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物語の主人公にはなれません〜魔力なしの令嬢に転生しましたが、なんとか踏ん張ります〜  作者: しーしび
6章 モブなのに実は聖女の知り合いです
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筆頭女官っていうのは、女官の中でその主のお気に入りって意味。

女官の中でも序列があって、身分や能力、歳によって決まるんだけど、女官の印である色のリボンに刺繍が施されるとそれはその主人のお気に入りの印となる。

お気に入りってのは序列とは別で色んな力が得られる。

色々と主人を通して権力を得てしまう。

つまりは、めっちゃ凄い事になったって事。


「え、えぇ?!いやいや!数ヶ月しか働いていない新米ですよ?!おかしいにも程がある!」


私が叫ぶと、周りの方々がどっと笑った。


「あなた、喜ぶ前にそれですの?」

「ミンディさんらしいわね」


コーラさんの呆れた顔の横で、クリスティンさんが穏やかに笑っている。


「ミンディさん、その態度は女官として相応しくありません」


バーリードゥ侯爵夫人がピシャリと私を注意する。


「相応しく無いものが、こんなの受け取れませんよ…」


私は半べそをかきながら、バーリードゥ侯爵夫人に縋った。

だってこんなの重荷すぎる。

確かに女官としてしっかりと努めは果たしたいけど、いきなりこんなのおかしい。


「誰も納得してないですよ!ねぇ!」


私が一番納得してないのだけど、とにかく周りに問いかけた。

けど、みんなニヤニヤ笑って答えてくれない。


「コーラさん!身分不相応だと罵って下さい!」

「なんですの?貴方って本当におかしいですわ」


私が助けを求めると、コーラさんは眉を寄せていやそうな顔をする。

それですよ。今欲しいのはそれです。

私が羨望の眼差しをコーラさんに向けると、コーラさんはため息をついて、つぶやく。


「まぁ、それなりの処置ではなくて?」

「え…」


思ってもみない発言に私は固まった。


「まぁ、ミンディならいいんじゃないかしら?」

「そうね、貴方なら仕方ないかも」

「こういうのなんて言うのかしら規格外?」

「比べられるベクトルが違うものねぇ~」


お姉様方も口々にそう言った。

それ褒めてるの?貶してるの?


「ミミは嫌なの?ティアのミミになってくれないの?」


──えぇ…その顔はズルすぎる…


ティア皇女がしょぼんとした顔でこちらをみている。

ノアは犬だけど、ティア皇女には愛らしい長いうさ耳が見える。

悲しそうに垂れているうさ耳に私は胸がキュンキュンしたよ。

どうにかしてあげたくて、苦しい。


「うぅ…嬉しいです……。嬉しすぎるので、苦しいです…」


私は胸を押さえながら声を絞り出す。

天使の声の前でなんて汚い声を出してしまったのだろうか。


だけど、私の可愛い天使様はそんな事は気にしない。

優しい広いお心で、再び輝かしい笑顔を見せてくれる。


「やった!ミミ!大好き!!」


そう言って抱きつかれた。


──私も愛してます!


そう心でつぶやいた。

私、もしかしてお迎えでもきたのかなとか思った。


「あら、これからはミンディ様って言わないとね」

「そうね。タメ口はダメね」

「ミンディ様、これからよろしくお願いいたします」


先輩方はそう言って揶揄ってくる。

勘弁してくれ。


嬉しいよ。めちゃくちゃ嬉しいんだけどさ。

今は戸惑いの方が優ってる。

けど、ティア皇女の顔を見たら、受け入れる以外ないのは分かってるさ。


「まぁ、それなりの評価じゃないのかしら?」


コーラさんは食事をしながらそう言った。

クリスティンさんも「そうね」って頷いている。

理解できないのは私だけなんだろうか。


「確かに殿下に仕えるのは、わたくし達の仕事ですけど、貴方ほど爆走して体を張る女官は知りませんもの」

「私がいつ体を張りました?」


聞きずてならない。


──人を脳筋みたいに…


私が睨むと、コーラさんは数え始めた。


「あなた忘れたの?バーリードゥ侯爵夫人の御子息の時と、今回のストーカー撃退の件と──」

「殿下のお勉強の時間も、自分も知らないって体張って、殿下の勉強の意欲を高めてくれたわよ?」


クリスティンさんがおっとりとした口調で付け加える。


「私たちには真似できないわよね。ね、コーラさん?」

「全くですわ。わたくし達には恥じらいがありますもの」


コーラさんはブンブンと首を縦に振った。

何故かアホな子になった気分。


「比べる基準が違いますから、嫉妬もしませんわ」

「う~ん、そうね」


なんだろう。

私にとっては結構、すごいことのはずなのに、何故かみんなの反応が違う。


「大丈夫よ。ミンディさんが認められたってことだから」


クリスティンさんがうふふと笑う。


「そうですわ。せいぜいうかれていればいいのですわ」

「褒めるなら褒めて下さいよ…」


結局、複雑な気分のまま私はティア皇女のお気に入りとなった。


何度も言うよ。嬉しいけどね!!


なんだかんだとウキウキ気分で私は髪に結んでいるリボンを眺めた。


──お、結構似合うじゃん


私の白銀の髪に金色も緑も全部が映える。

白いキャンバスにはなんでも映えるものだけどね。

今日ほどこの白銀の髪でよかったと思う事はないと思う。


──へへっ


私はヘラりと笑いながら業務に戻った。



*****



「お~~~~い、ミミさ~~~~ん」


仕事をしていると私を呼ぶ声が聞こえた。

あの日以来、私にもう一つ変化があった。


ノアとは会えないのだけど、代わりに、まさかのノアのお父様であるデネブレ公爵がよく訪れてくるようになった。

マリッサさんの一件で、謝罪にやってきてくれて以降、色々とノアの事で話が弾んだ。


「あいつは基本的に頼りない性格なんだ。もちろん責任を持ったら最後まで遂行する責任感の強い男なんだがな…色々と優しすぎるんだ」


そう言ってため息をつくデネブレ公爵。

さすがノアのお父さん。

すっごいナイスガイ。

けど、威厳が凄まじい。

公爵の迫力が十分あるエリート系イケメンお父様です。

ノアと似た細身で、服をきっちりと綺麗に着こなしている。


ただ彼の言うノアという人物に私はめちゃくちゃ共感できる。

「あぁ、分かります」って思って聞いてたらさ、「やっぱり、ミミさんは分かってくれると思ってたんだよ!」って手を握られた。


「ノアの言っていた通りのいい子じゃないか!」とも言われた。

ノアは私の話をお父様にしてたみたい。

「君みたいな友が出来て嬉しくて…」と泣かれた。


こっちはどうやったらあんな素直な子ができるんだと聞きたい。

交友関係を親に事細かに報告する子がいるだなんて…

私の恥ずかしい事も知ってたよ。


「あの夜会の令嬢はあなたでしたか!あのおかげで息子は元気になってね!本当に感謝しているんだよ」


そう言って2度泣かれた。

恥ずかしい記憶が他人には美しい記憶になっているのが…

なんとも言えない気分。

こっちは思い出す度に「ぎゃ───!!」って叫びたくなるってのに…


「あの、最近ノアはどうしてますか?」


やっぱり気になるので聞いてみた。

レイナの事も気になるし、いつの間にか足繁く通ってくれるようになったデネブレ公爵に尋ねた。


「ハァ~、ノアにもミミさんほどのガッツがあればなぁ~。数ヶ月で筆頭女官になっちゃうしねぇ~」


じっと私を見つめた後、盛大にため息をついたデネブレ公爵はいじけた様に言った。

ノアとは違った砕けた口調のデネブレ公爵。

この人は本当に40代に突入しているおじ様なのだろうか。

ノアよりも表情豊かで、少年のようだ。


「やっぱり片親なのが良くないのだろうか。あーあ、ミミさんみたいな人がノアのお嫁さんならいいのに」


私の質問には一切答えず、紅茶を飲みながら酔っ払ったような声を出す。

嫁って、また急な話をするな。

冗談だと分かっているから苦笑いで返すも、ノアにはお母さんがいないのを初めて知った。


──ノアの事、あんまり知らないんだよね


結構話してくれるけど、聞かないと言わないし。

詳しい話ってあんまりした事ないかも。

そんな事を思っていると、デネブレ公爵は頬杖をつきながらつまらなそうに呟く。


「ちょっと面倒な話になってきてね」


デネブレ公爵は唇を突き出した。


「ノアは苦労するタイプなのかも。いや、我が家がいいように利用される立場なだけだけどね」


デネブレ公爵はため息をつく。

権力を持てば利用することもされる事も多いと思う。

上位貴族の苦労は計り知れない。


「聖女の力がはっきりしない分、色々と面倒でね」


レイナのことだ。


「聖女は浄化の力なのでは?」

「いや、『異世界の聖女』はそう決まっているわけではないようだよ。それに今更、強い浄化の能力もいらないからね」

「確かに、最近は瘴気が蔓延してませんしね」


私が生まれてからずっとそうだ。

だけど、デネブレ公爵は顔の前で手を振って否定した。


「いやいや、違うよ。浄化能力ならノアが持っているんだ。初代デネブレ公爵夫人がね、そこらへんの力が強くてね。具体的に言えば、魔力やマナを無効化にできるってものでね。瘴気もマナから出来たものだからね」


そう言って、軽く説明してくれる。


「ノアの力がなかなかだから、帝国が今更欲しいものでもないしね」


そう言って、自分の息子を自慢げな口調でデネブレ公爵は紹介する。

けど、私はその説明を聞いて固まった。


「……ノアって、魔法を無効化できるんですか?」

「そうだよ。昔はこういう力を加護とか言ってたけどね。月の女神の加護らしいよ」


私が質問すると、デネブレ公爵はけろりとして答えた。


「ま、待って下さい。だとしたら、この前ノアを助ける必要なかったじゃないですか!」


私はデネブレ公爵相手につい噛み付いてしまった。

だって、それが本当なら私のした行為ってなんだったんだ…


「あぁ~確かにね。あの時マリッサ嬢が使おうとしてたのは、大した魔法じゃないよ。記憶を忘れさせるものだったらしいから、大してね。でも、ノアはマナを消耗していたから、押し倒されていたら終わりだったかもね」


のんびりとした口調でデネブレ公爵は言ってのける。

この人、絶対自分は言っても許されると分かって言ってる。


──あぁ゛…


私は顔を覆った。

だって、そんなの体を張った恥ずかしい話が増えただけじゃないか。


「ミミさんのおかげで、ノアはお嫁に行けそうだよ」


冗談まじりに言ったデネブレ公爵は葉巻を咥えた。

私は恥ずかしさに悶えながらもそれを止める。


「ティア皇女の宮殿でそれはダメですよ…公爵様」

「あぁ、そうだったね。ミミさんと話しているとつい場所を忘れてしまうね」


そう言って、デネブレ公爵は残念そうに葉巻を胸元に仕舞う。

結構ヘビースモーカーなのだろうか。


「最近の葉巻なら香りがいいから、変えるべきかな?昔からこの葉巻がお気に入りなんだがね」

「匂いの問題ではないかと…あまり体いいものではありませんし、『副流煙』だって……」

「『副流煙』かい?」


気が緩んでそんな言葉を出してしまった。

私はハッとして口を押さえる。


「あ、いえ…、ほら煙を吸うと体に良くないと聞くじゃないですか」

「あぁ、火事での怪我人の事かい?」

「はい。そんな感じです」


あっさりとデネブレ公爵は納得してくれた。

良かった。


「あ、あの、その聖女はまだ力がわからないって事ですか?」


私は話題を変えた。

すると、デネブレ公爵は頷く。


「ノア曰く、膨大なマナを保有しているのは確かなようだけど、それを魔力変換できていないってさ」


その言葉にまたしてもどきりとした。


「それって──」

「そう、ミミさんと同じ」


デネブレ公爵は私の言いたいことをすぐに理解したようでゆっくりと頷いた。


「でも、残念ながら彼女は『魔力なし』ではなくてね。マナの量の多さもあって、無下にできないんだよ」


困ったようにデネブレ公爵は眉を下げた。

その情けない顔はノアに似てる。


「魔石が彼女に反応するんだよ。ただ、魔力のコントロールができていないだけなのかもしれない」


そうなのか。

転生と転移で何かの共通点があるのかと思った。


「その…聖女は今どうしているのですか?」


私が問いかけると、デネブレ公爵は少し考えてから、にこりと笑う。


「すまないね。そこら辺は僕もわからなくてね」


多分この人は知っているのだと思う。

けど、出していい情報とダメな情報の線引きがあって、ダメな情報なら知らない事にしている方が楽なだけなんじゃないかな。

この人はノアと違ってかなり器用な人みたい。


「ま、そのうち動きはあるんじゃないかな?」


そう笑って誤魔化されるだけで終わってしまった。

結局、ノアが何をしているかも分からなかった。



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