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苦手な方はご注意ください。

ファンタジーの短編まとめ

奴隷落ちした王子は、勇者と出会い、国の殲滅させる

作者: 田尾風香

連載『転生ヒロインと人魔大戦物語』の450年ほど前の話になります。

そちらを読まなくても分かるようになっていますので、お気軽にどうぞ。

俺、レナルドの身分は、一応王子だ。


父親は、ジャーマル王国の国王。

母親は、王宮でメイドをしていた、男爵家の娘。


父の、たくさんいる愛妾の一人だったが、最近体調を崩して、そのまま亡くなった。



正妻である王妃の子や側室の子もたくさんいるから、自分の王位継承権など、あってないようなものだ。


だから自分で生きていけるように、と頑張って剣の訓練を続けてきた。



しかし、あるとき、王妃の子の王子に、剣で勝ってしまった。

いや、相手は全然剣を使えていなかったのだから、負ける方が難しい。



だと言うのに。


「父上。先日の正々堂々たる立ち会いで、このレナルドが、卑怯な手を使ってきたのです。私は卑怯な手には負けたくないと、精一杯抵抗したのですが、力及ばず……申し訳ありません」


王子が、国王に向かって、そんな事を言っていた。


「まったく、やはり卑しい男爵家の娘ごときの子供ですわね。歴史ある公爵家の出身である、わたくしの息子に、卑怯な手を使うなんて。陛下、このようなものを王宮に置いておいては、神聖な王宮が汚れてしまいますわ」


続けて、王子の母親、王妃も、そんな事を言い出した。


呼び出された俺は、何のことか分からず、呆然としていた。


続いて国王が、頷いた。

「ふむ。そうだな。そのような者、我が王宮にはいらぬ。今すぐ出て行け」


母を亡くした俺に、王宮内での味方などいないに等しい。


こうして俺は、何一つ弁解もできず、卑怯な手とは何かを審議されることもなく、王宮から身一つで追い出された。



だが、別に構わなかった。

父親たる国王にも、他の王子たちにも、何も未練もなかった。



しかし、すぐに状況が変わった。


――働く先が見つからない。


働かなくては生きていけない。

だと言うのに、どこでも門前払いされる。


会って話ができて、好印象を持ってもらえたと思っても、次の日には断られる。


王宮からの手が回されていると、悟らざるを得なかった。



だったら、街から出て行ってやると思っても、それすらできない。


正直、ここまでされるとは思わなかった。

剣の腕が立つ俺は、もしかして疎まれていたのだろうか。

だから、適当に文句を付けて追い出したのか。


その可能性にようやく気付いたが、どうすることもできない。

このままでは、ここで野垂れ死ぬだけだ。



俺が最後に頼ったのは、冒険者ギルドだった。


しかし、ここにもすでに手が回されていた。


Dランク以上になれば、街から出られる。そう思ったが、ランクを上げてもらえない。


挙げ句に、強引に入れられたパーティーは、貴族の子息たちだけで構成された、Bランクのパーティー。


俺は武器を取り上げられ、荷物持ちと雑用をやらされた。


休む暇もなく延々と働かされ、だというのに、敵と戦っていないからと報酬も碌にもらえない。


まともな食事にすらありつけない中、俺はさらに地獄にたたき落とされた。



Bランクと言っても、金とコネで手に入れたランク。


本来、Dランクの魔物を相手にするので精一杯の奴らが、Cランクの魔物の群れに囲まれた。


敵わない、とおそらく奴らも悟ったんだろう。


奴らは俺を前面に押し出すと、「時間を稼げ」と言って、そのまま俺を置いて逃げ出した。


奴らの代わりに、魔物に狙われる羽目になった俺は、必死に戦った。

奴らが逃げるのに、剣を置いていってくれて助かった。


何とか倒して、戻った俺を待っていたのは、信じられない言葉だった。


「仲間を置いて逃げたそうだな。荷物持ちが真っ先に逃げたせいで、傷の手当てすらできず、大変だったそうだぞ」


冒険者ギルドのマスターが、俺を糾弾した。


戦ったのは俺だぞ。逃げたのは奴らじゃないか、という言葉は、口から出てこない。


後ろで、ニヤニヤ笑っている奴らが見える。


――分かっていたはずだ。

この国じゃ、事実など必要ない。

権力を持つ者が、言った言葉が真実になる。


「貴様のようなものに、冒険者の資格を与えておけない。資格剥奪の上、窃盗の罪で、貴様は奴隷落ちとする」


権力者から睨まれて、王宮から追放された時点で、俺はもう終わっていたんだ。



※ ※ ※



俺は、鉱山に送られた。


首には、隷属の首輪を付けられた。主人の命令に従わないと、首を絞められ、激痛を与えられる、悪魔の首輪。


一度、命令に逆らった奴が苦しんでいるのを見た。逆らおうとは思えなかった。



鉱山の環境は、悪い。

土を掘っているから、常に土埃は舞うし、一切陽はささない。


寝るときも、この鉱山の中だ。

一枚の毛布すら与えられず、土の上で横になるだけ。



そんな環境にどのくらい居たのか。


俺は、突然鉱山から出された。

久しぶりの太陽が、ひどく眩しい。


目をきちんと開けられないまま、目の前に居る、豪奢な服を着た、でっぷり太った奴の言葉が聞こえた。


「先日、魔王が誕生したことは知っているな。貴様には、勇者と共に魔王討伐を命じる。討伐するまで帰ることは許さぬ」


それだけ言って、去っていくその男に、俺の頭は疑問でいっぱいだった。


…………………魔王? …………誕生?


一応、歴史は知っている。

約200年に一度、誕生すると言われる魔王。

そして、魔王が誕生すると、勇者が召喚されて、この国と実力者と共に、討伐の旅に出る。


しかし、鉱山の中にいた俺は、魔王が誕生した事実すら、知らなかった。



そこで、ようやく目が慣れてきて、もう一人、人が立っていることに気付く。


すぐに、あ、と思った。

黒い髪に黒い瞳。歴代召喚される勇者の特徴だ。


そこから、さらに視線を落としていって、――息を呑んだ。


その勇者の男の首に填められているもの。

――隷属の首輪。


奴隷に付けるべき首輪が、勇者の首に付けられていた。



ここまで、この国は堕ちたのか。


魔王を倒してくれる勇者様に対して、誠意を持って対応するのではなく、奴隷化して無理矢理従わせようとするとは。


心のどこかに、ほんのわずかでも、父たちに対して抱いていた希望が、砕け散った気がした。



※ ※ ※



そして、俺たちは、旅に出た。


さすがに、勇者の仲間が俺だけと言うことはなかった。

魔法使い、そして神官。

皆「元」が付く、今は奴隷だが、バランス良く、それなりの実力者だ。


一応、魔王討伐というものの重要性は、父も理解はしていたようだ。



国を出発した頃は、お互いに会話がなかった。

しなかったのではなく、首輪のせいでできなかったのだ。


だが、国から距離が離れるにつれ……、それは魔王との距離が近づいている証拠でもあったが、首輪の効果が若干薄れたのか、会話程度は可能になった。



そして、魔王のいる魔国に乗り込んだ頃、アベルと名乗った勇者が言った。


「この首輪、今なら破壊できる気がする」


その言葉に唖然となってアベルを見返したが、魔法使いのカイトが首に手をやると、やはり頷いた。


「確かに、今なら壊せそうだ」


俺も首輪に手を触れて、神官のザカルも触れて、頷いた。

確かに、今なら簡単に壊せそうだった。


ここまで来るのに、俺たちは戦い抜いてきた。

国を出る前に比べて、実力は遙かに上がってきていた。


だからなのか、首輪の魔力が、まるで怖くなくなっている。



だったら、壊してしまおうか。

誰かが言ったその言葉に、アベルから提案があり、それに俺たち全員が乗っかった。



死闘の末、俺たちは魔王を倒した。

正々堂々とした戦いぶり。

国にいる奴らより、よほど魔王の方が尊敬できた。



そして、俺たちはジャーマル王国に帰還した。

隷属の首輪は付いたままだ。



国王を始め、王妃や王子、その他権力のある貴族たちが出迎えたのには、正直驚いた。


どうでも良い扱いをされるものだと思っていたら、意外だった。

だが、これからすることを考えれば、好都合だった。



「勇者よ。魔王討伐ご苦労だった」


魔王討伐について、国王から出た言葉は、これだけだった。


「続いて、貴様らに命令する。今より我が軍の先頭に立って進軍し、他国を制圧せよ。我がジャーマル王国がこの大陸を統一し、我はジャーマル帝国の皇帝となる」


この国王の言葉に、ポカンとしたのは、俺たち四人だけのようだ。

周りにいた奴らは、盛り上がりを見せている。


「皇帝陛下、万歳!」


「ジャーマル帝国、万歳!」


「邪悪なる他国に、正義の鉄槌を!」


「正義なる国王陛下に、大陸統一の王冠を!」


などなど、勝手なことを叫び合っている。

このために、こんな大勢いたのか、と理解した。



フン、と鼻で笑ってアベルが立ち上がったのが分かり、俺たちも立ち上がる。


「何をしておる。命令は下った。さっさと行け」


国王がそう言えば、確かに首輪が作動したのが分かる。

だが、今の俺たちには何も問題なかった。


「――断る」


一言、アベルは言って、首輪に手を掛ける。

そのまま引っ張ると、無残にも首輪は引きちぎられた。


騒ぎ立てていた奴らが、一気に黙った。


「レナルド」


アベルに呼ばれて頷く。

俺も、アベルと同じように首輪に手を掛けて、引きちぎった。


「…………………………………………は?」

ここまで来て、ようやく国王が、少しだけ反応を見せる。


「カイト、ザカル」


アベルは気にせず、さらに二人の名前を呼ぶ。


二人とも首輪に手を当てて、そこに魔力を一気に流し込む。

すると、ボロボロと灰のように首輪が崩れ落ちた。


「………………………………………………………………は?」

やはり国王はそれしか反応を見せない。

他の奴らは、声すら出せず、ポカンと間抜け顔を晒しているのが、面白い。



アベルは、国王をまっすぐに睨み付ける。


「残念だったな、ジャーマル国王。魔王を倒せるくらいに強くなった俺たちには、首輪なんか何の効果も及ぼさない。滅びるのは他国じゃない。――今から、この国が滅びるんだ」


隷属の首輪があるから良いとでも思ったんだろう。俺たちは武装したままだ。


聖剣を抜き放ったアベルは、剣を頭上高く上げる。

強い光を放つと同時に、アベルは剣を振り下ろした。



強い光と、衝撃が走る。

そして、それが晴れた後、その場に立っているのは、俺たち四人だけ……。


「――ひぃっ!」


いや、まだいた。

国王と王妃、そして、王妃の子供。


――かつて、俺を陥れて、追放した奴らだ。



「レナルド、あいつらはお前にやるよ。好きにしていいから」

笑いかけてくるアベルに、俺も同じく笑いを返す。


「別に、どうでもいいんだけどな。まあ、せっかくくれるって言うなら、もらっておくよ」


言いながら、俺は剣を抜いて、そいつらに近づく。



「お……おお、レナルドか。……り、立派になった、では、ないか」


「……お……お久しぶり、ですわね、レナルド。ま、また、会えて、嬉しい、わ」


「そ、そうだな、レナルド……、久し、ぶりだ……」


国王、王妃、王子、と順番に声をかけてくる。


身体が震えているように見える。

やたらと細かく言葉を切ってくるので、聞き取りにくい。


「………………」

俺は無言のまま、さっきのアベルのように、剣を高く振り上げる。


「……………ひぃっ!?」

王妃が失神した。


そんな王妃を見ることなく、国王も王子も、一歩ずつ後ろに下がっていく。


「……そ……そうだ。また、お前を、王子に、戻してやろう」


「……そう、ですね、父上……。魔王を、倒したから、特別だ。ついで、に、将来の、国王たる我に、仕えさせてやる」


「そ、それが良い。……たかだが、男爵家の娘の、王子に、破格の待遇だぞ」


震えながら、性懲りもなく何かを言おうとするから、つい聞いてしまって失敗した。


そんなんで、俺を丸め込めるとでも思ったのか。


というか、この期に及んで、まだ上からの言葉なのが、笑える。



俺はわざとらしく、にっこり笑うと、なぜか奴らも笑った。


「――断る」


アベルと同じく、短く言って、剣を振り落とす。


一瞬、狙いをわざと外して、苦しめてやろうか、という考えもよぎったが、やめた。

面倒だから、さっさと終わらせる。


俺の一撃で、王子の首が飛んだ。

それを間近で見た国王が、腰を抜かしたのか、その場に座り込んだ。



「……ま、待て、レナルド……。早まるな……。そ、そうだ。お主を、王太子に、次期国王に任命しよう。貴様には、過ぎるくらいの栄誉であろう……!」


「懲りないな」


俺は、倒れたままの王妃の心臓に、剣を突きさす。


そして、そのまま剣を国王に向ける。剣が光り……、そのまま国王を貫いた。



※ ※ ※



「終わったな」

アベルが言うが、俺はしかめっ面をした。


「終わってないだろ。これからが本番だぞ」


他国の協力を取り付けてあるとは言っても、力尽くで国のトップを潰したんだ。

混乱は当たり前に起こる。


「その辺は、王子のレナルドに任せるから」

無責任なアベルの言葉に、俺は青筋を立てた。


「ふざけんな、勇者様。新しい国の国王はお前だからな。言い出したんだから、責任取れ」


「俺が国王なんか、できるわけないだろ。政治に無関心な日本人、舐めんなよ」


「知るか。お前じゃなきゃ、誰も納得しないぞ」


意味は分からないが、逃げようとしている事だけは分かる勇者様に、俺も容赦なく言い返す。



『この首輪さ、せっかくだから、あいつらの前で壊してやらないか? あいつらの驚いた顔を見て、そして宣戦布告だ。ジャーマル王国、滅ぼしてやろうぜ?』


そう言ったのは、アベル、お前だろう?



でもさぁ、とつぶやいてるアベルの首に、ガシッと腕を回す。


「ちゃんと付き合ってやるからさ。頼むぜ、アベル。――それと、俺が国王の血を引いてるのは、あまり口に出すなよ。下手すりゃ、俺が袋だたきに遭うんだから」


すると、アベルは笑った。

「もしお前がそんな目にあったら、俺は新しい国作りなんて放棄するよ。お前を連れて逃げる」


言い返す言葉を探していると、カイトとザカルも参戦してきた。


「確かに、そんな事になったら、ここにいる必要ないね」

「その時は一緒に行くから、置いてくなよ」

「……お前ら、アベルを煽るような事言うな」


「いっそ、それもいいかもな。このまま四人で旅を続けるのも」

「……アベル!!」


とんでもないことを言うアベルに怒れば、三人が笑った。


「冗談だ。……今のところはな」

代表するようにアベルの言った言葉に、俺はとりあえず睨んだ。



幸い、冗談は冗談のままで終わってくれた。


俺が奴隷になっていたことを知っている奴は多いし、魔王討伐を成し遂げた勇者パーティーの一員であることを知る奴は、もっと多い。


国王の子であった事を知られたところで、文句を言ってくる奴はほとんどいなかった。



順調に新しい国作りが進んでいく。

そうした中、俺はムスッとアベルを睨んでいた。


「だから、貴族位なんかいらないって言ってるだろ」


「お前がもらってくれないと、誰もなるって言ってくれないんだ。いい加減、諦めてくれ。本当は公爵にしたいのを、侯爵にしたんだから」


俺はもう一度アベルを睨んだ。


「言っただろ。公爵っていうのは、国王の親戚筋がなるものだ。んなの、もらえるか。

 大体、何で俺は侯爵なのに、カイトやザカルは伯爵なんだよ。あいつらも、俺と同じにしろ」


「二人とも、レナルドと同じ爵位になるような、身の程知らずな真似はできないって」


「……ああもう、面倒だなぁ」


あの二人が子爵家の庶子だった、という話は聞いたことあるが、だからといって、それを持ち込まなくても良いだろうに。


「だから、頷いちゃえば面倒もなくなるだろ。良いよな? 侯爵位、受けてくれ」


話を受ければ面倒ごとが増えるだけだ。


そう思ったけれど、言えなかったのは、アベルの真剣な顔と、縋るような目を向けられたせいだ。


「……しょうがない。付き合うって言ったのは俺だからな。受けるよ」


アベルの顔が、ホッと緩んだのが分かって、ため息をついた。


今さら、こいつを見捨てられないから、貴族位は受け入れるしかない。


分かっていても、ここまで伸ばしてしまったのは、俺が将来、父みたいになったらどうしよう、という不安があったせいだ。


けれど、俺が受け入れないことに、アベルもまた、不安に思っていることには気付いていた。


「家名はどうする? 自由に決めていいよ」

そう言われて考える。が、すぐに結論は出た。


「ミラー、にしてくれ。――亡くなった母の家名だから」


体調を崩しても、碌に見てもらえずに亡くなった母。

その家名を継ぐ事で、少しは安心してほしいと思う。


「ふーん。カイトもそんな事言ってたな。家名をライアンにするって言った時」

「そうなのか」


ライアン男爵家。商売で成功していながら、他国との密通の罪で取り潰しになった家だ。


その商売を、そのまま乗っ取った家があった事を知ったのは、俺が冒険者として荷物持ちをやっているとき、奴らの一人が楽しげに話をしていたのを聞いたときだった。


すでに、あいつらは俺が倒してやったが、そんな事だったら、カイトに引き渡せば良かったな。


「ザカルはどうするって?」

「シュタイン、にするって言ってたな。何でも、奴隷堕ちになるまで、お世話になった人の名前らしい」


平民出の、有名な神官の名前だ。

平民出身なのに、魔法の腕はすごく良かった。


召し抱えようとする貴族の誘いを悉く断っていたそうだが、教会に入り込んだ賊に殺されてしまった。


俺も、何度かお世話になった事がある。

冒険者時代、ボロボロになった俺を回復してくれ、食料を分けてくれた人だ。


殺された、と知った時、犯人は間違いなく、誘いを断られた貴族だと思ったが、それを証明する力も何もなかった。



「レナルド、大丈夫か?」

アベルにそう聞かれて、我に返る。

大丈夫って、何がだ?


「二人が気にしてたんだ。自分たちの決めた家名を知ったら、多分、自分たちの背景も勘付かれる。レナルドが、気にしなくていいことまで気にしそうだ、ってさ」


言葉に詰まる。

確かに、気にしたし、何とかしたいと考えた。


「……気にしなくていい、と言ってたのか」


頷くアベルを見て、俺も頷いた。

二人がそういうのなら、気にしすぎるのは、二人に対して失礼だ。




そして、それから間もなくして。


晴れ渡る青空の下。

今日は、アベルの戴冠式。


アルカトル王国と名前を変えて、今日アベルが初代国王に就任する。


国王陛下、と呼んでやったら、すごく嫌そうな顔をされた。


普段のあいつを知っていると、今の国王然としたアベルに違和感しかなくて、笑いそうになるのを堪えるのが大変だ。


目があった。

その目に、どこか不安が見え隠れしている。


今では、俺とカイト、ザカルの三人にしか見せない、あいつの弱気。

だから、フッと不敵に笑ってやると、見えていた弱気が引っ込んだ。



ジャーマル王国に絶望した。


自らの利益を求めるだけに飽き足らず、勇者の支援すら放り投げて、奴隷にしてしまうのか、と。


最初は、罪滅ぼしだった。国王の血を引く一人として、少しでも勇者の力になろうと思った。


でも、今は、一人のアベルという人間の力になりたいと思っている。



――心配するな。最期まで一緒にいてやる。


そう心の中で、つぶやいた。


アベルなんて名前ですが、本人がそれっぽい名前にしちゃっただけで、ちゃんと日本人です(^0^)

最後まで読んで頂きまして、ありがとうございました。


(追記)

アベルの本名は、安部悟あべさとるさんと言います。自分の本名をもじって、アベルとつけたました。

隠すほどの設定でもないのに、なんで書かなかったのかな、と自分でも疑問に思ったんですが、おそらく、これをアップした時点で、まだ連載の方で明かしていなかったからですね。


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― 新着の感想 ―
[一言] 何度も失礼します。1980年後半くらいにあったアニメのドラゴンクエストの主人公がアベルと言いまして、彼も勇者なんですが彼の故郷が日本人のイメージするインディアン(と言って良いものか分かりませ…
[一言] 勇者アベルって…某アメリカ原住民みたいな方を彷彿させますなぁ きっと作品のアベルさんか作者さんが1980年代辺りの方なんだろうなって思いました
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