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私はバビィさんの雑貨屋さんを出て、赤く染まり始めた空に手をかざす。


「綺麗…」


私は自分の手を眺めながら、うっとりとする。

私の手にはさっきバビィさんの店で買ったブレスレットがある。


「私と波長が同じ美々ちゃんにはいいと思うんだよね」


そう言って勧められた、緑色の石のついたブレスレット。

私の好みのドストライクで、縁取る上品なデザインが可愛かった。

やっぱり波長ってあるのかもなんて信じたくなるほど。


「波長価格で安めにしてあげる」とバビィさんが私が買える値段にしてくれた。

いつも、聞いてもらうばかりでお菓子を持っていくぐらいしかしていなかったのもあって、私は思い切って買うことにした。

それでもこの出費は少し痛い。痛いけど、いざ嵌めるとその事はどうでも良くなるくらい素敵だった。


「元々、私のお守りみたいなものでリメイクしたの」


バビィさんは言った。

驚いて「いいんですか?」と遠慮がちに訪ねたら、愛らしい笑みを見せ頷く。


「お守りは支えでしょ?私はこっちの世界に沢山支えができたからね」


そう言って、バビィさんはお腹を摩る。

その横顔は凄く綺麗で優しくて、美術の教科書で見る宗教画のマリア様みたい。

聖母って言葉がぴったりだった。


「だから、美々ちゃんに、ね?辛い時は、これに助けてって願って見て」


そう言うバビィさんの顔は凄く強かった。

その強さが羨ましくて、憧れる。


「ありがとうございます!」


私は嬉しくて、これがあれば前を向ける気がしていた。

買って、腕につけた瞬間、緑の石がきらりと光った気がした。


そして、家に帰ると既に持っていたものを要る要らないと分けた。

要らないと思ったものは、中古品でネットで売って、お小遣いを補充することにする。

今日は買えなかったけど、少しずつ持ち物も変えていこう。


ついでにSNSのアカウントももう一つ作る。フォローしていたアーティストを外して、新たに作った鍵のアカウントに移す。友達と趣味を分けれていいかもしれない。

そのまま、ネットショッピングもちょいちょいとする。


「あ゛ぁ!」


一仕事終えて、私はベッドに倒れ込んだ。

思いつく限りやってやった。母に説明したら、「やっとか!」と喜ばれた。

色々とあって母は部活動をよく思ってなかった。まぁ、責められなくてよかった。


──よし!


私はベッドで寝っ転がったまま、両頬を叩いた。


やましいことなんて何もない。

私の周りがどうでもいいのだ。

自分のために楽にいよう。


──洗脳じゃなくてよかった


そう思うと、笑ってしまう。

洗脳なんて単語が飛び出して笑いそうだったけど、洗脳じゃなくて引き寄せられてるなら仕方ない。

明日から本格的に新しい一歩だと思うと、不安でもあり、楽しみでもあり、足元がふあふあした。

その日は寝付きが良かったけど、夢の中でも緊張していた。



次の日、私は意気揚々と家を出る。

母は私の背中を勢いよく叩きながら「楽しんでらっしゃい!」と見送ってくれた。

その表情はバビィさんとどこか似ていて強いものだった。


私の左腕には、バビィさんのブレスレットを付けた。

袖で軽く隠れるタイプ。こういうものを学校に持っていくのは正直気が引ける。

だけど今日は少しだけ勇気がいるのだ。


──昨日の今日だしね


昨日、スマホが静かだったのが、気がかり。

今日は何かありそうで、今日だけは力が欲しかった。


「美々ちゃん!」


駅に着くと、案の定、れいなが駆け寄ってきた。

様子からして私を探していたみたい。

昨日よりも余裕のない様子で声を掛けてくる。


「おはよう」


私は無難に挨拶をする。

れいなはそれがどうでもいいようで、少し怪訝な顔をする。


「いきなり、何?部活辞めるって聞いたんだけど」


ここで問い詰めるつもりで、連絡してこなかったのだと思う。

れいなは私を諭す様な調をしていた。

まるで世話の焼ける子に言い聞かせるみたい。


「そうだよ」


平然と答えるしかない。

堂々と、堂々と…──と自分に言い聞かせる。


「なんで急に…」


悪びれる様子もない私の態度にれいなは絶句していた。


「部活のみんなも驚いてた。いきなりは困るよ。部活の空気もあるし…、これからって時にさ」

「そうだね。ごめん。今日、部室に言ってみんなに説明するよ」

「その前に私と話そう」

「ううん。辞めるのは変わらないから、他にやりたいことができたんだ」


言っていて、自分でも淡白な話し方だと思う。

けど、あんまり感情を乗せるのは良くないと思った。

言い合いになりたいわけじゃないから。


「あのさ、自分のやってる事、分かってる?」


流石のれいなも険しい表情を見せる。

かわいい顔が歪んでも、それなりに見える。

女優さんみたい。


「部活動って個人でしてるんじゃないんだよ?分かってる?」

「分かってる。けど、私が抜けても、大して問題ないと思う」


それは本心。あの部活で本当に私は必要なのだろうか。

部長のれいなが先導してやっている部活。大して役割を持っていない私は必要だったか。

私はれいなが手が回らない時のスペアでしかなかった。

「できない」とれいなが言った仕事が回ってくるだけ。

それが不可能でも可能でも関係なかった。


「先生とはもう話がついてるし、話すならみんなと一緒でいい?」

「いや、話そうよ。勝手に決めないで」


──自分はいつも勝手に決めるくせに


なんて、心の中で毒付いてしまった。

確かにリーダーシップのあるれいなに任せ切っていたところもある。

れいなが青春漫画の如く突っ走れば、周りは付いていっていた。

それは認める。


あ、やっぱり、さっきの感情はなしなし。

これはれいなと離れるためだけど、責任はれいなにあるわけではないもの。

私の選択だから、れいなに毒付くのなしだ。


「でも、本当にやりたいことが出来たんだ」


まとまりのいい言葉を繋げる。

これ以上は個人のことだかられいなも踏み込み辛いと思う。


「…分かった」


れいなも複雑な表情を見せながらも、続く言葉は出てこなかった。

良かった。放課後がこわいけど、仕方ない。

最近「仕方ない」って言葉ばっかりだ。

ここを乗り越えればそれからも逃れれる気が…する気がする。

変な言葉。


すると、電車のくる音が聞こえた。

私はここが離れ時だと思って、違う車両の列へ向かう。


「あ、それ、ブレスレット?」


れいなが、私の左手を見て声をかけてきた。

めざとい。けど私はそっと隠して曖昧な答えを返す。


「あ、うん…」

「え、良く見せてよ。珍しいね」


そう言って、れいなが私の腕に手を伸ばしブレスレットに触れてくる。


「きゃぁ!!!!」


やだと思い逃げようとした瞬間。

電車に乗るために走った乗客がれいなにぶつかる。

するとれいなが私に向かって突っ込んできて、ホームの端にいた私を押し倒す。


「?!」


私も突然の事で、驚きながら、自分や周りがスローモーションに見えた。

それでも私の頭は色んな事が巡る。


──落ちてる…


ぼんやりと思っていると、視界の端に何かが見えた。

こっちに向かってくる何か。


──あっ……


轢かれると思った時には私の目の前には電車があった。


──助けてっ……


瞬時にそう願った。

誰でもいい。助けて。お願い。

まだ死にたくない。


助けを求める先には驚いたようにホームで倒れているれいなだった。

その手には私のブレスレットがあって──


次の瞬間には目の前が光に包まれた。



*****



オギャーーー


私が悲鳴をあげると、変な鳴き声が耳に届いた。

何か、眩しくて目が開かない。

それでも踏ん張って目を開ける。


「お、目を開けたぞ!」

「まぁ、あなた見て!あなたにそっくりの目だわ」


──?!


私の目の前にはアニメの世界でしか見た事のない色の髪や瞳をした男性と女性がいた。


──え、何これ!?


女性が私を抱っこしているのはなんとなく分かる。

分かるけど、私、さっき電車に轢かれたよね?


「あう?」


そう疑問に思ったら、私の口から変な声が出た。

何この声。まるで赤ちゃんみたいな──って思ってたら気づいた。


目の前にガラスがあってそこに、変な色の男女に赤ちゃんが映っている。

どう見てもその赤ちゃんの位置は私と同じところの様で──


あのブレスレットの石そっくりの緑の瞳に赤髪の赤ちゃん。

私が足をバタつかせれば、その子もバタつかせて。

鏡越しに目がめっちゃ合ってる。


それはもう、絶対にそうだとしか思えなくて。

考えるよりも先に思ってしまった。

私、赤ちゃんになってる。


──いやいや、私、高校生だよ?17歳で…え?!


分からないけど。分かる。

なんか分かってしまったのかもしれない。


──う、生まれ変わってるぅ───!!!!!


某人気映画のセリフが飛び出した。

驚くと本当に出るんだね。




~ 1章 完 ~


───────────────────


こんにちは、しーしびです。

いつも、『物語の主人公にはなれません』を読んでいただきありがとうございます。


本当にありがとうございます!

既にこの作品を気に入っていただいた皆様には心より感謝を申し上げます。


さて、本題です。

5話の終わりとともに、第1章が完結しました。

明日からは第2章に突入です!


実は、第2章でやっと本題!というのがしーしびの思いでございます。

ひゃっほ~い!!

ということで、赤ちゃん美々をこれからどうぞよろしくお願いいたします!


皆様に楽しんでいただけるようにがんばりますので、

最後までよろしくお願いいたします!

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