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私は嫉妬しながら、締め括る。
「ですので、何も心配される必要はないかと思うのです」
「「…」」
私が言い終わると、お兄様もコーラさんも固まってた。
ぐうの音も出ないってこんな感じなのかな。いや、違うね。
何とも言えない沈黙がそこに溜まる。
コーラさんなんて、目をまんまるにして驚いたまま固まってる。
ゴーン、ゴーン
すると鐘の音が聞こえた。
──やばい!
次の鐘で授業が始まるんだ。
うろちょろしている間に1時間ぐらい過ぎていたのかも。
時間の猶予がなくなっていた。
「あの!書庫はどちらですか?!」
「南の通路の向かいの棟だが──」
私が大慌てで聞けば、お兄様は勢いに押された様に先程の棘を無くした声で答えてくれた。
このお兄様、意外と無愛想じゃないのかも。
「ありがとうございました!職務を全うするので、ここで失礼します!コーラさんっ!」
「え?あっ」
私は、後でコーラさんに怒られるかなと思いながらも引っ張ってその場を去った。
なんか嫌な空気だったし、やることがあるし。お兄様の言うとおり、働かないと。初日からサボれない。
「ちょ、ちょっと!!」
私は時間を取り戻そうと、懸命に走った。
「ちょっ……、ちょっ……と!いい加減……、離しな…さいよっ!!!」
教えてもらった道へ走って向かっていると、コーラさんが私の手を振り払った。
──しまった!令嬢は走るのが苦手だった。
振り返ると、ゼェゼェと荒く呼吸をしているコーラさんがいた。
私はヴェロニカが『3歳のお転婆令嬢』だなんて言ってきたぐらい走りまくる。
やっぱり体を動かさなくちゃ、ちょっとスッキリしないし、消費カロリー多い方が寝れるでしょ?
そんな私にヴェロニカが「あんたは大人なのか子供なのか分からない」って言ってたけど気にしない。
つまり、私が言いたいのは、他の人より走るのが得意ってこと。
「なっ、なんっ……はぁ、はぁ…」
走りすぎて、コーラさんは言葉も出せていない。
「えーっと、書庫!着きましたよ!」
一応、報告。仕事はホウレンソウがが大切だよね。
JKだったけど知ってるよ。私は目の前の建物を指して言った。
「そ、そんなっ、ことっ……は、どうでも…いいのよ!」
何とかして言葉を紡いだコーラさんに私はムッとした。
どうでも良くないだろ。本来の任務だよ。
「あなたねっ!あんなこと言って、私がっ感謝するとでも?!」
コーラさんの呼吸は整い始めていたけど、さっき押し殺していた反動か感情は爆発していた。
さっき、コーラさんに注意された何倍もの大きな声で言われた。
「頼んでないわよっ!なんであんな事をあなたなんかに言われなきゃならないのっ?!そこまでバカにしてた?」
感謝なんて求めてないけど、ここまでキレられるとは思ってみなかった。
正直にコーラさんが自慢していたのを、伝えただけじゃないか。
私の言ったことが馬鹿にしていたなら、自分で自分を馬鹿にしていたのかい?
大体、普通は同僚の家族に会ったら全然お世話になってなくても「お世話になってますぅ~」って言うもんじゃないのかい?
家族は「まだまだ未熟者でぇ~」って言えば、「いえいえ~」って言うものでしょ?
「日本文化に則って言いましたが、何か?」
つい、ドヤ顔で言ってしまった。
私も堂々と言うものだから、コーラさんはさらに憤慨する。
「何、訳の分からない事を言っているのよ?!」
確かに、異世界では通用しないね。
「どうせ、私は家の落ちこぼれだって、馬鹿にしたんでしょ?!ヒーロー気取りで褒められても全然嬉しくないわっ!私だって、きちんと認められるように努力してるし、お兄様もこれから認めてくださるのよっ!笑いたければ笑えばいいじゃない!変に偽善者面しないでよっ!」
火がついたコーラさんの口は止まらない。
今度は私が理解できない。何を意味をしているのか私にはさっぱりです。
けど、やっぱり嫌がらせで言ってしまったところもあるから、コーラさんが怒るのも無理ないかもしれない。
──だけどさ、けどよ……
「自分は好き勝手やって、私のが許せないって何?!」
私は吠えた。堪えずに言ってしまった。
馬鹿みたいに大声を浴びせられるのは普通に理不尽だ。
「散々人を貶して、私が言ったら駄目って?!そっちが悪口じゃない本当の事を言ってるって言うなら、こっちこそ本当の事しか言ってないですからね?」
一回、口から放った火はなかなか消せれない。
ゴジ○みたいに燃料が切れるまで吐き続ける。
私もコーラさんと同じ状態になった。
「そっちが自分で言ってたことをお兄さんにそのまま伝えただけですよ!しかも、勘違いされてるから訂正して何が悪いっ?!」
こんな風に人に大声をあげるって、前世での親子喧嘩以来。
親子だからこれだけ叫べるけど、他の人にはできなかった。
あまりにもコーラさんが正面からぶつかってくるから黙ってられない。
そしてコーラさんも負けじと応戦してくる。
「自慢だの、蹴落とすだなんて、全然フォローになってないわよっ!」
「フォローじゃないっ!訂正っ!!!なんで嫉妬しそうな相手をフォローしなきゃならないんですかっ!」
「し、嫉妬?!」
私の言葉にコーラさんが一瞬たじろいだ。
「なっ、何で私があなたなんかに嫉妬されなきゃいけないのよ?!」
「羨ましいに決まってるでしょ!!」
何当たり前の事を言っているんだと喰いついちゃった。
ギリギリで保ってた敬語も放棄した。
「自慢するほど大好きな家があって、そのためにプロ並みに努力できるんでしょっ?!十分、素敵すぎるじゃない!」
今、思えばれいなに対して思っていたものは嫉妬ではなかったかもしれない。
確かに「可愛いな~」「人気でいいなぁ~」とは思ってたけど、そこまで羨ましくない。
努力できて、家族愛に満ちているコーラさんの方が羨ましい。家族愛は私だってあるけどね。
私はまだ、家族の一員として胸を張れない。胸を張って自慢できるコーラさんが羨ましい。
「こっちは毎日ヒヤヒヤしてんのよ!私のせいで家が落ちちゃうってね!」
「なっ……なっ、なんで、そんなことをっ…あんたなんかがっ…」
コーラさんは狼狽えていた。
私も一気に言いすぎて、少し呼吸が乱れてて、整えようと大きく息をする。
その間にコーラさんは思考を回したらしい。顔を上げて喰いかかり返してきた。
「同情なんて必要ないわよ?!」
──あ゛ぁ゛!何でこの子は捻くれてんの?!
「同情なんていらないわっ!絶対…、絶対に、見返してやるんだからっ…!!!」
──そうじゃないって!!
私は燃料切れになっていたけど、それでも燃やす。
「だ・か・らぁ~!!」
この自分の事ばっかなコーラさんに同情なんてしない。
「あからさまに嫌がらせする人を可哀想だなんて思いませんよっ?!それに、さっき、わざと紅茶をこぼさせたの覚えてます?!あんな事されて、同情なんてする余裕ありませんからね!」
シミは消えて命拾いしてるけど、怒っている。
さっきの言いすぎたかもなんて思いは吹っ飛んだ。
「あの服、分かってます?私の母が張り切って選んでくれたものなんですよ?!」
「えっ…」
私の一言でコーラさんの顔色が変わった。
「母がめちゃくちゃ悩んでくれたものです!私の好みも聞いてくれて!コーラさんは自分が自慢するくせに、人のそれを簡単に汚したんですよ?!分かってますっ?!」
コーラさんの肩を掴んで叫んでしまった。
「あっ、そ、それは…」
コーラさんは動揺していた。だよね。
そんな事思ってなかったよね。だから、そんなことしちゃいけないんだよ。
コーラさんは完全に放心状態。
私は言いたいことを言い切って、少しスッキリしていた。
多分、ストレス発散もしたんだと思う。お肌つるぺかになりそう。
こういうの久しぶりすぎてなんかポーッとする。私も放心状態。
ゴホン
人の咳が聞こえて驚いた。
コーラさんの顔を見たけど、コーラさんじゃない。
コーラさんは私の後ろを見つめていた。
振り返ると恰幅のいい中年男性がこちらを向いていた。
「君達、友情を確かめ合うのはいいが、場所を考えてくれないかい?」
「「あ」」
その言葉で私とコーラさんは我に返った。
ここが書庫の前で人目があって、叫んでいたら普通に注目される。
痛々しい視線で、私の中で恥ずかしさが爆発した。




