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高校生になって、私はやっとれいなという人間を見ることができた。

部活はまたしても同じになってしまったが、文系と理系で違う棟にいる為か、れいなの存在が中学の時よりも薄く感じた。


「持ち物、センスいいね」


初めて言われた言葉に私は驚いた。

あの一件から、これだと思うもの以外は極力平凡なものを使うようにしている。

そうすれば、たとえ被っていてもダメージが少ないーーとか、考えてみたりしてた。

だから、そんな事を言われるのが意外で私は目をまるめて固まってしまった。


「シンプルなのに、おしゃん」

「あ、私も思ってた!美々の物って個性的でさ、色とかめちゃいい」


そんな会話がくり広げられて、呆気に取られながら私は返事をする。


「お、おう?」


いきなりのことだから変な声が出てしまった。


「美々ってウケる」


それでもクラスメイはケラケラと笑って私を受け入れてくれた。

れいなと離れてから感じる。馬が合うってこういうことなんだって。

私のセンスが変な時でも「それはないわ」とか言ってくれる。

多分、れいなと一緒にいることが約束のようになっていて、れいなとの相性を考えたことはなかった。けど、れいなとの会話より、みんなとの会話は否定されてもすごく楽だった。

同じ趣味の話をしていても、すごく合う。「そっか。へぇー」ばっかりのれいなとは違った。


ーーあれ?


そうなってやっと思うことがあった。

さっきから、れいなを持ち上げ続けている同級生とれいなの方に顔を向ける。


「れいなって持ち物が本当にセンスあって羨ましい。どうやって見つけるの?」

「んー、SNSとかかな?あんま考えたことないから分からないや」

「そうなの?」

「見てたら『あっ!これだっ!』ってなって即決って感じだからなぁ~」

「やば。センスある人にはものが引き寄せられるのかな?」


普通の会話。だけどれいなと私との会話とは違う。


「おすすめのブランドとかある?」

「ブランドっていうか、最近見つけたハンドメイド作家さんなだけど・・・」


そう言ってれいなが口にしたのはあのスマホカバーのハンドメイド作家さん。

私がれいなと被らないように必死で探したお気に入り作家さん。

れいなは数日後、きちんと探して購入していた。


ーーどうやって見つけたのよ・・・


こっちはそれを見つけるまでカバーなしを4ヶ月も我慢したのに。


「あ、れいなって最近、イラストレーターの人もフォローしてない?」

「そうそう。アーティストの人が気になってて、こっちの写真家の人なんていいなって思ったんだ」


その言葉を聞いて、私はまさかと思い、鞄からスマホを取り出して確認する。


ーーまじか


またしてもやられていた。

れいなのアカウントには私のお気に入りのアーティストさんたちが並んでいた。


ーーあぁ、この話、この前れいなにしたな・・・


「気に入ったから」と言われればそれまでなのだが、ここまでフォローしているアカウントが被っていたら気持ち悪いと思ってしまう。

SNSは見る専だから、投稿していないことに心底ホッとする。

まさかとは思うが、それまで真似されては・・・気持ち悪すぎる。


にしても、やっぱり、私の時よりれいなが話してる。

質問じゃなくて、自ら語っている。

私はなんとも言えない気持ちになって顔を上にあげた。


ーーこの状況なんなんだ・・・


はっきりしないのが余計に怖い。

でも、れいなは性格が悪いわけではない。

そう、なんとも言えないのだが、性格は悪くない。

ただーー


「あっ・・・」


私が一人で顔を顰めていると、れいなと話していた子が声を上げた。


「スマホカバー、2人はお揃いなの?」


ハンドメイド作家の流れから気付いたようで、声をかけてきた。

もちろん私はなんて答えるのが正解なのかいまだに分からない。

だが、私が考えて口を開くよりも、れいなの口が自然と開く方が早かった。


「あ、ほんとだ」


今気づきましたと言わんばかりにれいなが言った。


「色ちだね」

「えっ、あ、揃えたわけじゃなんだ・・・」


れいなの反応に女子生徒は少し躊躇う反応を見せると、隠す素振りもなく、れいなと私とを見比べ始めた。

何度か往復する彼女の視線が痛い。


「なんだか二人、すごくセンスが似てるんだね・・・、あ、そうだ。この前の授業でさーー」


女子生徒はぎこちない言葉を言ったあと、さっさと会話を変えた。

・・・なんとなく彼女の言わんとしていることは感じ取ってしまった。

だから彼女とは一緒にいたくない。なのに、何故か捕まってしまう。

部活だって別にしたかったのに・・・


そして、その日、たまたま移動教室で通った文系の棟で私は耳にしてしまった。


「ねぇ、知ってる?理系にマネ子がいるって」

「マネ子?」

「あぁ、あれでしょ?れいなの真似っこばっかするこ。持ち物全部、れいなと一緒にしてるんだって」

「え?嘘ー?」


ーーこっちのセリフだ!それが嘘だ!真似なんてしてない!


移動中にトイレに行きたくなって私はみんなと別れ、文系のトイレに立ち寄った。

遅れる前にさっさとしようと思っていたら、この会話が聞こえた。


「それ引くわー。れいなみたいに可愛いの?」

「なわけ。電車であったけどさ、まじでそっくりでびびった」

「ないわー」

「部活が一緒なんだって。ストーカーかよ」


今度は流石に腹立たしさが勝る。


ーーその喋り方がないわーーーい!


人の悪口を言うなら、もっと丁寧な言葉遣いをして。

その喋り方だと馬鹿にしているのもプラスされるからな。


ーー笑って話せるほどお前たちの顔はいいのか!?え?


このまま扉を開けて問いただしてやろうかと思ったが止めた。

私は人と喧嘩する勇気なんて持ち合わせていない。

まず、怒る時は震えて泣きそうになるし、気持ちが先を行ってしまって上手くできない。

ギスギスした感じになればどうすれいいのか分からない。

ヒートアップすると自分が抑えられないタイプだし、自分が飲み込む方が早いかとか思ってしまう事が多い。


何より、それで相手を傷つけるの怖い。

私の言葉が武器になってしまうってのが酷く恐ろしい。

言葉や態度の嫌さはよく知っている。


だが、その時、プッツンと来てしまった。


ーーあーあー、そんなに言うのか


そう思えたのは、きっと私を私として認識してくれる人がいたからだと思う。

中学の私だったら思えなかった。


ーーれいなと私は違うわ!


れいなと離れれるならもういいやと思えた。


ーーおうおう。部活なんて辞めてやるさ


今まで部活を辞める原因が友達なんてなーなんて、思って踏ん切りがつかなかった。

自分の好きなことを、人のせいで辞めなきゃならないなんてあり得ないと思っていたからだ。

だけど、もうそこまで固執しなくてもいいと思えた。


ーー物語の主人公じゃなくても・・・


きっとれいなはどこでも主人公なのだろう。

彼女の容姿も行動も全てが魅力的だ。だが、そんなのどうでもいい。

私がモブだろうとなんだろうと不幸になっていいなんてない。


私はこの状況が酷く息苦しいし、怖い。

ここだけじゃない。やりたいことなんていくらでも見つけれる

見つけられなくてももっと方法があるはずだ。


「いい加減、自由にさせてくれ!」


私の叫び声と共にチャイムが鳴った。

私は慌てて、教室に駆けった。

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