1
こんにちはしーしびです。
ちょっと新しい小説の連載を始めます。
完結まで人っ走りできるように頑張りますので、どうぞよろしくお願いいたします!
「ねぇ、美々ちゃん見て、見て!」
朝から嫌な声が聞こえた。私はげんなりして振り返る。
そこには背景に桜並木が見えそうなほどの可憐な笑みを見せる、佐々木れいながいた。
「うわ、かわいい・・・」
駅のホームにいた他の学校の男子生徒が私の側で呟いた。
私もその意見には心底同意する。
淡いピンク色も、愛らしい花も彼女には似合う。
春の妖精のような愛らしさと、青春飲料系のCMにも出ているかのような清純さがある、佐々木れいな。
「これね!美々ちゃんとお揃い!」
彼女は私に向かってバレリーナのような手足をスラリと伸ばしながらくるりと一回転して見せる。
彼女をかわいいと言っていた男子生徒や、他の人間もその姿に釘付けだ。
「撮影?」と言って辺りにカメラを探す人間だっていた。
だけど、私はそんな彼女にうっとりとしたため息をつくこともなく、すっと目を細めた。
「・・・髪、切ったんだね」
簡潔に感想を言う。
「似合ってる?」
れいなは不満げに顔を振って私に新しい髪型を見せつけてくる。
つい最近まで髪で隠されていた女性らしく美しいうなじが清潔感とちょっとした艶っぽさを振りまいていた。
「・・・似合ってる」
「そう?いい?」
私が褒めると嬉しそうに彼女は笑う。
「昨日、『あ、髪切ろう』っていきなり思い立って、切ったんだ。夕方に思いついて即予約。空いててよかったー!本当は思い切って刈り上げようと思ったけどね。美容師さんに止められたし、やっぱり、やめて、まずはこれぐらいから。長い髪だったからイメチェンしてみたんだ」
れいなは語り続ける。
かわいい容姿だが、このサバサバした話し方は女子の好感を得ている。
「で、切って思ったの。これって美々ちゃんとお揃いじゃん!って」
彼女は偶然ですと言わんばかりに目を開いて驚いた顔を見せる。
「はは、そうだね」
私もその表情に釣られて笑みを見せた。
見せたけど、本当は同意してないからね?
あんたのその髪型ーー
ーー私の髪型と全く同じかーーい!
私は心の中で盛大に突っ込んだ。
ーーいやいや!昨日まで前髪なかったでしょ!
いや、ショートだし、同じ髪型になるのは仕方ない。仕方ないよ?
でもよ、でも、私が髪切った翌週にその髪型にするのどうなのよ?
「あ、れいな髪切ったの?」
偶々、同じ駅を利用している同級生がやってきた。
「あ、うん、気づいた?」
れいなははにかんでそれに答える。
「めちゃくちゃ気づいた。全然ちがう。雰囲気いいね。流石れいな、ショートって思い切ってる」
同級生はれいなを褒める。
ーーその隣にいる私もショートですけどね
そう思いながら、仕方ないかとため息を吐く。
だって私は元々、ボブぐらいの髪だったから、ロングからバッサリのれいなに比べたら、変化が微妙かもしれない。
同級生の子も同じクラスになった事ないし、全然知り合いじゃないけどさーー
ーーれいなが個性的な感じで受け取られているのが解せん!
解せない。全てが解せない。
いや、センスはいい。わかるよ?めちゃくちゃ似合ってるよ。
かわいい、きれいな感じだけじゃなくて、かっこよさもでてさ、唯一無二な雰囲気あるよね。
でも、私は彼女が個性的だとは思わない。
中学からの付き合いの私には分かる。
彼女の持ち物は私には見覚えのある物ばかり。
「なんか、変じゃないかな?」
照れながられいなは鞄から鏡を取り出す。
その鏡、先月私が部室で買おうか悩んでいたやつね。
「あ、今日の朝の単語テスト大丈夫かな?」
れいながそう言って取り出した単語帳についてる栞と、ペン。
その二つも私が使ってるやつ。
いや、ペンなんて被ることよくある。よくあるけどね・・・
私、マーカーはグレーしか使わないの。
彼女の単語帳にはグレーのマーカーだらけ。
その使い方、めちゃくちゃ見づらくない?
「あ、そうだ。今日の授業、古典あったけ?古典の教科書を図書館に忘れたんだよねー」
そしてれいなが確認しているスマホカバー。
私のやつの色違い。因みにハンドメイド作家さんのやつ。
好みがたまたま一緒なんじゃない?って言われたら全部終わり。
そうかもしれない。そうかもしれないけどさ・・・
ーー違うんだよ!
どう説明すればいいのか分からない。
だけど、なぜか彼女の持ち物と私の持ち物はよく似てる。
私が間違えて持って帰ってしまうくらい。
彼女の鞄を持ち帰って、この駅で待ち合わせした事は数知れず・・・
彼女があの鏡のようにいいなと思っていても先に持っていたなら私は何も言わない。
けどさ、私が買ったら、数日後には必ず彼女が持っている。
しかも前に持っていても、必ず私が「いいな」って言った後。
そんな事はあり得る?
だからこそ、彼女が独自のセンスを持っていると認識されているのが理解できない。
こちらは理系だから彼女の文系の空気は知らない。
けど、こんなにも持ち物が一緒でも、本当に彼女が独自のセンスあるというの?
何故、誰も突っ込まないのだ。
こうやって全く同じ持ち物を持っている私が横にいても、私の知らない同級生はれいなを褒め称える。
これは嫉妬なの?嫉妬なのか?
最近の私は高校生になって2年目、そんな考えで悶々としていた。