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佐々木れいなと私は中学時代に出会った時、同じ部活だったこともあってなんとなく付き合うようになった。

最初は特に佐々木れいなに対してこの悶々とした思いは持っていなかった。


「美々ちゃん!」


まだ中学生のあどけない佐々木れいなにそう呼ばれれば私だって悪い気はしなかった。

愛らしい容姿が際立っていた彼女はまだ長かった髪を揺らして、爽快に笑う。

それは彼女に裏表など無いような印象でどことなく、好感を持っていた。

感じのいい可愛い子。それが私の彼女に対する印象だった。


因みに、私の容姿。

ブス、という領域では無いはず・・・と思っています。


二重の魅力を存分に引き出しきれていないありきたりな目に、主張の激しいおでこ。

鼻も、10人に5人はいそうな平凡なもので、唯一の取り柄は歯並び。

骨格はそれなりにがっしりしていて、身長も高い。

デブでは無いけどモデルみたいなスレンダーさは皆無。


そんなパーツを纏めると、あら不思議。

それなりに身長のある凡人の出来上がり。特徴のなさがモブにはピッタリーーな人間になる。

それが私、美々です。


まさしく、佐々木れいなが物語の主人公であれば、私は完璧なモブ。

少女Gぐらいで、男主人公に頼まれて廊下から教室に向かって「れいな~、お客さ~ん」なんてセリフを言っているかもしれない。

・・・そんな事をした記憶がなくもない。


そんな全く違う見た目の人間だったけど、私はれいなとよく一緒にいた。

音楽や映画、小説の趣味もよくあっていて、あえてお揃いのものを買う時だってあったぐらい仲は良かった。

私と似たものを彼女が持っていても対して違和感を感じないくらい。


ーーれいなも気に入ったんだな


それぐらいの気持ちでいた。


それにれいなは可愛いだけじゃなくて行動力のあるタイプだった。

まさしく青春漫画のヒロインそのもので、学祭を盛り上げようとバンドを結成したり、校則を変えようとしたりーー青春まっしぐらだった。

だからか、それに伴う青春の失敗なんて彼女には愛嬌のように思えていたのかもしれない。


そんなれいなは忽ち、クリエイティブさの象徴として学校で認知され始めていた。

私は全てで青春を謳歌していたれいなに感心しながら、失敗には苦笑いで傍観することが多かった。

巻き込まれた時は、ちょっと気になることはあったが、仕方ないとその時は思えた。

確かにれいなは何かセンスがあるのかもしれないと思っていた。

それと似たセンスの私が嬉しいとも思えていた。


だけど、私が初めてれいなとの鞄を間違って持って帰った時、違和感が湧き起こる。


ーーあれ?こんなに、そっくりだっけ?ほとんど一緒・・・


ノートを開くまで全く気が付かなかった。

なんでこんなにそっくりなのか全く分からなかったし、教科で分けているノートの種類まで一緒でーーゾッとした。


「れいなさ・・・私と同じものよく買うよね?」


それとなく聞いてみた事もある。


「あ、一緒。お揃いだ」


本題に全く答えてくれず、彼女は愛らしい笑みを見せるだけだった。

なんとなく私もそれ以上突っ込めずにいたある日、事件が起こった。


「お前、佐々木の真似してる?」


同級生男子が私にそう声をかけた。

私は「あ゛?」と低い声で唸ってしまった。

それを肯定と受け取った男子生徒は自慢げな顔になる。


「やっぱりか。お前、寄せすぎ。持ち物、佐々木と一緒のものばっかじゃん。ほら」


私の鞄やら筆箱を指差して「あれも、これも」と言い始めた。

隣にいたれいなはもちろんそれと同じものを持っていた。

男子生徒のあまりの大声に教室中の人が反応する。


「あれやばくない?」

「全く一緒じゃん」

「うわ」


そんな声が聞こえ始めると、一人の女子生徒が言った。


「美々やばいって。いくられいなに憧れてるからって、やりすぎだよ~」


彼女の鼻で笑うような言い方に、頭から氷水をかけられたようだった。


ーー何言ってんの?


「ついに言っちゃったか」

「黙っておけばいいのに」


続くそんな声に私の頭はひっくり返りそうだった。


ーー何、それ?


言い分が理解できない。私はそう見られていたのだろうか。

確かにれいなの方が目立つ。私が持っていても誰も目につかなかっただけ。

私はずっと持っていた。


「ちょっと、そんな風に言わないでよ」


そこで、れいなが周りを窘めるように言った。


「この筆箱は一緒に買ったし、ね?」


れいながそう確認してくる。

私は喉に何か引っかかってしまったようで、頷くことしかできなかった。


ーーこれはれいなと一緒に買ったけど、他は全部私が先に買ったのに


その言葉は頭の中に回っているだけだった。

れいなが口を挟むと、男子生徒は不満げな表情を見せる。


「なら、他の物は?全く一緒なんておかしいだろ?」

「そ、それは・・・」


男子生徒の問いに、れいなは動揺を見せる。


「偶々だって。ほら、私も中西と同じシャーペンもってるし」


れいながぎこちなさそうにそう言うと、中西と呼ばれた男子生徒は先程の勢いを失くし、「まぁ、そうだよな」と柔らかい表情を見せる。

何故かそれはまるで、れいなが私を庇っているような構図に見えてーー


「そういうことにしとく?」

「まぁ、悪いことではないしね」

「真似したい気持ちは分かるけどね・・・」

「ちょっと、怖い発言やめてよ」


周りの反応は私を嘲笑うような雰囲気だった。

れいなも「気にしないで」と励ますけど、肝心な事を言ってくれない。


ーー違う、そうじゃない・・・


そう思うも、私の口からその状況を打開できるセリフなんて出てくるわけもなかった。


ーーれいなは一体どんな気で・・・


れいなはいつも通りの表情。

心底私を心配しているようだった。


ーー・・・


きっと悪気はない。ないはずだ。

お揃いになったのだってーー


ーーいやな考えをしちゃだめ


そう言い聞かせたけど、それからの中学生活は最悪だった。

私も、見られるほど何か言う事ができなくてーー

いくら持ち物を変えても、れいなは必ず真似てくるし、そんな毎回変えれるほどのお小遣いなんて私にはないしーー本当にどうしようもなかった。


れいなはいつも通りの付き合いをしてくれるが、私は、それを心から嬉しく思えなかった。

思えなかったけど、それよりも他の人と過ごす方が苦しくて、ずるずると関係を続けることになった。

一人になる勇気はない臆病者だった。


そして心機一転できると思っていた高校。

新しい友達づくりをーーと思っていたら、れいなは私と同じ高校を選んでいた・・・

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