4話 誰しも失敗はあるさ。
「大丈夫?」と聞かれたら、「大丈夫」と言いたい人が大半ではなかろうか。
心配をかけたくない。
弱みを見せたくない。
ましてや、アルバイト先が同じであったとしても見ず知らずの人だ。
できれば、平気なフリがしたい。
しかし、私は返事に詰まった。
答えることができない。
それほどまでに弱っていた。
つらいときに優しい言葉をかけられたら、どうしようもなく泣きたくなる。
「……大丈夫じゃ、ない、ね」
八方塞がりの私の気持ちを、ゆっくりと彼が代弁してくれた。
スッと気持ちが楽になる。
どうせ隠し通せないなら、隠すことに意味なんてない。
止めどなく、涙があふれた。
「アオくん、お疲れさまー!」
不意に、店の方から朗らかな女性の声が響いた。
現実に引き戻されて、ハッと我に返る。
急に恥ずかしくなった。
店先で、よく知らない男性の前で泣いている……!
「お疲れ様です!」と彼は振り返って、大きな声で挨拶を交わした。
穏やかで大人しそうな人だと勝手に思っていたから、ちょっと私は面食らう。
もしかして、もしかしなくとも。
彼は陽キャなのでは?
しかし、思考が遮断された。
彼が私に向き直ったからだ。
「少し、歩こうか」
弱っていれば弱っているほど、ほだされやすい。
反射的に、私は頷いてしまった。
彼は隣の大学の学生で、自転車を大学の駐輪場に置いて来ているらしい。
閉門が22時30分。
時計を見ると、もう30分を切っている!
とりあえず、彼の通う愛和学芸大学まで行くことになった。
大学のある辺りは、名古屋の外れの方。
東京に例えるならば23区外。
端的に言ってしまえば、名古屋ではない。
だいぶ栄えてきたとはいえ、まだ夜は眠る街だ。
点々としている街灯。
あとは、家々から漏れてくる明かりを頼りに歩く。
「お客さん怒ってたけど、気にすることないから」と、唐突に彼は優しく言った。
また泣けてくるので、話題を変えてほしい。
でも、そうとは言えず。
なすがままにされる。
「俺もハンディの操作間違いで、データ飛ばなかったことあるよ。で、お客さんは席で待ちぼうけ」
あぁ、なんていい人なんだ。
わざわざ自分の失敗談を話してくれるとは。
しかも、初対面の私を慰めるだけのために!
でも、やっぱり待ちぼうけでしたよね。
そうですよね、本当にすみません。
思い出して、ことさらに気持ちが沈む。
感情の振り幅が大きい。
すごく複雑な気分だった。
そして、あることに私は気づく——。