6話 あの人は私の何なのか。
——イケメンとは。
関係を育むものではなく、遠くから見つめて楽しむものである。
彼らは目の保養になる。
それだけで充分だ。
超絶なイケメンならば、なおのこと。
「美人は3日で飽きる。ブスは3日で慣れる」という言葉がある。
でも、私の場合は全く違っている。
イケメンと3日も同じ空間にいようものなら、もう大変だ。
極度の緊張感を覚えながら、眠れない日々を過ごすことになる。
全然、落ち着けない!
3日も一緒にいられません。
日々の生活に、私は安らぎを求めているのです……。
ふと気がつくと、私の方を見た彼が首を傾げている。
「どうしたの? 固まってるけど」
「な、なんでもないです」
慌てて、私は答える。
やばい。
この人はイケメンなんだと思ったら、変な汗が出てきた。
でも、超絶なイケメンはまた笑う。
「君って、面白いね」
ふわり、とした穏やかな雰囲気が漂う。
すごく顔が整っているだけで、彼は普通の人っぽい。
たぶんね……。
笑いのツボが浅いことは、コミュニケーションを円滑にする1つの方法なのだろうか。
夜闇に紛れた彼は、やっぱり話しやすかった。
❇︎❇︎❇︎
結局、その日はRINEを交換して別れた。
電話番号を聞くよりも、SNSでやり取りをする方が気軽で良い。
彼の名前は「アオイ」。
これが苗字なのか名前なのかは知らないけど、逆に程よい距離感がある。
アイコンは、なぜか扇風機。
……扇風機だね?
「送っていこうか?」との言葉に対しては、丁重にお断りした。
彼は豊田市に住んでいて、自転車で駅までたどり着いても20分くらい電車に揺られるとのこと。
そもそも、わりと駅が離れている。
終電のこともあるし、これ以上の迷惑はかけられない。
「家に着いたらRINEして」と言われていたので、メッセージを送信する。
次の瞬間。
通話がかかってきた。
いきなり手のなかで震えたスマートホンに、やや驚きつつも通話ボタンを押す。
ちょうど、駅に着いたところらしい。
「ピーン、ポーン」という改札の音がした。
「良かった。無事に帰れて」
「今日はありがとう」
通常なら、一言二言で済むところである。
でも、不思議なことに。
なぜか会話が終わらない。
話しても話しても、たくさん話すことが出てくる。
結局、発車ベルが鳴る直前まで彼と喋り続けていた。
通話を切って、ひとりで笑ってしまう。
いったい、あの人は私の何なんだ。
少なくとも、数時間前までは見ず知らずの人だった。
でも、悪くない。
そう思った。