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物語の主人公にはなれません〜魔力なしの令嬢に転生しましたが、なんとか踏ん張ります〜  作者: しーしび
6章 モブなのに実は聖女の知り合いです
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「聞きまして?」

「あのお話?」

「えぇ、誠かしら?」

「まだ正確ではありませんけど…」


あの建国式以降、人々の注目を集めている話がある。

誰も彼もその話で持ちきり。


「ミンディさん、あの方が本当に聖女ですの?」


宮廷中での会話を聞いて、コーラさんが私に問いかけてきた。


「さぁ…、どうなんでしょうね」


私はなんとも言えない気持ちで答える。

この会話をするとなんだか落ち着かない。


「確か…レイナさんって言ったかしら?」


コーラさんが話題の人物の名前を口にした。


──やっぱりレイナなんだよな…


何度も何度も確認しても変わらない事実。

そう、レイナはあのレイナ。





紛れもなく、前世で私の悩みの種であった、“佐々木れいな“の事。







建国式で突然、大きな光の中から現れた異世界の美少女レイナは、誰の目にも世界に舞い降りた女神のようにも見えたかもしれない。


久しぶりに見た、艶のある美しい黒髪と、色素の少し薄い吸い込まれそうな瞳。

顔の彫りや鼻の高さはこの国では平べったく感じるものの、日本人としてはスッとした鼻筋と、くるりとした瞳、無駄な余白のない滑らかな輪郭や髪と対比的な清潔感のある肌色は、彼女の清純さを表し、この異世界でも十分輝いていた。


しかも、女性さえも寄せ付けない美の塊であるノアと向かい合っていても引けをとらない。

いや、ノアの中性的な容姿よりも、ずっと少女の儚さのあるレイナはノアを男らしく見せ、まるで映画の一場面のようだった。


噴水の水飛沫によって少し濡れた2人は、太陽の光によってさらに煌めく──


こんな広告の映画があれば気になってしまうのは当たり前だと思う。


そんな幻想的なシーンで、低く穏やかなノアの声が発せられた。


「どちら様ですか?」


ノアはじっとレイナを見つめて問いかける。

レイナも驚きを通り越して呆然としている。


「すごく綺麗………」


そして、鈴の鳴るような清らかな響きの声をノアに返す。

レイナはノアをじっと見つめて見入っていて、どこか夢心地の様にふんわりとしていた。


「僕は質問をしているのですが」


ノアは通常運転のようで、そんなレイナを眉を顰めて訝しむように見つめた。

また意思疎通のできない人が現れたとか思ってるんだろうなとか、こっちも察した。


察したけど、それよりも私は17年前と何も変わらないレイナの姿に目が釘付けになっていた。


──レイナだ。


紛れもないあのレイナ。わたしの知っているそのままの姿。

髪型もあの頃のわたしと同じ、切り立てのショートヘア。

そして、服だって制服で──


「異世界の聖女…」


わたしが考えていると、騒ぎに駆けつけた人々の中にいた神官の1人が呟いた。


それがきっかけで、その場はレイナという未知の存在に湧いた。


この国のお偉いさんが集まり始めて、マリッサさんの事なんてほっぽり投げ。

式典に集まっている他国の者だって興味津々になってしまった。

式典は延期になり、すぐにレイナをどうするべきかの議論が始まった。


ティア皇女にまで危害を及ぼしたかけたはずのあの出来事はそのせいで有耶無耶に。

事実として記録を残すことできたけど、当の本人であるマリッサさんには軽い謹慎だけで、特にお咎めはなかった。


実際、ノアが先回りしてティア皇女に何もなかったからかも。

結局釈然としないところで幕引きとなってしまった。

私とノアが先にノアの父であるデネブレ公爵やバーリードゥ夫人に報告していたのもあって、なんとか上に報告をしていたのもあって、お二人のおかげて、記録はとってもらえただけましなのかも。痴情のもつれの部類に入るこれはあまりまともに受け取ってもらえなかったところもある。



そして、それを有耶無耶になった原因であるレイナは式典の時だけなく、今では国中を沸かせる有名人となってしまった。


キル教には聖女と呼ばれる存在がいる。

すごく魔力が多くて、瘴気の浄化能力に優れた巫女さんの最上級って感じ。

普通は神殿に囲われていて、それぞれの国に配属されている形になっている。

つまりすっごくありがたい存在。


んで、それとは別に、今まで帝国には記録のない『異世界の旅人』なるものがこの世には存在するらしい。

時々、この世界とは違う世界から人が迷い込んでくる事があるのだとか。

それはごく稀で、教国に報告されているものでは100年ほど昔のこと。

記録も片手で数えられるほど。だからあまり知名度は低くて伝説の存在。


そんな『異世界の旅人』は、この世界のものとは異質な特別な力もあり、しかもこの世界に引き寄せられるだけの膨大な魔力やマナがあるって事でかなり重宝される事が多いらしい。


あの時、『異世界の聖女』と呟いた神官さんは、その事を知っていたみたいで、『異世界の旅人』は男女で『異世界の勇者』『異世界の聖女』と分類されることから、そう呟いたらしい。


つまり、聖女ってだけでありがたがられる存在なのに、『異世界の聖女』ってなれば喉から手が出るほど欲しい人材なわけで、帝国初の『異世界の聖女』の登場に国中が盛り上がりを見せてるって状況。


なんでも今は、『異世界の聖女』をめぐって、帝国と教国とで取り合いしているような状況。

どちらもまたとないこの機会を逃したくないようで、大陸での力をより確立したものにしたがためにどうしても得たい存在。


あれから数日経っても膠着状態で、なかなか議論は進んでいない。

元老院の方でも過去ない事例のせいで混乱しているようだ。


そしてその間、レイナはこの宮廷内にいるようだが、詳しくは知らない。

空いている宮殿に住んでいるとか聞くけど、帝国と教国側の神殿の保護下で厳重な警備で囲われているとか。

話し相手や世話係に何人かの令嬢や巫女が送られているらしいけど、入ってくるのは噂程度の情報だけ。


それでも帝国中では、伝説の登場に浮き足立っていた。





「彼女、本当に聖女としての能力があるんですの?」

「さぁ…知らないですよ」


私はコーラさんに問われて渋い顔をした。

なぜあの時のままのレイナがここに現れたのか。

どう考えても偶然だなんて思えない。


私が転生し、レイナが転移した。

そこには何かがあるはず。


──しかもあの登場何?


もう一度思い出す、ノアとレイナが向き合っていた姿。

なぜかモヤる気持ちがあって、私は転生してもなおレイナへの嫉妬心が取り除けていなかったのではと連日悩まされている。


「ちょっと、あなた最近上の空じゃありませんこと?」

「そんなことありませんことよ」


私が返事をすると、コーラさんは丸い目を細めて顔を険しくさせる。


「……このジャマ伯爵家のわたくしを馬鹿にしてます?」

「してないですよ…、むしろコーラさんが冷静で嬉しいですよ」


なんとなく聖女様万歳の空気感のある中で、コーラさんはすっごく冷静。

「いきなり『異世界の聖女』なんて言われても、理解できませんわ」って困っていたぐらい。

なぜかほっとした。


だってさレイナの見た目って青春ヒロイン系だから聖女の雰囲気があるのさ。

だからだろうか、なんか見た目だけで普通の人とは違うって褒め堪える人が大勢いてさ……

正直、前世を思い出してしまった。


「冷静って、今は何も証明されてませんわ。あの方が異世界の方っていうのは分かっていますけど、他は何にもありませんもの。何故この国にあの時現れたのか、本当に力はあるのかなんて…それに、毎日ノア公子を呼びつけてるって話が気に食いませんわ!」


コーラさんが怒ってますよって感じで頬を膨らませた。


「あの時も見まして? 他の方が近づいたら、いきなり公子の腕をつかみましたのよ?はしたないにも程がありますわ。見知らぬ土地にいきなり来て不憫だとは思いますけど、そこで見知らぬ殿方の体に触れるだなんて…心細くてもありえない行為ですわ!」


生粋の令嬢であるコーラさんはあの日のレイナの行動にご立腹なようだ。

確かにあれは何かおかしい。





ノアをずっと透き通った瞳で見つめ続けたレイナは、ノアの上に乗ったまま降りようとはしなかった。

ノアもコミュニケーションの取れないレイナに困惑して、固まったままだった。


「…あの、お怪我は?」


再度ノアが確認すると、レイナは目を丸めて、辺りを見回す。

明らかに自分の世界とは異なるこの場所に初めて困惑を露わにした。

やっとノアから離れて立ち上がり、声を出す。


「ここはどこ?あなたは…誰?」


お決まりのセリフが出てきた。

見知らぬ出立ちの人々に囲まれてレイナは、頼りなさげなすらりとした体を縮こませる。

か弱い美少女が不安げにしている様は人の庇護欲を掻き立てるには十分なのかもしれない。


「…」


ノアはまたしても質問を質問で返された事で諦めたのか、のっそりと立ち上がる。


「ここは宮殿で、僕はノア・エレン・デネブレだ」


敬語を止めた。どうやらノアが敬語を使う価値がないとみなされたみたい。


「ノア……?」

「…」


レイナノアの顔をもう一度見て呟いたけど、エレンはそれに答えなかった。

ノアは目を自分の足へ向ける。

噴水の水でズボンはびしょびしょ。

ノアは気持ち悪そうに自分の足を見つめていた。


そしてノアは記憶が蘇ったのか、パッと顔を上げると、私の方へ視線をよこす。

私は噴水で尻餅をついたまま。

立ち上がるタイミングを逃した。

ドレスは情けないほどずぶ濡れだった。


「ミンディじょ──」

「きゃっ!」


ノアが私に声をかけようとしたのと、誰かがレイナに声をかけたのは同時だった。

一番に反応を見せたのはレイナで、いきなり声をかけられた事に驚いて隣に立っているノアの腕にしがみつき、その背後に隠れる。


「誰…?」


背の高いノアの体にすっぽりと隠れてしまう、か細いレイナは顔だけひょっこりと出して怯えたように問いかける。


「あの、少し離れてもらっても?」


ノアは感情のない声でレイナに言った。

ノアはすっごく不器用な感じで、レイナから体を離そうとよじらせている。

もう一度、ノアが口を開こうとすると…


「あの──」

「…ここはどこなの?電車は?ミミちゃんは?」


私の名前が出て、どきんとした。


──あれ、もしかして…


そう私が思っていると、完全に諦めたノアの顔が見えた。

確かに、何故レイナがノアを盾にするかは意味不明だ。


けど、レイナはお構いなしで、近寄る人々に怯えてさらに体を密着させる。

ノアは──


すっごく疲れた顔をしていた。


多分、私の予想。

はやく着替えたいとかそんな事を考えてそう。

会話の出来ない宇宙人を相手にする余裕はノアにはないんだと思う。

いつの間にかマナの制御はできるようになったみたいで、全然笑っていない。


結局その後ゴタゴタしたんだけど、レイナがノアから離れなくて──


「こわい……。ここは違う世界なの?」


神官やこの国の役人さんによってある程度の状況を説明されたレイナは少しずつ理解し始めていた。

けど、そう言ってノアの腕にレイナが顔を埋める。


「そうだ」


抵抗を諦めたノアは、感情のない声で答える。

レイナはそれを聞いて更に震え始めた。


「そんな…私家に帰れないの?」

「『異世界の聖女』どうぞこちらで。まず落ち着いて、話をしましょう」


神官がそう言って近づけば、レイナは頼りなさげにノアを見つめた。

ノアはそっとレイナの手を外して、神官の方へレイナを渡そうとする。

だけど、レイナは一旦離れたノアの腕をもう一度掴んだ。


「い、一緒にいて下さいませんか?私…1人じゃ不安で…」

「僕は貴方の知り合いではない」

「私…レイナって言います。お願いです。一緒にいて下さい」


震えながら懇願するレイナ。

男性ならこんな頼まれ方したらころっと行くかもしれない。

私だって行きそうだから人のことは言えない。


「……」


ノアはなんでそんな面倒な事をしないといけないのかって顔をしている。

その後、役人や神官達の説得で、ノアは渋々レイナと共に回収されていった。


「早く着替えさせてほしい…」


ってノアが呟いてたけど誰にも受け入れられなかった。

離れる前にノアがもう一度こちらを向く。


「ミンディ嬢、怪我は?」

「怪我はないよ」

「そっか」


ノアは私に近づこうとしたけど、役人さんに止められた。


「こちらへ」

「…分かった」


ノアは不機嫌そうな顔で答えると、「後で」と私に声をかけてそのまま行ってしまった。





それからなんだかんだと忙しくてノアとは会えてない。

ノアからの連絡がなくて、何度か研究室を訪ねてみたけど、不在だった。

わざわざバーリードゥ夫人に伝言を頼むのも違う気がするから、「大丈夫?」って置き手紙をした。

数日後に「なんとか」って帰ってきたけど、なんか心配。


コーラさんの話の通り、噂ではレイナはこの世界で一番に出会ったノアを信頼しているようで、ノアが聖女のお付きのようにされているみたい。

どうしても聖女を逃したくない帝国側も教国側も、そんなノアをいいように使い回しているとか。


噂で聞いただけだから、実はそこらへんのことがすっごく気になってる。

だって、あのノアだもの。


「ミンディさんはノア公子様から何か聞いていませんの?」

「なんとか生きてるらしい」

「…心配ですわね。アーノルドお兄様も忙しいみたいですの。私のお父様も元老院の招集で大変ですわ」


コーラさんはあれから家族の話を聞かせてくれた。

アーノルドさんからの叱責がかなり重荷に感じていたけど、何故かそれをそこまで感じなくなって和解したのだとか。

「いちいち考えて悩んでいるのがバカらしくなりましたわ」なんて言ってた。


「わかる!ティアも心配なの!」


すると、ティア皇女がいきなり割って入ってきた。


「「殿下?!」」


私とコーラさんは驚いて一歩下がる。


「ティアとミミを放っておいて、ノアお兄様はどういうつもりなの!」


いかにも怒ってますよと、ティア皇女は腰に手を当てて言った。

ティア皇女は幸い、あの事はトラウマになっていなくて、むしろ私がエリザベスを利用した事を聞いて目を輝かせ、「さすがミミ!!」と大絶賛された。

目の輝きがまたワンランクアップした気がするのはなんだろう。

天使なんだけど、私は何かのプレッシャーを感じる。


「ノアお兄様がそのつもりなら、別にいいもんね」


今度は腕を組んでティア皇女はツンと顔を上に向けた。

拗ねたポーズなのだろうか。


「ティアがミミを貰うもん!」

「え?」

「ノアお兄様に後悔させてやる!」


そう言って、ティア皇女はドスドスと部屋に向かって駆け出した。


「…殿下どうしたの?」

「あら?きっといい事を思いつきになったのよ。貴方には悪くない話なんじゃないの?」


私があっけに取られていると、コーラさんがニヤリと笑う。

え、それなんかこわいんだけど。


そう思っていると、その意味がすぐに分かった。

ある日、ティア皇女から受け取ってと、箱を渡された。

そこには──


緑色のリボンに豪華な金色の刺繍を施されたものがあった。


──これって…


「ミミはこれから、ティアの筆頭女官だよ!」


まさかのティア皇女のお気に入り女官の称号をいただきました。


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