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物語の主人公にはなれません〜魔力なしの令嬢に転生しましたが、なんとか踏ん張ります〜  作者: しーしび
最終章 モブでも踏ん張って幸せになります
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最終話

「さっき、魚を取りに行ってる時におじいちゃんに聞いてみたんだ」


ノアが帰りにおネタバラシをし始めた。


「プロポーズするならどこがいいって」

「なるほど」


唐突に出たお墓参りの理由が分かった。

そして、ノアはそのアシストを理解して、どう言おうかずっと考えていたみたい。

あの暗い表情には私が思っていたほど思い詰めたものはなかったらしい。

ちょっと落胆したけど、でもそれ以上の嬉しいことはあった。


帰りにノアのお母さんにはもう一度挨拶して、ついでに謝っておいた。

ここに来るたびに恥ずかしさに悶えそうだ。


そして、先代公爵の屋敷に戻ると、先代の公爵夫人が真っ先に私にはめてあるものを見つけた。


「あら」


すると先代公爵も気づいて、愉快そうに目を細めて意味深な反応をしてきた。


「ほぅ」


「…」


嬉しいんだけど、私は恥ずかしさで何も言えない。

この高まる気持ちには慣れることが出来ないと思う。

だって幸せな気持ちはあればあるほど、どんどん気持ちが高まっていく。


「おじいちゃん、ありがとう」


そんな私とは正反対で、ノアは当然のように先代公爵にお礼を言った。

せめて、私のいないところですればいいのに。

「おう」と先代公爵は返事をした後、「おめでとう」といたずらに笑って、そそくさとどこかに行ってしまった。


「ミンディさん、この子を宜しくね」


先代公爵夫人が私手をとって言った。


「あんたに、あげるよ。大事にしておくれ」


そう言って、クシャリと笑う。

ノアにそっくりの優しく愛に溢れた笑顔だった。


──私もこう笑える人になりたい


そう思った。


「はい」


だから力強く返事をした。

誓ったからには成し遂げないといけない。

私はいつまでも踏ん張る必要があるな、そう思ってノアを見上げた。


ノアは相変わらず優しげな笑顔で私に頷いた。







それから三年──





宮廷で久しぶりに行われる盛大なパーティーに帝国中が浮き足立つ。

国中が幸せモードで、白を基調とした装飾品がその他の色と組み合わさって飾られていた。


いつもよりも彩られた街は、数年前の凱旋式の再来のようだったが誰もそれについては話さない。

行方不明になった聖女は月日が経つにつれ忘れ去られ、新たに現れた人工魔石のおかげで魔力が身近になりつつある今、彼女に関する興味は薄れていき、次第に話題にも上らなくなった。


そして人々の最大の注目を浴びているのは、これから行われようとする結婚式だ。

ここ数ヶ月、誰も彼もがこの日を待ち侘びていた。


この三年でさらに勢力を高めた帝国には、あの凱旋式よりも多くの国からのその結婚を祝おうと集結している。


「さぁさぁ!今注目のあの公爵家の話を聞いていくかい!」


語り部が新たな話題を片手に人々を集める。


ただのお祭り騒ぎじゃない。

平和の象徴であるこの結婚を誰もが祝福し、喜び、そしてありがたく思っていた。


そんな雰囲気が宮廷にも充満している。

いつも以上に華やかに装った者達が集まり、式が始まるのを今か今かと待ち侘びていた。


そして、その時はすぐにやって来た。


一番大きなテラスの扉が開かれると、歓喜に沸き上がる。

現れた二人に誰もが祝いの言葉を投げかける。

花びらが舞い上がり、軽快なラッパの音が彼らの登場を知らせ、それに満ち足りた笑顔を見せている新婦は──




「オリエンス公爵令嬢、幸せそうだね」




ノアが私の耳元で囁く。

周りが騒がしくて、横にいる人の声が普通に聞こえない。


「え?何だって?」

「よかったねって」


私が聞き直すと、ノアが短くして言い直す。

やっと聞き取れた私は「そうだね」ってノアに答えて、幸せそうな、いや、満足げな笑顔を撒き散らしている偉そうなヴェロニカを見上げた。


「未来の皇太子妃殿下にばんざーーい!」


貴族の席でそんな叫ぶ声を上げる人もいた。

普通だったら品がないと追い出されるところだが、その気持ちが分かる者が多いからか誰も注意するものはいない。


そう、今日はノアと私の結婚式ではなく、ヴェロニカと皇太子の結婚式だ。

23歳のヴェロニカがまさか18歳の皇太子を射止めるとは誰も思っていなかったはず。

私だって思っていなかった。


「本当に一国を手にするとはね…」


私はヴェロニカを眺めながら呟く。

夢を現実にしてしまうとは本当に恐ろしい女だ。


何でも、あの日、ノアが誘拐された日に皇太子がヴェロニカに一目惚れしたらしい。

迅速に判断し発言する彼女の姿が印象的だったとか。

しかも、急だったのにも関わらず、皇太子専用の護衛を自分の騎士団からすぐに手配したその冷静さもツボだったみたい。

私だったら、あの日の頼もしいコーラさんにやられるけどね。

でも、ヴェロニカのおかげで誘拐されたって事が分かったんだからそこら辺は本当にありがたい。



そして、そこからがまたヴェロニカのすごいところだった。

グリード国の担当となった彼女は、グリード国を脅しながらうまいこと搾取していた。

息を顰めたグリード国だったけど、それで国が傾くのは止められるわけでもなく、ヴェロニカの手中になったあの国は二年前、反乱が起こり、ついには王族の存続が難しくなり、国として破綻した。

その隙に入り込んだのはもちろんヴェロニカで、旧グリード国を新たな共和国の形成と、帝国にとっての最高の属国へと立て直した。

しかもその周辺国とも同盟を組み交わし、帝国を歴史史上最大の大国とした。


そうなれば、誰もヴェロニカを批判する人なんていない。

普通は揶揄されるはずの歳の差さえも美談として受け継がれるほどだ。

先日、戦争における条例も同盟国に承認させ、この1年は戦争が起こっていない。

ヴェロニカは自分達を救う女神だと褒め称える者が数知れず。


因みにだけど、グリード国の王族達は女王や大臣、王配はさくっと捕まって、今は牢獄暮らしだ。

ヴェロニカ曰く、パフォーマンスとしての処刑は好ましくないとか何とか。

「私は血に飢えてるわけじゃないし、最後まで利用するわよ」と一生のトラウマ級の恐ろしい笑顔を見せられた。

きっと、絞るとれるだけ搾り取るつもりなんだ。


「結局、あんたは全てを手にしたのね」


私はお色直し中のヴェロニカに祝いを伝えに行った。

ヴェロニカは鏡越しに私を見ると、不敵な笑みを見せた。


「当たり前でしょ?夢は叶えるためのものだから」


余裕なその表情にちょっと悔しいとか思うけど、それでも今は祝う気持ちの方が大きい。


「そうだね。ヴェロニカの言う通り」


私がそう言うと、ヴェロニカは眉の片方をピクリと動かした。


「何?やけに素直ね」

「友達の結婚式でわざわざ嫌味は言わないよ」

「あら、そうなの?」

「いや、あんたならやるかも…」


私は複雑な表情を浮かべながらも、伝え忘れていたことを思い出す。


──まぁ、ヴェロニカに対してはこんな時ぐらいしか素直にはなれないか


私はそう思い、言葉を口にする。


「兎に角、ヴェロニカは正しかったよ。確かに人が死を覚悟した時は目を瞑るよ」


私はヴェロニカに言った。

あの日、ノアと一緒に崖から落ちた時私は目を瞑った。

死を目の前に私は恐ろしくて目を瞑った。


「今更ね」


ヴェロニカはふっと笑うと、すぐにいつもの憎たらしい笑顔を見せる。


「でも、間違ってなかったでしょ?」

「そうだね。間違ってなかった。きっと、あの時も目を瞑ったかもしれない」

「あの時?」

「何でもない。ヴェロニカは正しかった。おめでとう」


それが私の祝いの言葉だ。

ヴェロニカはそれに笑いながらも受け取ってくれた。


「殿下、そろそろお時間です」


そこに既にできているヴェロニカの奉公人団の女官がやって来た。

その女性は凛として百合のように美しい姿勢をしている。


「クリスティンさん」

「ミンディさん、お久しぶり」


花が綻ぶような笑顔をみせたクリスティンさん。

彼女はまだ女官を続け、親族のシ・ガーレ商会の立て直しを行っている。

そして私から彼女の能力を聞いたヴェロニカが筆頭女官としてクリスティンさんを推薦した。

これで、皇后の女官になり商会に尽力するという彼女の目標は着々と進んでいる。


「またゆっくりお話でもしましょうね」


3年前のあの出来事を踏み台にして、クリスティンさんは更に素敵な女性になった。

ただ、優しげで綺麗なだけじゃない。

強さも持っている本当に素晴らしい女性だ。


「はい」


私も元気よく返事をして、ヴェロニカの控室を後にし会場に戻る。


「ミミ、どこ行ってたの?」


すると、私に声をかけて来たのは、ティア皇女だった。

身長がこの3年で伸びて、すっかりお姉さんらしくなったが、それでもまだあどけなさは十分ある。

愛らしく、ドレスの裾を揺らしながら、私の腕に飛びついてきた。

私は今もティア皇女のところで女官をしている。


「ヴェロニカのところです」

「ミンディさん。皇太子妃殿下、ですよ」


私がティア皇女に答えると、すかさずバーリードゥ侯爵夫人から注意が飛んできた。

私はしまったと口を押さえるも、ニタリと笑う。


「ミミ、なんで笑ってるの?」

「何ですか?」


そんな私に二人が怪訝な顔で覗き込む。


「いや、怒られるっていいなって思って」


私が笑って言うと、ティア皇女は「何で?怒られるのは嫌でしょ?」と不思議そうな顔をした。

バーリードゥ侯爵夫人は厳しい顔をした後、ため息をついた。


「私としては、叱責することがない方が喜ばしいのですがね」

「ごめんなさい……」


それは申し訳ない。


「ヴェロニカお姉様、とっても綺麗だったね」

「そうですね。いつか殿下の花嫁姿を見ると思うと、既に涙が出て来そうです」


私はそう言ってちょっと想像して、鼻の奥がつんとした。


「ミミって変だよね」


そんな私を見てティア皇女は笑顔で言った。

最近のティア皇女はちょっと辛辣だ。

でも可愛いから許す。

素直に育ってるのは間違いない。


「殿下よりも、ミンディさんの方が先でしょうけどね」


バーリードゥ侯爵夫人は冷静にそう言った。

すると、ティア皇女がそれに喰いつく。


「そうだよ!何で、早く婚約したのに、ミミとお兄様は結婚するのが遅いの?」

「あ…それは…」


私は苦笑いを浮かべ、目をティア皇女からそらした。

直撃されたら、ちょっとね。

すると、皇太子の結婚を祝って騎士団の演目が始まっているのが目に入った。


「あ、殿下、コーラさんですよ!」


私は叫んで指さす。

そうすればティア皇女も私の結婚の話題よりも目の前のコーラさんに夢中だ。


凛々しい表情で剣を振っているコーラさん。

実は、コーラさんは女性初の騎士団員になった。

剣を抜いたあの日にコーラさんは自分の楽しいことに目覚めたのだとかなんだとか。


後から教えてもらったけど、コーラさんがした皇后のお茶会での失態は、緊張のあまり力加減を見失っててテーブルを真っ二つに割ってしまったらしい。

しかも大理石のテーブル。

それが許せなくて、自分を制御しなければとコーラさんは女性の憧れである女官を目指していたとか。


でも、結局、コーラさんはあの日の様なやりがいをを女官では見出せないと自覚した。

だからその翌年に女官を辞めて見習い騎士の試験を受けた。

最初は「女性が武術なんて」「スボンを履いてはしたない」とか色々と言われてたけど、あの怪力を目の前にすれば誰も何も言わなくなった。

やっぱ、実力ってのは噂なんて吹っ飛ばしてしまうものかもしれない。


「はっ!」


美しい汗を垂らしながら、武術を披露する女剣士のコーラさん。

小柄だけど迫力があって、動きも男性にないしなやかさと美しさがある。


何人かの男性がコーラさんに釘付けた。


「くそっ…コーラが獣達に…」

「アーノルドくん、気を確かに」


悔しそうな声と宥める声が聞こえた。

振り返れば、そこにはアーノルドさんとチェイスがいた。


コーラさんに熱い視線を送る男性たちに歯軋りしているアーノルドさんは首から三角巾をぶら下げて、腕を吊っている。

アーノルドさんは昨年騎士団長になったけど、数週間前にコーラさんと本気で手合わせをして見事骨折した。

おかげで、今日の騎士団の演舞の主役であるアーノルドさんは悔しく端っこで見る羽目になり、コーラさんがその代役を務めている。


「だから、騎士団に入るのは反対だったんだ…あいつが獣達に狙われて…」


シスコンが爆発している。

大の男が目を細めて、コーラさんにみとれている彼らに冷凍ビームを送る。


「そこまで気にすることはないさ。彼女を見つめている彼らの中で誰一人として彼女に敵うわけがないじゃないか」


変にキザな髪型だったチェイスは短髪になって垢抜けた印象に変わっている。

そうすると、素材自体は悪くなかったようで、それなりの爽やかボーイに変わってる。


結局スコットレット伯爵家は取り潰しとなった。

スコットレット伯爵は極刑を免れることはできなかったが、チェイスやその母は平民への降格で免れたみたい。

流石にスコットレットの血筋が多く関わっていたことから、当主を変えるだけでは収まるものではなく、関連したもの達はそれぞれ貴族を名乗ることはできなくなった。

レイナの取り巻きをしていた人たちの中でも、家が取り潰しとなり、平民として生きていくものもいれば、自ら修道院に入った者もいた。


因みに、マリッサさんはノイトラール公爵家の血筋でいいように利用されただけだから、特に何か罪になったわけではないけど、今は修道院暮らしをしている。

昔の皇女が作った由緒正しい修道院で真面目に働いているとか。

厳しいノイトラール公爵からの圧力でそうせざるをえなかったとか。

噂は色々だ。


ともかく、チェイスは今は平民。

だけど、彼がここで堂々といるのには訳がある。


これにはノアが一役買ってるんだけど、チェイスが例の紙に施した技術の高さが評価され魔塔に引き抜かれた。


魔塔っていうのは、どの国にも属してない独立機関で、魔力の研究を行なっている。

それの設立には先代の教皇が関わっているようで、昔からあったんだけど、人工魔石が現れたことにより注目されているところだ。

チェイスはマナの量が多くはないけど、その技術が評価され、最難関と呼ばれる試験を突破し、正式に魔塔入りを果たした。


たとえ平民でも魔塔の研究員になれば、それなりの評価を得るわけで、貴族と変わらない扱いを受ける事になる。


「お前に何がわかる!コーラは俺の宝だ!」


最初のクールな印象が影も形もないアーノルドさんが、チェイスに吠える。

因みに、コーラさんから聞いた話だけど、アーノルドさんはお見合いを20回失敗したとか。

何でもコーラさん愛が爆発して「私では受け止められません」と断られたらしい。

「騎士団長が独身ではメンツが…」と夜な夜な泣いて困ると、お酒に付き合わされているノアがぼやいていた。


「アーノルドくん、あまり大きな声はやめておこう」


そうチェイスが宥めてもアーノルドさんが止まる訳がない。


「おっ、俺は!お前が弟なんて認めないからな!」


大声でそう叫ぶ。

今日は皇太子の結婚式だとアーノルドさんはわかっているのだろうか。


実は、コーラさんとチェイス、まさかの現在進行形で恋愛をしている。

いや、コーラさんの様子を見るにまだ恋人同士ってわけではなさそうだけど、チェイスがコーラさんのツンツンな部分を丸くしようと奮闘中だ。

この世界の男性は強い女性に惹かれる特徴があるのだろうか。

ひとまず、ちょっとツンが強めでデレてくるコーラさんは可愛い。


「アーノルド、そんな事いうなよ…」

「うるさい!」


「あの二人はまた騒いでる」


私が呆れながらそれを見つめていると、ノアが現れた。

最近見るあのコンビにノアも呆れ返ったような顔を見せる。

祝いの場の表情じゃない。


「オリエンス公爵令嬢──…、いや、王太子妃殿下とは話せた?」

「うん、バッチリだよ」


私は笑顔をノアに向ける。

ノアは手を伸ばしてそんな私のほっぺをぷにっと摘んだ。


「何さ」

「いや、相変わらずだなって」


ノアがふにゃりと笑う。

こっちの気が抜けていきそうだ。


「あ、ノアお兄様!」


コーラさんの演舞が終わると、ティア皇女がノアの存在に気付いて振り返る。

ノアは軽く手をあげて返事をする。


「お兄様!私、早くミミの真っ白なドレスを見たい!いつ見れるの?」


ティア皇女はお姉さんらしくなったと言ってもまだ8歳。

言うことは大人が思うよりも直球で無邪気だ。

ノアはそんなティア皇女に尋ねる。


「殿下も見たいですか?」

「見たいよ!」


鼻息を荒くしてティア皇女は訴える。

何だか恥ずかしくなって、私は熱り始めた顔を俯かせた。


「だって」


ノアが私に振ってきた。


──だってって…まだ式を挙げてないのはノアのせいじゃん


いや、私のせいかもしれない。

全ての要因はうっかり前世の話をノアにしてしまったことだ。


前世では大学って教育機関あるって話をしたら、ノアが興味を持ち始めた。

のんびりマイペースに暮らすことが目標だったノアは、『そんな面白い場所を領地に欲しい』ってまさかのやる気を出した。

なんだかんだとノアは勉強が好きなんだと思う。

『新しい事を知るのは面白い』って言ってたし、ノアは根っからの研究者なのかもしれない。


ノアは教育ってものを一から勉強して魔塔にも出入りしたりして──純粋に研究だけに集中できる場所を求めて構想を練っている。

ただ、ノアの根底は自分が学びたいって欲望らしいから、色んな人の手を借りて、ノアは研究に没頭してる。

因みにその事業にヴェロニカも興味も持っていて、色々と大きくなってしまったり──

なんてことがあって、私は3年も待たされてる羽目になった。


まさかあのノアがこんなにやる気で仕事をするとは思っていなかった。

それに、あんな楽しそうなノアを見ると正直何も言えない。

あんな苦しそうにしていたノアが自然に呼吸している姿を見てしまえば、そのままにしておいてあげたいとか思うのは婚約者として当たり前だ。


そして今年になって、丁度その構想が現実化できてデネブレの領地に大学第一弾が作られた。

人材も沢山確保できて、大きな注目を集めている。

なのに、ノアは私に何も言ってこない。


──私はずっと待ってんだけどね!


だが流石に3年は何だとノアを睨む。

別に何か不自由があったわけじゃない。

私も私で女官を楽しんでいるし、ノアとも正直毎日楽しい時間を過ごしてる。

結婚してない以外は全部充実してて不満は一切ない。

本当に結婚してない事以外はね。


「ミミ?」


ノアは不思議そうに睨む私の顔を覗く。

呑気な顔が恨めしいと思ったのは今日が初めてかもしれない。


──誰のせいで…


そんな気持ちをメラメラさせているとノアがぽつりといった。


「ねぇ、そろそろ挙げようっか?」

「へ?」

「待たせすぎたかなって」

「はい?」

「3年前の約束、そろそろ果たしてもいい?」


何だこのフアフアとした言葉。

ティア皇女とバーリードゥ侯爵夫人は「おっ」って感じでこちらを見てる。

そんな注目するような甘いものじゃないんだけど。

3年前の感動を返してくれ。


「…ノア、プロポーズはちゃんとしてくれるんじゃなかったの?」

「え?プロポーズはもうしたけど…」

「ノア、乙女心はもっと研究した方がいいよ」

「え?」


ノア、全然分かってない。


──あぁ…もうぅっ…


そんなのが嫌だけど、でも分かりすぎているノアは私の好きなノアとも違うのかもしれない。

惚れた弱みはいつまで経ってもどうしようもない。


「………………いいよ。結婚してあげるよ」


私は渋々言った。

いや本当はやっとかって喜んでたけど、ここでそれを表すのは負けた気分。


「ん」


ノアはそんな私に満足げな笑みを浮かべる。


ワァアアッ


ちょっと甘めのノアのとろけそうな笑顔に、もうそこらへんの人が目を奪われまくってる。

ノアの美貌は今も健在だ。


「ありがとう」


ノアはまた微笑む。

黄色い歓声が上がる中、私はいつものように恥ずかしさと嬉しさで俯く。

いつまで経ってもこの感情にはなれる事はない。


「ノア、目を瞑らなくてもいいように一緒に踏ん張ろうね」


私がノアに話しかける。

ノアはよく分かってなさそうだけど、ノアも嬉しいのか「うん」って素直に返事してくれる。

どこまでもノアはノアだ。



目を瞑って逸らしたくなるほど、死はこわい。


いや、生きているとこわいことは山ほどある。


みんな、いろんなこわさを目の前に、いつだって怯えている。


けど、私はそれでも踏ん張る。

踏ん張らないとそのこわさに負けてしまう。

こわさに負けたら終わりしかない。


奇跡的に手に入れた2度めの人生をそう簡単に手放すことなんて出来ない。


本来なら人生は一度きり。


もっと、私たちは踏ん張って終わりから逃れるべきなんだ。


だから、たとえ主人公になれないモブみたいな私でも踏ん張る。


踏ん張って幸せになってやるんだ。



「ミミ」


ノアが私に話しかける。

いつまでも色褪せない美しく、優しく、穏やかなその顔と声。

この人がいないといつの間にか私は踏ん張れない程弱くなってしまった。

けど、この人がいるから私はもっと踏ん張れる。

負けるもんかって感情が一人で戦っていたよりももっと強く思う。


「僕は君に2度目があって本当に嬉しかった」


綺麗な形の唇から紡がれる言葉。

私だってこの2度目の人生があってよかった。


「踏ん張ってくれてありがとう」


ノアは柔らかい笑みで言った。

その表情に、言葉にまた私の胸が弾む。


ヴェロニカ達に受けられた歓声が、私にも向けられているように聞こえた。




──完──


こんにちは、しーしび、です!


最後まで読んで頂き、本当にありがとうございます!

皆様のおかげで、完走することができました。

心から感謝申し上げます。


今は書き終えて達成感でいっぱいです。


毎回ですが、完結する時のワクワクってたまりませんな!

これだからやめれらない!


これからものんびりと書いていく予定なので、これからもどうぞよろしくお願いいたします!

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