7話 I miss you...
それ以来。
アルバイト先では、日にちも時間も合わず。
毎日、私は仕事を覚えることに必死。
たまたまシフトで時間が重なって彼を見かけることはあっても、目が合うことすらなかった。
でも、毎晩のように彼からはRINE通話がくる。
大抵は、取りとめのない話。
アルバイトの愚痴、一人暮らしのあるある、今日の夕飯とお酒の好み、夏休みの過ごし方。
就職活動や卒業論文について。
同じアルバイト先の大学4年生。
いくらでも共通の話題が転がっているから、あいかわらず話は尽きない。
お互い、夏休みで時間も余り気味。
予定も滅多にないから、明け方近くまで通話していても支障がない。
控えめにいっても、アオイくんと話すのはすごく楽しい。
これだけ、通話してくれるのだ。
向こうも楽しいと感じてくれているのは、間違いないと思う。
でも、この関係は何……?
考えてみたけど、限りなくグレーだ。
ただの友だちとも言い切れず、恋人とも言い切れない。
だから、さりげなく私は話の切れ間に聞いてみた。
「ねぇ、私のこと。本当はどう思ってるの?」
いつもの穏やかな声で、アオイくんは笑う。
「わりと……、気に入ってるよ」
しばらく、スマホの向こう側で彼は何かを考えている様子だった。
ややあって、滑らかな英語で彼は何かを言う。
自慢ではないが、私はリスニング力に乏しい。
かろうじて、聞き取れたのは簡単な3語だけ。
I miss you...
「アオくん、今。英語だったよ?」
「アオくん、今。英語だったね」
彼は眠くなり始めてから、頭の回転が鈍るまでの時間が異様に短い。
すぐ、返事がオウム返しになる。
「もうねむいの?」
「もうねむい」
「じゃあ、おやすみ」
「うん、おやすみ」
ぷつり、と通話が切れる。
微妙な関係は、言葉にされても微妙な関係だった。
「あなたがいなくて寂しい……」
心の距離は限りなく近いように感じる言葉。
でも、たぶん彼は白黒つけることを避けている。
それならそれでもいいかな、と私は思った。
なんだかんだ21歳は若い。
とはいえ、もう子どもではないのだし。
好きなら好きで。
「好きです」とストレートに気持ちをまとめて、言葉にするのも悪くない。
けれど。
本来、もっと感情は複雑なものだ。
わざわざ言葉では表現できない何かを捻じ曲げて、すべてを白黒はっきりさせる必要はないような気がした。