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クリスティンさんの伝言を受けて、バーリードゥ侯爵夫人の元へ行くと、ティア皇女が私達に会いたがっていると言われた。


「本来なら、罰を受けてもらってからですが、殿下が望まれるので仕方ありません。貴方達は殿下のお手本としての自覚を忘れないように。くれぐれも私情を持ち込まないように」


バーロードゥ侯爵夫人は私達に言った。

「私情を持ち込まないように」なんて懐かしい言葉だ。

けど、前世の顧問と違ってバーリードゥ侯爵夫人の言葉はしっかりと受け止めれる。


「もちろんですわ」

「かしこまりました」


私たちはそれぞれ返事をした。

コーラさんが「分かってるわね」ってな感じで睨んできた。

私も返事のつもりで舌をぺろっと出した。


──分かってる。こっちのセリフよ


何故か、我慢していた昨日よりも刺々しく感情を出している今日の方がやりやすいだなんて変だった。


「ミミ!コーラ!」


私たちが入室すると、ティア皇女は嬉しそうに駆け寄ってきた。

1日ぶりの私の天使は、ふんわりと癒しを提供してくれる。


「あのね。ティアはこのドレスが好きなの」


私たちは、皇女様が国王陛下に挨拶に行く前のお着替えの相手をすることになった。

侍女の方が何人か後ろで控えていて、私たちがティア皇女とお話しながら服を決めていく。

決まったら、侍女の皆さんがティア皇女様のお着替えをしてくれることになっている。


ティア皇女は緑色の生地に淡い黄緑のシフォンが重なっているドレスを選んだ。

それなりに愛らしいドレスだが、ティア皇女の年齢にしてみれば少し大人っぽいデザインだ。

緑のドレスは森の妖精のようだが、ティア皇女の愛らしさが減ってしまう。


「素敵ですわ。でしたら、髪飾りも緑で統一させた方が美しいですわ」


コーラさんは緑の派手派手しい髪飾りを取り出した。

確かにコーラさんの好きそうな派手さ。

この世界で一色で統一させた方が、神聖で美しいファッションとされている。


多分、国教のキル教が単色で統一する文化があったから。


確かにそれも素敵だと思う。

ピシッと決まるけど、色によってはちょっとなって思うところがある。

それだけじゃ面白みがない。前世の記憶がある私は、もっとカラフルの良さを知ってる。

別にカラフルが悪いものだなんていう文化はないから、それでも問題ないのに、あまり浸透していないのは残念すぎる。


「ピンクのこの髪飾りなんて如何ですか?」


私はそっと提案してみる。

私が持ったのはピンクのリボンに、黄色や緑などの造花が添えられているものだ。

とても愛らしいもので、ティア皇女のドレスと合わせると、とても愛らしく、花の妖精みたいだ。


「可愛い!ティアもそれ好きだよ!」


ティア皇女は嬉しそうに言った。

私がそっとティア皇女の頭に近づけると、「まぁ」と周りから声が上がった。


「華やかでいいですわね」

「えぇ、色が多くても下品ではありませんわね」


意外だと言わんばかりに口々に言った。


「まぁ、悪くないわね」


コーラさんも納得しているようだ。街ではこれぐらいの彩りは普通にある。

それこそ、ヴェロニカはいろんな色を使う方が好きだ。

けど、宮廷ではやっぱり伝統の方が重んじられるから、主流にはならないのかもしれない。


「けど、少し、頭と体が別々に見えるわ」


緑で共通しているが、幾分、髪飾りの方が愛らしすぎる。

他の人も同じように思ったみたいで頷いていた。


「でしたら…腰回りに、このリボンと同じ布を巻きつけるのはどうでしょうか?ほら」


私がピンクの髪飾り用のリボンをティア皇女の腰に回してみる。

ポイントになって悪くないと思う。


「わぁ!可愛いね!ミミ!可愛い!!」


ティア皇女は嬉しそうに顔を輝かせる。

目ではないよ。顔だよ。もう全てが輝いてんのよ。

本当に……好き。


「いいですね」


バーリードゥ侯爵夫人も言った。


「わたくしも悪くないと思いますわ」


コーラさんも賛成した。正直、反発してくると思ったので意外だった。

そんな私の視線を感じ取ったみたいで、コーラさんは顔を赤くした。


「いいものをいいと言って何が悪いの?」


ツンと言われた。何だよ。やっぱりツンデレか?

そう簡単に好きになったりはしないけど、何だかコーラさんが昨日より嫌ではない。


「殿下、他のものを選びますか?」


バーリードゥ侯爵夫人がティア皇女に問いかけた。


「好きだよ!ティア、これがいい!お父様も可愛いって言ってくれるかな?」

「もちろんです」

「やった!」


バーロードゥ侯爵夫人はティア皇女には柔らかい口調をする。

そうなってしまうのは分かる。


「ミミはすごいね!」


ティア皇女が褒めてくれた。

純粋なそのままの言葉に私は単純に嬉しくなる。

この気持ちなんだろうなと思う。

こんな気持ちがきっと私を前に向けてくれると思う。


「ありがとうございます」


単純な私はそれだけで一杯になってしまった。

昨日や今日のあれこれなんて吹っ飛んでしまう。


その日、残りの水汲みの業務を終えると、他の女官にティア皇女が授業で使った本を返却するように頼まれた。私も、宮廷図書館に行ってみたかったので、快く承諾する。

昨日から2こ1のように扱われていた、コーラさんとも少しお別れ。でも、その後は何だか気分が良くなって言い合いがそこまでなかったと思う。


──おぉ!本だらけ


宮廷図書館に着くと、私はアニメーション映画のような光景に驚いた。

どこもかしこも本だらけだ。

高い天井まで続く本棚に圧倒される。


──あんな高い所どうやって取るの?


興味津々でみていると、梯子をスライドさせて本を取っている人がいた。

なるほど。そんなものを見てしまったら上りたくなるのが人間だ。

遊園地などないこの世界でアトラクションめいたものを見つけた気分だった。


「これよね…」


本を返却して、私はごくりと唾を飲んだ。

こんな高い梯子なんて見た事ない。消防士の訓練のやつみたい。


──おし


さぁ、登ろうとした瞬間──


「あの」


声をかけられて振り返った。

そこにはまたしてもあの美青年がいた。


──よく会うな…


どこの誰かは全然知らないけど本当によく会う。

この広い宮廷で連日で会うのは凄い。

ペコリと私が会釈すると、向こうも同じ動作をした。


「代わりに取りましょうか?」


美青年にそう問われて、私は苦笑いを浮かべた。


「いえ…取るものはないので」


私がそういうと、美青年は少し顔を横に倒す。

「なんで?」と顔が言っていた。


「梯子を登りたかっただけです」

「この梯子を、ですか?」

「はい。見た事ない大きさだったので…」


どこのお転婆娘だって話だ。

ヴェロニカに話したら笑われそうだ。

だけど、この美青年はじっと梯子を見つめて、頷いた。


「確かに…、この大きさの梯子はなかなかありませんよね」


美青年は素直に納得する。

納得してしまうのか。


「はい…」


そう素直に捉えられると、妙に小っ恥ずかしくなる。

絶叫系の刺激欲しさなんて伝わるはずもない。


「余計なことを…すみません」


納得したからか、美青年はそう言って一歩下がる。

何だろう、この美青年の話ぶりはのんびりすぎて調子が狂う。

何だか、そのまま登り直すのも違う気がして、私は笑って、首を掻いた。


「あ」


美青年は何かに気付いて、私の首の方に顔を寄せた。


「!?」


びっくりしたけど、何だか避けることもできなくて私は固まった。

私の首の方に注目していた美青年はさらに手を伸ばしてくる。


「っ──…」


──何?!何?!


心の中は大爆発です。

ティア皇女並みに神々しい綺麗な顔がこちらに向かってくる。

平常心なんて保ってられない。

息を止めているのが精一杯で、目も閉じたり開いたり忙しない。


──ち、ちかっ…


美青年の顔が視界いっぱいになって、もう私は目を開け続けることはできない。

生まれて初めての、こんな青春漫画のような体験に頭は飛んでいた。

彼が好ましいとか何とかより、もう、ただ男性なるものが普通にプライベートゾーンに入って来て──


「何か挟まってますよ?」

「え?」


ハッとして目を開ければ、美青年は私から離れて何かを持っていた。

彼はそれを見つめていて、私がどうなっているかなんて全く気づいていない。

何かを私の襟元から取ると、首を傾げて、私に差し出してきた。


「あ、す、すみません」


私も何だと戸惑いの方が大きくて、お礼を言いながら受け取る。


──なんだ…びっくりした……


そう思っていると、美青年はじっと私の手元を見ている。


──これはめちゃくちゃに気なってるんだろうな…


受け取ったものを見直すと、何かの紙切れだった。

折り畳まれていて、それを開けると──


『レディ、今日の夜、庭園で落ち合おう』


何もなかった紙のはずなのに、キラキラひらりながら文字が浮かび上がってきた。

紙も真っ白いものから変にピンクの色になって、いつの間にかハート形に変わった。


「…何これ」


その手紙に普通に引いて低い声が出た。

おそらく、いや、絶対、朝のあのナンパ男だ。

忘れていたはずの寒さが足元から湧き起こる。


──きもい!きもい!


そう思っていると、美青年が口を開いた。


「変だと思ったら、魔術がかけてあったんですね。色と形も変える魔法を…あ、匂い」


美青年は私の手に顔を近づけて、紙の匂いを嗅いだ。


──きもいのがうつるよ!


何だかいじめっ子のような発想になったけど、ナンパ男が生理的に無理だ。

美青年の神々しさが減っちゃいそうだった。


「この匂いは…違うのか。何だろう?」


独り言を呟いて、美青年は顔を上げた。


「あの、これ、何ですか?」

「いや、知りませんよ」


こっちの気持ちも知らずにマイペースに分析を始める彼につい、ピシャリと言ってしまった。


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