43話 本当に必要なものは少ない。
11月下旬。
街路樹の葉が枯れ落ちて、木の枝の隙間から寒空が覗く頃。
卒業論文の締め切りが刻一刻と迫っていた。
同じゼミの学生がヒーヒー言っているなか。
12月の退去日に向けて、見慣れたワンルームで私は黙々と荷物をまとめている。
本当に何をやっているのだろうか、と思わなくもなかった。
でも、気にしてばかりもいられない。
なるべく引っ越しは自分だけでやろうと試みたものの、早い段階で挫折していた。
よくよく考えたら、私は洗濯機どころか電子レンジさえ持ってはならない身の上である。
お爺ちゃん先生の真剣な表情が目に浮かぶ。
「安静にさえしていてくれれば——」
おとなしく、私は不用品回収業者を頼ることにした。
1万8000円で、軽トラックに不用品を積めるだけ積んで回収してくれるらしい。
家具も家電も布団も洋服も食器も本も何でも持っていってくれるので、私がやるべきことは必要なものを選り分けるだけだ。
透明の衣装ケース2つにスーツケース1つを残すだけで、大体は片付きそうだった。
10月1日に何もかもリセットしたのが、功を成している。
布団収納袋や成人式で使った着物収納バッグ、他にもノートパソコンなどの細々としたものはあるのだけれども。
荷物は少ない方だ。
引っ越し当日は、アオイくんがレンタカーで迎えに来てくれる手はずになっていた。
お忙しいところ、いつも申し訳ない。
妊娠発覚からの入籍準備と学祭準備に続いて、卒業論文の締め切りに追われながらの引っ越しの手伝い。
そして、始まるルームシェア。
一難が去らずに、次の二難や三難がフライングしてくるような状況なのではないだろうか。
彼の苦労が透けて見えそうになる。
もしかしたら、私との付き合いは単なる夏休みの暇つぶしのつもりだったかもしれないのに……。
本当に大丈夫なのだろうか。
一抹の不安が過ぎる。
まだ使える家具や家電を手放すことに、私は強い抵抗を覚えた。
捨てるのは簡単だ。
でも、買い直すのは不可能に近い。
何かあっても元には戻せない。
自ら退路を断つようなもので、相当な覚悟が必要だった。
唯一の救いは、つわりの症状が極めて軽いことだ。
体調が良いのと悪いのとでは、精神状態が全く違う。
先週末くらいまでは、飴やグミを食べる日々が続いていたのだが。
今では、口に何かを入れていなくても済むようになっていた。




