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部屋の支度を終えると、今日は皇女様には会えないことが判明した。

今日は職務に入る前に一通りの説明を受けるらしい。

この後に会えると思っていたのに、残念だ。


皇女様が習い事に行っている間に、ものの場所や役割などの説明を受けた。

一番ややこしいのは女官の序列だった。

突っ立ていればいいわけでもないし、でしゃばりすぎてもいけない。

これは新人のうちに聞きまくって覚えていくしかなさそう。


コーラさんは何故か一々張り合ってくる。


「皇女様の装いはその時の内容によって色々と変わるので、注意するように。この皇女様の紋章入りのマントだけど、いつ使うか分かる?」


先輩女官の問いかけに張り切って答えるのはコーラさんだった。


「皇族の名で主催されるものと、国賓として他国に向かわれる時ですわ!」

「ええ、その通りです」


正解だった時の自慢げなコーラさんは、褒めまちしているように見える。

いや、ただのドヤ顔かもしれない。

でも、一応「さすがですね」って言ったら──


「当たり前よ。あなたとは違うのよ!」


と、返された。これは濃いキャラ。

嫌味を行ってくる中で一番印象強い。


その後も、挨拶について指導を受ければ、私より先にやって褒められてドヤ顔をかます。

私も褒められるとぐぬぬってあからさまな悔し顔を見せてくる。

ちょっと話を振られればめちゃくちゃ自慢げに語ってドヤ顔かます。

挨拶回りでも、自分と私の対応の違いにドヤ顔。

歩くのだって私が前になるのも気に入らないらしくて、肩をぶつけられドヤ顔。


最後のにはちょっとイラッとした。怪我したらどうしてくれるんだよ。

最初はちょっと微笑ましいと思えなくもなかったけど、段々と腹が立ってきていた。


そんなちょっとした腹立ちを抱えたまま、私たちはそのまま夕食を迎えた。

なんと、皇族専属の#奉公人団__メゾン__#はそれだけ位も高く見られているようで、皇族や大臣の後で食事が回ってくる。

それぞれの#奉公人団__メゾン__#と身分ごとに食事部屋があって、回ってくる食事をそこで待つ。

新入りの私たちも今日からその部屋で食事を取ることになった。


──う、うまい!


冷えているのが残念だが、それでも料理は格段に違う。

素材の新鮮なのもよく分かるし、とにかく美味しい。


──転生して絶対舌が肥えたわぁ~


あの頃は部活していたのもあって腹を満たせとがっついていた。

そして何より、この世界ではいいものしか食べていない。

他の人は冷えた料理を自分の魔力で温めたりしていた。

勿論、私にはできない。


「そういえば、ノア公子殿下の事聞いた?」

「あ、この前の?」


まだその話題はホットみたい。

そう言えばあったなって思い出す。


「本当に憧れるわぁ」

「よく宮廷の庭園で休まれているの。すごく素敵なの!」


先輩女官のお姉様方がキャッキャッとはしゃいでいる。

「女はいつまでも乙女なの」というママさんの言葉を思い出す。

その会話にも喰いつくのは、乙女中の乙女のコーラさんだった。


「公子様に会えるのですか?!」


目がキラキラしてる。やっぱりみんなの憧れの王子様だ。

死ぬのさえやめてしまうほどの美貌をちゃんと拝んでおくべきだったかと今更ながら後悔する。


「そうよ。それに紳士的でね。いとこだから皇子様や皇女様の面倒をよく見て下さるの。皇女様なんて皇子様よりも公子様に懐いちゃってね」

「そうよ。一緒に寝るって言うものだから止めるのが大変だったわ」


穏やかな会話が続く。

それは想像できるなと私は思い出す。

彼の空気感は安心できそうだ。


「慣れそう?」


先輩女官が気を遣って問いかけてきた。

因みに、バーリードゥ侯爵夫人は幼い皇女様の為に一緒に食事をしている。


「えぇ、勿論ですわ!私は小さい頃から宮廷によく招待されていましたから、地図は頭に入っていますの」


コーラさんはペタ胸を突き出した。

もう少し前だったら、偉いねって褒めてた気分だけど、今はそんな気は起きない。


「ミンディさんは?」


私にも問いかけてくれた。


「まだ覚えきれていないので、ご迷惑をおかけするかもしれません」

「いいのよ。私も最初はそうだったから」


優しい。この職場はいいかもしれない。

休憩もプライベートもないブラックだけど、人がいいのが一番。

多分人格の選別もされていると思う。あからさまに私を『嫌われ者』だと嘲笑うものはいなかった。いや、コーラさんがいた。


「あら、子爵家の人にとっては宮廷内だけで一国の様に見えるのではなくて?」


コーラさんはめげずにアタックしてくる。

私が苦笑いで対応してるの分かってるのかな?

ダメージは地味にあるけど、呆れてるんだけど。

むしろこれってアプローチされてる?Mに思われてる?

だとしたらあなたはSの素質皆無だけどね。


「あはは、そうですね」


そう心で思いながらも、相変わらず苦笑いを返すしかない私はチキンです。

バトル勇気はない。

そして先輩女官のお姉さま方は大人の余裕で食事をしていた。

反応してしまいそうな私が子どもみたい。


「そうだわ。ミンディさんの家庭教師だった方ですけど、私も同じ方だったのよ?」


お姉様の1人が声をかけてくれた。


「この前、たまたま会ったのだけどね。ミンディさんのことを凄く褒めていたわよ」

「え?私を、ですか?」


正直、そこまで褒められるような記憶はない。

凡人は凡人だもの。


「えぇ、凄く、真面目な生徒さんだって」

「あら、この前の方のお話?」

「そうよ。与えられた課題はキッチリこなして、あらかじめ勉強してたって」


予習復習は義務教育の基本よ。

そうでもしないと授業を全部覚えられる気がしないし。


「なるほどね。それが選ばれた理由かしら?」


褒めちぎられるのは慣れていない。

ただ、家庭教師に話を聞いたって事はそれが選考の一部になっていたのかもと予測する。

SNSのアカウント調査みたいだなとぼんやりと考えていると、横ですごい形相のコーラさんがいた。ハンカチを噛みそうな立派な悔し顔だった。


「ちょっと!」


その後、夕食会も無事に終わり、部屋に帰る途中、私はコーラさんに呼び止められた。

腰に手を当てて、胸を突き出したコーラさんは怒りマックスと顔が言っていた。


「褒められたからっていい気にならないでよね!」


あれは褒められたうちに入るのだろうか。

与えられたことをこなすのは誰だってできると思う。


「わたくしは、ジャマ辺境伯の娘ですもの。絶対あなたなんかに負けませんわっ!!」


──いつ、私たちは勝負をしていたのでしょうか?


「わたくしだって…お家の誇りになりますものっ!!」


そう言って、私を見るコーラさんの目は真っ赤だった。


──なんの話?


私には全く分からないくて、説明を求めようと口を開く。


「あ、あの──」

「それではっ、ごきげんようっ!!!」


またしても会話ができずに去られてしまった。

全く意思疎通が取れていないのを彼女は気づいているだろうか。

いや、それよりも彼女の去り姿を見ていると、思い出すものがあった。


──もしかして…ノア公子から見た私ってこんな感じだったの?


一瞬浮かんだ疑問は、瞬く間に頭の中がいっぱいになる。

励ますつもりで言っていた言葉だったが、全く伝わっていなかったのではないかと気づいてしまった。


──ただの変人じゃん?!


私はそれに気づいて、コーラさんの事よりも恥ずかしさで悶え苦しむこととなるのだった。


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