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一晩中、恥ずかしさで悶え苦しみまくった私──ではなく、どうにか自分の記憶を抹殺しようと目を瞑っていたら、ちゃんと寝て、スッキリした朝を迎えた。
疲れなど微塵も残っていない。むしろ美味しいご飯と、フカフカのお布団で絶好調。
実家のものでも十分贅沢だったけど、流石は宮廷だ。
朝の支度を私付きの下女さんと一緒に終わらせると、最後に髪に緑色のリボンを結ぶ。
この緑色のリボンはどこの#奉公人団__メゾン__#に所属しているのかの印。
貴族の女官には制服なんてないからその代わりなのだそう。
侍女だったら制服が配られているけど、私たちは皇女様の取り巻きの役割があるから、それなりに着飾って皇女様の迫力をつける。
一通りの支度を終えると、私は皇女様の部屋に向かった。
待ち受けていたバーリードゥ公爵夫人に挨拶の最終チェックをされて、そのまま入室~
「ジャマ辺境伯爵家のコーラです」
コーラさんは自信満々に挨拶をする。
さっき侯爵夫人にも褒められたからか余裕そうだった。
ただ、私も同じセリフを言われた時はめちゃくちゃ悔しそうな顔してた。
「ウルグス子爵家のミンディです」
私も続いて挨拶をした。
家の爵位的にも私の方がコーラさんより序列は下になる。
確かに下の人間が褒められるのは嬉しくない事なのかもしれない。
「顔を上げて」
皇女様から許可が出たので顔を上げると、そこにはなんとも愛らしい女の子がいた。
──うわぁ…
思わず声が漏れそうだった。
黄金に輝いて揺れる綺麗な金髪に、優しく透明感のある水色の瞳。
そこにいたのはまさしく天使。愛らしさ200%だよ。
「私は、ティアだよ。よろしくね」
──ま、眩しい!!!
純粋1,000%の笑顔が私の眼球を攻撃した。
──何、さっきの。天使か。エンジェルか。神かっ!!!
れいなも可愛かった。けど、違うんだよ。
滲み出る幼い子供ならではの愛らしさと美貌と無垢さ。
「コーラと、ミ、ミミン…ミ───…」
──あぁ言えないのですね!
皇女様はミンディが言えない。なんだその悲しそうな顔。
駆け寄って抱きしめたい。
「ごめんね…、ティア…うまく言えない」
半ベソの顔でティア皇女は私に言った。
またしても私の中に雷が落ちる。ありえない。
ありえない程可愛い。
「ミミです!」
その勢いのまま叫んでしまった。
「ちょっと、殿下の前で叫ぶだなんて無礼だわ」
コーラがイラついたように言った。
昨日この倍の音量で叫んだのはどこのどいつだ。
「ドイツ人じゃありません~帝国人ですぅ~」って言葉も効かないからな。
気を取り直して、私は言い直す。
「…親しいものは私をそう呼びます。よろしければミミと呼んで下さい」
礼をしながら言えば、ティア皇女はまさしく花が咲く──だと、れいなと同じだ。
愛らしいお顔から太陽光をバンバン放った。
ちなみに無害無垢な皇女様の光には紫外線など一切ありません。
「ミミ!ミミだね!仲良くしようね!」
──可愛いかよ!ティア皇女しか勝たん!
もしこの世界にSNSがあれば、皇女様は絶対にフォロワー数世界1位ですよ。
私は一瞬で皇女様にやられてしまった。本当に可愛すぎる。
その後、親睦会も含めて、皇女様とのお茶会が始まった。
もう本当に眼福。来て良かったと心から思う。
──結婚できなくても、このまま皇女様の成長が見れるって…
幸せすぎる。神様、魔力なしなの恨んでごめんなさい。
その後、ティア皇女との食後の軽いお茶のお供に誘われた。
質のいい紅茶と綺麗なお菓子が目の前に並ぶ。
食器も綺麗なものばかりで、前世の私だったら持つのさえ震えたと思う。
なんなら、今の私でも両手でカップを持ってしまいそうだ。
「ティアは、お人形が好きなの」
ティア皇女は、話したくてたまらないのか色々なお話をして下さる。
「ま、人形遊びでしたら、私が得意ですわ!それはそれは、何年間も人形と遊び続けて、誰も私について来れる者はいませんの!」
ティア皇女の言葉にコーラさんが前のめりで言ってる。
誰もついてこれない人形遊びってなんだよ。ぼっちかよ。
私もぼっちだけど、人形遊びを極めたことなんてない。
「わぁ!コーラはすごいね!」
純粋無垢な皇女様はあっさりとボッチ発言を受け入れた。
だけど、バーリードゥ侯爵夫人は哀れみの目でコーラさんを見つめていた。
「ミミは?ミミは何が得意なの?」
今度は私に会話が振られた。
相変わらずコーラは親の仇のように私を睨む。
にしても、得意なことか。
別に得意なことはない。普通に平凡にやってきた。
そんな事に頭を悩ませていると侯爵夫人が口を開いた。
「ミンディさんは、幼い頃はかなり大人びた性格だったとオリエンス公爵令嬢から聞きました」
──ヴェロニカァアアアアアアアア!!!!!
いつの話だよとツッコミを入れたくなった。
まず、私をお子ちゃまだと嘲笑う人間が言う言葉じゃない。
──そりゃ、17歳がそうバブバブできるわけないじゃん
侯爵夫人も私の立場になったら分かってくれると思う。
『小さい頃』って言っちゃってるし、今はそう感じないってことでしょ?
確かにヴェロニカに「あんたから精神年齢の成長を感じないわ」って言われるほど進歩はしていない。
「大人!」
ティア皇女が侯爵夫人の言葉に目を輝かせる。
そうだよね。小さい子ってその言葉が大好きだよね。
「いえ、そんなことは……」
私は苦笑いを返す。だって全然、大人ではない。
ヴェロニカにも調査が入っていたのか。不利になることを言われなくて良かった。
私は曖昧に言葉を濁しながら、ゆっくりと紅茶を口に運うとすると──
パシャッ
お茶を啜ろうとした途端、隣に座っているコーラさんの肘が当たって、私は自らの顔に紅茶をぶっかけてしまった。あったかいお茶だったけど、別に火傷するほどじゃない。
けど、顔と胸元にしっかりと紅茶がぶっかかってる。
「あらぁ~、何してるの?緊張で手が震えてたのかしらぁ~?」
コーラさんがわざとらしいく声をかけてきた。
ママさんが張り切って選んでくれた服が紅茶のおかげで茶色くなった。
──このやろう…
きっとこれが個人的な場だったら殴りかかっていたと思う。
けど、ここは皇女様のお部屋。
今はママさんの気持ちより、ママさん達の誇りを守らないといけない。
「ミンディさん、怪我はありませんか?」
バーリードゥ侯爵夫人が冷静に声をかけてくる。
ティア皇女も「大丈夫?」と心配してくれた。
みっともない姿のまま私は笑顔を作る。
「はい」
「…すぐに着替えてきなさい」
「…分かりました。少しお時間を頂きます」
笑顔で返事をして、そのまま笑顔で退出する。
──あのピンク頭…
部屋を出た途端スンと笑顔が抜け落ちた。
修道院、いや、牢屋にぶち込んでやろうかと思ってきた。
──これ、落ちる?
白いブラウス生地の服に目を落とす。
コーラさんみたいな豪華で高価な服ではないが、それでも大切なものだ。
シミが落ちなければコーラさんは私の敵だ。
一先ず自分の部屋に戻って着替えないといけない。
こういう時魔法が使える人間は服から紅茶だけを取り除いて、そのまま乾かして終わりだ。
わざわざ着替えにいく人なんていない。侯爵夫人もそれが分かっているから「着替えてこい」と言ったんだ。
近くの部屋で済ませる事もできない私は、そのまま惨めに宮廷の廊下を歩く羽目になる。
ナプキンで胸元を隠しているけど、その不自然さは周りによく伝わっていみたい。
すれ違う人々の視線が嫌に痛かった。
最初は素知らぬ顔をしてたけど、流石に恥ずかしくなって俯き加減のまま小走りに歩く。
昨日の今日で人通りの少ない廊下を知らないのが悔しい。
もう少しで部屋のある棟に着くと思い、より足をはやめて角を曲がると──
「「わっ」」
誰かにぶつかった。
というか、私が誰かに突進して頭突きしたような形だ。
「ご、ごめんなさいっ!」
私は慌てて私のせいで目の前で尻餅をついた人に声をかける。
やってしまったと思う時には大抵がどうしようもない時だ。
なんで前を見なかったんだという後悔は遅い。
「大丈夫ですかっ!」
立ち上がらせる手伝いをしながら、怪我をしてないか慌てて確認する。
「いえ……、なんともないです」
尻餅をついていた人が顔を上げる。
──おぉ…これまた眼福…
目の前にいたのは、ティナ皇女の様に神々しさのある美貌を持った男性だった。
馴染み深い、漆黒の髪に皇女様によく似た淡い水色の瞳。
まさしく、死ぬのだって忘れそうなそんな綺麗な顔が目の前にあった。




