゃ困るんだよね」


きっとこんなことは多いと思う。

人と人だから仕方ないけど、私は──


「私、ノアとはこんな事に何度もなりたくないんだよね。私さ、なんでもすぐに理解できないからさ。ノアが、私が説明しないと分からないように、私だってノアが言ってくれなきゃ分からない事も多いから。私も同じ」

「……僕だから?」


ノアがやっと口を開いた。

チラリと覗くとノアはこちらを見ていた。

ノアの顔は心臓に悪い。

すぐ反応してしまう。

そして抗えないから、私はノアを見つめ返した。


「僕だから、そう…思う?」

「え?」

「ティアでも父でもなく、僕だから、君は嫌だと?」


ノアが真剣に尋ねる。

いや、ノアはいつだって真剣だ。


──そう言う事を真面目に聞いてくるから…そう言うところがっ…


私も溢れそうなものをグッと堪えた。

私だってそう簡単にボロを出すモブなんかじゃない。


「そうだよ!ノアだからだよ。ノアだから、気まずくなりたくないし、変に喧嘩したくない。避けちゃったりするのも嫌だから、ちゃんと話したいのっ!悪い?!」


ノアにすぐ絆されるもんかと私は半分キレ気味に言った。

なんでこんな言い方しかできないのだろうと自分の可愛げのなさを痛感する。


「…そっか」


ノアは噛み締めるように言った。


「…」

「…」


余韻に浸るノアのおかげで、私は居心地の悪い間を過ごす事になった。

ノアは何かを確かめ続け、やっと動き出す。


私の方へ体を向けると、さっきよりもはっきりした声で私を呼んだ。


「ミンディ嬢」


私もノアへ顔を向けた。

暗闇の方へ目を向けていたからだろうか、室内の明かりを少し浴びているノアが輝いて見えた。

私は眩しさで目を細める。


ノアはそんな私にゆっくり微笑む。


「僕はやっぱりあなたが好きです」


季節が夏へ向かっているのだろうか。

夜風にほのかな熱が込められていた。


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